記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

「the ROAD」 C・マッカーシー

極寒の六甲下っている時に、去年読んだ本のことを思い出した。
C・マッカーシー著の「the ROAD」。


天変地異なのか世界戦争が起こったのか、
舞台は灰の混じった雪が降り続く荒廃した希望のない世界。
街全体が熱でひしゃげ、野山は焼け焦げた草木と、泥と化した灰の山。
見渡す限りの死の世界に、生きる希望を求めて移動する2つの影。
まだ幼い男の子と、実は重い病を患っている父親。
容赦なく押し寄せる自然の脅威、重くのしかかる餓えと疲労
そして野獣と化した邪悪な人たち。
あらゆる危険と隣り合わせの状況でただ漂流を続ける日々の中であっても
父親は男の子に「正しさ」と「人間らしさ」を教え続ける。
様々な困難や危機に直面し、
死への恐怖や、生きることへの執着に打ちのめされ、
邪悪な人に陥ってしまいそうになりながらも、
「善い人」であることを貫こうとし、そしてそんな父親を男の子は信じ続ける。
父子の間で交わされる会話の中にあふれる、子供に対する底なしの愛情。
固い絆。
この物語がこれほどまでに美しいのはそこだ。


もし自分が同じ状況に置かれたら、
果たして僕は奥さんと娘を護ってやることが出来るだろうか、とよく考える。
この物語のような設定は非現実的に思うかもしれないが、
阪神大震災を経験した身から言わせれば、ありえない話ではない。
たとえこの身が滅びようと、世界が終わりを迎えようとも、
2人だけは絶対に護る。


読んでいる途中に何度も苦しくなって、
思わず目をそむけたくなる場面のあるが、
子を持つ全ての親に読んで欲しい一冊。


ザ・ロード

ザ・ロード