記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

「かいじゅうたちのいるところ」

寝ているときに見る夢は、なぜか妙にリアルだったりする。
どうせ夢なのだから、楽しい夢を見ればいいのに、
夢の中でもしんどかったり、冴えない自分がいたりする。
夢は全くの創造の世界というよりも、現実世界をフィードバックしてできた産物で、
直前に見たテレビ番組の内容だったり、その日しゃべった内容が夢に反映されたりするし、
学校生活や家庭環境にも大いに影響を受けるものだと思う。
夢というのは自分自身の心のバロメーターとしてとても貴重な体験なのだ。


この映画の主人公マックスは、父親のいない家庭で育ち、
気軽に遊ぶ友達といえる存在もいない、孤独をかかえた少年だ。
その孤独を紛らわすためヒステリックな行動に出たり、
周りを考えずにあたり散らしたり、ついにはエネルギーのやり場を失って、
家族とケンカをしてしまう始末。
その耐え難い現実社会から逃れてたどり着いた冒険の世界もまた、
自分と同じように、人間関係に悩み、孤独や不満を抱えた「かいじゅうたち」の世界だった。
自分の気に入らないことが起こるとかんしゃくをおこしてしまうキャロル、
自分の考えをみんなに聞いてもらいたいのに前に出ることのできないアレクサンダー、
意地悪でつい憎まれ口を叩いてしまうジュディス。
彼が出会う「かいじゅうたち」は、実は少年マックスが抱える様々な悩みや
弱い部分が具現化されたものである。
はじめは”王様”となって自由にかいじゅうたちに命令し、好きなだけ遊び、
楽しさだけを求めるが、結局それが原因となって、みんなの気持ちが離れていってしまう。
かいじゅうたちの苦しみを、現実社会の自分自身に投影していくことで、
自分はただ問題から逃避しているだけで、現実は何も変わらないのだと気付く。
それが特によく現れているのは、キャロルが怒って、
理想の住まいの模型をめちゃくちゃにしてしまった現場を目撃するシーン。
キャロルの取った行動は、実は姉に送った木のペンダントを
怒りに任せて壊してしまった自分と同じではないか、
悩みや孤独を抱えているのは決して自分だけではないのではないか、と。
大事なのは”王様”であることじゃなく、向き合うこと。そして愛すること。
それがこの映画のメッセージ。


例えば「ハリーポッター」とかのようなSFファンタジーを期待した人にすれば
少々物足りないと感じるかもしれない。
やろうと思えば、もっと面白おかしく味付けをすることは可能だったと思うが、
少年の成長過程における精神的な”気づき”があくまで主題。
客にこびず、軸をブラさず、
リアリティをあくまで追求したスパイク・ジョーンズは見事。
作りも、CGバリバリではなく、手作り間が溢れていてよい。
もちろんそういう風に見える高い技術を使っているんだろうけど。
子供の頃に見た「ネバーエンディングストーリー」とか「ウィロー」とか
あの時代のアナログ感で、懐かしくうれしかった。
そして、この映画の主題である”愛”を語る、美しくて楽しい音楽のすばらしさったらない。




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