『ナイフ投げ師』 by スティーブン・ミルハウザー
紳士淑女の皆様、魔術師ミルハウザーがお送りする摩訶不思議な世界へようこそ。
色とりどりの電飾に飾られた異次元の遊園地、
人を完全に模したミニチュアが並ぶ全自動式人形館、
あるいは青白い月の光に照らされた幻想の夜や、
心地の良い闇に覆われた深い地下の奥。
皆様をいまだかつて経験したことのない魅惑の世界へとお連れいたしましょう。
では感嘆と驚き、そしてほんの少しの恐怖でもって、
風変わりな世界への扉をお開けください。
さあどうぞ。さあどうぞ・・・・・・
本屋めぐりの最中に、装丁の放つ強烈な魔力に思わず購入したのだが、
これはまたとんでもない読書体験をしてしまった。
空想の魔術師といってよいS・ミルハウザーによる短編集は、
まるでD・リンチやコーエン兄弟の映画を見たような感覚に陥る。
不意に与えられた秘密、あるいは風変わりな謎は、
それについて事細かと記述や批評がされているのにも関わらず、
余計に謎が深まってゆく。
ただモゾモゾとした居心地の悪い(でも嫌じゃない)状態に読者を陥れる。
そしていつの間にか、彼の創り出した空想の世界にどっぷりと魅了されていることに
思わず「はっ」とする。
全12編のどれもがも風変わりで、強烈な印象を与えるのだが、特に好きなのは、
「ある訪問」「夜の姉妹団」「月の光」「気球飛行、一八七〇年」そして「パラダイス・パーク」。
今年読んだ本の中でダントツで面白かった。
ミルハウザー、彼の想像力はただ事ではない。
この本を読んだという奇妙な体験は、小さなシミとなって胸に残りつづけることだろう。