記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

『パロール・ジュレ 紙屑の都』 by 吉田篤弘

地図の片隅にひっそりと記されたキノフという街では、
誰にも届けられることのなくつぶやかれた声が凍りついて結晶になるという。
パロールジュレ(凍った言葉)と呼ばれる現象の秘密をめぐり、
<離別>という闘争によって分断された各国の諜報員たちが暗躍する。
紙魚(しみ)となって書物の世界を渡り歩き、
潜入捜査をはじめるフィッシュと呼ばれる諜報員、
機密を守るべく彼らを取り締まる身元不明の刑事、
凍った言葉を解くという4人のユニークな解凍士たち、
そして謎の若き女と水晶の瞳をもつ女性。
彼らがコトバの迷宮の奥へ奥へと迷い込み、
コトバのもつ美しさや魔力(言霊?)について迫るファンタジー


敬愛してやまない吉田篤弘さんの比較的最近の小説。
クラフト・エヴィング商會といったほうがピンとくる?)
一見すると探偵モノ、ハードボイルド的な体裁を装ってはいるが、
そこはそこ、
謎解きやハラハラドキドキの化かしあいの物語ではなく、
興味をそそられるキノフという町の克明な描写から町を空想し、
素晴らしいセンスで選び抜かれた言葉たちを愛でる、
まさにイマジネーションを直接刺激する、空想小説である。
書物好きの書物好きによる書物好きのための1冊。



余談だけど、twitterというのもいわば誰にでもなく発せられた
極めて個人的なつぶやきの結晶なのかもしれないな。