記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

鬼才逝く

森田芳光監督が亡くなったそうだ。
邦画のなかでッダントツで大好きな映画監督である。
来春公開の『A列車で行こう』を楽しみにしていたところだったのにものすごく残念だ。
巨匠というほど、威厳ありありな感じではない。
日本映画が長らく培ってきたホームドラマを一貫として土台としながら
独特の間合いと空気感で勝負する一風変わった作風は、
むしろ鬼才といってもいいかもしれない。
『キッチン』『失楽園』『阿修羅のごとく』『間宮兄弟』など、味わい深い作品が多いが、
真骨頂はやはり松田優作伊丹十三由紀さおり宮川一郎太を擁した『家族ゲーム』だろう。
ごくごく普通の家庭の日常を描きながら、どこかイビツに歪み、隠された人間関係を暴き出す。
そしてグロテスクにも思えるような食卓のショット、不可思議な音響の使い方。
決して刺々しくないブラックなユーモアを上品に散りばめ、
一軒普通に見えてどこか不気味、普段見落としていた日常の呼吸を感じられる。
こんな作風の人はちょっと他に見当たらない。
まだ61歳だったというから、まだまだ新作を見せてほしかった。
実に惜しい人を亡くしました。
ご冥福をお祈りします。