記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

北岳・間ノ岳 1日目 雲中の稜線歩き

9/6(金)。
支度はすでに前日までに済ませてある。
あとは天気がどう転ぶか。
出発直前の予報では、翌日土曜は午前中はどうにか天気が持ち、午後から時々雨。
翌々日の日曜は午前が雨で午後から止むという予報。
電車の手配もしているため、甲府までは確実に向かうが、
天気次第では、同じ広河原を起点とする千丈ヶ岳&甲斐駒、
あるいは鳳凰三山に切り替えることも検討する。
でも、やっぱり今年中に北岳に登りたい!
今後年末までの予定は結構びっしりだし、10月に入ると山上の寒さが厳しくなる。
この機を逃すわけにはいかない。


早々と仕事を切り上げ、一旦帰宅しシャワーを浴びて、家族とお別れ。
タクシーで新大阪に向かい、ギリギリ5分前に到着。
慌てて晩飯の駅弁を購入し、ひかり480号に飛び乗る。
名古屋でワイドビューしなのに乗り換え、21:37に塩尻駅に到着。
ここで乗り継ぎに結構時間が…。
次の甲府行き最終は22:26と1時間近くの待ち時間。
その間、暇つぶしに持ってきていた森田勝の『狼は帰らず』が面白くてあっという間だった。
そこから1時間30分もかけて甲府駅へ。
首都圏からは1本2時間とアクセス至便だが、関西からはやはりなかなか行きづらい。
ひょっとしたら北アの方がまだ近い?
甲府駅を降りて、さてどうするか。
事前に24hのファミレスなど待機場所となりそうなところを事前に調べてきていたが、
前回の松本駅同様、立派なターミナル駅の隅っこで同じような登山客が野営をしている。
特に寒くもないし、経費節減のため自分も適当な場所を見つけて野宿。
意外とぐっすり眠れた。


↓駅弁で腹ごしらえ


甲府駅の野宿組


朝3:30に起床。
南口に出てバス停をチェックすると、すでにいくつか場所取りの荷物が並んでいる。
自分もザック上部のウエストポーチ部分を切り離して場所取りをしておいて、
近くのコンビニへ。
朝ご飯用におにぎり2つを買い、ハイドレーションに水を補充。
トイレを済ませて、ザックを整理していたらあっという間に出発の時刻。
4:20始発の快速広河原行きは臨時便が3本となかなかの盛況ぶり。
車内は満席だったが、運よく2人席を1人占めできラッキー。
甲府駅から南アルプス登山の拠点となる広河原まではこの南アルプス登山バスで行く。
片道2000円で約2時間もかかる。
途中、芦安からはすさまじくバンピーで幾重にも曲がりくねった厳しい林道をゆく。
夜叉神峠にはゲートがあって自家用車は進入禁止。
そこから先は行き違い不能なほど狭くて暗いトンネルがいくつも。
よくもまああんな悪路を大型車で通れる。
座席に座っていても飛んだり跳ねたり、このバスだけでもかなり疲れます。
乗り物酔いする人はまあ無理です。
せめて林道から県道あたりまで昇格させて整備すればいいと思います。
そうして6時すぎに、標高約1500mの広河原に到着です。


↓南アの拠点、広河原


ここ広河原は北アでいう上高地のような場所で、南アルプス登山の一大拠点です。
ここからすぐに北岳間ノ岳などの白根三山の登山道が始まり、
また相対する鳳凰三山の入口もここ。
またここからバスに乗り換えて、甲斐駒ケ岳・千丈ケ岳方面、
あるいは奈良田から農鳥岳へ直で向かうこともできます。
とはいえ、単にバスのロータリーがあって、
立派なインフォメーションセンターが1軒あるだけ観光地ではないですが。
山行を開始する前に、コンビニで肩おにぎりをほおばり、恒例のおトイレタイムです。
これまた大行列にならび、なんだかんだしているうちに時刻は6:45。
お天気はまだ良好のようなので、ここまで来たらもう目的地は変更なし。
登山届を提出し、コースのレクチャーを受ける。
すると、大樺沢〜二俣のあたりで先月から頻繁にクマの目撃があるからネ〜と注意。
え?マジ?
いよいよ登山開始です。
センターを出て道をまたぎ、北沢峠方面の道をわずかに進むと、
野呂川にかかる吊り橋が登場します。
そのつり橋を渡りながら見上げると、これから向かう北岳の山肌が見渡せる。
残念ながら山頂は雲に隠れてしまっているが、本日のルートである八本歯のコルと、
その直下に大樺沢の雪渓がチラリ。
ああ、あんな高い道のりが待ち受けているなんて、ちょっとドキドキ。


↓広河原から。中央に大樺沢の雪渓がみえ、その上部が八本歯のコル。北岳山頂は雲で見えない


↓つり橋で野呂川を渡っていよいよ登山道スタート


吊り橋を渡ると、すぐに広河原小屋があり、その脇をスルーして、
樹林帯へと足を踏み入れます。
序盤はほとんど平坦で森林ハイクのようです。
できるだけイージーなところで時間を稼ぎたいので、
序盤からペースを上げていこうとするのだが、この日は体調がすぐれず、
すぐに脈が乱れてしまうありさま。
おまけに軸足である左足の親指が前日からジンジンと痛むためうまく地面を蹴れない。
この間の常念のときはそんなこと一切なかったのに…序盤から不安いっぱい。
少しずつ水の流れる音が大きくなってきたと思うと
左手に大樺沢の清らかな流れに沿って歩くようになります。
この沢の源流は言うまでもなく北岳の雪解け水でとてもきれい。
まさに南アルプスの天然水である。
徐々に沢との距離もぐっと近づき、近頃の長雨のせいか水量が増して、
今歩いているのが沢なのか登山道なのか、水があふれて不明瞭。
ペンキマークを探してえっちらおっちら緑の中を進む。
途中、対岸の左手に山が大きくハゲているところを見ながら進む。
ここは2009年に大崩落があり、そこを通りがかった方が直撃を食らって亡くなっている。
この大樺沢、そして最上部にある北岳バットレスは毎年のように崩落が発生していて
登山道が寸断されたり、事故が発生しているのでちょっと気が引き締まる。


↓大樺沢に沿ってゆく


↓2009年の大崩落地


引き続き、緑深い樹林帯の沢沿いの道をじわじわと上っていく。
一度架橋で対岸に渡ると、沢より少し高度を上げながら細い登山道が続いていく。
このあたりから先行していた登山客を捉えるようになり、
道を譲ってもらいながらペースを保って進む。
いくつもの支流の沢をまたいでいくが、難所などはまったくない。
道は少しずつ登りになっていく。
またもや反対側に大きな崩落現場が見える。
もう一度架橋で川の右手にわたりなおす。
道は徐々にゴツゴツした岩が目立ち始める。
草むらを分け入って分け入って進んでいくと徐々に前方が開けてくる。
遠く上部には八本歯のコルが見え、その直下から残りわずかな雪渓。
さらにそこからずーっと岩沢がスロープのように続いている。
まだまだ先は長い。


↓徐々に展望が開けてくる


↓崩落地を避けて沢をまたぐ


↓二俣手前から上部を望む


沢からは水の流れの音が消え、ごつごつとした岩場が続いている。
登山道は沢の右手側を徐々に厳しさをみせながら登っていく。
高度感も危険度も全くないが、ただダラダラした上りがひたすらに続き、
前方に果てしなく続いているのが丸見えなので精神的に結構きつい。
そうしてようやく分岐点の二俣に到着したのが8:20。
広河原から約1.5h。
ここには簡易トイレが設置されているのでちょっと休憩です。
さすがにおにぎり2個しか食べていなかったのでレーションで軽く腹ごしらえをし、
きちっと雉子打ち。
ちょっと雨が降ってきたぞ〜@@


↓大樺沢二俣


↓二俣の簡易トイレ


この二俣は文字通り沢が2手に分岐している地点。
右俣は緑豊かな山肌を登りつめて肩の小屋へと進むルートで比較的イージー
左俣はこの大樺沢を登りつめて八本歯のコルへと続くルート。
今回は北岳山荘・間ノ岳と、北岳よりも奥へ目指すので、
最短ルートである左俣ルートを選択し出発。
ここからはさらに傾斜が急になり、弓なりのような形で天へと進んでいる。
そこに先行する人たちが張り付いているのが点に見える。
ジグザグと左右に振りながら少しずつ高度を上げていかねばならない。
途中、沢の中心には雪渓が残っている。
6,7月だと、この雪渓は沢の大半を占めていて、
そこを登っていかなくてはならないらしいが、
この傾斜だとやはりアイゼンがないと怖いと思う。
登っていくにつれて斜度がきつくなり、足取りも鈍ってくる。
脇で休憩を入れている登山者も多く、自分もヒーヒー言いながら確実に進む。
進んでいくと右手には切り立った厳しい岩場が霞の中に見え隠れする。
これがクライマーの憧れの壁である北岳バットレスである。
北岳の頂上直下まで伸びるこの切り立った絶壁は、
見るからに脆そうで危険な香りがプンプンしている。
実際近年、いたる個所で崩落が進んでいてかなり危ないらしい。


↓左俣コース


↓雪渓


↓クライミングの聖地、北岳バットレス


えっちらおっちら小雨降る中、激坂を詰めます。
なかなかどうしてキツイじゃないかあ。
ゴツゴツした岩をまたぐようによじ登りながら汗が止まらない。
振り返ると、はるか下まで沢が続いていて、広河原はもうかなり遠く。
その背後には百名山鳳凰三山(左から地蔵ヶ岳、観音ヶ岳、薬師ヶ岳)がそびえる。
あちらの方は山頂まで雲がかかっておらず天気は悪くなさそうだ。
一方、こちらは高度を上げるにつれ霧が深くなり、
北岳の山頂はおろか、八本歯のコルすらも見え隠れするほどまで悪化してきた。
バットレスを右に見ながらひたすらしのいできたが、
さらに沢が二俣に分かれている地点、標識が立っている個所で一旦休憩。
腹が減ったのでパワージェルを補給する。
この日は天候の影響か、あまり喉が渇かず、水分を取らずにきてしまったので水分補給も。
ここからは狭まった沢をもう少し詰めれば、二俣上部はすぐそこ。
リスタートして、一層厳しくなる劇坂をどんどん詰めていく。
この急斜面にみな難儀しているようで、
先行していたパーティーとの距離がみるみる詰まっていく。
また今朝、山上の小屋を経った下山客とのすれ違いも始まり、
道を譲ったり譲られたり、せまい個所でなかなか忙しくなっていく。
そうして9:45。登山開始から3時間で長かった大樺沢をついに抜ける!
ひとまずお疲れ!


↓厳しい上りが続く


↓はるか眼下に広河原、奥に鳳凰三山が見える


さて、岩の沢の長く苦しい登りが終了し、今度は梯子の連続する岩登りが始まります。
目の前にある丸太で組み上げられた梯子に早速とりつきます。
このステップは丸太の上部をカットしていないままので、滑らないように注意が必要。
でも基本的に頑丈な作りになっているので油断さえしなければなんら問題なし。
えっちらおっちら階段を登っていくと、その上にはいくつもの梯子が!
この辺では登り渋滞が軽くあって、譲ってもらいながらトントンと進んでいきます。
上から下りてきた人に待機しながら話を聞いてみると、
すでに山上は深い雲で雨が降るのは時間の問題らしい。
その方は、早朝北岳で粘ったらしいが全く眺望はなく、心の絶景で終わってしまったようでした。


↓大樺沢上部から梯子地帯に突入


↓八本歯のコルまでひたすらに続く梯子場


↓梯子場を見下ろす。奥の絶壁は北岳バットレス


↓まだまだ続く


延々と続く梯子。腿を上げるたびに疲労が増していきます。
雲はどんどん濃くなっていき、
わずかに右手にそびえるバットレスの岩肌が見える以外に眺望はなし。
先ほど歩いてきた大樺沢も、またそこから見えていた鳳凰三山も何も見えず。
なので、景色を楽しむこともなく、ただひたすら梯子を登り続ける。
そうして15分ほどしてようやく支稜線である八本歯のコルに到着。
稜線の向こう側には本当なら間ノ岳から北岳へと続く3000mの長い稜線が一望できるはずなのに、
わずかに切れ落ちた山肌が下へと吸い込まれるのが見えるだけ。
それも雲がさああっと両側から勢いよく上がってきてかき消していく。
さすがに風の通り道である稜線に上がってくるとかなり涼しいので、
上着を羽織ってしのぐ。


↓八本歯のコル


↓眺望なし@@


支度をしたらすぐにスタート。ここから北岳の山肌まで細い尾根歩き。
八本歯というだけあって、ギザギザになった岩礁の尾根なので、アップダウンがままある。
引き続き果てしない梯子をいくつも越えていく。
危険と感じる個所はなかったが、ところどころ両サイドが切れ落ちて高度感のある個所があったりする。
雲が厚くて下を見渡すことができないが、その白い煙の奥はまるで奈落のように感じる。
徐々に、細かった尾根はワイドになり、それにつれて岩のサイズも大きくなり、
ペンキマークに従って、岩を渡り歩くようになっていく。
そのあたりまで来ると、どうにか小康状態を保っていた天気が崩れ、雨がハラハラと降り出す。
これはいかんと安全な場所に移動して、慌ててレインウェアを羽織る。
パンツの方は面倒くさくてはかず。
しばらく岩場を詰めていくと標識があり、そのまま直登して北岳を目指すルートと、
そこから分岐して、山の腹をなぞりながら北岳山荘へと直接アプローチするエスケープルートに分かれる。
北岳に登頂しても全く眺望は望めないし、
どうせ翌日山頂経由での下山を予定しているので
北岳登頂は明日に回して、今はエスケープルートを選択し北岳山荘を目指します。


↓八本歯のコルからも引き続き梯子場


↓ギザギザの稜線


↓本峰に近づくにつれ岩場になっていく


↓分岐をエスケープルートに入る


エスケープルートは北岳の山の腹にどうにかへばりつくようにしてあった。
人が1人通れるだけの細い道が切ってあり、岩場の部分には丸太で組まれた回廊が続いている。
この日は雲が厚くて左側の切れ落ちている具合がほとんどわからなかったが、
これは天気が良ければ、かなりスリリングな道だ。
左側はすぱっと切れ落ちていて滑落すれば1000m下の北沢まで一直線だ。
ただ、丸太組みはしっかりとしてあるので、全く裸の道と比べれば安全が担保されているので、
見た目ほどは難しくない。ただ怖い。スリップしないように慎重に足を置く。
一か所、小さい岩を越えるところがあり、そこで対向の2人組がやってきたので待機。
おっちゃん2人あわわわとうろたえながら越えていくのを固唾を飲んで待つ。
次は自分の番。岩が雨でツルツルに濡れているので慎重に3点確保でグリップしながら越える。
岩自体は大したことはないが、岩の上からスパッと切れ落ちているのでやっぱり怖い。


↓なかなかのアドベンチャー。あの小さい梯子部分が何気に怖かった


↓左側は1000m切れ落ちている


↓怖いよ〜


丸太の通路を抜けると、右手の山肌がにぎやかになってくる。
この一帯は高山植物が多く群生していて、それらが咲き誇っている。
北岳には世界でここだけしか咲かないキタダケソウという白い花がある。
シーズンは7月の頭までなので見つけられず。
しかし、何もこんな自然条件が厳しいところを選んで生活しなくてもと思う。
難所を越えて、あとはか細い登山道をえっちらと歩いていると、急に前方に3つの影。
なにかなあと思ったら、イワヒバリが3羽、楽しそうに道の上に飛び出してきて、
チュンチュンと言いながら自分の前を歩き始める。
自分が進んでいくと、あちらも前へ前へと進むので、
まるで「こっちだよ」と案内をされている気分。
この直前までかなり緊張を強いられていたので、ナイスタイミングでリラックスできました。


高山植物の花畑


イワヒバリの歓迎


とはいえ、まだ安全な区間ではありません。
しかも天候も良くない。
さっきまで降ってはいてもそれほど気にならない程度のものだったのに、
にわかに雨脚が強まり始める。
エスケープルートもどうにか突破し、
小屋まではもうあと15分もかからないので身支度をするより
一刻も早く小屋に飛び込んだ方がいいと判断し先を急ぐ。
ここからは二重稜線となっており、このままエスケープルートが続いているのと、
右手側に主稜線が並走している。
明日の行程を少しでも予習しておこうと思って、主稜線へ横移動する。
主稜線はエスケープルートよりも一層雨風が強い!
雨がツブテのごとく襲ってきて、結構怖い。
道をロストする心配はほぼないものの、雲の厚さがすさまじくてほんの少し先も見通せない。
行けども行けどもごつごつとした岩が続いていて、ひたすらそこを詰める。
途中ケルンがあったのでもうそこに小屋があるとわかって安堵。
そうしてさらに進んでいくと、ケムの中から突然赤い屋根が飛び出してきた。
そう感じるくらい雲が厚かった。
そうして12:15、無事に本日のお宿である北岳山荘に到着です。
登山開始から5時間30分でした。6時間は切りたいなあと思っていたのでまずまず。


↓稜線に出る


北岳山荘


小屋の入口で、まずはビショビショのウェア類やらなんやらをとにかく脱ぐ。
レインパンツを面倒くさがって履かなかったので下は奥ビショ状態。
受付前の暖炉でしばし乾かし、宿泊の受付をします。
1泊2食で7900円です。北アの小屋よりも若干安い。
当日は週末なので混雑期になるため、蒲団1枚につき2人で寝るとのことだが、
小屋の規模としても300人収容と大きめだし、さすがにこの悪天候でそこまで混雑はしないだろう。
実際、この日は蒲団1枚を占有できました。
そうそう、この小屋は実は建築家・黒川記章が設計したもので、
言われてみるとなかなか洒落た造りでした。
案内された2Fの農鳥岳の部屋に向かい、寝床を確保します。
濡れたものをより分け、着替えをしてスッキリ。
ただ、この荷物を整理していたときに事故発生。
またもやハイドレーションが暴発をして部屋の入口を少し濡らしてしまい、お掃除。
何度も濡らされているのでこちらもかなり気をつけているんだけど、
ちょっとこのハイドレーション毎度毎度ダメすぎるな。


↓本日の寝床。この布団を2人で1枚だったらハードだなあ。


すったもんだ何だあったが、どうにか寝床と荷物整理を済ませる。
昼時で、道中もほとんど行動食を食べずに急いできたので軽くハンガー気味。
そこで、1Fの食堂へいってみるが、昼食はやっていないという。
南アの小屋は北アと違ってランチ販売はないのね。
北アが充実しすぎているだけなのかもしれないが予想外でした。
とにかく何かするにしても腹ごしらえをしないともう動けないので、
お湯をもらって飯を作る。
やっぱ山で喰うのはナポリタンでしょ!
あと、前回の山行の際に蝶ヶ岳ヒュッテで買って残したフルーツの缶詰で昼飯。
受付前の暖炉のところでボチボチ食べながら、この後どうするか考える。
この厳しい雨、それも徐々に激しさを増しているという中、
約4時間かかる間ノ岳往復をするかどうか。かなり悩む。
3000mの稜線なので小屋の人も昼からの行動は推奨していないという。
それに今からだと17時の夕食までに戻ってこられるか微妙なところ。
単独行だし、行ったところで眺望は望めないだろうし、突っ込みだけの意味があるか。
先ほどの雨で心底萎えているのもあって、マイナス思考に陥る。
でも、でも、でも、でも〜。
んんん〜せっかくここまで来たらどうしても落としたい!
色々なリスクを思いめぐらせたところで、やっぱりそうなる。
すると、受付前におばちゃんたちがワラワラと集まって、支度をして出ていくではないか。
見たところCラブツーリズムの団体さんで、今から間ノ岳まで行ってきますと挨拶をしている。
これは絶好のチャンス。
一緒に行動することはしないが、折り返し時点で先行できれば、
何かもしあっても後方に人がいるということになり、リスクを減らすことができる。
これが決定打となり、間ノ岳を目指すことにする。
大慌てで昼飯を駆け込み、部屋に戻って不要な荷物だけを取り出して、荷造り。
と、ここでまたハイドレが暴発し、床一面ビッチョビチョ@@@@
もおおおおおお〜なんやねん!
時間がないがこのままにはしておけないので、小屋の人に雑巾を借りて必死で拭きとる。
部屋にまだ人がいなかったのでよかったが、思わぬロスタイム。
そうして慌てて雨用の装備を整え、
荷物を軽くした状態(さすがにこの天候で空身はまずい)で出発したのが13時前でした。


↓昼食


小屋から出ると、雲の濃さは相変わらずだったが雨は止んでいて少し収まっている。
よし、行ける!
しかし登山道に出るところが雲が厚過ぎてさっぱりわからず、
小屋の裏手にそれらしきものがあったので進んでいくが、明らかにおかしい。
トラロープが広範囲に貼ってあって、テント設営禁止とあるところの先に、
尾根が続いているのが見えたので、そこを横断して正規の登山道へ復帰する。
なだらかな稜線は歩きやすくてよい。
本当なら、ここから左手の遠くに富士山を望みながら
すばらしい眺望をじっくり味わうつもりだったのにそれは無理な話。
ここは日本の5本の指に入る山(1位:富士山、2位:北岳、3位:奥穂高岳、4位:間ノ岳、5位:槍ヶ岳)が、
天気さえ良ければすべて見渡せるはずなのだが、さっき出発した小屋さえもう見えない…
標高3000mを越える日本一の稜線も今日は魅力半減である。
この厳しい気候に合わせて丈の短い草花が広がっていて、そこをガサゴソするのがいます。
ライチョウさんです。ただ、今は先を急いでいるので帰りに相手してね。
なだらかな稜線といっても小さなピークはいくつかあり、その度にアップダウンは発生する。
中白根岳(3055m)の手前で急な登りとなる。
右へ左へジグザグと登る。山頂は登山道からもう少し登ったところにあるので、
これも帰路に寄るとして、とにかく間ノ岳を目指す。


中白根岳を南側へ下っていくと、道は右手(伊那・木曽側)をひたすら巻いていくようになる。
すると、そこからはこれまでまだマシだった雨風が一層に増す。
退却するならもうここしかないが、意を決して前進。
右からの風圧がすさまじく、これまで使用していなかったトレッキングポールを出して進む。
雨のつぶてが下から吹きつけるので、眼鏡にあっという間に露がついて前が見えない!
ひたすらに細い細い道を自然に抗いながら進む。
前も後ろも誰もいない。自分ただ一人、雨と風にやられながら、日本一の稜線にいる。
そのことを冷静に考えると、恐怖心がやってきて冷や汗をかく。
いかんいかん、とにかく目先のこと目先の足場のことだけを考えろと思いなおして進む。
再び、ゴツゴツした岩の小ピークがあり、そこをよじ登っていく。
1か所スリリングなところがあって、慎重に。
小ピークまで出ると、少し幅が広く、登山道がどちらへ進んでいるのかわからない。
そのうちでかい雲が通過し、全くのホワイトアウト
ヘタに進めないので、雨に打たれながら1分ほどその場で待機。
少し雲が切れた瞬間、岩場にペンキマークを発見しそちらへ。
やはり登山道から少し外れていたようで、小ピークのピークへ向かっているところでした。
まあそちらへ行ったとしても大したロストではなかったですが。
その先で、空身で戻ってきた2人組とすれ違う。
あとどのくらいか聞くと、あと1時間はかかるよとのこと。(実際には30分でした。)



↓中盤の小ピーク


小ピークを越えると、登山道は少し何度が増していく。
道幅は狭くなり、右側は切れ落ちて高度感が増す。
1か所は大きな岩をまたいでいくところがあり、
ポールを一旦しまってガシガシと登る。
しばらくは岩場の緊張した場面が続くが、
それを越え、ケルンのある広々としたところを抜けると一旦なだらかになる。
少し安堵するが、再び徐々に登り基調となっていく。
ここが最後の登りだろうと早足で詰めていくが、そこは残念ながら偽ピーク。


↓稜線上でいちばんの難所


偽ピークの先で、さっき出発を見送ったCツーの団体のおばちゃんに追いつく。
ガイドさんの後ろを黙々と歩いているのだが、
ペースが遅いので右へ左へ振って追い抜こうとするのだが、全然どいてくれない。
明らかに疲労の色が濃い人もいて、人ごとながら心配。
ガイドさんの方も、ツアーなのだから少々無理しても登頂させようと頑張るのだろうが、
そこが登山ツアーの落とし穴なのだろうなあ。
ようやく大集団をパスして最後の登りをやっつけ、14:05、ついに間ノ岳登頂!
小屋であきらめなくて本当によかった〜。


間ノ岳登頂


間ノ岳の山頂は広々としていて、そこに木の立て看板がある。
眺望は全くなく、右手から吹きつける強烈な雨と風が容赦ない。
すぐにCツーの団体がやってきたので、
看板を占拠して撮影会を始める前に、大慌てで記念撮影。
カメラを引っ張り出すのも一苦労だし、雨のせいでピントがなかなか合わせづらい。
撮影を終えると、案の定、ワイワイがやがやとおばちゃん達が騒ぎながら写真を撮り始めた。
この天候の中できることといえば、看板を前に写真撮ること以外になにもない。
さっさと荷造りをして、今来た道を取って返します。
行きは1時間半で来れたので、帰り2時間かかっても十分夕食にも間に合うし、
もう時間のことは考えずに、心にゆとりをもって歩くことができる。
だが、そうは問屋がおろさず、時折強烈な突風がやってきて、天候は下り坂。
もはや舞洲クリテの時の暴風のレベルを超えている状態。
あまりのんびりはできない。


間ノ岳の三角点


↓何も見えない〜(泣)


往路に、ポイントポイントで振り返って復路どちらへ進むのか確認をしながら進んでいたので、
変に迷うこともなくスムーズに進む。
いくつかあった危険個所も、復路の方が比較的イージーだったので問題なく。
行きにスルーした中白根岳のピークもちゃんと踏んでいく。
その先の急坂をジグザグで下っていき、黄色い草が生い茂るなだらかな稜線まで来ると、
いました、いましたライチョウさん。
慌ててカメラを取り出し必死でバシバシやるが、靄がひどくてピントが合いづらい。
そのうち、ザアア〜ッと雨がきつくなってくるが、しばらく撮り続けていると
中に水が入ってしまったのか、シャッターを押せなくなり万事休す。
これ以上の撮影を断念し、カメラをしまって残りの行程をやっつけ小屋にカムバックしたのが16時でした。
行って帰って3時間ちょい。


↓中白根岳


ライチョウさん、コンニチワ


小屋に戻り、ひとまずウェアを脱いで乾燥に出します。
ボトボトになった帽子やグローブやら、絞ったら大量に黒い水が出る。
そうして部屋に戻るとすでに宿泊客で満室状態。
このままであれば1人1枚で行けるのだが、どうだろう?とみな話し合っているところでした。
カメラの具合を色々チェックするが、本体は作動するのだが、シャッターが押せない。
原因はフォーカスが全く合わないため。そこで全て設定をマニュアルにしてシャッターを押すと押せる。
で、ディスプレーで撮ったものを確認すると真っ白。どこをどう撮っても真っ白。
ただ、カメラ自体にダメージがあるわけではないのはわかった。
あとはレンズの問題ということになる。
そしてファインダーをのぞいてみると、そこは真っ白な世界。
ということで診てみると、レンズの中面が真っ白く結露してしまっている。
分解して拭くわけにもいかず、これはもう乾燥するのを待つしかない…明日に治っていればいいが。
治っていなければ、残り充電が40%を切った携帯電話しかない。
北アの小屋ではどこも有料で充電機が使えるか、コンセントがあるので、
てっきりあると思っていたがこの小屋はどちらもなかった。
まあ、山の上では何もないのが普通と考えておかないといけなかった。
油断というかボケというかいかんですな。
ともかく、現状できるのは電気をできるだけ温存させること。慌てて電源を落とす。
さすがに明日北岳に登って眺望もなし、写真も残せないのは辛すぎるので。
色々と身支度をしたのち、奥さんに小屋の衛星電話から連絡を入れておく。
受付前は遅く到着した人たちがごったがえしていて、
果たして今日の寝床の行く末がどうなるのか何気にハラハラ。
そうこうしているうちに17時となり1Fの食堂の集合がかかって夕食です。


↓豪華な夕食


夕食はなかなか豪勢で、これにプラス1テーブルにひと盛りの肉じゃがと、
デザートにりんごゼリーがついています。
もちろん、ご飯、お味噌汁はお代わり自由。
目の前の人は体調がすぐれないようでほとんど手をつけていなかったが、
自分は腹が減っていたし、どれもとても美味しくて、ご飯もおみそ汁もお代わりしました。
ビールも飲みたかったのだが、軽く頭痛がするのと、喉が異常に渇くという高山病の兆候があり自重。
それから登り始めから調子が悪く、今もまだ脈が飛んだり心肺に不安を抱えていたので。
祝杯はゆっくり下界であげるとして、今は我慢我慢。
食事を終え、部屋に戻る。しばらくして小屋の方が来て、本日は1人1枚のお布団でいけますとのこと。
ふぃ〜よかった〜。
部屋のみんなどうなるかとヤキモキして蒲団を敷かずに待っていたのだが、
この知らせを聞いてみな一斉に蒲団を引き横になる。
消灯時間は20時だったが、疲労が結構重くて早めに就寝する。


さあ、とにもかくにも3000mの世界にやってきた。
翌日の予報も朝から雨。しかも雷雨のおそれと、この日以上に天候が悪化するおそれがある。
それでも帰るには難所を越えていかねばならない。
明日の日の出はすでにあきらめている。
気持ちはすでに決死の撤退戦に集中しながら眠りにつく。


2日目に続く…