記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

『風のくわるてっと』 by 松本隆

今年の小さな目標の一つが、読書する時間を増やすこと。
すっかりお山になってしまっている積本からぼちぼちと。
穏やかでない時にこそ、
心に十分な栄養を与えてくれる、
豊かなコトバに触れたくて、
手に取ったのは心の師、松本隆の一冊。
まだはっぴいえんどの在籍の頃に綴った詞や
エッセイと短編小説を収めた作品。


風のくわるてつと (立東舎文庫)

風のくわるてつと (立東舎文庫)


もうすでに、バイブルのように
肌身離さず持ち歩くようになってしまった。
ずっとザックの中に忍ばせて、
ちょっとした待ち時間や電車の中などで取り出しては
まるで、コトバの大海原から押し寄せる
大波小波を受け止めるよう。
元々ドラマーということもあってか、文章の隅々までに
小気味良いテンポと緩急が乗っていて、
その独特のリズム感に驚かされる。
最初はもちろん、頭から順を追って筋を追って読んだのだが、
2回目からは好きなページを開いて、
そこに滋味深いフレーズや、ドキッとさせる単語を
無造作に探し出すということをしている。


随分若い頃に書かれたものなので、
そこかしこに照れくささやこそばゆい感じが満ちている。
青春の草いきれがむわっと匂い立つよう。
よく見ればタイトルの”くわるてっと”だって随分こっ恥ずかしい。
実は近年に書かれたものや、インタビューなんかでも
同じようなものを感じるし、
年々、彼自身が思い描いた空想地図にある
”風街”の中に酔いしれて、
その度合いが増しているともいえるかもしれない。
でも、ポエムの世界なんて言うのは、
そもそも、そういうものであって、
他人から見れば馬鹿馬鹿しい言葉遊びに過ぎなかったり、
それを目撃する方が赤面するような吐露だったりするのだ。
そういう心情だったり、抒情を
ベタベタとあしらったり味付けをするのではなく、
生っぽい感情だったり、色彩だったり、瑞々しさが、
何の上滑りすることなく棚引いているということが大事で、
だからこそ、彼の紡いだコトバたちが
いくつもの時代を駆け抜けた今でも輝きを失わないのだろう。
そして、つまりそれは、彼がいまだに青春のど真ん中を
悠々と闊歩しているという証拠に他ならない。
松本隆は永遠の青年。