記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

「細野晴臣×松本隆×安珠」 安珠写真展 記念トークショー

写真展に引き続いて記念トークショーへ。

主役の安珠さんに加えて、

会場音楽を担当された細野さんと、

言葉を供された松本さんを加えた

スペシャルなイベントは、当然プレミアチケット。

是が非でもとチケットを手配して、10番ゲットできたので

最前列で拝聴することが叶いました。 

 

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まずは安珠さんがご登壇され、

写真展のコンセプトなどを説明されます。

世界的に活躍されるモデルさんだし、

写真展の作品たちも、エネルギーがビンビンと伝わるような

迫力あるものたちばかりだったので、

てっきり、すごいオーラを纏った、

ちょっと近寄りがたいようなクールビューティーだと

勝手に想像していたのですが、

実際はとっても気さくで、聡明で、チャーミングな方でした。

なるどほ2人の御大がゾッコンなのもうなずけます。

 

それから安珠さんの招き入れで、お2人もご登壇。

いつものようにシックな装いに、

ハッとするような鮮やかなニューバランスのスニーカーで

風のように軽やかに現れる松本さん。

一方、細野さんは、先日のアメリカツアーから帰って間もなく、

まだ時差ボケ真っ最中だそう。

安珠さんに「トークの間に、寝ないでね!ちゃんと起きててね!」って

言われて、細野さん「僕にとって睡眠は気絶だから」と。

会場大爆笑。

恐らくこの日一番のホットワードでした。

 

それにしても、それにしても、

細野さんと松本さん、

それぞれがもはや現代日本の歴史を

築き上げてきた超レジェンドで、

本当に実在するんだと思っちゃうくらいの人たち。

しかも、あの伝説の「はっぴいえんど」のメンバー同士だった2人が

同じステージに上がっていることがもはや奇跡的なのに、 

その場所に立ち会うことができるなんていうのは、

もう、盆と正月がいっぺんにやってきても

まだお釣りが足りないくらい笑

 

ゆるゆるとトークが進んでいくのだが、

とにかく仲の良さがにじみ出てる、

というよりも絶賛大放出してて、

安珠さんが思わず

「松っちゃん(松本さん)は本当に

細野さんのこと大好きだから!好きすぎるから!」

と茶化すと、

心底嬉しそうにほくそ笑む松本さん。

そしてその様をまんざらでもない様子でにんまりする

細野さんもまた松本さんのことが大好きで。

50年以上にわたって、激しい時代の最先端で切磋琢磨してきて

いまだにこの仲睦まじさ!!

そして、それはここにはいないけれど

大瀧詠一さんや鈴木茂さんも含めてそうで、

本当に”はっぴい”な人たちが、

変わらぬ絆で繋がっているんだなあ。

 

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トークの話題は多岐にわたって、

しかも生きるヒントになる金言がいくつも飛び出す感じで、

聴いている皆さん、ナルホド~と思わず声に出てしまったり、

それらを逃すまいと必死でメモを走らせる人たちもたくさんいました。

そして普段はなかなか聞くことのできない

貴重かつ豪華な昔話も聞け、

ちょっとした歴史の証人気分。

ということで順不同かつおぼろげながら、

できるだけここに書き残して置こうと思います。 

 

写真展のテーマが、

目には見えない平安京を現代の京都の風景に甦らせようという 

大胆かつ極めて創造的なチャレンジだったのですが、

目には見えないが大切なものってたくさんあって、

松本さんにとってのそれは何?て聞かれて、

「やっぱり愛だね」って、さらりと言ってのける。

そんなのが、ばっちり様になるのは、

何千もの愛の物語を、豊かな言葉で紡いできた

松本さんしかいないでしょう。

しかし、試行錯誤しながら誰よりも色々な愛を形にしてきた

松本さんが続いて、

「でも愛って何だろうね。

こんだけ愛について書いていても全然わからない」

「わからないからずっと書き続けてるっていうところもあって」

と、まさしく素直におっしゃられる。

うわ、すごい!

むしろ、わからないということに愛の真理があるような気がするし、

目に見えないだけでなく、言葉にすらできないようなものを、

単純に現象として受け入れたるのではなく、

どうにかその輪郭だけでもおぼろげにでも

形にすることができないか、

というたゆまぬ挑戦や努力それ自体が

もはや愛なのかもしれなくて。

特に表現の世界では、

それが前へ進むための無限大のエネルギーとなるのは間違いない。

 

そういえば、音楽も風も目には見えない。

お2人が人生をかけて追い続けているものは

つまりそういうものなのだ。

僕らは彼らの壮大で終わりのない思考の探検の記録や記憶を

ちょっとだけのぞき見させてもらって、

愛や夢について少しは知ったような気でいたりするが、

松本さんの「愛って全然わからない」という言葉は、

だからこそ、とても強烈な一言だった。

でも、その「わからない⇒わかろう」がきっと、

いつでも我々を導く羅針盤となるのだろう。

 

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それにしても時代や商業的な要因、

その他多くの要素に左右される表現の世界にあっても

長くそこに留まり続け、

しかも常に最前線に陣を構えてこられた2人の魅力は

いわゆる”京都らしさ”と称される、

この街だけが持ちうる魅力と似ている。

つまり京都という街が、1200年の長く激しい歴史の中でも、

一向に京都らしさを失わないどころか、強固に保ち続け、

しかも鎖国的にではなく、むしろ新しいものを

どん欲なまでに取り入れた結果、それを実現し、

今では世界でも類を見ない唯一無二の文化様式を確立し、

世代国内外問わず魅了する存在であるように、

松本さんの紡ぎ出す言葉の世界や細野さんのサウンドには、

時代を超越し、流行り廃りに左右されない不変性がある。

つまり、いつどの時代の作品を切り取ってみても、

またどんな世代が作品を汲み取ってみても、

誰もが共感し、自分の原風景や青春と重ね合わせることができ、

なおかつ色褪せるどころか、常に新鮮で最先端を行っている。

実際彼らは現代日本の音楽界の歴史そのものなのだが、

そこにはやはり、「やりたいものを続ける」という姿勢を

貫いたからこそ生まれるものなのだと改めて感じた。

 

松本さんが「ブレないよねえ」と笑うと、

細野さんは「いやあ、ブレないというか、

右へ行ったり左へ行ったりブレてはいるんだけど、

結局後になって振り返ってみれば、

まっすぐな道を歩いてきていて。

後悔しないようにやってるだけ。」と。

時代の風を敏感に感じ取り、

柔軟に新しいものを取り入れながらも、

芯の部分では自分らしさを損なわず、

むしろありとあらゆるものを積極的に吸収して、

それらを自分色に染め上げてしまう。

新しいものになびいたり、妥協をしたり、

飲み込まれることのない、確固たるコアがあり、

そこについて、ある意味自信過剰ともいえる絶対的な自信がある、

そしてその自信について周りが認めざるを得ない。

お2人の強みはそこなんだろうと思う。

 

変わらないと言えば、

松本さんが「中身はいまだに少年のままなんだよ」と。

すると、かぶせ気味に細野さんが「わかるよ」と合の手。

そのかぶせ具合がまた絶妙な具合で、

この短いやり取りではっきりとわかる2人の絆と

何よりも冷めやらぬ創作意欲。

これからもまだまだ色々な世界を見せてくれそうでワクワクします。

 

話を京都に戻せば、細野さんが

「世界へのドアはきっと京都にある。東京にはない。」とおっしゃり、

松本さんが「京都は、古典とパンクが同居してる」と激しく同意。

はっぴいえんども、最初は京都でウケて、

京都のライブの時に、岡林さんに俺より目立つなっ!!と言われたそう笑

京都話では高田渡さんの話も飛び出しましたが、

息子さんで、細野さんのサポートをずっとやっている

名ギタリストの高田漣さんは、ちょうどこの日、味園ユニバースでライブ。

重なっちゃって行けなかったのは残念!

 

さらに細野さん「音楽で言えば、世界が日本化してる感じがする」と。

先日のニューヨークやロスでも、

向こうの若い世代のファンが、

日本語で「風をあつめて」を目の前で歌ってくれてと嬉しそうに話される。

お2人とも、リアルタイムで知らないような若い世代や、

海外の人達が、はっぴいえんど

再発見、再評価してくれるという現象を

とても面白がっているようで、とても話が弾みます。

もう半世紀も前に、世界の隅っこの小さな島国で、

わずか3,4年ほどの活動期間だったバンドが、

改めて脚光を浴びて、新しい解釈や価値を

今なお生み続けているというのは本当に奇跡的なこと。

それは、まるでこっそりと引き出しの奥に隠しておいた宝物を

忘れたころに見つけたような感じに似ているのかもしれない。

 

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さてさて、御大の豊富な話題に臆するどころか、

あっちこっち拡張し続ける内容を

うまくテーマにフォーカスを絞りながら、

話をまとめてゆく安珠さん、流石です。

途中、細野さんが、写真展に合わせて作曲した

あの世、この世、天、地、宇宙を模した音楽を流しながら、

松本さんの詩の朗読も披露していただきました。

(「時のミルフィーユ」なんてフレーズは松本さんにしか出せない!!)

 

そして安珠さんからはとても素敵で大切な言葉が。

「大体越えられない壁って、自分自身で作っちゃってることが多い。

自分で壁を作っているのだから、自分が壁を壊せばいい。」

「ただ、嫌なものには適度に距離を取って、離れちゃったっていい」

 

安珠さんもモデルの世界を脱して写真の世界へと転身した人で、

松本さんも、一時作詞の世界を10年ほどお休みしていた時期があり、

細野さんも商業的な音楽から距離を取って、

アンビエントワールドミュージックへと傾倒したり。

(細野さんは元来トロピカルダンディーだから放浪癖があるけれど)

3人とも、ほどよく自分と世界との間合いを取りながら、

前へ進んできた方々で、だからなおさら説得力のある言葉でした。

 

で、この安珠さん、とっても面白い方で、

お会いしたことのない松本さんの妹さんの夢を見て、

ご本人しか知らないような話を知っていたり、

細野さんがロスで大瀧さんの話題をしていた時に、

安珠さんが大滝さんの夢を見て、細野さんに電話をかけたり、

何というタイミング、何という偶然の一致という、

なにか霊感めいたものがあるのか?と

御大もびっくりなことが多いらしい。

多分、きっとこれも目には見えない

赤い糸かなにかで結ばれているようなことなのでしょう。

この日もきっと大瀧さんも

どこか客席の空いているところにおられたかもしれないなあ。

 

スピリチュアルな話題と言えば、

熊野や吉野といった古の神話が息づく地のお話もたくさん。

熊野本宮大社の大斎原(大洪水以前まで元々本殿があった場所)は

全てを生み出す地母神的な形をしていて、

細野さんはそこでパワーを感じたそう。

松本さんは神倉神社の御燈祭でなんと松明を抱えて、

あの急峻な石段を下りられたそうです。すごい!

お2人とも、日本の古い神話にとても関心があると同時に、

それら文化自然的な信仰とも相通じる

ケルトアイルランドの文化にも

とても興味を持たれているご様子。

自分にとってはそんな神々の話をしているお2人の存在が

もはや神なんですけど!笑

 

他にも細野さんのタバコ辞めない宣言や、

松本さんの能舞台とのコラボレーションのお話

(ただいま「火事場の馬鹿力」で締切に追われているそうです笑)、

細野さんが堤監督のお仕事の依頼をお断りした話をすると、

松本さんが「僕だって嵐の作詞を断った」と負けず嫌いを発揮されたり笑

終始、仲睦まじく、

アットホームなトークショーも、あっという間にフィナーレ。

 

最後には、安珠さんのいきな計らいで、

フォトセッション。

3人とも最後の最後まで笑顔!!

そして参加者全員での集合写真まで!!

最高のひと時でした。

  

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 ↓このphは拝借(都合が悪いようでしたら削除します)

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 ↓このphは拝借(都合が悪いようでしたら削除します)

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イベントが終了し、御三方が退場され、

少し間をおいて参加者も退室。

ここから一世一代の大博打を。

実は4月の神戸の「風街神戸」のイベントでお渡しできなかった

プレゼント(といっても、いつもの自作の似顔絵ですが)を

まず無理、基本無理、絶対無理とわかっていながらも、

実はこの日も持参していて、お渡しするには、

このわずかのタイミングしかチャンスがない。

大急ぎで部屋を出ると、

部屋の入り口を少し過ぎたところにまだいらっしゃった!!

もうすでに若干の人だかりができているが、

ほとんどの人はお2人に気付いていない。

もうこのワンチャンス(一生に一度のチャンスといってもいい)に

賭けるしかない。ここで躊躇したら多分一生悔やむ。

ええいままよ!!いざ突撃!!

 まず手前にいらっしゃった松本さんにお声掛けし、

以前にツイッターにあげた似顔絵をいいねしていただき、

フォローもしていただいてますと、

決して決して怪しい者じゃないことを告げて、

絵をプレゼント。

「名前は?」と聞かれたので「●●です」と。

それだけのやりとりだけでも思わず声が震えてしまいます@@@

そりゃそうです。

細野さんの絵もあって、

でも細野さんがもう楽屋の手前まで進んでおられて、

これはもう無理だ…間に合いそうもない…

でもせめて、松本さんにお渡しいただくようにお願いしてみると、

「いいよ、(直接)持っていきな」と、

ありがたいにも程がありすぎるお言葉をいただきました。大涙。

差し出がましくもお言葉に甘えて、細野さんの方へ向かい、

楽屋の2歩手前でお声をかける。

「●●と申します。すみません。お土産に絵を描いてきたのでどうぞ」

きっとそういうようなことを言いながら

(というのも、もう頭パニック状態なので正直何を口走ったか…)、

絵差し出すと、

「ああ、この絵か」と一言。

実は、今年1月の神戸のコンサートで、

一度絵をいつもお世話になっているプロモーターさんに託したことがあり、

 きっと、それをご覧になられたのかもしれない。

(ちゃんと届いていた!Sさんに感謝!)

で、気づけば自分も楽屋の中に入ってしまってて、

これはさすが駄目だと思い、すぐに退散しなければ。

でもせめてお写真だけでもと、お声をかけると、

「どうぞどうぞ」と言っていただき、1枚パシリ。

いやもう、感無量です。

長年ずっと追いかけていた、

最も会いたい人、憧れの方とついに出会うことができたのです。

おかげさまでいろいろな方とお会いしたり、

ご一緒する機会に恵まれているのですが 、

細野さんと松本さんは別格中の別格。

嬉しすぎて昇天してしまいそうです。

本当に奇跡が起きました。その奇跡を逃さなかった。

ずっとずっと思い続けていれば叶うこともあるのだ。 

 

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美しき天女と2人の神様に会いました。

そんな奇跡な夜でした。