記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

音楽劇『プラネタリウムのふたご』 at 梅田芸術劇場

こちら、2月に戻ってのお話。

 

本当は2020年に上演されるはずが、

コロナによって1年延期になって、

 

いよいよ満を持して開催された

音楽劇『プラネタリウムのふたご』を鑑賞しに、

梅田芸術劇場へ。

 

f:id:arkibito:20210214115533j:plain

 

原作は大好きないしいしんじさん。 

いしいさんの作品はどれもこれもが愛おしいものばかりですが、

個人的に本作(それから『ポーの物語』)は

とりわけ自分の心の奥深くにいつまでも留まり続けている

大切な大切な作品です。

 

お話は赤い糸で結ばれた

テンペルとタットルの双子の兄弟の

数奇な運命をたどる物語。

一人はとっておきのマジックで、

一人は夜空の星々を紡いだ物語で、

人々を喜ばせる。

温かなウソとマヤカシで繋がる見えない心と心、

それはいつしかホンモノを超えてゆく___。

 

演出・脚本はウォーリー木下さん。

以前に同じいしいさん原作の『麦踏みクーツェ』を

2015年に舞台化もされています。

2017年の手塚治虫原作の『W3』なども素晴らしかったですが、

演者の身体性(ノンバーバルな部分)を重視した演出や

様々なデジタル技術を用いた演出に定評がある方です。

 

本作では、最初は一心同体のようにして生まれ育ってきた双子が、

ある出来事を境に、別々の星へと導かれてゆくのですが、

後半、それぞれの運命をゆく双子の出来事を、

同時進行でオーバーラップさせて見せていくという、

非常に難易度の高い演出方法がお見事でした。

普通なら、シーンごとに区切って、

これはテンペルのシーン、

次はタットルの出番とするようなところを、

同一のステージ上で、同時に成立させてしまう。

そうすることにより、作品として切れ目なく

流れるように見せることができると同時に、

物語としても、別々の星に導かれ、

別々の生業で、別々に生きているふたご達が、

たとえそうであっても、実は根っこは全く同じで、

いつでも強く繋がっている、一緒に生きているのだということが、

より強くはっきりと感じられるのでした。

と、言葉では簡単に言えても、

やはりそういう想像力でもって構成しないとできない技であり、

またそれをきちんと理解して応えなければいけない役者さんの

苦労ぶりが目に浮かぶようですが、

これが見事にはまっていました。

またウォーリーさんらしい、映像とのコラボレーションも素晴らしく、

おおぐま座の語りのシーンで背景に映し出される天体の様子やら、

熊狩りのシーンで、作品に立体感を与えていました。

 

音楽は、こちらも『麦踏みクーツェ』から引き続き、

トクマルシューゴさん!!

音楽劇と銘打っているだけあって、

本作にとって音楽はもう一つの主役、

そして、いしいさんの書かれるお話からは、

実際、いろいろな音やメロディーが流れるものですから、

より一層に音楽がとても重要になってくるのですが、

これが本当に祝祭的な楽しく可笑しみのある、

トクマルさんらしい音楽の数々で素晴らしかった。

特に、『イのない世界』、あと「ツチノコはいる!」

ぜひ、サントラ出してくれたらいいなあ。

 

f:id:arkibito:20210214154219j:plain

 

そして、役者の皆さんがなにより素晴らしかった!!

 

永田さんと阿久津さんの息ぴったりのシンクロニシティ

それも舞台狭しと爽やかに駆け抜けてゆく2つの風のよう。

それでいて、テンペルはテンペルらしい、

タットルはタットルらしい個性もきちんと感じられていて、

まさに一心同体で、本当に2人の幸福を願ってやみませんでした。

 

そしてそんな2人を、静かに温かく見守る泣き男を、

真心のこもった優しい語り口で演じた佐藤アツヒロさんの包容力。

もはやほんとうの父親であり、ほんとうの母でもある

あの泣き男だからこそ、

双子があんなにものびのびと大きくなったのだなぁ。

 

そして、セコくて、かまってちゃんで、少々面倒くさいけれど、

決して悪人ではなく、どこか憎めない、実に人間臭い工場長を

キッチュさんが演じられていて、

そうそう!こういうおっちゃんいる!と、さすがの芸達者ぶり。

 

妹役の前島亜美さんの明るさと、溢れ出るパワーは、

舞台上で素晴らしいアクセントとして輝いていました。

 

そして、キャストの中でも1番目を見張ったのは、

威風堂々たる座長テオを、

老いの哀愁を纏いつつ演じた大澄賢也さん。

一瞬にして舞台を自分色に染めてしまうような圧倒的な存在感を、

ご自身の身体以上の大きなオーラをしっかり纏わせて見せつけつつ、

全盛を過ぎ、焦りや労を隠し切れない、

そんな寂しさを同時に体現されていました。

実際に手品も披露されるのだけど、

あれも相当の訓練をされたのだろう。

さすがベテランの舞台役者さんです。

今までテレビ等でしか拝見したことがなく、

そのイメージとはまた違た持ち味を見ることができてよかったです。

 

そのほかの皆さんも、見事な一座の団結ぶりでした。

演者の皆さんは舞台転換も自分たちで、

そして他の場面では別役やエキストラと一人2役、3役と大忙しで、

みんなで一つの激を作り上げていくんだという

一体感と熱を大いに感じました。 

その熱を感じる事こそ、生の舞台の醍醐味だなあ。

 

f:id:arkibito:20210214165158j:plain

 

終演後、会場前の人だかりに、いしいさんを発見!

約1年ぶりにごあいさつ。

ご自身の作品がいろいろな人に愛されて、

こうやって新たな作品へと昇華していくのを

とても喜んでおられました。

ぴっぴ君はまた一段と大きくなってましたが、

相変わらずの人懐こさと好奇心旺盛ぶり。

ちょうどF1開幕前だったので、少しだけF1話をしたり。

園子さんもお元気そうで何よりでした。

 

f:id:arkibito:20210214151458j:plain

 

コロナ禍において、その最初期にやり玉に挙げられたことで、

一層困難な状況に陥り、

ほとんど壊滅的と言わざるを得ないほどの演劇業界において、

それでもこうやって、万全の対策を講じ、

どうにかこうにか上演にこぎつけるだけでも相当な苦労の中で、

長期間にわたるお稽古やリハーサルを経て、

こんなにも素晴らしい作品を、

堂々と上演していただいたみなさんには、

感謝とねぎらいを込めたありったけの拍手をお送りしたいと思います。

我々が豊かに暮らすためにはやっぱり、

エンターテインメントは必要不可欠、改めてそう実感しました。

 

本作はDVDの発売も決定して、さっそく予約済み!

store.cubitclub-plus.com

 

 
<追記>

ちなみに本作は、

今回のキャスト制作陣とは別に、

2019年に、所属を超えた関西演劇界の若手らによる作品も上演されて、

そちらは、若手のキラキラとしたフレッシュさがよく出た作品でした。

 

arkibito.hatenablog.com