記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

「家守綺譚」 by 梨木 香歩

なんと。これはこれは見事な本である。
美しいコトバたちがひっそりと咲いている。
草木を愛で、色彩を読み解き、季節を感じる。
時にまた、もののけどもの相手をしてやるも趣があってよい。
これぞ自然の中で培われてきた日本語の醍醐味なり。


話の主は食うに食えぬ物書きを生業とする冴えない学士。
彼が家守を頼まれた屋敷の庭は、四季折々の草木が方々に生え、
現世とも夢幻ともつかぬ摩訶不思議な世界。
池のほうでポチャンと音がしたかと思えば、河童が姿を現し、
狸やら狐やらがいたずらをしてゆく。
おお、これこれゴローや、妖しげなものを連れてくるでないぞ。
ただ何ということもなく、うつらうつらと徒然なるままに、
静かなる日々を書き記した珠玉の一作。


今はただこの本に出会えたことにただただ感謝するのみである。
ぜひご一読を。


家守綺譚 (新潮文庫)

家守綺譚 (新潮文庫)