記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

明日のJAPANへ *長文につき

2006年6月12日。
ドイツW杯、日本初戦。対オーストラリア戦。
前半26分、中村俊輔の華麗なFKによって幸先よく先制。
その戦いぶりと勢いは本物かと思われた。
しかし後半残り20分、ケーヒルの同点&逆転弾に正気を失ったジーコJAPAN
駄目押しの3点目で、事実上W杯を終える。
全てはここから始まった。
カイザースラウテルンの悪夢を振り払うための4年間。
そして今日、ついにその日がやってきた。
デンマークに勝ったのではない、己に打ち勝った真の勝利。
もう過去を振り返る必要はない。後戻りする必要も躊躇する必要もない。
次の試合からは明日の侍JAPANの戦いが待っている。
ここで満足しては終われない。


昨日の試合はこれまでの試合とは一皮もニ皮も剥けた進化した日本の姿が見れた。
最大の勝因は、オランダ戦での戦績。
デンマークがつまらないオウンゴールも含めて0-2で負け、
日本が0-1でしのいだ、これがこの試合の運び方に大きく影響を与えた。
デンマークはこの得失点差1の妙のために、必ず得点して勝たなければならない。
つまり前の2戦とは日本の置かれる立場が違う。
チャレンジする側ではなく追われる側。
前の2戦で得た自分たちの闘い方をそのままではなく、進化させる必要が生じたのだ。
そしてそれをやってのけた。
デンマークが決して弱かったわけでも、調子が悪かったわけでもない。
状況に対応できるだけの柔軟性を得たのだ。これは紛れもない進化。


デンマークポウルセントマソンを中心に攻撃型で序盤から飛ばした。
それに対して、引き分け狙いなど器用なことのできない日本は、
過去2戦でつかんだ自信を拠り所として、ガチンコで打ち合う姿勢。
何度かポジショニングに長けたトマソンが決定的な場面を作るが、デンマークは明らかに飛ばしすぎ。
すぐにマークを見直し、松井のキープ力、長谷部の機転で逆に押し返す展開。
これはどちらにせよ消耗戦。前半、相手にハイペースにさせることで
後半への貯金を日本は稼いだことになる。
そして、文句のない本田のミドル。
状況を考えて100%振りぬかず狙いに行っているところが素晴らしい。
ちゃんと問題点を修正している。彼が主張する”準備”の賜物だろう。
そしてもっと驚いたのは2点目の遠藤のFK。
1点入れているということもあるし、相手の裏をかく意味もあるが、
あそこで本田が遠藤に譲ったということが大きい。
孤高の獅子がついにチームに歩み寄った瞬間。
これはチームの団結力を象徴している。
ちなみに3点目の岡崎へのプレゼントも同じ意味で内容のあるものだった。
あれは北朝鮮戦でC・ロナウドがフォア・ザ・チームに徹したのと同じくらいの意味を持つ。
日本代表が真に本田のチームとなった。


そして後半。くしくも状況は4年前と酷似している。
幸先よく先制。相手はパワープレーを仕掛けてくる大型選手ぞろい。
この試合以上に、あの悪夢を払拭する舞台があるだろうか。
まさしく試されている。
しかし今回は違う。阿倍がいる。長友がいる。
彼らは単に引くのではなく、勇猛果敢に攻めの守りを通した。
中澤の頭の中にはドイツでの悔しさが蘇ったに違いない
中澤、闘莉王はこの日は全くのノーミス。研ぎ澄まされた集中力が発揮されていた。
前半の序盤こそ攻めの姿勢を出したが、実は攻め勝った様に見えて
実は守り勝った試合だ。といっても決してネガティブな意味ではない。
前線からの執拗な、それこそハイエナのようなプレス、
そのプレッシャーにロングパスを多用してのパワープレーに頼らざるを得ない状況に追い込む。
デンマークはまるでいつぞやの日本の姿そのままだった。
前半のツケが回り、スピードが落ち、前線とバックの距離が開き、
ただただロングボールを単調に入れるだけのデンマーク
まさしくそういう展開に日本がさせたのだ!
逆に日本は拾ったルーズボールを、最少人数でまわしてのカウンター。
これはもう強豪チームが中堅チーム相手にする攻撃スタイルだ。
特に、本田-岡崎の1,2での得点シーンや、
松井が切れ込んで中央フリーの遠藤⇒本田
(結果オフサイド。というより遠藤よシュート!)という場面などがそう。
今まで自分たちがさせられてきたことを相手に仕掛けることができた、
しかも一世一代の大勝負の舞台で!


ただここで終わりではない。
日韓大会、1次リーグ突破に浮かれ、8強をかけたトルコ戦での
実にもったいない、実にしょーもない敗戦を忘れてはいまい。
今日の勝利はもう過ぎ去ったこと。次のパラグアイ戦にむけてあえて苦言を。
1番の課題は長谷部が不要にもらったファウル。
あの場面、トマソンは完全にゴールに背を向けてボールを受けていたし、
しかも長谷部のすぐ横には闘莉王がいて、
万一トマソンが反転してスーパープレーを見せても、
シュートコースはなく、振り切られても闘莉王がすぐに寄せれた。
状況がきちんと把握できていれば、あの時間帯でペナルティーエリア内で
不要なプレーをする必要はない。
あのエリアは慎重にも慎重が必要なデリケートゾーン。
2点リードで、しかも引き分けでOKという精神的優位がなければ見ていられない場面だ。
あの時点で長谷部はすでに判断力が落ち疲労困憊だったので、
あそこが本来の交代時期だったのだろう。
引っ張らずもっとはやく稲本に変えた方がよかったと思う。
稲本に変えた遠藤は球持ちがよく、
他のメンバーが浮き足立っても落ち着かせるプレーができるので
長谷部OUT、稲本INが定石だろう。


難にせよ、今日の勝利は間違いなく日本代表の新たな歩みを決定付けるものだった。
そしてその成果を再び発揮する舞台はもうすぐ目の前に迫っている。