記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

長崎出張

水曜日は長崎に日帰り出張だった。
目的は2つ。
1つ目は、坂本竜馬像のある風頭公園へのアクセス方法の確認。
この公園は長崎特有の急な階段坂を上りきったところにあるのだが、
ふもとの寺町から上ると迷子になる恐れがあることから実踏調査する必要があったのだ。
でもこれはオマケ。今日の主目的は去年春に一般上陸が許可された軍艦島への上陸ツアー、
それも普段は立ち入りのできない所へも今回特別にご案内いただける。
産業遺産マニア、廃墟好きのarkibitoにとっては願ってもないチャンス。
仕事と実利を兼ねての日帰り弾丸ツアー。れっきとした仕事です。仕事。


軍艦島とは、近代日本の産業を支えた一大炭鉱の島として繁栄した島で
海から島の全景を見ると軍艦土佐のシルエットにそっくりだったことから軍艦島と呼ばれる。
多くの炭鉱労働者が住むため、日本で最古の鉄筋アパートが建てられ、
狭い小さな島は当時世界で一番人口密度の高い場所だった。
石炭から石油へのエネルギー転換に伴って、炭鉱は閉鎖。不要となった島はそのまま廃島された。
以来長い間無人島となり、栄華を誇った島の建物は廃墟として潮風にさらされ続けたが、
当時生活をしていた人たちの声が発端となり、産業遺産として世界遺産登録へ向けて尽力されるようになった。


2:00就寝、4:30気象の寝ぼけ状態で始発の新幹線に乗り、仮眠して気づいたら小倉通過。で博多。
博多からは長崎特急かもめ号で、到着が11:00。
こっからお昼にちゃんぽんでも♪とはいかない。お仕事、お仕事。
さっそく風頭公園を目指す。ふもとからの上りルートは大まかに3コース。
つまりこの暗峠なみの急で長い長い階段と坂を最低3往復せねばならねばなのだ。
地図に迷いやすいポイントを書き込み、写真を撮る。時間がないからヒルクラTT状態で上り下り。
慎重にコースを選んでいたはずが、延々続く墓地エリアでさまよいまくって焦る。
まるでドラクエのダンジョン。こら迷うわ。
というより、そもそもここから上りきるのはよほどの健脚者じゃないと厳しい。
これは標準アクセスルートととしてはお勧めできない。なるほど、うむうむ。
しかし炎天下の中3本も大急ぎで上り下りをして、全身汗びっしょりでクタクタ。
でもこの仕事、歩いてナンボだと思ってます。
結局時間ぎりぎりまで歩きに費やしたので、昼ご飯はファミマのパン…
ああ、ちゃんぽん…ああトルコライス…さようなら〜。



集合時間に桟橋に到着し、高速船で出航。
上陸には天候や波などいくつか条件がある。
実は前日まで九州全体が激しい大雨だったのだが、今日は全くのノープロブレム。ついてる!
で見えてきました軍艦島
実は実はこの島に上陸するのは2度目。まだ大学院生時代だから7年前だったか。
ちょうど世界遺産に登録しようという運動が始まったところで、初の会合にお邪魔した折に
せっかくだからと、1人で漁師の人と交渉して船を出してもらったのだ。
でもその時は本当にかけ足だったが、今日はじっくりみっちり中まで見れる。わくわく。


なお、今回は熟知した指導員の下、特別に許可を得て入っています。普段は一般見学ゾーン以外のエリアへの立ち入りは絶対禁止です!危険すぎます。


ドルフィン桟橋から上陸後、とあるところから一般見学ゾーンを外れ中へ。
すごい。なんと説明せいていいかわからない。
世界広しといえどこんな場所は世界にここだけだろう。
足元に広がるが煉瓦やら枝やら、ワイヤーやらを踏みしめながら進む。
建物は度重なる台風で基礎部分が海水で浸食され、いつ倒壊してもおかしくない。
その脇を通り抜ける。小中学校の圧倒的な存在感。
アパートの一室に残された古めかしい家具や家電。
昔そこには間違いなく人の営みがあったのだな。
足場の悪い階段や廊下をクネクネとやりくりして、この島の最も神聖な場所、
屋上の神社に到着。小さな祠が一つ。
見渡すとこの島が絶海にポツンと取り残されてるのが実感できる。
その後もカメラを抱えながら、戦場カメラマンのごとく廃墟を走り抜け
あっという間に島を一周。


本当に素晴らしかった。素晴らし過ぎた。
廃墟といっても、不思議と悲壮感とか悲惨さというのを感じなかった。
阪神大震災直後の惨状や、サラエボでみた戦争の生々しい傷跡とは違う。
ひっそりとそこに残された人工物が雨風によって変形され、緑に覆われ、
なんというかまるでラピュタの世界…
人の造りしものが、人の手を離れた途端に、ゆっくりと崩壊し、自然へと還ろうとしている。
それは一つの死であると同時に、一つの大きな大きな生の循環でもある。
その瞬間を間近で目撃したのだ。
これはちょっとした衝撃だった。


写真についてはほんの一部をアップしました。下の別記事でどうぞ。