記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

ポリティクスな集団

いろいろとスキャンダラスというかドラマの起こるツールなこってす。
アンディのメカトラの隙を突いてコンタがアタックという、これまた物議をかもす出来事が発生。
ネットでしかみてないから、うかつな発言は控えるべきかもしらんけど。


アンディの怒りの心境はわからなくもないけど、
ロードレースはあくまでチームプレーでの競争。
選手はもちろん、監督・コーチ、メンテをしたメカニック、あるいは機材を提供した各メーカー、
全部のパッケージで競っているのだから、他チームの選手に対して不満をぶつけるのはフェアじゃないなと思う。
アンディのライディングが機材に負荷をかけるようなまずい乗り方だったのか、
あるいはアンディのパワーに負けてしまうほどメーカーの機材がヤワだったのか、
あるいは単にメカニックがちょっとチェーンオイルをケチったからかは知らないけど
落車に巻き込まれたとか、他の選手と接触したとか、あるいは頭突きかまされたわけじゃなく、
アクシデントは単独で起こったわけで、怒りを向けるならアクシデントを防げなかった自分やチームに向けるべきだ。
少なくともコンタがアクシデントを引き起こしたわけじゃないことは確か。
アクシデントが起こった後の他の人の対応に文句を言うより、
アクシデントを起こしてしまったことについて自己反省と検証をすべきじゃないかな。
もし自分がぱしゃ君とスプリント勝負して、途中でメカトラ発生で負けても、それは自分のせい。
こっちがトラぶってるから待って、正々堂々勝負せいやなんて言いません。
いやあメカトラで遅れましたと言い訳はするけど。


グランツールは、非常にポリティカルなスポーツだ。
一番”速い”選手が勝つのではなく、いろいろな意味で”強い”選手が勝つ。
単に足が速い、上りが得意といっただけではなく、
集団をコントロールする決定権、政治力、発言権あるものが主導権を握る。
アタック・逃げ、あるいは第3ステージのようにレース自体を中止するといったことまで
それらを容認するかしないか、その場のパワーバランスが決する。
誰が集団の王者として君臨しているのか、支配しているチームはどこなのか、
そしてそれらの判断に対して、各チームの利害が一致するかしないか。
彼らはただ単に脚を回しているのではなく、常に高度な駆け引きの中にいる。
レース後に振り返って、それが本当に正しかったかどうかという議論は起こるとしても
レースの場面場面の判断はその場の状況次第で起こってしまう。
それもグランツールの一側面であり、醍醐味でもある。
もしレースの序盤だったらアンディも待ってもらえただろうけど残り4km地点だった。
しかも頂上まで残り僅かのアタックがかかって当然の場面。
しかもコンタだけでなく3位のサンチェス、4位のメンショフ、5位のヴァンデンブロックと
上位陣がそろってしまっていて、アタックを容認する状況になってしまった。
これはアンディには不運だったかもしれないが、レースとはそういうものだ。
アタックをかけた張本人はコンタかもしれないが、それを容認したのはあくまでプロトンである。


そもそも、アンディが、マイヨを着ている自分がアクシデントに見舞われたのだから
当然他の人間は待って当たり前などと思っているならマイヨ着る資格はない。
マイヨの威厳とは、アクシデントの保険ではない。
真の王者とは単に速いだけじゃなく、アクシデントに合わない用心深さと万全の準備が必要だし、
アクシデントに遭わない強靭な運や、万一アクシデントにあった時でもそれを克服できるだけの力のある者だ。


ただしコンタの立場から言えば、
慣習的にトラブルの際はペースを緩めて相手を待つという不文律がありながらあえてアタックということについて、
”純粋”な競争を美徳とする大勢の人たちが現に数多く存在しているのは事実で、
コンタは批判を受けるということは当然覚悟しなければならないし、
残りのツール、そして今後のレースにおいて、他選手、チームから報いを受ける可能性もある。
今回の事件がなかったとしてもアンディに勝てたということをパリまでに証明しなければならないだろうなとは思う。
いずれにせよ、ツールとは3000km越のロングレース。
決して軽視できない場面だったとはいえたかだか4kmの出来事で全てが決するわけではない。
王者はパリで決まる。