記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

ノルウェイの森

愛という不確かな事象について。
愛とは不確かゆえに美しく、不確かゆえに儚い。
愛が不確かゆえに、時に他のすべてを犠牲に、肉体を重ねて確かめ合う。
愛はアナタをつなぎとめ、愛はワタシを壊す。
だからこそ愛は尊い


物語の主軸である三人の男女を演じた役者の、
演技というよりもそのたたずまいが素晴らしい。
松山ケンイチのとりとめのない視線と、独特のセリフ回しが
愛する人の苦悩を前に、何もできないことへの喪失感を見事に表現している。
対して、愛する対象を失い捕らわれの身となった菊池凛子の消え入りそうな心の声、
そして朝靄の草原での独白。
そして暗く沈んだ世界に咲く一輪の花のようにとびきりの笑顔を見せる水原希子の初々しさ。
彼らの確かな存在感が、そして作品全体をを覆う独特の色彩感覚、
水々しさと浮遊感に見事にマッチしている。
どことなくレオス・カラックスの作品を連想させるような感じだった。


しかしやっぱり村上春樹のことを評価しようとは思わなかった。
村上ファンではないし、かといってアンチというわけでもないのだが、
こと村上春樹に限っては、やたら持ち上げたがる人が多いのでどうしても警戒してしまう。
そしてこの作品はもう立派にトラン・アン・ユン監督の作品である。