『単独行』 by 加藤文太郎
伝説のソロクライマーにして、わが故郷・兵庫の名士、
加藤文太郎が残した山行の記録。
かの「孤高の人」の主人公のモデルとなった加藤の素顔は、
堅物で人を寄せ付けないヒロイズムに満ちた人間像ではなく、
極めて素朴で、不器用で、人懐こさの感じられる「普通の人」である。
その人間離れした体力や忍耐力、実行力は実に驚異的ではあるが、
勇猛果敢に難攻不落の地を落とすといったような
尖鋭的でドラマチックで派手な冒険者というよりも、
下手なスキーや岩登りを克服しながら静かに山と対峙し語らう姿は、
一般登山者の我々にとっても非常に親近感を覚えるものである。
「単独行者よ強くあれ!」というキャッチフレーズは、
一見男気あふれる勇者の弁に聞こえるがそうではない。
ここでいう強さとは絶対的な体力やスキルを身につけ、
無敵な存在になるということではなく、
自らの「弱さ」を徹底的に自覚するということである。
自らの弱点や克服すべきポイントを明確にし、それに対して万全の対策を練る、
そしてその対策が本当に正しい答えなのかということを
本番前に繰り返し徹底的に試すという、
地味で堅実な作業にこそ偉業を成し遂げる下地が備わっている。
この辺りは、三菱の技師として働いていた加藤の、
エンジニアならではの堅実さが窺い知れる。
- 作者: 加藤文太郎
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2010/11/01
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谷甲州編につづいて読んでみたが、
ロングライドに忙しすぎて3月から読み始めてようやく読破。
これを読むことでの山へのモチベーションは計り知れない。
いつか、加藤、そして松壽が没した槍ヶ岳・北鎌尾根へ行ってみたいが、
現状のスキル・経験則はそのミッションをこなすにはあまりに”弱”すぎる。
この計画はおそらくずっとずっと後になることだろうなあ。