記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

『Lhotse』 by 石川直樹

通信技術が発達し、あらゆる交通輸送網が
地球上のありとあらゆる場所に張り巡らされている今日、
果たして”冒険”というものの意味は一体なんなのか?
その1つの重要な答えを提示し続けているのが、
冒険家・石川直樹である。


ヒマラヤをはじめとする世界の屋根に挑戦し続ける「登山家」は数多い。
あるいは、アドベンチャーゲームのような形で大自然を相手に格闘する
「アスリート」は世界的なアウトドアブームで増加している。
しかし彼のように「冒険家」を名乗り、
またそのように認知されている存在というのは、
今となっては世界的に見ても稀有な存在である。


彼の業績はまさに多岐にわたっている。
北極点から南極点まで人力で踏破する「Pole to Pole」。
世界最年少(当時)での七大陸最高峰登頂(7サミッツ)。
熱気球による太平洋横断(途中断念)。
ユーコン川900kmをカヌーにて漕破。
ミクロネシアの先住民の元へ通い伝統航海術(スターナビゲーション)を会得。etc。
山に限らず、日常我々の目が届きにくい世界の果てを舞台として、
人間と自然が長い年月をかけて共生し、培ってきた営みを体験し発信し続けている。
彼が冒険家たる所以というのは、まさにそこである。


つまり、これらの行為を単純に目的地を目指す、目標を達成する、
あるいはタイムや記録を狙うといった単純なトライアルに陥ることなく、
文化人類学的(現代ではほとんど死語に近いような分野だが)な見地から
その過程の一部始終を対象としていること。
辺境、未開の地に根付く人々の営みや文化に深く入り込み、土着文化を積極的に吸収しながら、
大自然や山々に刻まれた壮大な物語を掘り起こそうとする姿勢である。
また、それらを写真という手法を用いて、世界中に発信し、
人類の遺産を収集、保管していく点である。
単に、未開の地で危険で困難な挑戦を、個人的な満足のために行うのではないという点で
まさしく純粋な冒険家であるといえる。


今回紹介するのは去年秋に出版された『Lhotse』という写真集。
石川直樹が撮影したヒマラヤ山脈の写真集のシリーズ3作目(全5部作になる予定らしい)。
タイトルの通り、世界第4位の標高8516mを誇るローツェが主役。
黄色一色の美しい装丁の写真集を開くと、その素晴らしすぎる山容に目を奪われる。
生物の限界を超えた世界に、これほどまでに美しい光景が広がっているなんて…
そしてローツェから映し出されたエベレストの(ローツェはエベレストの真横にそびえる)、
あまりにも美しすぎる神々しさをたたえたシルエット!
ひたひたと燃え続ける自分の中の山熱が、メラメラとたぎる音が聞こえます。
これを眺めながらお酒をいただくのは最高です。







先月からスタートした、3年ぶりの我が家の本棚大規模リニューアル。
そこで、眠っていたコレクションがどんどん発掘され、
その度に作業が中断してしまうという何とも贅沢な悩みに困っております。
その中でもオススメの本をちょこちょこ紹介していこうと思います。