記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

丹沢山 地獄からの天国

土曜日。
せっかく東京に出てきたので、
日頃めったに登れない関東のお山を登って帰ることにします。
翌日が娘の作品展なので日帰り限定=帰路の沿線沿いでチョイスとなると、
もう丹沢しか思いつきませんでした。
グレートトラバースの田中陽希さんのファンミーティングで麓まで訪れましたが
あの時は結局登らず終いだったので、
どうにか今年中には宿題を終わらせたかったというのもあります。
小田原〜湘南の海岸線のすぐ裏手に広がる広大な丹沢山地には
たくさんのルートがありますが、今回は最もメジャーなルートの一つである
表尾根縦走ルートからまずは塔ノ岳をめざし、そこから丹沢主脈を経て、
百名山である丹沢山(1567m)へ。
そこから登山の拠点である大倉へ下るという約20kmの行程です。


しかし朝からあいにくの天候。
アクセス最寄りの秦野駅に到着したころには雨が降りだし、
バスを待つ列でも、大勢の人が目前で山行をキャンセルして離脱していきます。
それでも始発のバスは超満員。
関西の人にはまったくなじみがないが、
関東の人にとっては最もアクセスしやすい山なので大人気のようです。
関東の人にとってはまさしく六甲山のような感覚なのでしょう。
バスで1時間ほど揺られて、登山開始地点のヤビツ峠へ。
ここは言わずと知れた関東ローディーの聖地ですね。
まさかチャリではなく、登山でここを訪れることになろうとは思ってもいませんでした。


標高761mのヤビツ峠を出発しますが、
山の中はすでに土砂降り。
上から容赦なく振ってくる雨粒はもちろん、
路面のぬかるみがひどい状態でたまらない。
今回は登山靴ではなく、普段履きしている履き古しのトレランシューズということで、
グリップが全然なく、足を取られて悪戦苦闘。
起伏の多い表尾根のピークをいくつも上り下りを繰り返していきます。
最初は深い緑の中を進んでいたのだが、二ノ塔あたりから稜線に出ると、
すさまじい西風(おそらく風速15mはあった)に煽られながらの厳しい山行。
晴れていれば、秦野市街や湘南の海岸線が見えるという、
眺望自慢のコースなのだが、前方10mも視界が効かない。
三ノ塔を過ぎると、何か所か少々慎重さが求められる鎖場があり、
そこが唯一の難所でした。
靴はもうぬかるみに沈みきって浸水を始め、
つぶてのごとく吹き付ける雨風に眼鏡が曇る。
レインウェアの中は自らの発汗でびしょびしょになり、蒸すように暑い。
どんどん状況が悪化する中で11:16に塔ノ岳に登頂。


↓本土砂降りの塔ノ岳(1491m)


山頂には尊仏小屋が営業をしていて、みながスコールのような雨に緊急避難。
自分もそこで暑いお茶を頂いて急場をしのぐ。
ここから目的の丹沢山までは片道約1時間の稜線歩き。
ここでもう下山ルートに直行というのも考えたが、
予定時間よりも早く進行していたし、ここまで濡れればもうあとは一緒なので、
意を決して小屋を出て主脈へと進む。
ここからはさらに泥炭と化した登山道になかば絶望しながら足を踏み入れ
吹き付ける横風に身を縮めながら前進する。
そうして40分ほどかけて、どうにか丹沢山へ到達。
当然、眺望など一切なし。
今年はシーズンインからひたすら雨に悩まされ続け、
最後まで雨なのかよと空に恨み節を吐きながら、下山を開始。


↓100名山・丹沢山(1567m)


丹沢山から主脈を引き返し、塔ノ岳へ向かっていると、
あれだけ強かった雨風が弱まってきた。
ビックリするほど空模様が展開し、徐々に周囲の山々も顔をのぞかせる。
西日のまぶしさにそちらへと視線を送ると…
真っ白なスクリーンが、まるでモーゼの十戒のごとく四散し、
奥深い丹沢山地の山々が一気に眼前に広がっていく!
そうしてそのはるか先に、まるで天の柱が打たれたように巨大な山容が姿を見せ始める。
あれは見紛うことなき富士山!
天空を覆っていた分厚い雲が、まるで富士山の火口に吸い込まれるように、
渦を巻いて一機に収斂していく!
そうしてついに堂々たる御姿を惜しげもなく見せつけるのであった!
いつも見る富士の山はその美しく端麗なシルエットに女性的な印象があったのだが、
荒れ狂う天の獣を、一刀両断で鎮めるその圧倒的な威圧感は、
まるでミケランジェロの彫刻のごとき姿であった。
今まで見たどの富士山よりも強烈なインパクト。
朝の山行開始からかれこれ5時間、必死に雨風に耐えてきて、
最後の最後に天からの思いがけないプレゼントに、素直に感激した!


↓奇跡の富士山


無事に塔ノ岳に到着し、小屋で簡単な昼食。
富士山の圧倒的なシルエットは素晴らしく、どれだけ眺めていても全く飽きない。
一方、南や東側には、雲海が一面に広がり、
まるで標高3000m峰のような錯覚を覚えるほど、雲上の楽園を演出してくれている。
はるか遠く東を望むと、その分厚い雲海を突き抜けて、
わずかな都心の高層ビルと針のごときスカイツリーが顔をのぞかせている。
素晴らしい!


↓一面の雲海。まるでアルプスのような気分。


名残惜しいが、新幹線の都合があるので、下山開始。
大倉までは7kmほど急な下りを詰めていく。
標高を落とすにつれて、雲海の中へと突入していき、
なんだか荘厳な趣を感じ取る。
そうして無事に大倉のバス停に到着したのが16時ジャスト。
約20km、7時間30分の山行でした。
ここ大倉は、あのグレート・トラバースの田中陽希さんの
ファン・ミーティングで訪れた地。
ちょうど最終章が放送されて、思い出深かったですね。


丹沢なかなか奥が深く、様々な表情を見せてくれました。
まだまだたくさんのルートが残っているので、
また東京に出る機械に合わせて足しげく通ってみたいと思います。



<山行記録:7時間25分/19.27km>
5:30起床⇒6:34小田原駅⇒6:53秦野駅7:35⇒8:23ヤビツ峠
8:35ヤビツ峠⇒8:43富士見橋⇒9:23二ノ塔⇒9:34三ノ塔⇒
9:53鳥尾山⇒10:09行者岳⇒10:23政次郎ノ頭⇒10:39新大日⇒
11:16塔ノ岳(尊仏小屋にて小休止)11:50⇒12:00日高⇒
12:30丹沢山12:45⇒13:40塔ノ岳(尊仏小屋にて小休止)14:05⇒
14:14金冷シ⇒14:47堀山の家⇒15:30大倉高原山の家⇒16:00大倉16:10⇒
16:19渋沢駅16:30⇒16:50小田原17:06⇒17:50静岡駅18:11⇒20:03新大阪駅