記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

霊仙山スノーハイク 詳細編

1/4は初の本格的な積雪期山行にトライ。
誕生日プレゼントとしてスノーシューを購入したのでそのトライアルです。
冬場はどうしても運動不足になりがちなので、
出不精を解消する意味でも、雪山にも進出してみようかと。
とはいえ、雪山は相当にリスクが高いので、そう簡単ではない。
手軽にアプローチできて、それほどハードな傾斜がなく、
かつある程度の雪が望めるところといえば滋賀でしょ。
ということで、今回のターゲットは伊吹山の南向かいに鎮座する霊仙山へ。


スノーシューをどう担ごうかとあれこれ試行錯誤をしたのだが、
バックカントリー用のザックとか買いだしたらキリがないので、
結局サイドポケットに先端を突っ込んで、
補助ロープでくくりつけるという強引な手口で。
もっと本格的な山ブランドに比べれば、
チャラさが否めないチャムスのザックだが
意外とこんな無茶ブリでもしっかり活躍してくれるのだから助かる。
4時に起床し、もろもろ支度を済ませて出発。
5時の京都行きの各停に乗る。
京都で乗り換えてさらに先へ。
ここからは前日までの寒波でプラットホームは白いものがたくさん。
湖東をどんどん進んでいくにつれて完全に外は雪国。
米原着が6:56。
霊仙山の最寄駅は醒ヶ井なのだが、同じ乗り換えるなら1回がいいので
米原発のバスで向かいます。
駅を出るとくるぶしぐらいまでの雪がドカドカと積もり、
路面はブラックアイス化してツルツル!
駅前のコンビニに向かうまで何度もスリップしかける。


米原駅でも大雪


バスは7:30始発。醒ヶ井駅でお一人ハイカーが同乗し、
終点の養鱒場に到着したのが7:56でした。
バス停のある北入口から1分ほど歩いて、南口まで行き、
そこから軽アイゼンを装着します。
スノーシューはバタバタとして歩きづらくなるみたいなので出番はまだです。


↓養鱒場


養鱒場から榑ヶ畑登山口までは林道を歩いてアプローチするのだが、
約4kmほどあり、なかなか長丁場。
アップダウンはほとんどないのだがシャリシャリの雪がくるぶし辺りまであり、
なおかつ前日の大雪の重みに耐えかねて木々が頭を垂れ、
あちらこちらでドザドザと塊を落としてくる。
雪歩きも最初は珍しくて楽しいのだが、
足場の悪いところをひたすら踏み抜いていくのは
単に歩く以上に疲労が蓄積していく。
途中、同じバスで降りたハイカーさんに追いつかれ、
しばらくは自分が先行して進んでいく。
養鱒場より奥には集落がないので、山深いこの辺りは本当に静か。
一面の銀世界を見ながら黙々と進んでいく。
後ろに人がいるのも意識して、結構ペースをアゲアゲで進んでいたのだが、
冷たい空気にやられたのもあって、途中から発作がひどくなり始める。
こうなると全然酸素が入ってこないので一気にペースが落ちる。
キリのいいところで、後ろのハイカーさんに道を譲って、
自分はしばし薬を摂取したり小休止。
そこからはペースを少し落として、長い長い林道を歩き続け、
榑ヶ畑登山口に到着したのが9:03。
取り付きまで約1時間を要しました。長〜い!


↓登山口までの長い長い取り付き


↓一面の銀世界


↓榑ヶ畑登山口


ここには小さな東屋が建てられてあり、
そこで少し休憩をすることにします。
先に若いカップルが休憩されていてご挨拶。
彼らはほどなく出発していきました。
自分は魔法瓶を取り出して、
奥さんが入れてくれたあったかいコーヒーをいただきながら休憩。
この登山口では登山届を出すボックスが設置されているので、
忘れずに提出します。当たり前田のクラッカ〜。


↓登山届をここで提出


10分ほど休憩を取ったらいよいよ本格的な山道に突入します。
谷の小さな沢伝いに進んでいきます。
ほとんど人の手が入っていないので、
まるで生クリームのように見える雪がそのまんま。
時々、木の上部から落ちてくる雪の
ドサッ、サラサラ〜という音以外何も聞こえない。
先行者のトレースを踏み外すと、ずぶずぶと膝まで沈んでしまうので、
慎重に踏み跡を追跡していく。


↓森の中に突入していく


10分ほど森の奥へと進んでいくと、緑色の小さな小屋が現われました。
山小屋かなやです。
当然ながら冬期は営業していないためひっそりとしています。
ここには名物の自動販売機があって、
醒ヶ井の清流に備え付けられた”自動販売機”があります。
さすがに寒いので利用せずに先へと進みます。


↓山小屋かなや


↓かなや名物の自動販売


小屋からは一気に急坂となり、
小屋の直上をジグザグに上がっていきます。
ほんの2,3mですが斜面を直登する箇所があり、
雪がズブズブと崩れるので登りづらいところがあったが、
あとはえっちらおっちら登りきると、汗フキ峠に到達します。
ここを直進すると落合という廃村に出るが、数年前から通行止めで
ここを左折してヤセ尾根に出ると山頂へと続いていく。


↓汗フキ峠


谷から尾根に出ると、
雪の量が一気に増え、雪の質もさらさらとしたものに変わっていく。
左右が斜面になった回廊のようなところを抜けると、
向かいの山塊にとりつく。
三合目から徐々に上りがしんどくなってきたため、
大洞谷源頭でいったん止まって、ここで初めてスノーシューに履き替える。


↓トレースを追っていく


↓三合目


↓大洞谷源頭


スノーシューはどれがいいのかよくわからなかったが、
好日山荘でスタッフさんと相談してTUBBSというところのFLEX VRTを購入した。
一般的にはMSR製がいいと聞くのだが、
このブランドだけちょいと割高で、そこまで投資して
雪山に足しげく通うというほどまではいかないだろうと思ったので、
コスパ最優先でのチョイス。
Boaシステムというワンタッチで靴の締め付けが可能なのがよいが、
サイズは24で小回りが利かない。
何はともあれ、しっかりと装着をしてまずは歩いてみよう!


↓ここでスノーシュー装着


スノーシューを履いた感覚としては、
滑らないショートスキーといった感じ。
板全体で浮力を稼いで深い雪に沈まない構造で
足を上げるとかかと側が作動してスムーズに動くようになっている。
ただ当然ながら幅があるので、脚の動かし方次第では
左右のシューがガチンガチンと接触してしまう。
限られた幅のトレースを歩いていくような場所ではなかなか歩きにくい。
登りはヒールリフターのおかげで、そこそこの傾斜でもあまり影響を受けないが、
下りになると体勢を維持しづらく、
傾斜が急なところは横歩きでカバーするような形になる。
慣れないせいもあって下りでは何度も転倒してしまったが、起き上がるのが結構大変。
他のハイカーさんでワカンを履いている人の機動力に比べると
明らかにペースが違うので、やはり小回りの利くワカンの方がよかったかなあ。
でもまあ道具は使い方次第なので、ひとまずこれで慣れていくしかない。


ジグザグジグザグと雪の斜面を登っていき、
ようやく四合目に到達したのが10:26ごろ。
ここまで随分高度を上げてきて、
木々の間から向かいの山並みものぞくようになってきたが、
どうも雲行きはよくなさそう。
山行を開始して2時間30分だが、感覚的にはもっと歩いてきたような疲労感。
やはり夏の山行とは全然違う。


↓四合目


四合目からも木々の間を縫って徐々に高度を上げていく。
スノーシューを履いているとはいえども、
前日の大雪のせいで雪が厚いのでズボズボと沈んでいく。
それをかきあげつつ進むが、その一動作一動作がちょっとずつ疲労として蓄積する。
何と言っても、夏場ならつけなくてよい片足700g前後の足かせを履いた上に
雪をかきあげ、またそれがどんどん付着して重さを増すのだから、
ちょっとした鉄下駄練習をしているようなものだ。
だんだん疲労の色が濃くなり始めた頃、
10:41に五合目に到達。
ここは見晴台と名付けられていて、なるほど北側の斜面は開けていて、
うっすら遠くの集落がチラチラとかすんで見える。
が、そちら方面にあるはずの伊吹山などは全く存在すらわからない。
この時点でもずいぶんとガスが濃い。
ここでお二方の男性に追いつきご挨拶。


↓五合目の見晴台


一人の方(さっきのカップルの人)が出発するタイミングで自分も出発。
その方は先行する女性に追いつくため急ペースで進んでいかれる。
ここからは結構急な斜面をトラバース気味に登っていく。
ジグザグの折り返しごとに急な登りとなり、息が上がって、
3歩進んで2歩休憩のような感じ。
それでも徐々に先行していたカップルに追いついていく。
回りの木々も間隔があいて、
明らかに広大に開けた霊仙の山上が近づいてくるのがわかる。
しかしそれと同時に、ガスが見る見るうちに濃度を増し、
また今まで森に遮られていた風が猛威を振るい始める。
雪質もどんどんサラサラになっていき、
足元の沈み具合も深くなってきた。


↓びっしり雪!


山上まで最後の登りのところで、先行していたカップルさんが、
上から下りてきた単独の男性(バスで一緒だった人)と話し込んでいるのが聞こえてきた。
どうもこの先、完全に視界不良で、風が強すぎるため
登頂を断念して降りてこられたとのこと。
それを聞いたカップルはあっさり引き返すことを決めて降りていきました。
自分はまだ時間的にも昼を回っていないし、
とりあえずもう少しだけ進んで判断しようとカップルと交差して登っていきます。
すると単独さんが、一人ではさすがに怖かったのだけど、
行くなら一緒に行きますとのことだったので、
ペースの遅い自分が先頭になって雪をかき分けて急斜面を上がっていきます。
ここから完全に森を抜け、風雪から丸裸なエリアに突入していきます。
足元はどんどん雪にはまっていき、向かう方向を見定めようと上部に目を凝らすのだが
全くもって何も見えない!
地図を確認すると、山頂はここから少し方角を振らなければならないのだが、
そんなことをしようものなら降り口を見失ってしまいかねない…
もしそうなって、ちょっとでも違うところから下ってしまったら、
誰もいない山中をさまようことになる。
怖い。
これが正直な感覚。
風はともかく、この真っ白のスクリーンが晴れてくれなければ、
いったいどこを目指して進めばよいのか。
一度でも登ったことのある山ならまだ感覚でつかめる部分もあろうが、
なにせ霊仙は初めてということもある。


↓ズボズボ


ホワイトアウト


幸いにして完全な単独ではなく、
もう一人横にいるというのがせめてもの慰めで、
お互いにどうしましょ、どうしましょと進退を伺いながらも一歩ずつ前進する。
よくよく上部に目を凝らすと大きな岩が露出しているのが見えた。
とりあえずあそこまで行ってみようということになり、
すでにほとんど消えかけているトレースに新たに積もった新雪をかき分けて登る。
どうにかそこまでたどり着いてみる。
単独さんは先ほど1人でここまで来た時点で引き返してきたそうで、
そこから先トレースが全くなくなっている。
そこから先どちらの方面へ進めばよいのか、
どのくらい登りが続くのか、どのくらいの傾斜なのか、
山頂までの距離も全く分からない。
山上の広場に到達しているのは間違いないので、
夏場であればせいぜいあと20分ほどで山頂に到達できるくらいの位置に入るはずなのだが、
ここからさき、目印のない広大な白の世界に突っ込むと
完全に前後左右を見失いかねないし、
ここから完全に深い新雪ラッセルして進まねばならないわけで、
もろもろリスクが大きすぎると判断して、ここで撤退を決める。
さすがに新年早々、遭難でもして他の人に迷惑をかけるわけにもいかないし、
そこまで無理をして登頂しないといけない山でもない。
ここまでで充分本来の目的は達しているし、雪山の面白さや怖さまでも体験できた。
といいつつ、やはり途中で断念というのは悔しいもんです。
でも天候ばっかりはどうしようもない。
そうこうしているうちにも歩いてきたトレースが消えてしまいそうな状況なので
大急ぎで撤退開始!


↓目印の岩までとりあえず来たが…


↓右も左も全く分からず


↓撤退開始


すぐさま翻って、たった今登ってきた雪道を下り始める。
が、そこそこ斜度があり、ヒールのさばき方がわからず、
何度も引っかかって転倒を繰り返す。
単独さんはワカンを履いていてサクサクと下って行かれる。
どうにか姿を捉える距離を保って、はぐれないようについていこうと
焦れば焦るほど足がもたつく。
ようやく森林に入る下り口のところまで到達してほっと一安心。
単独さんは自分が安全圏に入ったのを見届けて急いで下山していかれました。


↓安全地帯が見えてきた


↓下り口に逃げ込む。これは視界ゼロになったら見つけらんない!


どうにか森の中に入ると、さっきまでの風が嘘のように静かになる。
いったん落ち着いてマイペースでゆっくりと下るようにします。
そうして斜度が緩む五合目まで降りてきて、そこで小休止。
下からお一方上がってこられてご挨拶。
上の状況をお知らせして、自分は引き続き下山をしていきます。
撤退をしながら、これまで歩くのにいっぱいいっぱいで
持ち出せなかった一眼を出して撮影しながら下っていきます。
斜度が緩んだということもあるが、歩き方も慣れてきて、
スムーズな足運びができるようになってきました。


↓撤退ちう。五合目付近


↓撤退ちう。汗フキ峠までもうすぐのところの回廊


↓雪深し


そうして榑ヶ畑登山口まで戻ってきたのが12:30。
東屋では先行して下山していたカップルさんがお昼御飯中でした。
「上まで行かれました?」と声をかけてきたので、
「いや〜さすがに無理でした〜」とお返事。
ここから先バス停までも長丁場なので、休憩していこうかちょっと迷ったが、
下山はできるだけ早いに越したことがないので、
休憩を取らずに引き続き雪道を踏みしめていきます。
もうスノーシューを外しても問題ないのだが、
背負うと荷物になるだけだし、外すのも面倒なので、このまま進みます。
徐々に日差しも出て、気温が上がってきたからか、
木々の上から続々と雪が降ってきます。
何度か直撃を喰らったが、雪の塊は重い。


↓動物の足跡


そうして13:30に養鱒場に無事到着。
すぐさまバスの時刻を確認すると13時台は便がなく、次は14:12。
荷物の整理やもってきたアンパンで昼食して時間を潰す。
そういえば山で最高のレーションはアンパンだと竹内洋岳さんが言っていました。
おにぎりは凍ってしまうけど、アンパンは凍らないし、
糖分塩分が取れ、
パッキングの時にギュウギュウに潰して持って行けるからだそうです。


↓養鱒場


定刻通り湖国バスがやってきて醒ヶ井駅まで10分ちょっと。
電車は15分後に来るよう。
駅前には立派な道の駅みたいなものがあるので、
そこで時間つぶしと思ったのだが正月休みで開いてませんでした。
残念ながら山バッヂゲットならず。
駅のホームから霊仙山を望むと、
徐々に雲間が晴れて山頂付近も様子も見えるようになってきました。
晴れたなあと少し悔しい気もするが、この時間に山頂にいたら帰りがやばいし、
よく見ると雲の速さがすごいので、相当強烈な風が吹いているに違いない。
まあ時間があれば今シーズンもう一度チャレンジしてみよう。
(夏場はヒルの巣窟なので)


醒ヶ井駅から霊仙山を望む


14:40の電車に乗り、次の米原駅で乗り換え。
こんな中途半端な時間なのにかなり混雑していた。
京都でいったん電車を降り、構内の売店でお土産を買って、
空いている快速に乗り換えて大阪駅着が16:30。


ということで本格的な雪山にトライしてきたわけですが、
やはり一筋縄ではいきませんでした。
足腰の体力強化をせねば!