記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

『シン・ゴジラ』 by 庵野秀明

久々に映画に行ってきました。
今話題の『シン・ゴジラ』です。


娘と参加している「アンサンブルズ東京」では東京駅が題材なのですが、
ちょうどこの映画にも東京駅が出てくるので、
この間のワークショップでも話題となって、
いしいさんからも観に行ける人はぜひ観て!とおすすめされていました。
この間はじめて東京駅を訪れた娘はもちろん、
自分も出張や旅行の時に慌ただしく乗り換えるだけで、
あんまり東京駅についての情報をもちあわせていないので、
少しでも参考になればということで早速観に行くことにしました。



結論から言えば、すごい!
庵野さんといえば、言わずと知れたエヴァンゲリオンシリーズですが、
そのEVAすら、このゴジラをやりたかったがための踏み台でしかないというくらい
今までの庵野ワールドを全て注ぎ込んだ力作でした。
物語はもう単純明快で、東京湾に突如ナゾの巨大生物が現れ、
それが徐々に進化しながら、首都東京を襲い、
それに対して日本国民がどのようにして立ち向かうのかというのが
ひたすら描かれています。



その描写は、いつもの庵野作品に見られる
個人的な深層心理へと深くダイブしていくような局地的なものではなくて、
むしろ『突入せよ! あさま山荘事件』『日本のいちばん長い日』を手がけた
原田眞人監督が得意とする、多角的な視点からめまぐるしく展開する群像劇のようで、
非常に面白かった。
特に、初動態勢で、政府首脳たちが暢気に構えたり、
自分の管轄部署の利権や縦割りの慣習に固辞したり、
結局は米帝の子飼いでしかない政府の無力さだったり、
あるいはこの危機的な状況の中でも、
自らの出世の野望をむき出しにするさまだったり、
刻々と変化する状況の中で、把握しきれないほどの登場人物が入れ替わり立ち代わり
それぞれの立場、意見をぶつけ合っていく、
その有象無象の様をリアルにスリリングに描き出している。
震災とかの有事ではこんな笑うに笑えないやり取りが実際にあるんだろうな。
欲を言えば、その対象が政府関係機関にだけに限定されていたことが残念。
もっと実際にゴジラが上陸して被害をこうむった
一井の人たちの側からの視点が十分だったら
なお作品に厚みが出ただろうと思うのだが。


さて、ゴジラというのは、本作に限らず、シリーズの一番最初から、
象徴以上の何物でもない存在=神なわけで、
ゴジラ自体のキャラクターに魅力があろうがなかろうが本来どっちでもよいのです。
庵野風に言えばまさしく使徒ですね。
(余談ですが、EVAでは使徒の描写が滑稽なほどにシンプルですが、
あれは庵野さんは描くべき本質をよくわかっている証拠です。
だからこそゴジラ新シリーズの監督にふさわしい!)
それはさておいて、ゴジラ=圧倒的な相手あるいはクライシスに対して、
人類が、日本人がどう立ち向かっていくのかというところが肝心なわけです。
昔であればそれは、戦後復興、核武装による冷戦危機の代弁であり、
現代であれば、震災復興、福島原発のそれに当てはまります。
まさに日本という国の歩みの縮図であり、
スクラップ&ビルドで成長をしてきたこの国が生み出した名作なのです。


それにしても、ゴジラが首都を破壊していく描写が
リアリティもくそもなく、もう徹底的にやりたい放題なので、
観ているこちらも清々する。
あの遠慮のなさはアッパレ。
特に、ミリタリーとか乗り物とかドボクとか、
庵野さんの大好物がマニアックなほどに大量投入されているので、
それらを見るだけでも面白い。