記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

転覆!危機一髪

1泊2日の香川視察、色々盛りだくさんだったが、もうネタとしてはこれ以上のことはない。
2日目は朝から突風と大雨で大荒れ。
こんななか高松港から船で豊島へ渡る。
しかも大型のフェリーではなく、これで…



マジか!絶対!揺れるやん!
実際、係留している状態でぐわんぐわん大揺れ。
ほんまに大丈夫やろうか…参加者全員がかなり不安を抱いている。
自分は何度か大荒れの船には乗ったことがあったし、
外海ではなく瀬戸内なのでそこまで深刻な荒れにはならないだろう。
ただあんまり心地の良いものではないだろうが…。
当然日程の変更はなしで予定通り出港する。
全ては80歳のおじいちゃん船長の手にかかっている。
で、出港。
船長さんによると高松港は風の集まる難所らしく、
女木島の影に入るまではモーレツな高波が容赦なく小さな船を襲う。
超超チンさむ状態、ロデオ状態。
垂直方向にひたすら突き上げられる!
窓は砕け散った並みの泡で洗われて全然景色も拝めない。
これ本当に瀬戸内海なのというくらいの荒れ具合。
それでも進行方向から来る高波を破っている状態では全然危険はない。
難所を無事に抜けて、女木島の影に入ると波がマシになり、一安心。
女木島から男木島と島陰に入りこみ、豊島の南端である札田崎から
ぐるっと島をなぞりながら無事に家浦港に到着。
ふうう、さすがに生きた心地がしなかった。
でも、行きはまだ序の口だった…。


島内を視察中に天気は次第に回復していったが、
それとは逆に風が時間を追うごとに強くなっていく。
スタッフが念のため帰りのチャーター便が間違いないかどうか聞くと
かなり大丈夫じゃない、これ以上時間が遅くなればますます風が強くなって船を出せない。
現状でもかなりマズイ状況だが、出すなら今しかないから早く港へ戻ってこいということ。
おいおい、冗談ではないぞ。
強風で高速船が運行を取りやめているのに、それよりも1回り小さいチャーター便で大丈夫なのか?
港では岸壁にでっかい波が打ち寄せ、オーバーして陸に打ちあがっている大荒れ状態。
島の人もかなり心配な顔つきをしてるが、この後の日程も詰まっているというので強行軍。
全くシャレにならない。
不安要素しかないが、かといって帰るにはこれしか手段がないので、従うしかない。
ああ事故ってこういう時こそ発生するんだよなあと思いつつ、
出来るのは翌日の三面に載らないことを祈るのみ。


そして緊張の出港。
港から防波堤を出るまでの段階で船はドカンドカンと衝撃の連続。
何回かはこれ軽く海面から浮いたよねというくらい。
できるだけ波の影響を減らすためか行きよりもさらに島の縁に寄りながら進んでいく。
この時点ではまだ船の頭は西を向きながら、風にあらがって進んでいるので
衝撃は強いがタテの衝撃なので、ひたすら耐えるのみ。
そしていよいよ豊島から男木島の洋上へ出る。ここからが本番。
西からの強風と高波をほぼ真横から受ける区間
船で怖いのは横波と後ろからの大波。
船は真一直線に南下をせず、できるだけ影響を受けないようにジグザグに向かっていく。
さすが大ベテランの船乗り。
だが、波のでかさは並大抵ではなく、振り子のように左右に揺れる。
波のしぶきが真横の窓を割らんばかりの勢いで押し寄せる。
じいちゃん船長は必死でハンドルにしがみついていて
その緊張が船内にいる15人ほどの人間に伝わる。
とにかくじいちゃんガンバレ!
何回かでかい波に横滑りするような感じで、全く生きた心地がしない。
悲鳴があっちこっちから上がる。
やばいやばい、さすがにヤバイ。恐怖がハンパない。
それでもどうにか島の影に入ることができ、最大の難所を切り抜けたかに見えた。




男木島と女木島の東沖を航海中も激しく揺れるものの、
さっきの難所に比べれば大したことがなく、
そうこうしているうちに、ようやく前方に高松の街並みが見えてきた!
しかしここからが真の修羅場だった。
風の集まる高松港沖へいよいよ突入する。
向こうに人の言葉で「おどし」と言われる、
波同士がぶつかり合ってできる波と波との間にぽっかりできる
穴ぼこのような、渦潮のようなものがいくつもできてかなり海が荒れている。
再び苦手な横からの風と高波に踊らされる。
そして大ピンチ到来。
前方に巨大なタンカーが行く手を阻み、それを迂回せねばならない状況になる。
通常なら減速してやりすごすようなのだが、
この荒れた海の中で速度が落ちれば、波に足をとられて転覆の恐れがある。
なので、急ハンドルでタンカーの尻の方へ回り込まなくてはならない。
大荒れの横風・横波、そしてタンカーのスクリューが作り出した潮の流れで
船がひっくりかえらんばかり。
その状況で舵を思いっきり切ったがために、あ、っという瞬間に船が真横に倒れる。
横の窓からは海面がもう見えている。
店長の顔色がさっと変わり、立ち上がってハンドルを目いっぱい回して立て直し、
寸でのところで船体を立て直し、船のかしらを風上へと向けてなんとか危機を脱する。
その瞬間は乗っている誰もが転覆を覚悟したと思います。
港は目の前だし、前後に運行している船が行き交っているとはいえ、
あの状況で転覆して、海に投げ出されたら、あっというまに海に飲み込まれて
ほとんど助かってなかったと思う。
そこからも大きく揺れた船体を必死で抑えつけて、港へ。
命からがら高松港に着岸したときは心底安堵しました。
大げさでも誇張でもなく、マジで死ぬかと思いました。
山も危険だけど、海ばっかりはもう自力でどうしようもない。



全ての乗員が上陸後、船長さんは心底疲れたという風に桟橋の柵にもたれかかって放心状態。
今日ちょっとやばかったですよねと聞くと、
「わしは今年80歳で、60年船乗りしてるけど、こんなに危険なのは初めてじゃ。」
とのこと。大ベテランの船乗りがそこまで言うくらいだから本当にヤバかったんだろう。
しかもタンカーを避ける場面を聞いたら、
あと1,2秒でも舵を切り返すのが遅かったら転覆してたと衝撃発言。
やはり船は横と後ろからの圧力に弱いらしく、あの場面では最もなってはいけない姿勢を強いられて、
まさに紙一重の危機回避だったようだ。なんにせよじいちゃんよく頑張った!


↓上陸後放心状態の船長


香川からの帰りに聞いたら全国的に今日は大荒れの天気で、
帰りの新幹線も強風の影響で一部運転取りやめしてダイヤが乱れているし
そんな天候の中、まさに紙一重で無事に帰宅で来てよかった。
無事だったからこそこうして笑い話ができてるけど、こんなのはもうさすがにゴメン。