記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

『逃亡のガルヴェストン』 by ニック・ピゾラット

がん宣告とボスからの裏切り。
一日のうちに二度の死亡宣告されたしがない中年男が、
現場に居合わせた少女とはかない逃避行を開始する。
しかし彼を追ってきたのは追手ではなく、彼自身の過去だった。


フラッシュバックする数々の思い出。
今よりもずっとうまくやっていた日々のこと、
自分のもとを去った妻との甘い生活
明るい歌声が響く母の記憶。
どこで道を間違ったのかはもう思い出せない。
ただ、いずれは罰を受けなければならないことはわかっている。
そしてその時はもうすぐそこまでやってきている・・・


目の前にはまだ始まってもいない人生を退屈そうにぶら下げた少女が2人。
今にも誤った道へ転がり落ちようとしている。
もはや未来を失った自分ができることは?
償いなどというのは柄ではない。そして自分の人生に後悔はしていない。
ただ、残りの人生の全てを賭けられるものとして。
そして贖罪の旅の果てに待ち受ける悲しい結末。
ラスト、再び過去が彼を訪れる。
それは彼が唯一人生をかけてこの世に残したものだった・・・


なんだろう、この読後感。感動とも違う、共感とも違う、
ただただ感情の高ぶりを抑えることができず温かいものが流れた。
ここ数年でみても屈指の名作。ジャケ買いしてよかった。


逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)