記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

紅葉峠 死の香り

10月に入って毎夜喘息の発作が続いている。
寝床に入ると必ず出てしまうのだが、呼吸ができずに寝付けない。
一度発作が起こってしまったらそれを治める方法は吸入しかない。
吸入すると、気道を広げてくれるので呼吸はとたんに改善され、
発作は一瞬で収まるのだが、発作が治まったからといって楽になるわけではない。
吸入は無理やりに気道を広げるので心臓への負担が非常に大きい。
自分は薬の作用が顕著に出やすい体質なので、この副作用の影響も甚大。
なのでおなじメプチンという薬でも大人用ではなく子供用を使っています。
発作の苦しみとその後の心臓への負担は常にセットで、発作が治まって後でも
ずっと体の不調は継続する。
おまけに自分は心臓のどこかの弁の働きが弱く、小さい頃から不整脈が出やすい。
当然薬で負担がかかるとこの症状も出やすくなる。
こういう苦労が季節の変わり目ごとに繰り返される。
まあ毎度のことと言えば毎度のことなので対処の仕方も分かっているし、
とりたてて騒ぐこともない。
実際そんな状況の中でも福岡・福井ライドではこのことで悩まされることはなかった。
そういうこともあって昨日はちょっと甘く見てしまっていた自分がいたのだが、
それがアクシデントのそもそもの原因。


日曜日は本当はチーム練でロングの予定だったのだが、雨の予報のため延期。
ただ深夜から出て午前中に帰れば本格的な雨に遭わず、出動は可能と判断。
まあ超ロングの場合、雨でもずっと走っているし、
雨だからとか夜だからとかいうのは、
走らない理由としては自分の中でもう説得力がなくなってきています。
ショートでどこか走るなら先日追加された新コースをトライするくらいがちょうどよい距離。
2:30に出て10:30ごろ帰宅で130km程度。
全行程降らないというのは初めから期待していないが、どしゃ降りでなければ問題ない。
それに年末までライドのスケジュールはびっしり詰まっているので、
こんな隙間を見つけなければ、なかなか新コースを回る時間もないので。


前夜は21時には就寝したのだが、この日の発作はしぶとくて吸入を連発してしまう。
どうにか眠りに落ちて1時に起床。雨雲レーダーとにらめっこしながら
ゆっくりと体を目覚めさせながら、準備して2:30に出動。
ただ後になって振り返ってみれば、この時に妙に胸がつかえるような感じと、
左肩甲部痛がひどく、いつもより胸の疲労が激しかったのだから慎重になるべきだった。
雨はまだ降っていないが、妙に温かい風が舞っており、時間の問題。
長柄橋を渡り、新大阪をかすめて大吹橋で神崎川を渡る。
そこから西へトレースして榎木橋府道134号に入り北上。
緑地公園をかすめて春日から府道135号に入る。
最近は北摂方面へはこのルートを使ってます。千里山の上りも回避できるし。
南千里から緩いアップダウンをこなして万博公園の外周へ。
この辺からポツポツ降り始める。
豊川の手前で西国街道に入り、東福井に到達が3時ごろ。
本当は箕面や勝尾から抜けて行ったほうが距離的にも楽なのだが、
あちらは週末走り屋のたまり場なので、夜間は110号か忍頂寺越えしか使えないのだ。
この先亀岡へ抜けるのに一番楽なのはR423に入ることなので、今日は110号で行きます。
まあせっかくなんで府道110号南側TTやっときます。
雨が降って少し冷えてきているので暖を取る意味もあります。
まあ足鳴らし程度の感覚なので序盤は慎重に入り、17km程度のぺースで。
彩都からの合流後、少し斜度が上がっていくがアウターのまま。
佐保から泉原の一番暗い部分は、工事用の電飾がこれでもかと設置されていて明るくてラッキー。
泉原を越え、忍頂寺との分岐を左折、少し安定してきたのでペースを徐々に上げていく。
この辺くらいになると雨が少しマシになってくる。
多留見峠を過ぎ、斜度が緩んだところでペースを一気に上げてもよかったが
無理をせずゴール。
34:10。
この時のTTは100%出していないこともあり、特に不調を訴える症状はなし。
そのまま北側へ下る。南斜面と違い雨は止んでいるのだが、
四方から強烈に風が舞っていてハンドルを取られるので慎重に。
余野でR423に入る。


↓余野の夜


ここからは鈍い上り基調で進む。この辺は路面もドライで雨も降っていない。
が、県境を過ぎると本格的に雨が降りだす。
ここからは下りなので慎重に。
特に亀岡盆地へ降りる間際のヘアピン区間は外灯がなく見通しが悪いので
十分にペースを落として曲がる。
いつもここを通る時に思うが、あそこにある公衆電話の明かりが怖い。
盆地に入ると雨がやむ。雨雲と抜きつ抜かれつになってる?
曽我部の信号で左折し府道407号に入る。
そのまま亀岡総合公園に到達し、ミニストップで休憩。
4:45なので、2時間ちょいで来ましたが、あまり早く目的地に着くと暗闇でTTとなるので
時間調整の意味も込めてしっかり急速&補給します。
雨と朝の冷え込みで結構寒さが厳しかったので、
お店の人に頼んで時間前だがイートインさせてもらう。
30分ほど休憩ののちリスタートする。
再び府道407号に入り北上。大井ICのあたりでR9に入る。
千代川辺りから再び雨が降り出して困る。
JRをまたぎ川と並走してJR八木に到達。
本当に国道?といいたくなるがR477方面へ右折する。


↓八木でR477に入る


しばらく進み、大堰橋を渡る。そのままR477をトレースしていく。
少し丘越えがあって、そのさきの田園地帯を走る。
ようやく周囲が明るくなり朝を迎える。
雲の様子をうかがうと、東の空はまだまとまった雲はなく雨は降っていなさそう。
逆に西や南にはどんよりと黒い雲が垂れこめている。
いずれにしても雲の動きはかなり早い。
ひたすら田園地帯を進むが曲がり口が分からず、
地図を片手にブラブラと走っていたら、
後方右からえもいえぬプレッシャーを感じ、振り返ると、
でかい犬2,3匹が田んぼのあぜ道からこちら側に全速力で向かってくるのが見えた。
ライド中アニマルトラブルが多い自分なので、条件反射で全力疾走開始!
40kmオーバーでひた走り、後方を振り返ると1匹が振り落とされんと
ベロを出しながら猛追してくる!うわうわ、追いつかれる!
と、さらに必死のパッチでフルもがきして結局完全に振り切るのに1.5km以上かかりました。
本番前にドッキリはやめてくれ!
そしてすぐに、山肌に近づく。
するとR477はこの先神吉までの区間で、大規模な路面の亀裂が発生しており、
年末まで通行止となっていて、紅葉山の迂回路が示されていた。
それに従って、府道408号を北に進むと、すぐに亀岡市南丹市との境界に到達。
そこに紅葉峠と案内板があり、そこがスタート地点。


↓R477は路面崩壊により通行止


↓紅葉峠スタート地点


ジャスト6:00となり、周囲も明るくなってきたので息を整えてスタートします。
雨はまだ降っていないので、振り出す前にちゃちゃっと片付けたいという焦りもあって
いつもなら慎重に入るところを序盤から積極的に上げて行くことにする。
スタート直後左に緩やかにカーブをくぐると、緩斜面が直線的に続いている。
この辺は当然アウターでガシガシ。
直線区間の先で斜度がグイっと上がるので、ここで得た勢いを使って、
えいやっとダンシングで駆け抜ける。
今日は脚に関しては調子が良いようでしっかり回せている。
上りきるとため池のようなものがあり、その右岸を緩く上っていく。


↓急斜面を上るとため池に出て斜度が緩む


路面状況はアスファルトにひび割れやグレージングもなくかなり良好。
ただ落ち葉や枝、どんぐりなどが散乱していて時折タイヤがプチプチいう。
沢伝いに緩急をつけながら進んでいくが、
斜度もそんなに無茶なことはないので、調子に乗ってダンシング縛りでギンギン回す。
特に初物のコースの場合、入り方には慎重を期すのが普通なのだが、
今日はどうも気持ちが前のめりすぎて、冷静さを全く欠いていた。
沢がもうそろそろおしまいかというところから斜度が少し厳しくなる。
そこも耐えて、上りつめると、ポンプ室?変電所?のような建物が左手に出てきて
そこから斜度が緩む。緩んだので一気にギアを上げてペースを急激に上げ、
ヘアピンをこなしている最中に、不整脈が起きる。
といっても、自分の場合、ヒルクラTTをする時はまず間違いなくと言っていいほど脈が乱れる。
余談だが、自分の場合、いわゆる心肺や脚の売り切れより、この調整によるロスがあるので
なかなかどのコースもタイムが伸びないのです…
脈が乱れても少しペースを落とし、息を整えれば、一定時間過ぎるとピークが来て収まり、
そこからまた正常に戻るので、今回も同じように対応しつつ、ごまかしながら進む。
道は先ほどの沢の対岸の山肌に取りつき、斜度がかなり緩む。
ここはスピードアップして攻める区間
が、いつもならしばらく耐えれば収まるはずの不整脈が一向に収まらない。
脈がトックン、トク、トックンと飛んだりして不快な状態のまま。
だがせっかくの緩斜面で速度が稼げるところでこのペースダウンはかなり痛い。
ここまでいい感じでクライムで来ているというもどかしさを抱きつつ、
どうせあと2kmもないので、ギリギリの感じだが、ロスを最小限にペースを保つ。
今日は気持ちが珍しく前面に出ていたのが結果的には仇になったのかもしれない。
しばらくすると、ゼブラーゾーンが登場し、展望台を頂点としてヘアピンをこなし、
そこから道は一気に方向転換をして山の上部へと続いて行く。


↓大きいヘアピンの手前は急斜面


↓もういっちょヘアピンカーブ。ここから斜度が緩む


↓展望台のヘアピンから同じようなカーブの連続


胸に不安を抱えつつ、同じようなカーブをいくつもこなしていく。
大丈夫、もうすぐゴール、もうすぐ終わると自分を鼓舞しながら必死で上がっていく。
が、どのカーブも本当に同じようにあってどれがゴールかはっきりしない。
左手の斜面は赤茶色の地層がむき出しで、
右側のガードレールには青いペンキで何か書かれていて、カーブミラーが立っている。
それが5つも6つもひたすら続く。
サイトではガードレールの落書きを目印にとあったが、
あんなの全力で走ってて書かれてあるものをじっくり判別できっこない。
途中で再びポンプ室のようなものが左手に登場し、進行方向の山の成り方から見ても
もうピークはすぐに違いないと、不整脈はまだ続いてはいたが、
意を決してラストスパートを敢行する。
ひーひーととにかく必死でダンシングをし、息も絶え絶え。
そのうち、道が少し下って、その先離合のため道幅が広がり、標識がある所にでて、
おそらくゴールを過ぎてしまったことに気づき、急ブレーキ。
それまでギンギンに運動をしていたのに、急に停まったのがいけなかったのか、
脈が異常に早くなり苦しくなる。
コップに残ったわずかの水をストローで吸うようなジュルルルといった感覚が胸に起こり、
ああ苦しい、苦しい、とても気分が悪い、ちょっと安静にせねばと思っている矢先、
視界の四方から砂嵐がドワ〜っとやってきた……


↓ここがゴール地点?


↓ここまでオーバーラン


気付いたら道に横たわっていました。
雨が降りだしたのか、右頬が濡れて冷たいので、それで目が覚めたようです。
マシンは自分の足の上にのっかって倒れていました。
状況がイマイチの見込めず、クラクラする頭でどうにかマシンをどけてひとまず座る。
落車したのか、何かにぶつかった?マシンに損傷はないようだけど、
頭を打ったような感覚があるし、気分がすぐれない。
どうしてこうなったのか、整理してみて、そういえばさっき脈が乱れて気持ち悪くなって…
そうか、それで立ちゴケしてしまって、ちょっと頭を打って失神してしまったのか。
とんだヘマをしてしまった。
そうそう、そう言えばタイムを確認してなかった。
ああそうか13:50ね。
そういえばゴール地点をオーバーしてたはずだから地点を確かめようと
Uターンを切るところだったんだ。
と、サイクルメーターをカチカチやりながら考えていて、あることに気付いた。
時計が6:45を指しているのだ。おかしい。クラクラする頭で必死で考える。
6時ジャストにTTを開始して15分足らずでTTを終えたはずだから、
今は6:15とか20とかのはず。
それが6:45とはどういうことか。転倒した際に壊れてしまったかと、
携帯を取りだして確認するが、時刻に間違いはないようだ。
とすると、TTを終えた直後から今気がついた6:45まで、一切の記憶がない。
立ちコケをして頭を打って一瞬気を失ったのだと思ったが、どうもそうではなく、
30分も道端で倒れていたということか。
あれほど乱れていた脈は一応正常にはなっているが、胸やけと言うか非常に気分が悪い。
徐々に自分が思っていたより深刻な事態が発生しているのだと気付いた。
不整脈は強度が高まるとよくなることではあったが、
まさか気を失うほど苦しくなったのは初めてだった。
その後遺症か、左の背中が焼けるように痛く、左脇の筋肉が攣っているような感じ。
これはもう不整脈を越えて、狭心症が起こったに違いなかった。
それで気を失い、転倒。
その際に軽く頭も打って、そのまま30分倒れていたということだろう。
なんとか自己回復をして目覚めたからよかったものの、
もしそのまま意識が戻らなかったら…
隣に新道ができて車の交通は皆無に近い。
こんな天気ではハイカーやロ-ディーが通り過ぎることもまずない。
誰にも気づかれぬまま冷たい雨に打たれながら、意識もなく倒れていたとしたら…
正直背筋が凍りました。
今日はただラッキーだっただけでヘタしたら死んでいたのだと実感しました。
要因は今まで色々書いてきた事柄たちに違いない。
不整脈は自分の持病で、一生付き合っていかなくてはならない。
それに心臓は自分の意思とは無関係に動くものでどう頑張ったって鍛えようがない。
こういうリスクをなくすには、不整脈が起こりうるような強度まで上げないということしかない。
色々周到に予防線を張れば、ある程度の強度を出すことはできるだろうけど、
こんな恐怖と苦しみ(脈が乱れることの不快感ったらない)を味わった今、
100%を出せる勇気がない。もうヒルクラTTをガチでやるのはやめよう…。
今までなら上りで足つきするなんて恥ずかしくてできなかったが、
これからはヤバイと思ったら脚を止めて休むようにします。
もうそうなればクライマーだなんて言えません。でも仕方がない…。


とりあえずしばらくその場で安静にして、
色々整理しているうちに頭も意外と冷静になり落ち着いてきました。
まだ胸のあたりに不快感が残ってはいるが脈も正常に戻り、
周辺で軽く動いたり跳ねたりしてみたが大丈夫そうだ。
そうなると、次はとにかく帰らねばいけない。雨も降ってきた。
無理せずペースを抑えて、気楽にいけば帰れるだろう。
ということで、マシンの具合をチェックしてリスタートする。
雨が降り始めているので正直焦っているのだが、
走り始めは不安でいっぱいなので、様子見でちょっと下っては休憩、
ちょっと下っては休憩と慎重を期し、
ついでに写真を撮ったりしながらリラックスを心掛けて下る。


↓紅葉峠展望台(ゴール地点の1.5km手前)


↓亀岡盆地


下りきってとりあえず亀岡市街まで府道405号で南下する。
30kmペースで走ってみたが、特に脈が乱れるとか苦しいとかはない。
ただまだ頭がクラクラしているし、今は無事に家につくことが大事なので
無理せずにペースを上げないでいく。
雨はポツポツ降ってはいるがそれほど激しいものではない。
宇津根橋で桂川を渡り、すぐにR9合流。
そこから亀岡運動公園へ出て南下する。
ここから帰るにはどのルートでも上りが発生する。
正直言って上るのが怖いが、どんどん悪くなる天候が待ってはくれない。
今日は輪行復路も持ってきていないし、所持金もほとんどない。
色々頭の中で検討した結果、府道407号で上り、
東掛から46号でひたすら茨木まで下るルートが一番イージーと言うことで決定。
その前に、ちょっと温かいものを食べて落ち着きたかったので、
京都学園大前のローソンで丼兵衛とコーラ。
奥さんにTELを入れておく。


リスタート後、雨は一層強くなってきたが、行くしかない。
407号で南下して、山に取りつく。
この道は斜度は大したことがないのでゆっくりゆっくり負荷をかけずに上っていく。
発作や症状が出る兆候はなく、無事に上りきる。
どうやら発作が起こっていなければ何の問題もなさそうである。
発作さえ出なければ大丈夫、ということが今となっては前に進む唯一の光だったりする。
東掛からはスリッピーな下り。途中採石場辺りは路面も荒れ、土が乗っているので慎重に。
下りでもできるだけ回さず、安静な状態で下る。
茨木からは幸い雨が止む。
高槻夜練コースを伝って鳥飼大橋を渡り、淀川CRで帰宅。
途中、40kmまで上げたり、色々してみたが発作さえ起こってなければ問題なかった。
帰宅後、熱い風呂に入り、昼過ぎまで寝る。


少なくとも一日たって大分冷静になってきました。
かといって昨日の今日なので、
はいじゃあすぐヒルクラTTやっぱりやりま〜すという気持ちにはどうしてもなれない。
ショックが大きすぎます。
なによりまず根本原因である、吸入をしない=発作を予防するという治療を
本格的に検討するのが先決だと痛感しました。(誰が知っている人教えてください)
それが功を奏して、体質が改善されたら、
いずれはまた戦えるようになれればいいなあと漠然と思っていますが、
いずれにせよ無理は禁物。特にこの季節は。肝に銘じます。



獲得標高: 1252m
走行距離: 131.25km
TOTAL: 8963.21km