記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

サムライブルー

ピッチの上でイレブンが方膝をついて祈る。
パラグアイの最後の選手が放ったボールがゴールネットを揺らす。
悔しがる川島。
本田が泣き崩れる。
闘莉王はベンチにうなだれて呆然としている。
駒野を抱き寄せながら松井が泣いている。
松井の涙が本当に目に焼きついて離れない。
失意の駒野に阿倍が、稲本が笑顔で歩み寄る。
日本の南アフリカが終わった。
120分の激闘を戦い抜き、そして敗れた。
PKは時の運。こればかりはしょうがない。
誰の責任でもない。
結果として負けはしたが、決して恥じることはない。
遠く南アフリカの地で、コーチ陣、控えの選手も含めて
まさにチーム一丸で堂々と躍動したことを誇りに
胸を張って帰ってきて欲しい。


それにしても悔しい!惜しい!
パラグアイは決して適わない相手でも、強いチームでもなかった。
決定力もないし、パスワークがうまいわけでもない。
それどころか不用意なパスや、ミス、球もちの悪さを露呈する場面が多かった。
自慢の守備も鉄壁というほどのもでもなかった。
そもそも日本がその守備と対決する決定的な攻撃の機会が少なかったが。
ただ、球際の強さ、ルーズボールへの執念は並々ならぬもので、
そこでの決定的な差が終始試合を難しいものにしていた。
でも、正直このチームが南米予選でアルゼンチンとブラジルから勝利を挙げ
予選3位通過したチームなのかと思った。
相手はまるで中東の国のよう。これは勝てる。間違いなく勝てると思った。
PKという運勝負となる前に、日本は自らの実力で決着をつけなければならなかった。
120分守り抜き善戦して、PKまで持ち込んだ末に惨敗したと考えるのか
勝てた相手に攻めきれず、PKまで持ち込まれた末に負けたと捉えるか。
ささいな差と思うかもしれないが、この認識をしっかり持つか持たないかが
今後4年間に絶対違ってくる。
試合が終わったところではあるが、せっかくここまで進化してきたのだ。
立ち止まってはいけない。そのためには、感情を抜きにして今一度試合を検証したい。


今日の試合は結果的に120分もの長丁場、そしてPK戦となったが、
PKを除く、試合展開は死闘というにはいささかお粗末な展開だった。
一番の課題は攻撃。
試合早々、少し遠い位置から何本かミドルを放つ。
これは、まず相手に隙があったらどこからでもいくぞという姿勢を見せ付けるのには十分効果的だった。
でも、その後ずっと同じ調子でミドルを放ち続け、
1次予選で自信を深めたはずの大久保、本田、松井の突破からの展開という形ではなかった。
駒野がオーバーラップしたりしても、結局安易にポンポンミドルを放ち続けるばかりで
日本は自分の攻撃スタイルを全く発揮できていなかった。どうしたのだろう?
1回目のFKを得た場面でも、相手はあからさまに嫌がっていた。
日本のお家芸なのだから当然だ。
その武器を発揮する場面を作る努力が今日は足りていなかった。
FKを得る、それも決定的な位置で得るため攻撃をもっともっと仕掛けてよかった。
確かに相手はこれまで戦った3チームよりも格段に辺りが強かったが、
何も相手に合わせて同じことをする必要はなかったのに、お付き合いしてしまった。
日本らしく、今までやってきた攻撃スタイルをすればよかったのになと思う。
攻めきれなかったという理由は、実は無意識のうちに恐れがあったからではないかと思う。
1次リーグとは違い1発勝負。まして相手は守備重視のチーム。先制されるのは絶対に避けたい。
今日は画面から見ても、一見攻撃的なようでいて、守りに入っている感じがあからさまだった。
さすがに後半、特に岡田監督が腹をくくり、阿倍を下げ中村憲剛を入れ、
点を取るんだというメッセージをイレブンに送り込んでからは
少しずつ攻めるしかないという気持ちを高めていたが、そこには少し焦りもあった。
一見攻めの姿勢ながら、弱気という面がでた象徴的な場面は玉田のパス。
あそこはヤケクソでも泥臭くてもいいからシュートを打ち抜くべきだった。
そうすれば入ったかもしれないし、弾いたこぼれ球を中村憲が押し込んだかもしれない。
あるいはコーナーをとれたかもしれない。
つまりシュートを打つことによって3回の可能性が生まれるはずが、
悪い意味でより丁寧に、より確実に、無難にということで結果的に中村憲へのパスを選択した。
そしてそれがかみあわずにジ・エンド。
回ってきた数少ない勝負できる場面で勝負にいけるのかどうか。
結果的に同じ失敗に終わっても、攻めた結果とみすみす逃したのでは意味が違う。
あそこが本田ならどうしただろう。玉田は生粋のFWである。
今大会、本来FWではない本田を1人前線を置き、FWに事実上クビだと宣言されたのはなぜか。
あの場面玉田はそれを考えなかったろうか。
そういう心理が、もう一歩リスクを犯して中へと切れ込めなかった最大の要因であり、
今後の最大の課題ではないだろうか。
結果を責めるわけではない。日本はまだまだ発展途上。
守備に関しては世界と渡り合えるメドが立ったとはいえ、攻撃についてはこれからだ。
ケチをつけるというのではなく、課題をしっかりと認識するということが大事だ。


守備も今日は1次予選ほど安心して見れる状態ではなかった。
闘莉王は興奮しているのか、ペナルティーエリア内でファウルを取られかねない相手への当たりをしたり
ときどき注意力が散漫になって不用意に緩いパスを出したり、終始ヒヤヒヤだった。
(さすがに終盤はよかったが。)
ただ代わりに今日は中澤が神経を研ぎ澄ませて、決定的な危機をことごとく潰していた。
一番厳しかったのはやはりルーズボールを拾えなかったこと。
相手のボールへの執念はすごかった。明らかに大きすぎるセンタリングやパスでも、
必死で走り続けて無駄にしない。日本の選手がセーフティと勝手に判断したボールでさえつないでしまう。
強引なまでに日本のパスをカットしたり、奪ったりというのが、中盤危険な位置で多かった。
なにより遠藤がよくなかった。
過去3戦よりも少し前目のポジションでより攻撃的な役割を担っていたが、
球際の当りの弱さが目立ち、中盤の危険な位置でボールを失う場面が多かった。
攻撃の起点となるべき選手が、この状況では決定的な場面を作り出すことは難しい。
余談だが、PKの時も、名手でありながら大舞台の肝心な時に限ってはずす悪癖があるので
はずすなら遠藤かと一瞬思った。
話を元に戻すと、今日はリスクをあえて冒し攻撃的にするつもりが、
中盤の相手の圧力に押されたことで、攻撃がひるみ、リスクばかりが目立つという印象だった。
それが阿倍に変えて、中村憲を入れ、長谷部・遠藤を少し下げたことで安定し、
相手もうかうかカウンターを仕掛けられなくなった。
やはり攻撃は最大の防御。
本来岡田JAPANが目指したスタイル・フォーメーションがわずかながらも機能したという点は
評価して良いと思う。
欲を言えば、少なくとも後1試合。スペインとのガチンコ対決で
1次リーグの守備的なスタイルではなく、後半わずかながらに芽生えた攻撃的なサッカーをする
サムライたちの姿を見てみたかった・・・。
今日の試合は決して相手が強すぎるとか弱いとかじゃない。
こちらのコンディションが悪いというわけでもない。
それでも0-0だったということは、つまり今の日本代表に立ちはだかる見えない壁、
越えるべき課題と直面した試合だったということ。
成長限界の際で闘い、そしてほんの少し足りなかったということ。
4年後、この試合を超えることがまた新たな目標。


ドイツ大会から4年にも渡って続いた悪夢はついに消え伏せた。
今こそ過去を振り返ることから、新しい一歩を踏み出す時が来た。
俊輔の時代は完全に終焉を向かえ、新たなリーダーとして本田が台頭した。
そしてもう1つ、長らく川口ー楢崎の2枚態勢で挑んできた日本に
ようやく新たな正GKが誕生した。川島の登場は今大会の最大の収穫といっても過言ではない。
大会前のメンバー発表の際、今回の代表は平均年齢の高く、
次世代の育成面ではマイナスという意見もでていたが、
本田、長友、長谷部、岡崎といった面々によって、
今大会で得た新たな日本のスピリッツは確実に次の世代へと受け継がれるはずである。
日本の未来は、まだまだ険しい途上ではあるが、確実に光の差す方へと向いている。
選手の皆さんお疲れ様。
そして全重圧を一手に引き受け、身を削って日本を引っ張った岡田監督ありがとう。