記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

日本初戦 雑感

昨日は、日本が大方の予想を覆して初陣を飾った。
とにもかくにも、大迫の献身性に尽きる一戦だった。
勝ちが一番の経験になることは言わずもがな。
もはや失うものは何もないのだから、開き直ってやるしかない。


スタメンは、現状考えうるなかではベストな部類のメンバー。
大迫1トップ、トップ下に香川、
両サイドに運動量豊富な乾と原口を配し、
前線からの積極的なプレスをかけていく姿勢がはっきり出ていた。
視野の広い柴崎の起用は、
彼らの運動量を最大限生かすためのベストな選択。
長谷部の復帰は、W杯初戦という、
もっともプレッシャーのかかる試合で、
冷静さを保つための選択と思われる。
昌子の先発は少し意外だったが、
これもコンディションの良さを確認しての事だろう。
川島の先発も長谷部と同じ理由で、
初戦の難しさを経験者で補う意図があると思われる。
コンディション等々はこちらでは計り知れないが、
まずまず利の適った選択だろう。


立ち上がり早々、相手もこちらも
W杯初戦のプレッシャーがほどなくある中で
相当集中していたのであろう香川と大迫が
冷静にコンビネーションを見せ、相手を崩して、
完全に出ばなをくじくことに成功した。
相手が不用意なハンドで一発退場したが、
あれももう少し試合の進んだ場面だったら、
相手DFももう少し違う対応をしただろうけど、
試合開始早々バタつきの中で冷静な処理ができなかったせいだろう。
いずれにせよ、大チャンス。
香川がしっかりと落ち着いてGKの動きを見て、
グランダーのボールを転がして先制。
今大会PKの失敗が今のところ目立つから、
振りぬくよりもしっかり転がすというところは、香川は冷静だった。


1点先制し、しかも早々から相手が1人少なくなった。
これは最大級の勝てるチャンスが転がり込んできたわけだが
逆を言うと、これ勝って当然の試合になってしまったことで、
大いなるプレッシャーになってしまった。
この一連のアドバンテージは一度すっかり忘れて、
試合前にシミュレーションした内容を忠実にこなすという原点に戻らないと
ドツボにはまってしまう恐れがあったし、
万一、この試合展開ですら負けてしまえば、
日本代表は完全に崩壊してしまうというリスクまで生じていたはずだ。
ある意味ではとても難しい初戦になってしまったと
この時点では正直感じた。


当然、コロンビアは負けているわけで、
残り時間を考えても試合をあきらめるわけもなく
前のめりに点を取りに攻めてくる。
そこを同じような浮足立った状態で迎え撃ってしまえば、相手の思うつぼ。
相手は1人少ないという余裕をもって、淡々とこなしていきたい。
前線のプレス、特に大迫と原口の出玉を潰す役割がよく効いていて、
相手もなかなか攻めあぐねていたが、
逆に日本も相手の攻撃を受けてしまって、
なかなか敵陣での展開が維持できない。
何度か相手エースのファルカオ
さすがのポジショニングで日本をピンチに陥れたが、
長友や昌子が寄せて処理。
キンテーロからの供給でファルカオの決定力に望みをかけるというのが
ほぼコロンビアの攻撃パターンが見て取れた。
あと怖いのはペナルティエリア付近でのセットプレーだが、
守備のコンセンサスが取れていないのか、
相手を完全にフリーにしてしまっている場面があり、
非常に不安を残していた。


そんな矢先に、長友が下手なクリアをして、
ペナルティエリア付近に大きくボールを上げ、
ファルカオと競った長谷部がファウルを取られてしまう。
あれで長谷部のファイルを取るというのは
正直厳しいと言わざるを得ないが、
スタート直後に一発レッドを出したという審判の心理を考えると、
コロンビアに埋め合わせの一枚を出すことは容易に想像できたし、
あの絡みはファルカオの老獪さが出たということも言えるからやむなし。
それよりも、その前の長友のクリアが本当によくなかった。
試合終了間際でも、結局タイムアップで免れたが、
これまた長友の不要なクリアで相手にコーナーを与えてしまっていたし、
確実にピンチの芽を摘むという事を冷静にやらないといけない。
相手FKはそれほど強烈でもなく、
ヤットさんのコロコロのちょっと強めくらいだったが、
川島が逆サイドに張り過ぎていたこと、
パンチングではなくキャッチに行こうとして
手を伸ばしきれなかったことが重なり、
コロコロとラインを越えてゴール。
あれは完全に川島の判断ミス。防げた失点。
次戦の起用はもうないんじゃないだろうか。正直、不安定すぎる。
あとは前半終了までの厳しい時間帯をどうにか凌いでのハーフタイム。


思わぬ得点と数的優位にもかかわらず、
前半はその優位性をあまり感じられないほどで、
相手も攻めあぐねていたが、
同じくらい日本も決定機を作れていなかった。
それはまだ時間も浅く、
とりあえず冷静な試合展開を心掛けた日本と、
ピンチに陥ったコロンビアが、
前のめりになって早々の挽回を狙ってきたせいだが、
その積極策が前半終了直前の嫌な時間帯で実ってしまい、
相手にとって一獲千金の1点が入ってしまった。
下手をすれば、ドイツW杯の悪夢のオーストラリア戦のように、
このままボロボロと崩壊してしまう恐れがあるほどの大失態であったが、
一度立て直しの間を入れることができたのは不幸中の幸いだった。
あとは、前半いくら良かったとはいえ、
1人少ないコロンビアの選手はその分疲弊しているはずで、
後半間違いなく運動量が落ちるはず。
どのタイミングでハメスを投入してくるかというのもあるが、
まだこの時点でも日本の優位性は揺るがない。
あとは中盤での不用意なミスや、パスカット、
攻め込まれた時にペナルティエリア内でのファイル(特に麻也)といった
悪癖が出なければ、少なくとも引き分けには持ち込めるだろう。


後半早々から、やはり数的優位性と相手のスタミナが落ちて
最終ラインでの時間稼ぎのボール回しにも追ってこなくなったが、
この時点で同点だから、日本も追加点を取りに行かないといけないのに
数的優位性を有効に使えていない感じ。
時々柴崎がワイドな視点で、両サイドにボールを散らして、
酒井宏樹がうまく上がって決定機が2度あったが、決定力に欠いた。
乾は攻守にわたって献身性を発揮はしていたが、
いざ攻撃にスイッチしたところで、相手に倒されて、
チャンスを潰すどころか、ノーファウルで
ピンチをもたらすといったシチュエーションがいくつかあった。
そこがつながらないから香川へのボール供給が途絶え、
徐々に存在感を失っていた。
そうなると、徐々にいつもの悪い癖が出始める。
ある程度までは自動的に押し上げるのだが、そこから出し手を失って、
意味もなく近い距離でパスを回し停滞。
苦し紛れのチャレンジでパスカットやミスを犯して
攻守交替といういつものパターン。
特に長谷部は、全く消極的で、横パスやバックパスの選択しかせず、
芝の目を読み違えているのか、
ショート過ぎてカットされるというのが何度もあった。
せっかく大外に乾や原口が我慢して開いているのに、
自分でドリブルで上がって打開することなく、
近所や後ろにばかりボールを配って、ほとんど攻撃の意図すら感じない。
柴崎のワイド感やスピード感と比べると、
ただ時間を使うという以外の術を持っていない。
はっきりと日本のブレーキはここにあると言わざるを得ない。


先に手を打ったのはコロンビア。
満を持して前回大会得点王ハメス・ロドリゲスの登場。
だが、ケガやコンディションの問題か、
明らかに体が重たそうで精彩を欠いている。
危険なエリアで仕事をさせなければ、脅威にはならないだろう。
実際、コロンビアチームのスピード感をみるみると奪っていく。
しかしやはり名実ともにハメスのチームであることには変わらないから
戦術ハメスになり、コロンビアは徐々に推進力を失ってゆく。
それはまるで我らがケイスケホンダのように機能していた。
一定時間のマッチアップで、
そのフィーリングが確信に変わったタイミングで
香川から本田にスイッチ。
んん、わざわざ相手のペースに合わせなくてもよいのに…
1人少なく疲労している相手には、
一番生きのよい運動量豊富な選手を入れてかき回せば、
絶対嫌なはずだが、その最適任である岡崎が万全ではないのだろう…
もっといえば、こういうシチュエーションで浅野がいれば…
とにかく、これで試合全体のペースは間違いなく落ちる。
ひょっとしたら時間帯的にも、無理に攻めて勝ちにいくのではなく
分けて勝ち点1を確実にという思いが
西野監督に芽生えていたかもしれない。


と、酒井・柴崎・大迫がテンポよいパス回しで相手ゴールに迫る。
大迫の相手を背負ってのキープ力が絶大。
そこで得たCK、大迫が相手DFを飛ばさせずに頭抜けてヘッド。
ちゃんとコースを狙ってのヘッドが隅に決まって追加点!
素晴らしい!!
時間帯的にも実に効果的だったし、
先々の事を考えると、この1点は本当にJAPANを救う1点だった。


ここから日本は明確にキープにシフトするのだが、
柴崎が起き上がれない状況で、本田が不用意なバックパスをし、
それがゴール前まで運ばれて、フリーの選手に渡って大ピンチがあった。
いつもの悪癖である。
ここから本田は、自分の居場所を離れようとせず、
狭いところで長谷部とボールキープする時間が長かった。
時間がない中、相手は強引にでもボールを奪いに来るのだから、
右サイドで溜めるなら、せめてしっかりキープしないといけないのに
何度もボールを奪われ、安定感に欠いた。
疲れていて、しかも1人少ないのだから、
できるだけ広いフィールドでボールを散らしてキープし続ければ、
相手の戦意を欠くことができるのに…
入ったばかりのフレッシュな選手が、
ほとんど居場所を変えずにボールをキープする意味が分からない。
大迫に代えて岡崎で前線の守備が活性化され、
本田のカバーをしているからこそ、
そして何より相手が一人少ないからこそ、
どうにか逃げ切ったというのが実際だった。


というわけで、あっと驚くようなシナリオで幕を開けたゲームは、
W杯で初めてアジア勢が南米チームに勝つという歴史的な試合となった。
しかしゲーム内容自体は決して良くなかったというのは
誰の目にも明らかだろう。
単発の試合なら、結果オーライでちゃんちゃんもいいだろうが、
グループリーグ突破に向けて、
修正・反省課題はしっかりと対策しないといけない。
目先の勝利に一喜一憂しても、それが求めていた結果をもたらすはずがない。
大迫、原口、乾、香川の前線チームは十分効いていたし、
柴崎のワイドな視点が彼らを効果的に機能させていたというのは大きな収穫だろう。
酒井は思いがけない戦力として上がってきたのは大きい。
サイドバックは日本の古くからの課題だったからだ。
守備陣もまずまずの出来だったが、
セットプレー時の役割分担についてはもっとコンセンサスの成熟が必要だろう。
あとは、川島はもう守護神ではないというのがはっきりした。
先々の事を考えれば中村がベストチョイス。
そして消極性とミスが目立った長谷部も、チームの停滞の最大要因だった。
先日のテストマッチを考えれば、山口蛍の方が、
間違いなくチームに躍動感が出る。
あと、途中から入った本田はやはりほとんどチームにプラスをもたらさない。
とりあえずは出場を果たし、スポンサーへの義理も果たしたのだから、
もういいだろう。


それにしても、今回のゲームはまさにハリルのサッカーだった。
今更ながらに、なぜ彼を切ったのかよくわからない。
自分はガンバサポだから、西野イズムはわかっているつもりだが、
全くその影もなく、ただハリルの下準備したサッカーを手堅くやったにすぎない。
それなら何も西野さんでなくとも、誰でもよかったという事になる。
結果オーライ、勝ったから御破算という、
いかにも日本人的日和見主義では文化的歴史的な継続が見込めない。
目先の勝利にごまかされず、それはそれとしてしっかり検証すべきだろう。


時節、相手するセネガルは、相当強い。
ひょっとするとグループ最強かもしれない。
アフリカン特有の伸びやかさやスピード感をフルに生かした
刺すようなカウンター攻撃は実に脅威で、
しかもよく組織化された守備は堅固だ。
タレントを要するポーランドに勝ったのは決してまぐれでも何でもない。
ダラダラとパス回しに明け暮れるようなゲームメークをしたら、
あっという間とどめを刺されてしまう。
しかし、1つ1つのプレーの質は荒く、
後半のスタミナに課題を残しているから、
そこに勝つための糸口を見出すことができるだろう。
しぶとくカウンター攻撃を潰し、前半を耐え、
終盤にギアを上げて、両サイドをワイドに使って攻撃を仕掛ければ
勝てない相手ではない。
時節、勝ち点1でも取ることができたら、
グループリーグ突破はかなり可能性が高い。