記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

なんちゃってキャノンボール② 名古屋〜静岡

さあ名古屋までは来ました。
ここで選択肢は2つ、ここで満足しておとなしく新幹線で帰るか、
あるいは夜通しライドの覚悟を決めるか。
体力的には寒さと風と疲労で厳しい状態ではあるが、体調的には安定している。
ここまできたら乗りかかった船なので先へ進むことを選択する。
しかし、すでに標識にこれから進むべき地名が登場するのだが、
ここまで180km走ってきて、しれっと、豊橋まで65km、静岡まで180kmとか出されるのを見ると
果てしなすぎて絶望するしかない。


熱田神宮を通過し、しばらくいくと名古屋高速とぶつかるところで、
R1が高架へもぐりこみながら右折している。
ただっ広い交差点でどうにか右折レーンに入って無事に合流する。
バス道のようで路線バスと格闘しながら高架下を進む。
3kmほどで高速とサヨウナラをし、すぐに天白川を渡る。
交通量はさすがに都心部なので常に多く気が抜けない。
名二環を抜けると少し丘越え。
中京競馬場を抜けたところにあるファミマで一旦休憩。
そろそろ寝る時間なのでその前に奥さんと娘にTEL入れるついでに甘いものと缶コーヒー補給。
リスタート後は寒さがいっそう厳しくなる。風は相変わらず強めで難儀。
豊明でいつぞやのR23が急接近してまた南へと離れて行く。
R23走れたらなんぼかショートカットできるのになあ。
R1はここからものすごくつまらない区間。ひたずらずどーんと直線の片側2車線の大通り。
交通量は多いし、超大型トレーラーやらダンプやら観光バスやらデカめのラインナップで
路肩広しといえど身がすくむ。
逢妻大橋を渡り知立安城と通過していく。
夜も22時を越えているというのに交通量は減る予感もないが、といって迂回路もなく、
ひたすらR1特攻。せめて風がやんでくれたら楽なのに。
矢作川はチャリは旧道を行けと標識にあったのでそちらへエスケープし、すぐに再合流。
岡崎で少し街が賑わう感じになるがスルー。
市街地を抜け、ほたる橋で乙川を渡ると一気に閑散とした山里に入る。
山間に突入して街の明かりも極端に減って周囲が暗くなり、余計に寒く寂しく感じる。
名古屋市街を出てから随分走ってきたが豊橋が遠いなあ。
左手から徐々に東名高速のネオンが近づいてくるころになると、
本宿(新箱根)の緩やかな上りで丘越えが発生する。
体が冷えているので、ここは暖をとるためえっほえっほとペースアップ。


で、名電本宿駅前を通過中、前方に若いローディーを発見。
こんな時間まで走っているとは愛知の人もがんばっとるなあと、
軽く挨拶をしてパスする。
そのままペースを上げて先を急ごうとした矢先に、
後ろからそのローディーに声をかけられる。
「すみません!この辺で泊まれそうな宿知りませんかぁ?」と。
これで相手がロングライド中ということはわかった。
でもあいにく自分も地元じゃないので宿はわからない。
「自分大阪から走ってきてるので、この辺のことはちょっとわからんすわ」と答えると、
「えええ!大阪ですか!?僕も今日朝大阪から来ました!一緒ですね!」
と目を輝かせながら言ってきた。
まさかキャノボ中なのかと思ってよくよく話を聞いてみると
朝9時に出発をして2,3日かけて東京を目指しているようで、
とにかくR1をトレースしてればどうにかつくだろうという思いつきで走ってきているらしい。
しかもロードを初めてまだ2カ月だという。
無茶と言うか、若いというか、まあ元気があってよろしい。
とりあえずこんな山中に宿など期待できそうにないので、
この峠を越えて15km先の豊橋に出れば、新幹線も止まる街だし、
東横やらスーパーやら何かしらホテルはあるだろう。
大阪から遠く200km離れた地で、同じく東京を目指して走るローディに遭遇するなんて
めったにあるもんじゃない。
これも何かの縁だし、とりあえず豊橋まで曳いてやることにする。
相手の力量は全く未知数。でも一人旅は自己責任が鉄則なので、
ビギナーといえど別にペースを合わせることもなかろう。
自分のペースで残りの上りをやっつけ、そこから長い長い下り。
信号待ちで少し話をするのだが、他のローディーと走ったことがないらしく、
一緒に走るのが新鮮で楽しいらしい。
それにしてもである。なぜにこの寒空で半袖!見てるこっちが寒いわ!
そして肩越しには、よく街乗りがやっているようにロックキーをどかっと背負ってるし、
何気にハンドルから角が伸びてると思ったら、リアにはスタンドがついてるし、
一体どっから突っ込みいれたらええねん!
なかなかおもろい奴です。
学生さんと聞いていたので、豊橋でお別れする前に飯でもおごってやろうと、
豊川手前のすき家にINN。
そこで初めて自己紹介。
この若者、名はドルクス(カブトムシの種類名らしい)君とって、
愛媛出身、大阪在住の専門学校生。
友人にローディーがいて、それに触発されてバイト代を稼いで2か月前にCAAD8を購入したところ。
東京でライブがあって、それに間に合うように2,3日かけて東京を目指しているそうな。
やってることは無鉄砲すぎるが、それはそれでおっちゃんも嫌いではない。
飯を食いながら色々話をしていると、いきなり
「本当は2,3日かけて行こうともってましたが、話を聞いてたら、
自分もこのまま東京を目指したくなりました。arkibitoさんについて行ってもいいですか!」
と来た。
ああ、また馬鹿を増やしてしまったよ。
単なる子守はごめんだが、夜中1人で走るのも正直ツライものがある。
お互い邪魔しないということを条件に、ひとまず静岡まではともに走ることにする。


↓本宿の上りでドルクス君をピックアップ


リスタートしてすぐに吉田大橋で豊川を渡る。
西八町でR1は豊橋市街地を迂回して左手に回り込んでいるので左折。
わずかですが豊橋鉄道の路面軌道と並走します。
4kmほど進んだところで、避けては通れないマスト中継点である聖地、
「二川キャノンボール」に到着。1:00.
おお、これがキャノボかあとちょっと感慨深い。
隣にいるドルクス君は、単なるボーリング場にワアキャア言っているのに
完全にクエッションマーク。そりゃそうですな。
しばし撮影をしてからリスタートします。


↓聖地キャノンボール


キャノボを通過後、相変わらずの交通量を避けて迂回路を選択します。
JR線をまたぐ直前の岩屋下左折し、県道3号へと入る。
多少アップダウンがあるものの、交通量はぐっと減る。
色々と話しながら夜闇をランデブーしていきます。
新所原でJRをまたぐ手前で、いよいよ静岡県突入。
ここから果てしのない静岡領土の始まりです。
軽く丘を越えて鷲津でR301にぶつかり右折。
緩い下りで新居町まで進み、そこでR1に復帰。
なんとなく潮の香りが漂ってくる中、西浜名橋を渡って弁天島に上陸。
左手には淡水の浜名湖、右は海水の遠州灘という場所だが、
どっちを見ても漆黒の闇でなんのこっちゃ。
弁天島には真っ赤な鳥居が湖の真ん中に立っているはずだが、それもわからない。
明るいうちに来れたらさぞがしよかったろうが仕方がない。
当然うなぎ屋も開いているわけもなく、駅の写真だけ撮ってすぐにリスタート。
ここまで約45km。半袖のドルクス君もまだまだ元気。


弁天島浜名湖は闇の中


舞阪に入ってすぐの新町でR1を外れて旧東海道(県道49号・316号)に入る。
さすがにフラットで走りやすいが、風がそこそこあるのが難儀。
そのまま直線的に県道316号で東進して天竜川にぶつかった時点で
土手道を北上という予定だったが、
道はそのままR257に吸収されてしまい、軽く道をロストする。
といっても進行方向は間違っているわけではなく、道の確認やルート復帰も面倒なので
そのままR257で浜松駅を目指すことにする。
新幹線・在来線を連続でくぐり、R257・R152がぶつかる連尺という交差点で右折。
浜松駅には寄らずに、酔っ払いの多い第一通りを東進する。
幅広の大通りを進んで、子安でR152を離脱。直進して生活道の県道312号に入る。
交通量の全くない細い道をズンズン進んでいくと、R1の浜松バイパスが見え、その下をくぐる。
くぐった先で、この県道はR1の側道のような形で並走し、しばらくして天竜川にぶつかる。
時刻は3:00。写真を撮るために一旦停止。


天竜


天竜川を渡り、R1の旧道を進みます。さすがに冷え込みが厳しくなってくるし、
おまけに睡魔が容赦なく押し寄せてきて、走りにキレがなくなってくる。
まるで琵琶湖畔のように、単調な平坦がずーっと続いているというのも、
眠気にいっそう拍車をかける。
ドルクス君もあくびの回数が多くなってきているようで、
これはどこか一服が必要かもしれない。
磐田の市街地をかすめながらひたすら東進し、三ヶ野ICのところで袋井BPに合流。
太田川を渡るのにちょっと道を間違える。集中力が落ちてきてる証拠。
すぐに橋を発見しルート復帰して県道413号でひたすら東進。
袋井市街地に入り、どこかいい休憩スポットがないかと探しながら進む。
この先静岡市に入るまでに、小夜の中山・宇津ノ木峠と2つの峠越えが発生するので、
休憩を入れるならその前に一回入れておかないともたない。
豊橋で補給して以来60km何も食べてないし、できれば仮眠をとりたい。
と、川井の交差点のはるか遠くにマクドのネオンを発見。
24時間OPENなら、温かい室内で休憩ができると踏み、バイパス方面へ寄り道する。
予定している通過時間よりも少し早いので20分ほど休憩タイムにする。
マクドに入って、とりあえずハンバーガーとあったかいコーヒーを注文。
とにかく腹に何か詰める。
ドルクス君も眠気と疲労が来ているようなので飯食ったらとにかく寝ろというと、
石のように微動だにせずに眠りはじめた。
自分はあまりに冷たい空気がずっと肺の中に吹き込んできたせいで軽く発作気味。
そのせいで眠気はMAXなのだが、寝付けそうにないので
自分はこの先のルーティングで地図とひたすらにらめっこ。
寝れずとも休めと思って、きっかり5分間、目をつぶって体を休める。
4:15となったので爆睡中のドルクス君をたたき起しリスタート。
一歩店の外に出るとありえないくらい寒い。4℃どか死ぬって。
ドルクス君はここでようやく持ていた上着を着る。最初から着ればよかったんぢゃね?(笑)
R1袋井バイパスの側道をそのままトレースしながら東へ。
逆川を渡り、沢田ICのところでR1をまたいで本当はR1旧道に入るつもりが、
間違って県道253号に入ってしまい、軽く方向感覚が鈍ったため、掛川の手前で若干迷走…
どうにかR1旧道に復帰し、掛川市街地をかすめながら東進。
17時ごろに八坂ICに到達。ここから小夜の中山まで5km弱の上りです。
ドルクス君が上りは苦手と言っていたので、ペースを加減しながら上ります。
日坂の辺りまでは斜度もゆるいのだが、
一旦離れたBPが接近してくるあたりからぐいっと斜度が上がる。
寒いので汗をかかない程度のペースで温まりながら上っていく。
ドルクス君も泣きごとを言わずに黙々とダンシングで上がっていく。
これは苦手といってもそこそこ行けるんじゃないのかと思って、
様子見で徐々にペースを上げる。
集落が終わって、完全に山中に入り周囲は真っ暗のなか、えっほえっほと上っていく。
ちょっとペースが速かったのか、徐々にドルクス君が後退してきたので、
ペースを落として待ち、5:30に小夜の中山トンネルをついに落とす。
やはりドルクス君上りは苦手のようだが、
ペースを上げても決して弱音は吐かなかったのはえらい。


↓小夜の中山


トンネルでてっきりピークだと思ってたのだが、
そこを抜けて小さな集落へ軽く下ると、再び2kmほどの鈍い上りのおかわり。
ちょっと予定していなかったので、萎える。
ピークのあたりでようやく東の空が白み始めて、
寒かった夜がフィナーレを迎えようとしている。
ああ、嬉しい!
山の上からいよいよ金谷方面へと下るのだが、
こちら側はクネクネとタイトなカーブが連続するテクニカルなダウンヒル
ドルクス君には無理にスピードを上げて突っ込まないように注意しておく。
途中で見晴らしの良い個所があり、眼下には大井川の流れと、藤枝の街並みが見渡せる。
ちょっと停止してパチリ。
寒い寒いダウンヒルをどうにか我慢して無事に金谷に下りきる。
反対方向から朝練だろうかローディーが一人走ってきたので元気に挨拶。
しばらく進むと大井川に到達。時刻は6時。


↓藤枝の朝


↓大井川


長い長い大井川橋を渡り、県道381号を東へ。
島田市役所のところでR1旧道と合流する。
JR線が右手から近いづいてきて並走する区間で、
東の空を見るとちょうど民家と民家の間から真っ赤な朝日が顔をのぞかせる。
思わずおおっと声を上げる2人。
ずぐずしてるとあっという間に上りきってしまうので
慌てて近くで少し広くなっているところでパチリ。
朝だ!朝だ!


↓日の出


そのままR1を東へ。藤枝の市街地を突き抜ける。
袋井のマクドで食べてからまだ40kmしか走っていないが、
さっきの峠越えで思わず体力を使ったのもあって、ちょっとお腹も減り、
水守の交差点のところにあるセブレで朝ごはん。
ドルクス君も周囲が明るくなったこともあって元気を取り戻している様子。
一晩よく頑張った!
さてしばしの休息後、もう1つの上りに向けてリスタートする。
そのままR1を進んでいくと、前方に小高い山が連なっている。
内谷新田で藤枝BPをくぐり、岡部宿の間を抜けて行く。
右からR1と接近してくるあたりから徐々に斜度が上がっていくが、
距離は大したことがなく、あっという間に宇津ノ木峠に到達です。
ジャスト7:30。


↓宇津ノ木峠


峠はトンネルになっており、そこをしゃっと抜けます。
1つ大きなヘアピンをグルンと通過して、道の駅のところでR1本線と合流。
すでに交通量はそこそこあるが、道幅が広く路肩もそこそこ。
緩い下りを丸子ICまでペースを上げつつ慎重に下っていく。
静清BPと別れて右折し、R1東海道に入る。
しばらく進むと馬鹿でかい安部川が現れる。
駿河大橋を上ると、いきなり前面に富士山バ〜ン!
おお、フジヤマ〜とテンション最高潮です。見事な日本晴れでまさに言うことなし。
渡りきって写真を撮ろうとポイントを探すが、
静岡国道事務所の無駄にでかい塔のオブジェが邪魔過ぎてうまく撮れない。
行ったり戻ったりしながら写真を撮る。


↓富士山登場!


安部川を渡ると完全な都会になり、交通量もぐっと増えるなか、慎重にR1を進み、
8時すぎに無事に静岡駅に到着。やっと静岡!やっとだ!やっと!
とにかく天竜川以東の区間は、寒い・眠い・ツライの三重苦。
テンションが切れないように集中集中で走り続けていし、
周囲は真っ暗闇ということもあって、なかなかどうして記憶がおぼろげです。
ドルクス君も眠気・寒気でたぶん限界MAXだったでしょうが、
弱音も吐かずよく走りぬけました。えらい!


↓ドルクス君ガンバッ!


さてさて、静岡には到着しましたが、
ここからゴール地点まではまだ180kmの道程が残されています。
その間にはラスボスの箱根越も待ちうける。まだまだ予断は許しません。
とはいえ、極寒の静岡を夜通し走りぬけてきたわけですから、
もうDNFの線は完全に消えました。ここまで来て走りきらないわけにゃいかんです。
ただ、当初の約束通りドルクス君とはここでお別れすることにします。
一晩2人で走り続けて互いの信頼感や仲間意識は芽生えました。
そしてまた彼も自分と同じ目的地に向かって走っているわけですから、
このまま残りも一緒に走れば、自分も話し相手がいて楽しいし、
彼も楽に東京にたどりつけるでしょう。
でも、それが本当にお互いにとっていいことなのかと、一晩ずっと考え、
やはり夜が明けた今、ちょうどキリのよいこの静岡駅で別れるのがいいという結論に至る。
一番の理由は、彼の楽しみを奪っているのではないかということ。
せっかく彼は若さに任せて、勢いR1オンリーで東京を目指すという大冒険に出たわけである。
自分が終始前を曳き、ルートを選択して、その後ろをただトレースするだけというのは
彼のチャレンジに水を差すことではないのか。
ああでもない、こうでもないと試行錯誤の上、自力でルートを切り開いて、
眠気や苦しさ、孤独と格闘して、東京を目指す方が、楽ではないが楽しいに決まっている。
一緒に走った区間は、夜だったし、あそこは回避すべきBPも多いので、
ビギナーさんを置き去りにはできなかった。
だからビギナーズラックでお助けを買って出たが、これ以上のお助けは野暮というものであろう。
それから自分自身のコンディションの問題もある。
ドルクス君は人懐こく、一緒にいて楽しいが、
意識的にとまではいかずとも、やはり相手がいるとそれなりに気を使う。
ペースもそうだし、例えば手信号を出したり、信号のタイミングを見極めたり、
ほんのわずかづつでも気を使うことが、これだけ長時間稼働しているとどうしても負荷になる。
そして2つ上りをこなしてきたが、無理はしてはいけないと思いつつ、
相手がいるとどうしても調子に乗ってアタック気味なペースアップとかしちゃう自分がいた。
コンディションが決してよくない状態、爆弾を抱えた状態で、
そういう環境で走り続けるのは自分にとっても多少なりともリスクがある。
ましてここから先、箱根越えという難所も控えている。
それに彼はスケジュール的に全然余裕でも、自分は最終の新幹線までに間に合わねばならない。
そういう諸々の判断で、お別れをすることにしました。
とりあえず彼はこの先のルートを知らないので、注意点を細かくレクチャーし、
互いの健闘を祈って、彼を見送る。
ドルクス、がんばれ、自分ならきっとやれる!


↓静岡到着


さて、ドルクス君を見送って、自分は駅の反対側へ行って少し休憩。
いよいよここからが本番。
ラスト、箱根を抜けて日本橋を目指す過酷なライドへと走りだします。
仲間の熱い熱いエールを一身に浴びながら。


つづく…