記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

初春の蝶が岳 2日目

う〜う〜と寝苦しさでハタっと目覚めると、時刻はすでに3時を少し過ぎている。
うそ?もう朝?
しまった!寝過ごした!小窓からは薄らと光が出始めている。
せっかく、満天の星空を撮影しようと三脚まで背負って来たのに…ガッデム。
幸いにして今回は高山病の気配はなかったけど
長塀尾根登りは今の自分の体力不足の体には堪えたし、
そのあとも蝶槍まで行ったり来たりしてがっつり疲れてしまったんだろうなあ。
まあ言うても時間は元に戻らないし、それよりも早く支度をしなければ、
ご来光に間に合わない!
慌てて完全防寒体勢の厚着をして、カメラ等の準備。
そうしてまだシーンと寝静まっている寝床を抜けて、外へ。
うぃ〜寒い〜。風は珍しくほとんどなく凪いだ状態だが、
キ〜ンと張りつめた空気で一気に目が覚める。
足元を見ると、なにやらガラスをぶちまけたようにジャラジャラと輝いている。
しゃがんで見てみると、ビッシリと霜が降りて、美しい造形。


↓朝霜


小屋からすぐの瞑想の丘に行き、そこでせっかくなので三脚を立てて撮影を開始。
まだ、朝日はずーっと東にある厚い雲の中に隠れているようで、
そこからジワジワと黒から紺、紺から青、そして鈍いオレンジの光に染まっていく。
反対側に向き直ると、まだ夜に包まれた槍・穂高がぽっかりと闇に浮かんでいて、
いつもなら飛騨側からすさまじい塊で雲がのっそりと鞍部からあふれ出していくのだが、
この日は全く雲がなく、晴れ晴れとした出で立ち。
どちら側を見てもとにかく息をのむ素晴らしさである。
その両側の絶景のちょうど真ん中に自分が陣取っているのだと思うとただただ感無量。
ひたすらアングルを変えながら、
朝が進んでいくと同時に刻一刻と変化していく山々や空を撮影していく。
何度見ても、何度撮っても、全く飽きることがない。
いつの間にか寒さにも慣れ、むしろこのキビキビとした冷たい空気こそが、
神聖な朝の儀式を迎えるにあたって最もふさわしい雰囲気だと思うのである。
そうして、最初はゆっくりと雲間から、半熟の状態のオレンジの珠がこぼれだし、
その光はみるみるとスピードを上げて世界に光を解き放つ。
そして今日もまた新しい朝がやってきた!


↓朝焼けショーの幕開け


↓生まれました


そこから朝は加速度を増して、世界を闇から解放していく。
翻って、槍・穂高の方を眺めれば、残雪の白き衣がみるみると焼けていく。
ああああああああ、ただただ美しい。
言葉も出ずに、ただ思いのままに、無意識のうちにシャッターを押していく。
山に来てよかったお心から思える瞬間である。


↓モルゲンロート


↓大キレット


↓焼ける北アルプス


ひとしきり朝日に焼けた槍・穂高であるが、
陽が昇りきるにつれてその萌える紅色は落ち着きを取り戻し、
再び白き衣を纏って荘厳な山容を見せ始める。
こちらも少し興奮を抑えながら、別の方角へと目を転じる。
雲海の合間から見える安曇野の緑の絨毯の向こう側には美ヶ原と、その奥に八ヶ岳の連峰。
そこから徐々に視界を右へとスライドさせていくと、
まず、はるか遠くに薄らと、美しいシルエットを見せている独立峰が確認できる。
あれは見紛うことなく、富士山である!
そうしてその手前から甲斐駒〜仙丈ヶ岳〜白根三山と続く南アルプスの山塊、
そこから横へとスライドして中央アルプスの木曽駒、
さらに並び立てるように御嶽山乗鞍岳、焼岳と、見える山は全て勢ぞろいしたようである。
そうして、追い立てられるようにして西の空に輝く満月が1点のアクセントとして輝いていた。


↓うっすらと富士山


↓左から、御嶽山乗鞍岳、焼岳


↓記念撮影


気付けば2時間ほど、たっぷりと朝焼けショーを楽しみ、
ひとしきり満足をしたら小屋へ戻る。
正気を取り戻すと、びっしりと冷えた体がたまらず、
ロビーのストーブで氷解する。
ある程度暖まったら、寝床へ戻り、荷造りを済まし、
再びロビーで簡単な朝食を摂る。
いつも朝食や弁当付にするのだが、
食べるタイミングが合わずに無駄になることが多いので、この日は朝食は自炊。
といっても、今日は下るだけなのでそれほど必要ないかと思い、
フルーツ缶詰と、ホットコーヒーだけで済ます。
食べれない状態というわけじゃなかったのだが、
後になって案の定ハンガーになってちゃんと食べとけばよかったなと
後悔するのであった。
最終荷物を点検して、小屋の方にお礼を言って出発です。


↓朝食はフルーツ缶詰とコーヒー


↓いざ出発で絶景とお別れ


小屋を出ると、もうすでに空は夏の陽気と見紛うくらいに明るく、
青空が一面に広がっている。
風はそよそよと撫でる程度で、ほとんど無風と行ってもいいくらいに穏やか。
これほどカンペキな空模様なのに、
今から下山をしようとしているのが何とも歯がゆい。
このまま常念岳まで稜線を縦走していけたら…
と、一応頭の中であれこれシミュレーションするのだが、
どう頑張ったって、19時に帰宅するのは無理。
残念無念である。
ただっ広い蝶ヶ岳の二重稜線をテンポよく快調に進んでいきます。
先に出発された方々を根こそぎパスして、蝶槍まで少し寄り道。
ここから見える常念岳の素晴らしい山容が、
おいでおいでと手招きしているように思えるのだが、今日はここまで。
先ほどパスをして追いついてきた方と少しお話をして、
お決まりの三本槍ポーズを撮っていただく。
常念まで縦走されるということでなんともウラヤマシイ!
後ろ髪をひかれながら、蝶槍の突先を下って、横尾分岐まで戻ってきたのが7:00。
いよいよ下山開始です。


↓蝶槍にて、三本槍


↓槍!


急な斜面をガガガッと下ってしばらくすると、登山道は樹林帯にもぐりこみます。
そしてすぐに、一面雪のじゅうたんとなってきました。
まだ朝の時間帯は雪がガッチガチに締まっていて、素足ではかなり滑る。
長塀尾根のだらだらした斜面とは違って、ここは斜度がかなり急なので、
さすがに無理だと判断をして、軽アイゼンを装着し、ストックも使用していきます。


↓締まった雪の斜面


↓アイゼン装着


下り始めは結構トレースがしっかりしていて、そこを慎重に踏んでいくのだが、
夏道が大きく蛇行をしているようなところは、
トレースもめちゃくちゃで、よくわからない。
まあ、わざわざ大きく蛇行する必要もないしと、
ドカンドカンと最短距離で森を突っ切っていく。
なかなか勾配が急なうえに、軽アイゼンなので、斜面と水平方向に足の裏を置くので、
かなり前傾姿勢でペースが上がる。
下っているのか、滑っているのかという感覚でずんずん下っていると、
下の方からかなり軽装の男の方(ザックなしでTシャツ!アイゼンもストックもちろんなし!)が、
ズンズンと上ってきたのでご挨拶。
と、その方が、「ここは正規のルートではないのでもっと左側に向かってください。
しばらくしたらテープありますんで」と教えてくれました。
よく見ると、蝶ヶ岳ヒュッテのスタッフさんでした。
朝イチで横尾に用事があってその帰りのようです。
礼を言って、教えてもらった方へとずんずんとトラバースをすると、
正規の道に出ることができました。
しばらく下っていくと第3ベンチという看板があるところに到達。
標高2000m付近まで下ってきたことになります。
そこから、雪はみるみると減っていき、雪面と地面むき出し部分がmixされてきます。
とはいえ、ところどころまだ大きな雪渓を通過する部分が出てくるので
アイゼンは外さずにしばらく進んでいきます。
すると、下からソロハイカーさんが上がってきたので、ご挨拶をして
下の雪の具合を聞くと、もうほとんどないよということだったので、
ここでアイゼンを外します。
お相手の方には、逆にここから結構雪深いので気を付けてとお声掛け。
そこからはゴツゴツとした岩が転がった夏道を転がるように下っていきます。
ウェアは朝イチの状態で、全身がオーバーヒートするので、
途中でウェアを夏仕様にチェンジ。とにかく暑いのよ。
暑さから解放されて、ピッチを上げていきます。
そうして8時を少し回ったところで、なんちゃって槍見台に到着。
ここが”なんちゃって”というのは、正式な槍見台がもう少し下にあるのだが、
正式なところよりここからの方が、槍がよく見えるのだ。


↓なんちゃって槍見台


そこからさらに、夏道を下っていきます。
このルートもほとんど眺望はなく、うっそうとした森の中を進んでいくので、
ひたすら詰めるしかない。下りも足に響くのでしんどいが、
ここは上りも結構大変。
途中から、その森のはるか上空でバタバタと騒がしくなってくる。
どうもヘリが飛んでいるようなのだが、
まだ8時とか朝早く、しかも出立でいろいろ忙しい時間帯に補給運搬は考えづらいから
どこかでまた、遭難レスキューが出ているのだろうか。心配である。
さて、道は徐々に右手の沢と合流するような形となり、
水勢の音がどこからともなく聞こえてくる。
下から上ってくる登山客の数も多くなってきた。
しかしこの辺りからハンガー気味の状態で、
フラッフラになりながらとりあえず横尾までは我慢だと言い聞かせて、歩みを進める。
そうして9:00ジャストに横尾に到着。ふぃ〜。ちゃんと食っときゃよかった。
横尾山荘は6月末までリニューアル工事中で宿泊・食事はできないよようだったが、
売店は開いていたのでCCレモンを購入し、手持ちのレーションで補給。
休憩をしながら、帰りのバスに向けてシミュレーションです。
この横尾から上高地BTまでは約12km。
ただ今の時刻は9:15。
ちょっと無茶だけど10:40のバスにトライしてみる?
と、決めてリスタート。


↓横尾


横尾からの道はまだ全然人もまばら。
淡々とストイックに歩みを進めていく。
かなりいいペースで歩いて徳沢着が10:00。
徳沢園に飛び込んで、取り急ぎ奥さんへのおみやに恒例のご当地手拭いゲット。
すぐにリスタートするが、ここからBTまで40分切れるのか?
もう脚がパンクしそうなくらい疲労しているが、
ペースを落とさずにずんずん進む。
最近運動不足だし、こういうところで強度上げていかないとと言い聞かせて、
自分でも明らかなオーバーペースで進んでいく
そうして明神館を通過したのが10:30…
いやいや、さすがに無理だわ@@@


↓明神館


ここまで必死で歩き詰めてきたが、
小梨平のキャンプ場手前で10:40を迎えてしまい、
そこから一気に気が抜けて急減速。
上高地BTに到着したのは11:00。
最終的に横尾から2時間を切ったが、やはり無茶なトライでしたワ。
次のバスは11:30と少し時間があるので、
バスの整理券をゲットしたら、お急ぎでお土産タイム。
とはいえ、今度は時間ではなくお財布の方に問題が…
こんな山の中でカードは使えないので、現金を数えるのだが、例によってヤヴァイ。
といいながらも、気になる地酒と娘へのおみや、
それから職場への土産をゲット。
そして最後に、飛ばしてきてお腹ペコペコなので、カップの山賊焼きを購入。
そうして11:30に新島々へ向けてバスが出発。
北アの山々にお別れです。また来るぜよ〜。


河童橋


上高地BT


カップ山賊焼


11:30、そこそこ満員の状態でバスは出発。釜トンネルあたりまでは意識があったが、
そこからお疲れさんでZZZ…
到着ぎりぎりで飛び起きて、12:35新島々着。
ここまで下ってくると相当厚い。季節を一気に駆け抜けて夏モード。
12:52の松本行の電車に乗り換え、あまりのポカポカ陽気にまたもZZZ…


松本電鉄


13:21松本駅に到着し、すぐに帰りの特急の手配。
昼飯がまだだったので、手持ち少ない分で、鶏飯とビールを購入で残金は35円…
毎度ながらスリリングな買い物プレイだぜ!
13:52ワイドビューしなのに乗り込み、取り急ぎ祝杯。
自分の後ろでどっかのツアーの添乗員が、
何かの手配なのか大声で携帯で通話していてうるさくてあまり眠れず。


↓祝杯


16:03名古屋着。なんじゃこらというくらいムシムシ暑い。
乗り換えの時間があまりなくて、すぐにホームを移動して16:11ひかり出発。
17:05に新大阪に到着して、そのまま大阪駅
残金がないので自宅まで歩いて帰って17:45帰宅。無事に行事に間に合いました。


↓おみや


バタバタと慌ただしくお邪魔した北アであったが、
絶景に、雪原に最高の山行で、
また夏に向けて十分すぎるトライアルでした。