記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

孤高の地・浜坂で孤高に出会う旅 〜加藤文太郎と山野井泰史〜

日曜日。
本当は家族で稲刈りに予定をしていたのだが、
御承知の通り台風目前ということで数日前に早々にキャンセル。
当然、こんな状況でお山になんか登れないし、どうしたものかと思っていたが、
常に張っているアンテナにビビビっと来ました!
なんとなんと、あのソロクライマーの山野井さんが、
今年最初で最後の講演会のため兵庫県に来られるとのこと。
(後でご本人も言っていたが、今年唯一のお仕事だったらしい)
一昨年だったか、大阪に来られた時は残念ながら行けなかったので
これはもう渡りに船で、喜び勇んで駆けつけます。


9:10発の特急こうのとりに飛び乗り、一路北上。
車内ではこの日の番から明日の朝にかけて
列車の運休やダイヤの縮小などについてのアナウンスがしきりに。
だんだんと分厚い雲に覆われていく車窓に
今日中に帰れるのかちょっと不安。
とりあえずなんとか帰りの電車までもってくれい!
そうして11:52に城崎温泉に到着し、
すぐに向かいの古めかしい鳥取行きにスイッチする。
そこから山陰ジオパークの鈍行列車の旅を経て、13時前にたどり着いたのが、
兵庫県の最果ての地、浜坂です。
ここに来たのは5年ぶりくらいかな。


↓浜坂


浜坂といえば、”孤高の人”で有名な登山家・加藤文太郎が生まれ育った町。
文太郎さんについてはすでにこのブログでも何度か紹介しているので詳細は省きますが、
日本山岳界の黎明期の伝説的なクライマーで、
当時は地元のガイド付きでないと登れなかったアルプスの山々を、
次々と単独行で落として行った無敵の登山家と呼ばれた人です。
今回の後援会は、地元の名士・加藤文太郎を記念した図書館の開館20周年の記念講演で、
それにふさわしい登山家といえば、
やはり山野井さんをおいて他にいないということだったのだろうと思います。
2人の孤高が浜坂の地で交わる。なんとも素晴らしいですね。


講演会の開始は13:30からで、あと20分ほど時間があるので、
大急ぎでまずは加藤文太郎さんのお墓に向かいます。
しかも地図も何も持っていないまま飛び出したので、町中で少し迷います。
この時間帯は少し雨脚が強く、その中を小走りで移動し、ようやく見つけましたが、
墓地が広すぎてどれがどれやらかなり彷徨いました。
思った以上に時間を食って、会場となる記念図書館に到着したのは10分前でした。
開場は図書館の視聴覚室で、50人も入ればいっぱいいっぱいの小さなスペースに
ほとんどは地元の方々を中心に、
数人は自分のように大阪・神戸から駆けつけた人たちで満員でした。


加藤文太郎の墓へ


加藤文太郎記念図書館


↓開館20周年記念講演


時間通りに講演会がスタート。
司会の方から紹介があるまでは、なかなか緊張の面持ちの山野井さんであったが、
パワポで写真のスライドを見ながら、
山を語りだすとものすごく生き生きとした話しぶりでものすごく楽しい時間でした。
あこがれのクライマーであるということも当然ありますが、
話の内容に深く感銘を受けることばかりでした。
山の高さや、知名度などに固執することなく、
純粋に自分が登りたい山、挑みたい壁にだけ挑戦するという
きちんと自分の物差しをしっかり持ていらっしゃるところはさすがだなあと思います。
あえてソロで挑むということ=孤独であることの楽しさだったり、
孤独であることによってのみ味わうことのできる感覚を大切にされているところ、
この辺りは、文太郎さんと重なる部分も多いと感じました。
あとは、山野井さん夫婦を一躍有名にすることになったギャチュンカンでの遭難の話。
聞いているだけでも卒倒しそうな、凍傷の痛〜い話とか
数年前に自宅の近くでクマに襲われて、顔面を噛まれて鼻がほとんどもげかかった話とかを
まるで笑い話のように語られるところは、やっぱり大分ヘンタイなんだろうなあと。(笑)
それから今年の9月に、10日間かけて上高地から日本海までを縦走された話は、
上高地槍ヶ岳裏銀座立山〜水平歩道〜白馬岳〜栂海新道〜親不知)
区間によっては自分も実際歩いたところもあってイメージしやすく面白かったです。
ザックの重みと縦走の疲れで、水晶岳で生まれて初めて他の登山客に、
「山頂はあとどのくらいでしょうか〜」と聞いてしまい、
その後みんなの声援を受けて登頂して、登山家として情けないなあ〜とか。
真砂沢ロッジで主人から夕ご飯をおごってもらったのはいいが、
その後そこから先の小屋に連絡が流れて、行く小屋行く小屋やで夕食が用意されて、
これで本当に単独行と呼んでいいのかなあ〜でもご飯美味しかったなあ〜とか
ユーモアたっぷりに語られて、
今までとても気難しくてストイックな方というイメージだったのが
とても愛らしい山好きの49歳なんだなあと。


2時間の後援会はあっという間に終了。
どの話も示唆に富んで、山野井さんの飾らない語り口調もあって
本当にあっという間でした。
終了後は受付のところでサイン会。
自分は家から著書の単行本を持ってきていたのだけど、
せっかく販売されているので少しでも足しになればと購入して並びます。
大阪駅で慌てて買った赤福の差し入れをして、少しお話。
せっかくだからと、持ってきた本にも購入した本にもサインをしていただきました。
そうして、写真撮影にも応じていただき、
本当に丁寧に対応していただいて本当に感無量でした。


↓あこがれの山野井さんと念願の2ショット!


↓サインいただきました


本当はもっとゆっくりしていたかったのだけど、
今後の台風の動き次第では大阪まで帰れなくなっては大変なので、
名残惜しいが会場を後にし、大急ぎで駅に向かいます。
浜坂ももっとのんびり見て、海の方でうまいもんも食べたかったなあ…
浜坂駅で次の電車を確認していると、
この日は臨時快速「ジオパーク号」が15:34にある。
台風などの豪雨では、往路に使った豊岡や福知山の周辺はよく水没しているし、
いつ電車が止まるか不安要素が多い。
それならば、とりあえず山陰から山陽へ出ればあとは何とか帰れるだろうから、
鳥取周りでスーパーはくとを使って姫路経由の方がリスクが少ないのでは?と考え、
その臨時快速に乗る。


ジオパーク


但馬海岸から浦富海岸の素晴らしい海岸線をギーコギーコとローカル線がゆきます。
たまにはこんな錆びれた風景にどっぷり浸るのもオツなものです。
日本海はもっと大荒れかと思ったが、意外と波は高くない。
あれだけ降っていた雨も時間を追うごとに止んできた。
そうして16:09に鳥取駅に到着。
一番早いスーパーはくとは16:54発で少し時間がある。ならば!
お急ぎでチケットを手配し、そこからダッシュでとあるお目当てのお店へ行きます。


日本海


駅舎を出てメインストリートを疾走して5分。
「喫茶べにや」さんにやってきました。
ここのチキンカツカレーは鳥取へ来る時に必ず食べて帰ることにしているほど、
自分の3本の指に入るカレーなのです。
といっても特別な特徴のあるカレーでもないのだけど、
このルーの濃さやねっとりした舌触りに
コクとほのかな甘さが味わえるこの欧風カレーが好きなんだなあ。


鳥取の常店べにやさんへ


↓大好物のチキンカツカレー(800円)


大急ぎでカレーを平らげて、駅へととんぼ返り。
少し時間があったので駅下の土産物屋さんでおみやげを購入し、
16:54のスーパーはくとに乗り込む。
最近は新幹線以外にも特急を利用することが増えたが、
車窓から昔自転車で走った道を見ながら、ロングの思い出に浸れるのもええですなあ。
電車は特に台風の影響を受けることなく、無事に19:31に大阪駅に到着。
なかなかの弾丸日帰り旅であったが、充実の一日であった。