記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

ヤリホ〜 3日目 あこがれの突先+3000m稜線歩き

さて、いよいよあこがれの槍ヶ岳に登頂する日がやってまいりました。
4:30に寝ぼけ眼な体を強制的に起こし、いそいそと準備。
5:00になってWさんと一緒に朝食を頂きます。
朝食も前夜のディナー同様豪勢。
前日の長丁場に比べれば距離は短いが丸一日3000mの稜線上での歩きとなるため、
しっかりと食いだめ。


↓朝食も豪華


本当はゆっくりと朝食を味わいたかったが、
この日の日の出は5:15ということもあって、
バタバタと慌ただしく食べ終わり、
防寒装備をしてカメラを担いで小屋の外へ。
素手に周囲は薄明るくなってはいたが、
まだ太陽は東の雲海から姿を見せていなかった。
昨日の夜のうちにガスはすっかりと消え、
いつも飛騨沢から乗り越えてくるような雲の群れもなく、
上空はすっきりと晴れ渡っている。
こんな朝にはまず最初に姿を求めるのが富士山。
この日もしっかりと独立峰の美しい佇まい。
その富士を護衛するかのように南アルプスの峰々がしっかりと寄り添う。
少し視線を北側へと戻せば、昨日は一日中雲がかかって姿を見せなかった常念岳が、
後光を背負ってその悠々たる器を惜しげもなく披露する。
大天井〜燕岳と視線をスクロールさせて、北の方角を望めば、
深い深い湯俣の谷のその奥に後立山連邦の峰々。
あの一番奥の双耳峰のように見えるのは鹿島槍だろうか?
さらに目線をスクロールさせて西を見やると眼前にそびえる槍ヶ岳ではあるが、
黒々とした山塊はいまだ静かに時が来るのを待ち続けている。


↓富士山と南アルプス


常念岳


↓後立山連邦


そうしてついに、朝日がちょうど横通岳の付近からゆっくりとゆっくりと上がってきた!
そのまばゆい光を遮るものはなく、純生な黄金色がストレートに突き刺さる。
振り向けば、その光を無抵抗に浴びながら、
大喰岳が焼ける。槍が燃える。
ただただ素晴らしいの一言に尽きる。


↓横通岳の上から朝日が昇る


↓朝焼け〜


↓大喰岳が焼ける


↓槍も焼ける


太陽が徐々に高度を上げていくにつれて槍ヶ岳の色づきも刻々と変化していく。
日が登る直前まで黒々と沈黙を保っていたその姿は、
日の出とともに深いワインレッドに色づき。
徐々に明るさを増しながら、燃える赤色から
エネルギーを蓄えたオレンジ色へ、
そうしてフレッシュなイエローへと変化していく。
その山容の変化が落ち着き、槍が本来の岩の要塞へと定着すると、
今度はバックの空がこれ以上ないほど真っ青に晴れ渡り、
主役を引き立てるのであった。まさにあっ晴れ。
その槍の穂先をよくよく見てみると、すでにたくさんの人影が認められる。
あそこでのご来光も間違いなく素晴らしいだろうが、
あそこからでは朝日に焼け、色とりどりに変化する槍の姿は見えない。
やはりヒュッテ大槍に泊まって正解。


↓日が昇り明るさが刻々と変化する


↓お見事!


↓すでに登ってる人多数


そんなこんなで、想像以上に素晴らしかった朝焼けショーに見惚れてしまって、
肝心の出発時間が遅れてしまった。
前日の方の小屋の宿泊人数を考えれば、
また望遠で確認した穂先の状況を見れば、
出来るだけ早くに小屋を発ち、山頂アタックに向かうべきだったのだが、
あれほどの絶景を無視するわけにも参りませぬ。
何とも贅沢な悩みである。
しかし、自分の場合、今日は下山日ではなく、
南の稜線を伝って南岳小屋へ向かうだけという
比較的に時間のゆとりをとった2日目プランにしてあるので、
少々混雑で時間が食っても問題はなかろう。
しかしまさか本当に、往復1時間もあれば十分のコースを3時間かけることになるとは…


槍の穂先のコースでは長丁場の待機が予想され、
その間補給やトイレなど当然無理なので、
しっかりとトイレを済まし6時にいざ出発。
ゆったり出立されるWさんと連絡先を交わし、見送られていざ山行スタート。
まずはヒュッテ大槍から表銀座の最終区間である東鎌尾根を伝って、
肩の小屋である槍ヶ岳山荘を目指します。
その間はずっと真正面に槍ヶ岳の姿があり、
そのシルエットが徐々に大きく大きくなっていく見ごたえのあるルート。
それではスタート!と思ったら、
昨日午後に一緒に写真を撮ったAさんが
ちょうど同じタイミングで出発されるところだったので
肩の小屋までご一緒することになりました。
東鎌はまずまずのヤセ尾根で、通路も狭い。
常に眼下に殺生ヒュッテとメインルートが望めて、それなりに高度感があるが、
よく整備されているので歩きやすい。
何か所か梯子が設置されているが問題なく通過。
徐々に槍の本峰の南鐐を横断して小屋の方へと横切る区間に入るが、
そこが大きな石を伝っていくような感じで歩きづらい。
上からの落石がないかも少し注意を払いつつ、
マーキングを頼りに歩きやすい個所を選んでいく。
そうして6:40に槍ヶ岳山荘に到着。ここでちょうど3000m付近になります。
ここで、今まで槍が立ちはだかって見えなかった西側の山々、
つまり笠が岳や双六岳水晶岳黒部五郎岳といった黒部最奥の絶景が
初めて見渡すことができました。


↓東鎌をゆく


↓槍の南陵を進んで肩までもう少し


槍ヶ岳山荘到着


↓黒部源流の山々


Aさんはこの日が下山日で、槍には一度登った経験があるため、
すでに長い行列となった槍の登頂は断念して、
南岳手前から天狗池を目指すということでここでお別れをします。
お世話になりました!お気をつけて~
さて、自分はすでに槍の付け根まで伸びている長蛇の列におののきながら、
いかがしたものかと思案する。
ひとまず休憩をしようかとも思ったが、その間にも列は少しずつ伸びてきているし
まるで牛歩のペースでしか進んでおらず、
ほとんど休憩しながら歩くようなものなので、
これは休憩入れるより並んだ方が得策だと、ザックを小屋にデポしたのち、
満を持して列に並ぶ。


↓大渋滞


山登りというよりも、ほとんどUSJのアトラクションに並ぶような感覚で、
ジリジリと一歩ずつ進んでは立ち止まってという繰り返し。
これがガスの中だったり、雨の中だったりしたならば、
さそかしイライラや不安に苛まれたであろうが、この日は全くのピーカンで、
眼前に広がる絶景をひたすら眺めながらだったので、それほど苦にならなかった。
前後の人たちと、あとどのくらいでしょうねと談笑しながらだったので、
それほどシビアな緊張感も感じることなく、むしろそれがよかったかもしれない。
昨晩の槍ヶ岳山荘の様子を聞いたら、それはもうすさまじい人の数だったらしく、
寝床の地獄具合はもちろん、夕食の手配も最後の組は20:30を回っていたとかで、
普通ならもうすでに消灯する時間までかかていたそうです。
テント場ももともとスペースが十分ではないこともあって、
遅くに到着した人は断られて一旦殺生まで下ることを余儀なくされた人もいたみたいです。
いやあ、すさまじい混雑です。
そうこうしているうちに少しずつスタート地点の槍ヶ岳山荘から高くなっていき、
対岸にそびえる大喰岳から南岳、そうして奥に穂高の山並みが続いていくのを眺めます。
この突先を攻略してのち、あの稜線をひたすら南下していくことになります。
槍の南側の斜面をジリジリと進んでいきますが、
途中で登りと下りの交差する地点があり、そこで少し待機に困るが、
序盤は手足の置く場所も十分ありそれほど難しい個所はなかった。
写真をご覧になればわかるように、眺望は最高で、
そこから槍沢の上部が丸見えの状態なので
高度感が苦手な人はちょっとすくんでしまうかもしれません。
上を見ると行列は動いたのか動いてないのかという感じ。
ようやく1つ目の梯子が見えてきましたが、あそこまではまだまだ時間がかかります。
一般的なコースタイムなら30分あれば肩の小屋から山頂まで行けるはずなのですが、
ここまでジャスト1時間。まだ半分も来ていないんではないでしょうか?
何しろ、登っている人数に対して、下っている人数の方が圧倒的に少なく、
梯子場ではどうしても1人ずつ登る必要があるので、
その手前で行列は停滞してしまうのです。
風もほとんどなく、日差しも程よい感じなので、気長に参りましょう。


↓この後向かう稜線を望む


↓1時間でここまでしか来れず。しかも列が伸びてる


↓1つ目の梯子が見えてきた


↓つい下を見ちゃう


列が動くたびに一歩ずつ、というより一動作ずつ上へ登っていきます。
そうして、南側の斜面を登りきると、いったん裏側(北側)へと回り込みます。
回り込むと、ソリッドな小槍が目の前に現れます。
よく見ると、険しくそそり立つその岩のトップには人の姿が!
すごいですねえ。さすがに垂直の旅は自分には無理です。
彼らはずっと行列の人たちから脚光を浴びておりました。
しかし、あんな狭いところでアルペン踊りを踊る人が果たしているんでしょうか?
ナゾです。


↓小槍


↓登ってる人発見!注目の的


一旦裏側へ回り込むと、日差しが山肌に遮られて日陰になってしまうので、
こちら側は少し寒い。
動かずに待機している時間の方が長いので、寒さが染みます。
それと待機中に支えとして触れている岩はどれもひんやりと冷たく、
グローブは装備しておいた方がよいでしょう。
ない人は手がかじかんで大変そうでした。
裏側からは小槍とその後ろに広がる黒部源流の山々をひたすらにながめる。
少しずつ列が動いていくのだが、ここから1つ目の梯子までが
槍往復の中で一番難しい個所かなあと感じました。
特に、梯子直下では大き目の一枚岩があって、手足の置場の間隔が少し広く、
しかもその箇所が限られているためです。
そこでは少し前後間隔を開けて待機するので、
どうしてもここで渋滞が生じるようです。
そうしてようやく1つ目の梯子。
自分の前の人がまず登り切って、
上部にスペースの余裕があるかどうか合図を待ってから梯子に取りつきます。
梯子はしっかりと固定されていて揺れることもなく、普通に登れますが、
ここもグローブがあった方がよいかと思います。


↓1つ目の梯子の直下が少し難しい


登りきると、少し斜度が緩めになり、鎖と鉄杭を使って進む区間となります。
このすぐ横に下山用のコースが併設されていて、そちらでは難儀しながら下る人達。
上りよりも下山の方が足元の確認がしづらいのでより慎重を要します。
待っている間に、コースの様子をよく頭に入れて、
シミュレーションしておけば大丈夫でしょう。
途中、岩と岩の間が狭まったところは、上下線供用区間のため、譲り合いが必要。
ここもまた渋滞が起こりやすい場所です。


↓下りコースも渋滞気味


↓鉄杭をサポートに登る


↓上下線の重複区間は大混雑


↓この区間、下りで難儀している人多数


その重複区間を過ぎて、少し登ると、いよいよ最後の2連はしご。
ここを登り切れば登頂です。
山頂はそれほど広い場所ではないので、
併設されている下山用の梯子を誰かが下りてくるたびに、
一人ずつ梯子をあがっていきます。
ここも上の人の合図を待って、1つずつ上がります。
思わず下を見ましたが、思ったほど恐怖感はなかった。
そうしていよいよ2つめの梯子(一番長い)を登り切って、
標高3180m、槍ヶ岳登頂!イェイ!やったぜ〜!
これで100名山の記念すべき10座目です。
肩の小屋からここまで実に2時間、
一緒に登ってきた前後の人たちとがっちりと握手を交わし、
健闘をたたえ合います。
いやあ、ここがあこがれの突先ですか!
快晴に恵まれ360℃の大パノラマは、感動そのものでした。


↓この2連梯子を登れば山頂!


↓ここは標高3180mです〜


↓やった〜!登頂!


さすがに槍と言われるだけあって山頂は狭く、
20人ほどが精いっぱいかなというスペースしかない。
奥に小さな祠があり、みなそこで写真を撮るために列になっていて、
その列が下山の梯子までローテーションで進んでいくため、
2時間かけて登ってきましたが、ほとんどゆっくりできそうにもありません。
とりあえず、見渡す限り眺望が開けているのでその写真をバシャバシャ。
南東の角からは今朝出発したヒュッテ大槍の小屋も見えます。
そうして前の人のカメラのシャッターを押し、
自分は後ろの方にシャッターを押してもらって祠の前で2,3枚ほど記念撮影。
さすがに狭い狭い岩の上でのシェ〜は怖かったけど頑張りました。


↓北側の眺め


↓ヒュッテ大槍が見える


ラウンドガール風に


滞在時間にしてわずか10分もなかったと思いますが、下山を開始します。
ゆとりあるプランとはいえあまりここで時間を取ってしまうと後が大変だし、
午後になってガスが出てくると稜線歩きが厄介になるので、早立ちの原則に従います。
わずかの時間でしたが、槍の突先、十分満喫できました。
もっと人の少ないときにまた来ます!では!
ということで、まずは2連はしごをえっほえっほと下りますが、
一番最初の、梯子に手をかけてくるっと向き直る瞬間はちょっとビビりますね。
でも、しっかりと足場をホールドしていけば問題なく下れます。
そこから細かい梯子が連続するところを下ります。
やはり下りの方が足元が見えづらくて、
次の一手を慎重に選ばないといけないので、みな必死です。
梯子部分を無事通過し、上下線の共通部分で上がってくる列を優先して少し待機。
ここでちょっとブレイクです。
その後、トラフィックが解消して、共通部分を抜けると、
下り区間の核心部と思われる鎖場を慎重に慎重に下る。
そこから、岩場をなぞるような形で、へばりついて鎖場を進んでいく。
そうして一旦登りコースと合流してから、
ザレた道へと降り、あとはそのまま基部へ到着。
下りは集中していたせいもあってか、30分ほどであっという間でした。
こうして無事槍ヶ岳登頂をやり遂げました。
事前には思ったより高度感もあり、鎖場やはしごなどの不安もありましたが、
想像していたよりもずっと整備されて登りやすく、恐怖も感じませんでした。


↓下山開始


↓一番上の梯子はこんな感じ。ここは標高3180m♪


↓難儀しながら下ります


↓ちょっとずつ小屋が近くなってくる


とりあえず最大のミッションをやり遂げて、少し小屋で休憩タイム。
ということで小屋でカップ麺を購入して、テラスで槍を見ながらいただきます。
突先へと続く行列は、自分が並んだ時に比べてもさらに伸びていて、
もう小屋の食堂の目の前まで伸びています。
自分は往復3時間かかりましたが、この様子だと
4時間、下手したら5時間かかってもおかしくないんじゃないかというくらいの長さです。
槍目当てではなく、ここを通過して縦走する人たちはもう完全にあきらめて
足早に去っていきますが、槍を登る目的でここまできて、
槍をスルーするという選択をする人はいないでしょうから、もう大変です。


カップ麺でランチ


↓山頂を望む


↓ドンドン列が伸びてきたぞ…


そうこうしているうちに時刻は10:15を過ぎてしまいました。
本日の目的地はここから4,5kmほど南へと進んだところにある南岳小屋。
まだ時間に余裕があるとはいえ、3000mの稜線歩きなので、予断は許しません。
大急ぎで補給を終え、小屋でいくつかグッズを購入して、トイレに並んで、
10:20には出発です。
まずは南側の向かいにそびえている大喰岳に向かいます。
急峻な岩場にへばりつくようにして設置されているテント場をジグザグと10分ほど下れば、
日本最高峰の峠である飛騨乗越に到達。
ここから右手の飛騨沢からはたくさんの登山客が槍を目指して登ってきていました。
これからあの大行列に悶絶すること間違いなしでしょう。


↓いざ南岳をめざし、まずは大喰岳へ。


↓日本一高い峠・飛騨乗越


ほとんどの人はこの乗越から、飛騨沢へ下るか槍へ向かうかで、
ここを直進して大喰岳方面への上りではググッと人が減ります。
なかなかの急登をえっちらおっちらと進んでいくと、上空が何やら騒がしい。
どうも槍沢の方で一機、そうして飛騨沢の方でもう一機、
計2機のヘリが飛んでいるようです。
またどこかで遭難、滑落が起こったのかもしれません。心配です。
(このあと、南岳の方でお一人滑落して亡くなられたようです…)
細かく蛇行した急なザレ道を30分ほど詰めて、11時に大喰岳に到着。
この大喰岳は名山にも数えられず地味な存在ですが、
標高3101mもあり、日本で10番目に高い山です。
ここからは槍が真正面に捉えることができてなかなかの撮影スポットでした。
そうして東側は昨日苦労して上ってきた槍沢が大曲の方まで一望。
すごいスケールの世界の中にいるんだなあと改めて実感します。


↓南岳の方へ救助ヘリが飛ぶ


↓大喰岳


↓槍沢


休憩もそこそこに先を急ぐことにします。
前方を見ると、岩だらけの稜線がず〜っと先まで続いています。
高度感を感じるようなところ、テクニカルな個所というのは一切なく、
左右の眺望を眺めながらのんびりとした稜線歩きが続きます。
しばらく進んでいくと一度鞍部へとなだらかに下って、
その先にど〜んと中岳がゆく手を遮るようにして待ち構えておりました。
ここから再び急登を詰めていくことになります。
ここもなかなか厳しい上りで、ジグザグジグザグ少しずつ登っていく感じ。
さすがに3000mの空気の薄いところでこれだけ急だと息が上がります。
いつも蝶ヶ岳などから眺めるこちら側の稜線の様子だと、
槍から大キレットまでの山容はなだらかに見えていたので、
もっとイージーかと思いきや、なかなかのアップダウンの連続で骨が折れます。
やっぱり山はそんな簡単じゃないということですね。(汗)
キツイ傾斜の上りを登りながら時々休憩を取りつつ、来た道を振り返ると、
いつのまにやら飛騨側からモクモクと雲が発生して
あっという間に西側は真っ白の世界になってしまいました。
風の関係でこの雲は山を乗り越えて槍沢の方へはこぼれないので、
世界が半分半分になったような感じ。
やっぱり昼ごろにはガスが出てしまいますねえ。
今から槍へ向かう人は大変ですな…。
苦しい上りの最後には2連梯子が待ち構えております。
それを丁寧にこなして登り詰めて、広いところに出る。
そこからもう少しだけなだらかな道を進んで11:30、
標高3084m(日本で12番目に高い)の中岳に登頂です。


↓岩だらけの稜線を往く


↓中岳の上りが見えてきた


↓中岳中腹から振り返ると飛騨側に雲が発生


↓中岳上部の2連梯子

中岳の山頂はちょっと周辺がガスっていて、
西側やこれから進む南側の眺望は見えませんでしたが、
東側は眺望が開け、常念方面やその手間に広がる天狗原は丸見え。
天狗原は氷河公園とも呼ばれていて、いくつかの残雪が点在しています。
山頂で幾人かの人達、おそらく本日同じ南岳小屋に泊まる人たちが休憩されていて、
しばし談笑。
話題はもっぱら槍の大混雑についてで、
朝イチで登られた方でも往復1時間30分以上かかったそうです。
中岳もさきほどの大喰岳同様、主役級の山々に挟まれた非常に地味な山で、
名山にも数えられず、また山頂も立て看板がなければ通り過ぎてしまいそうなところなので
何枚か写真を撮ってのち、先を急ぐことにします。
南側の斜面に入ると、いったん南岳との間の鞍部まで大きく下りとなります。
まるで岩の墓場かと思えるほど、見渡す限り大きな岩が
ゴロゴロと散在しているようなところで、
それらの岩をぴょんぴょんと飛び移っていくような感覚で一気に下っていきます。
そうして岩の吹き溜まりのような小さな広場のような部分に降り立ち、
振り返って中岳を仰ぎ見ると、なかなかダイナミックな山容でビックリ。
常念方面から見た槍・穂高連峰のシルエットでは、
その存在すら見つけるのが難しいほど、
なだらかな稜線に見えたのに、見る角度が違うだけでこれほどまで印象が違うとは。
なかなか山も面白いものです。


↓中岳。意外とでかい


↓天狗原の氷河公園


まさに岩の殿堂と言わんばかりの中岳の南稜を過ぎると、
今度は少し植生もあるなだらかな稜線となり、そこを進んでいくと、
その先で稜線がゆるやかなS字を描きながら続き、
その向こう側に南岳の姿が見えてきました。
と、その手前にでかい岩塊がボコッと行く手を遮っております。
さっそくその岩礁にとりつくと、思ったよりスリリングなレイアウトになっていて、
そのまま脇を抜けるのかと思いきや、
ペンキの指示ではなんと脇のギリギリを登って、
岩礁の飛騨側へと一旦トラバースするようにコースがつけられており、
足をかけるステップもつま先程度のところもあって、結構ひやひやしました。
そこを飛騨側へと抜け、再び少しだけ上り返すと、なだらかな稜線へと戻ります。
そこから少し歩いて12:15ごろ、なだらかな稜線の中央部分に、
天狗原から槍沢へと下る登山道との分岐点に到着。
ここまでで結構疲労困憊でしばし休憩。
やはり前日、上高地から弾丸で上がってきた疲労が、
激混みの小屋泊では回復しきっていないようで珍しく足に来ております。
槍ヶ岳山荘でカップ麺をすすって以降、補給も取っていなかったので、
ここで少しだけ休息を入れて、おなじみのカントリーマアムを4,5つほど放り込む。


↓奥が南岳。手前の岩稜がちょっと難所


↓ここがちょいと難所(○の印の方へ進む)


休憩後リスタートし、なだらかに白砂の稜線が続いていく方へと足を向けます。
そのなだらかな稜線の果てにズ〜ンとそびえる南岳が
カールをまいて待ち受けております。
うむ〜まだ先は長いなあ。
南岳の直下は結構急峻な道となり、歩幅を短めにして詰めていきます。
急場を上り詰めると、そこからしばらく歩いて12:45南岳に登頂。
こちらも大喰岳・中岳に続く地味〜3兄弟の1つで、
標高3032mで日本で18番目に高い山ながら全くノーブランドの山です。
山頂はなだらかで広く穏やかな印象ですが、
この時はガスがだいぶ周辺を覆っていて、写真を撮ったらすぐに向こう側へ進みます。
といってもすぐ下に本日の宿泊地である南岳小屋の姿があり、
あっという間に南岳小屋に到着しました。時刻は13:00。


↓南岳


↓南岳直下に小屋発見


まずは本日の寝床を確保ということで受付をします。
この一帯はほぼ均一で一泊二食付で9500円。
で、そこにペットボトルのお水を1本いただきました。
それ以上水が必要な場合は1リットル100円で販売というシステムのようです。
そうして2階のお部屋に案内されます。
南岳小屋は大キレットの目前にあって、どの登山口からも相当離れた場所にあり、
比較的マイナーな小屋なので、さすがに混まないだろうと思っていたのだが、
この日は予約だけで定員をオーバーしているとかで、激混み必至。
昨日と同じ3畳のカイコ部屋ですが、
昨日は1枚の布団を2人でシェアだったのが、
この日は1枚の布団を3人でシェアとより過酷さを増した混みっぷりで参りました@@
おそらく今までで一番激しかった夜でした。


↓南岳小屋


さてさて、寝床を確保し荷物をデポしたら、まずは小屋訪問です。
昨日のヒュッテ大槍は”日本一高いBAR”でしたが、
この南岳小屋は”日本一高い駄菓子屋さん”なのです。
受付の横にはいろいろな駄菓子が並べられていて、
定番のうまい棒ブラックサンダー、手作りドーナツなどがありました。
せっかくなので、手作りのドーナツ(2ケ50円)を、
セルフの紅茶を入れていただきました。
ん〜疲れた体に甘いものが染み渡りますなあ〜。
ちょうど薪をくべた暖炉の前だったので、
稜線歩きで冷えた体を温めつつ休憩ができました。


↓日本一高い駄菓子屋さん


↓手作りドーナツ(2個50円)とセルフの紅茶(200円)


さてさて、そんなこんなでまったりと時間を過ごしてもまだ時刻は14時。
夕食までまだたっぷり3時間もあります。
前日の疲労も引きずって、なかなか眠気もあるのだが、
ここで昼寝をしてしまっては夜中に目が冴えて大変なことになるのでぐっと我慢。
そこで、せっかくなので周辺を散歩して色々写真撮影をしに出かけます。
防寒装備を施して小屋を出ると、あいにくガスが広がってきました。
まずは小屋の東側に設けられた常念平という展望スペースへと向かいます。
南岳の南稜のヘリを5分ほど進むと、山の先っちょへたどり着きます。
ここからは東側の山並みが見渡せます。
本谷から常念山脈までがうっすらとガスの煙の向こう側に見え隠れ。
一旦小屋へ戻り、ガスが晴れるのを待ちます。
ストーブの前で暖まりながら窓から外の様子を確認しながら、何度か偵察に出ます。
お次は、小屋の南側を少しだけ上って、獅子鼻と呼ばれる切り立った絶壁へ。
ここからは本当ならば、大キレット穂高の山容が間近に見れるはずなのだが、
ガスガスでまったくその様子すら見えない。
せっかくなら難所中の難所と名高い大キレット
歩けずとも眺めてみたいと思っていたのだがこの日は断念せざるを得ないようだ。
ならばせめてその入り口だけでも拝もうと、すぐ横の大キレットの看板を少し進む。
うむうなかなかハードな道ですのお。さらに進んでみようかと思ったが、
小屋の方が道を一生懸命整備作業しているところで、
邪魔しちゃ悪いなあと思ってここまでにしておきました。


↓地獄の入り口


↓獅子鼻


ガスが濃くなってきたので、再び小屋へと戻り、暖炉で暖まる。
どうも高山病の兆候なのか、脈が少し乱れ気味で、左手がしびれ始めました。
ちょっと前日からの疲労を引きずって、
小屋到着後も動き回っているので体が悲鳴を上げ始めているのかな?
フロントで同じように休憩をしている人たちの話を聞いたりしてしばし休憩。
中には北穂から大キレット経由でたどり着かれたグループなどもいて
なかなか興味深い。
小屋の人の話を盗み聞きすると、どうもいっぱいっぱいだった予約客の中で
槍の大渋滞につかまって到底こちらまで来れない人たちから
キャンセルが相次いでいるようだ。なかなか大変だなあ。
それでも予約なしの人がひっきりなしに来るので、
結局寝床にゆとりが発生するのは期待できなさそう。
予約なしで来た人に小屋の方は毅然と、予約をお願いしますと伝えていて、
しっかりしてらっしゃるなあと感心しました。
小屋はその性質上、願い出た登山客を拒否するというのは原則難しいのだけど、
寝床の調整とか食事の手配とか、
迎える側も色々と段取りがシビアなのはわかりきっているのだから、
せめて利用者としては予約くらいはきちっと入れるというのがエチケットだと思いますね。


そのうち、北側の空が明るくなり始めたので、
そちらならいい写真が撮れるかもしれないと足を延ばします。
すうそこの南岳に登り返しをするのですが、どうも息切れがひどくて難儀。
そうすると、もくろみ通り、
この日歩いてきた槍からの行程が雲間からぬわ〜っと現れました。
こちらから見るとやっぱり思った以上にアップダウンがあるなあという印象。
南岳のピークの先に小さなピークがあり、
より写真を撮ろうとそちらまでもう少し足を延ばします。
もう時刻は16時を過ぎていましたが、
稜線にポツポツとこちらへ向かってくる登山客の姿がちらほら。
そこで30分ほど滞在したのち、夕食に間に合うように小屋へとバックする。


↓南岳より本日の道のりを望む


そうしてお待ちかねの夕食。
この日は3回制だったが、1番乗りの回でした。
ちょうどお隣の寝床の男性の方と、女性のソロの方と同席しながらいただきました。
話を聞くとお二方とも、偶然昨日同じヒュッテ大槍泊まりだったようで、
お二人とも翌日は天狗原経由で下山ということでした。
さて、食事はというとなんと中華定食!
昨日がイタリアンだったので、この献立ローテは願ったりかなったり♪
かに玉にエビチリ、肉団子に、デザートは杏仁豆腐。
白ごはんもススム君!
この日は疲労度と高山病の兆候がいつもより強かったのでアルコールは自粛。
そのかわり、白飯とみそ汁はそれぞれ3杯お替りいっときました。ゲフッ。


↓中華三昧♪


飯を食べたら17:30頃。ちょうど夕焼けタイムに突入の頃です。
前日は立地的にも天候的にも夕焼けを拝めなかったので、この日こそ!
ちょうど食事中から窓の外が明るくなってきたので、
食事を済ませたら大急ぎで外へ出ます。
最初は獅子鼻やその向かいの岩稜で、夕陽を浴びる穂高連峰を狙っていたのだが
飛騨側から次々と上がってくるガスの勢いがすごく、
ドバドバと大キレットを乗り越えていくために、
わずかなシャッターチャンスしかなかった。
こちら側はまた翌朝にチャンスがあるので、
この日でお別れになるであろう槍ヶ岳を今一度ということで、
疲労しきった体に鞭を打って、3度南岳へと登り返します。
南岳にはもうお一方カメラを抱えた方がいて、2人で日没を待ちます。
飛騨側から次々と雲がわきあがってきて、
それらがドドドっと山を越えてこぼれていきます。
昼ごろに比べると上空の空は晴れ、
大きく膨らんだ夕日がゆっくりと雲間へと沈んでいきます。
雲が絶妙な演出を施して見事な夕焼けショー。
その光を浴びて槍が夜の顔を見せ始めます。
反対側を覗くと、さきほどまで分厚いガスに覆われていた
穂高の山々も顔をのぞかせ、それはそれは威厳あふれる山容。
素晴らしい一日を締めくくる最高のフィナーレでした。


↓大迫力の夕焼け


↓暮れる槍


↓焼ける穂高連峰の山塊


時刻は19時となり、もうほとんど日が暮れて一気に夜が迫ってきました。
ちょうど長旅を終えて小屋へ向かうカップルが通り過ぎたので、
それに合わせて小屋に戻ります。
とはいえ消灯までまだ1時間半ほど自由な時間があります。
さすがにあの狭苦しい寝床にはギリギリまで向かわず、
談話室でイッテQを見ながら時間つぶし。


もうそろそろ20:30になろうかという時間にフロント辺りが騒がしくなる。
なんとこんな時間にもかかわらず予約なしで飛び込み客が興奮気味にやってきた。
小屋の方もあきれ返っておられたが、周りの人々に
夜中まで歩いてきたことを武勇伝みたいにしゃべりだす。
話を耳にしていると、槍の大渋滞にはまり、その時点で15時を過ぎていたが、
ここまで歩いてきたという。
小屋には遅くとも16時までに到着するのは常識だし、
槍の時点で15時なら、付近の小屋に変更するとか他に考えなかったのかな?
この日は天気が良かったとはいえ、3000mの稜線で夜間山行は当然リスクが発生する。
滑落や道迷いなど重大な事故にもなりかねないわけで、
小屋の人やほかの登山客の迷惑にもなるし、
そもそも見積もりの甘すぎるプランニングしかできないような人間が、
安易に夜中歩くなんて全然自慢できることじゃない。
最近の山での重大事故の増加は、
こういう山を安直に考えた人間が増えたことと決して無関係ではないだろう。


20:30となったので、意を決して寝床へと向かう。
前日、モーレツな暑さに寝苦しかったので、小屋の室内温は1度とかだったが
あえて薄着で寝床に入る。
すでに多くの人が眠りについていて、難儀しながらわずかなスペースにもぐりこむ。
もう、一度そこにはまったら全く身動きできる余裕なく、
自分のすぐ鼻先には、別のおっちゃんの足がド〜ン…
時刻はまだ21時前で、このまま少なくとも4時まで7時間はこの状態?
考えるだけで果てしない夜になりそうだ…
予想した通り寝床はぎゅうぎゅうのひと肌で温められて非常に蒸し暑い。
自分はそれほど寝返りを打つ方ではないのだが、
それでも最狭スペースでじーっと同じ姿勢を保てるのにも限界がある…
こりゃあまるで劣悪な収容所のようだなあと思いながら
一動作ずつジリジリと姿勢を移動させる。
ときどき時計を確認しても20分も経っていないとかで、
もうこれならひたすら岩場を詰めているときの方が何倍も楽なんじゃないかというくらい。
途中あまりの蒸し暑さと窮屈さに、
0時ごろ、いったん寝床を抜け出て談話室に逃げ込む。
同じような考えの人がいて逃げ出てきた人がここで寝袋をかぶっておりました。
自分は寝袋がないのでじきに寒くなり、再び魔の寝床へ。
そうして朝まで地獄の時間が続いていくのであった…


つづく…