大杉谷から大台ケ原へ 2日目
2日目の朝。
5時にセットしていた目覚ましが鳴る前には起床。
ゆっくり身支度を整え、5:30に受付へ朝ごはんを取りに行く。
昨日はあれだけアップダウンがありつつも、
ほとんど標高を上げなかったが、
この日は今いる480m地点から1700m近くまで
一気に1200mほどを上がらなくてはならないので、腹ごしらえはしっかりと。
この日は平日なので、帰りのバスは15:30の一本しかないので、
早めに到着しても仕方がないのだけど、
昨日のわずか5kmちょいで4時間もかかったこともあり、
この日も予想以上に時間がかかるかもしれない。
それに気温が上昇してつらくなる前、
午前中にはある程度消化しておきたいこともあって、
6時出発に向けて準備を始める。
もし早く到着できれば、
それはそれで大台ケ原は散策するところがあるし。
すると、例の謎のおっちゃん集団の一人から、
「そんな早くなぜ経つの?」と言われましたが、
早立ちするに越したことがないです。
(ちなみに彼らが何時に出たかは知りませんが、バスが出る5分前にギリギリ到着してました)
で、準備はすぐできたのだが、
恒例のおトイレタイムでなかなか苦戦をしてしまい、
結局出発は6:15となりました。トホホ…
すでに食堂で朝ご飯をはじめていた小屋の方々にお礼を言っていざ出発。
玄関を出て右手に続く石の道を少し進むと、
大岩の前にロープが張ってあり、そこから一気に谷の上部へと上がります。
すぐに吊橋があり、渡っていくと、道はどんどん上へと延びる。
しょっぱなからなかなかハードです。
しばらく沢とはずれたところをずんずん進んでいくのだがそのうちに、
川面が近づきます。
昨日よりも一段と渓谷の鋭さが増し、
なおかつ渓谷にどんどんと鎮座する岩のサイズも見るからに大きい。
すでに日は高く上がっているのだが、
谷が深く日が差さないので水の色は深めのグリーン。
ほとんど川面に近いところまで降りてきて、
その脇の岸壁を補強された道ずんずん進みます。
しばらくして、再び登りとなり、
滑りやすい岩の階段をダブルの鎖を頼りに登っていきます。
しばらく進んでいくと、
黒部の水平歩道の大太鼓付近を思わせるような絶壁の道に出る。
WOW!
ここからは渓谷が激しく蛇行をしながら、
岩壁を容赦なく切り刻んでいる様がよく見えます。
そして進行方向の遠く、はるか上部から
勢いよく滝が流れているのが見えてきました。
朝っぱらからスケール感の大きすぎる絶景に先制パンチを食らいながら、
先へ先へと歩を進めます。
しばらく歩いていくと滝壺付近までやってきました。
つい先ほどまでの自然の厳しい表情から一転して、
エメラルドの水を湛える滝壺は本当に翡翠のように美しく、
まるでここは桃源郷かと思えるほど。
↓桃源郷かよ、ここは
その右脇をかすめながら、ずんずん進んでいくと、
ヘリに東屋が建っており、その向こう側は眺望が開けて、
いよいよ百名瀑の七ツ釜滝の全容が姿を現しました。
七つの滝壺があるほどの段瀑で、落差120mもある大滝。
ちょうど真後ろに屏風のように山並みを従えて、
そのど真ん中を我が者顔で真っ二つに切り裂く様はアッパレとしか言いようがない。
残念ながら東屋からは全ての釜を確認することはできませんでしたが、
とにかく1つ1つの見どころがいちいち馬鹿でかい!
しばらく東屋で絶景を楽しんだのちリスタートしていきます。
脇の急な階段をえっほえっほと歩き、支流の谷筋に取り付いたので、
そちらからショートカットするように進んでいるんだと思ったら、
なんとさっきの七ツ釜滝の方へと道は寄っていき、
滝の右横に無理やり取り付けたような急登となって待ち構えていました。
おおう!こんなところによくもまあ道をつけたものです。
滝の迫力を左側に感じつつ、厳しいのぼりをこなしていきます。
木立の間からは先ほどの東屋も見えます。
短時間で意外と登ってます。
無事に難儀なのぼりを通過すると、滝の上部は穏やかな流れとなっていて、
平坦な道をしばらく進んでいくと吊橋を渡って対岸へ。
そこからは、大きな石のテーブルの上を渡りながら進んでいくことになります。
この岩がフラットなんだけどとにもかくにも滑りやすい。
左手の故障明けの身としては、ちょっとしたスリップも恐怖心があるので慎重に。
徐々に谷筋も狭まってきて、険しい表情に変わっていきます。
左の岸壁には鎖がつき、それを頼りに滑らないように進む。
右手の川もついさっきまでの穏やかさを消して、
一軒家ほどもあるような大岩がゴロゴロとする合間を縫うようにして濁流を作っている。
谷はここでも大きく左へと旋回し、えぐいゴルジュを作っていて、
すぐ真横を、もう滝と言っていいほどの急な流れがある真上に、
わずか人が一人どうにか通れるだけの岩の道が申し訳程度についている。
ただでさえ滑りやすい性質の岩なのに、流れのしぶきで洗われて濡れていて、
鎖をしっかりホールドして一歩ずつ確実に前進する。
丁寧に行けば何の問題もありませんが、
たぶんこのルートの中で、一番緊張を強いられる箇所だと思います。
無事に難所を抜け、安定した大岩のテラスにたどり着き、
ほっと一息して前方を見ると、
崩れた大きな岩で谷がすっぽり塞がれているではありませんか!
あそこが、10年前に大雨によって大崩落が起きた場所のようです。
しばらく休憩ののち、崩落地へと進んでいきます。
岩場を伝って進んでいくと、いくつもの赤ペンキで指示があり、
登山道はまさにその崩落地のど真ん中を抜けるようになっていました。
まるで山が稲妻か何かでカチ割られたのかと思うほど、
間違いなく一軒家か10tトラックほどもある巨大な大岩が
これでもかというほど斜面から川面へと押し寄せ、
谷全体を押しつぶさんという勢いで、
その岩と岩の間に小さな石(それでも本当は大きい)をうまくはめ込んで、
できるだけ安全に抜けれるように道がついていました。
マークに従って、崩落現場にとりつきます。
エッヂの効いた黒い岩の間をずんずんと登っていくと、
崩落地の向こうには穏やかな河原が広がっているのが見えます。
一方、振り返ると先ほど抜けてきた難所を見渡すことができました。
おそらく学生2人組でしょうか、
その難所を今まさにわたっているのが豆粒ほどに見えます。
どこがどう崩落したのか上部を確認すると、
山がスパッと切れ落ちたように半分崩れて、
そこから五月雨式に大岩が谷の方へと流れているのが確認できます。
山が崩れた衝撃で、岩盤が砕け散りこれほどの大岩ができたのでしょうか。
とにかくすさまじいエネルギーがスパークしたのが容易に想像できます。
もしその場にたまたま差し掛かったとしたら、
ちっぽけな人間なんて、有無を言わさずぺしゃんこです。
恐ろしい@@@
登山道のマークは引き続き、
崩落した岩の間を器用に抜けているのですが、
途中で河原へ降りれそうな個所があったので、
ちょっと寄り道をして降りてみます。
きっと崩落がある前は、
コースの中でもかなり穏やかなエリアだったと思われる浜です。
そのコントラストが何と因果なものか。
谷の先を見ると再び急速に狭まっているのが見え、
たぶんこの河原を進んでも問題ないのだろうけど、
どこかで行き止まりになって無駄足になるのもいけないので、
一応、崩落地の上部へ戻ってご丁寧にルートをトレースしておきます。
結局しばらく岩の間で格闘したのちに、沢へと降りることになりました。
穏やかな浜の脇に、ぽつんと大木が立っていて、そこでしばし休憩。
その先からは渓谷は複雑にジグザグとなって、急激に細まっている。
登山道は川面を行くのをあきらめて、
急流から逃げるように大木の脇から一気に登ります。
しばらく急登を詰めると、渓谷はシケイン気味に左右とツイストして
その先に、なんともなだらかな光滝がしなやかに流れています。
ここまで見てきた荒々しい滝とは違って、
まるでスカートのように裾をゆったりと広げた様は
なんだか女性的な優しさを感じます。
道は光滝をまるで畏れ多い場所かのように遠巻きに外れながら、
左手の絶壁へいきなり切り込むような形で急登となる。
谷の本流からわずかに外れて、急なのぼりをかき分けると、
いつのまにか渓谷の上部へとたどり着きます。
ちょうど、光滝の真上辺りまで来て、
覗き込むとかなりの高さに思わず目がくらみます。
しばらく水面からかなり高い位置を道は進み、
その先に吊橋が現れます。
ここでも渓谷は直角に右折をしていて、
水深が深く感じられる溜りとなっています。
吊橋を渡るとそのすぐ際から、隠滝が豪快に水しぶきを上げています。
こんなものすごい場所によくぞ吊橋を渡したものです。
隠滝の吊橋を渡ると、再び水面が近くなり、
道も穏やかになります。
しばらく進むと対岸に与八郎滝という細い滝が現れますが、
草木が茂っていてなかなか見えづらい。
さらに先へと進むと、
渓谷は思い出したかのようにまた荒々しい表情を見せます。
でっかい岩と岩との間を鋭く流れ落ちる激流の真上を歩いていく
岩のステージが続きます。
滑りやすく意外と骨の折れる区間です。
鎖がきちんと整備されているのでそれをしっかりと握って、
段差をよじ登って先へ先へと進みます。
難所は名もなき小さな本流の滝でほぼ終わり、その先吊橋があり、
そこから堂倉の発電用ダムに出ました。
なんだか非現実的な風景をずっと歩いてきたので、
こういう人工的なものがいきなり現れるとびっくりしてしまいます。
対岸に渡り少し進むと再び吊橋があり、左手を見ると、
このアドベンチャーコースの終わりを告げる堂倉滝が見えました。
時刻は8:30。小屋から約3kmを2時間15分の別世界でした。
ここでいわゆる大杉渓谷と呼ばれる、渓流沿いの道は終わりで、
いよいよ、ここからは標高1700mまで一気に登り詰める5kmの山道がスタートします。
水分補給などわずかな休憩ののち、リスタート。
しばらくは名残惜しそうに渓流の上部をトレースするのだが、
時期に係留は右手の山の方へと離れていき、
山道はそれを見送って、いきなり急なジグザグ道となります。
昨日はほとんど高度を上げなかった分がいっぺんにやってきたような
なかなかの急登で、木々の幹や根っこを頼りによじ登るような場所や、
急角度で取り付けられた階段などが続々と登場する。
しばらく歩いていると前方に気配があり、追いついてみると、
昨日泊りで一緒だったバスに乗っていない単独の方でした。
自分が出がけのトイレでモタモタしている間に先発されたようです。
ここからしんどいですねえと言葉を交わして先行していきます。
まだ、わずかに朝のひんやりとした空気が残っているのだが、
いきなりの急登の連続に思わず汗が噴き出す。
地図を確認してもこの渓谷終わりから尾根までの区間が最も高低差があり、
登山道は緩急をつけながらも、決して容赦してくれない。
深い木々の間からは青空が見え、今日も暑くなりそうな予感。
周囲の山並みも目線と同じ高さに近づいてきて、
ようやく斜度も緩み始めます。
ほんのわずかに道を下ると、未舗装ながらも整備された林道と合流します。
このまま林道を進めば粟谷小屋がありますが、遠回りなので
標識通りに本ルートの階段を上がると堂倉の避難小屋に到着。
時刻は9:15。約40分の格闘でしたが、思ったより長いのぼりの印象でした。
10分ほど休憩ののち、小屋の裏手に伸びる道を進みます。
先ほどに比べれば穏やかな道が続きます。
この日は天気が良いので問題ないですが、
熊野特有の雨や霧の中だと、少し道をロストしてしまいそうです。
マークをよく確認して進んでいくと、
途中、粟谷小屋からやってきた道と合流します。
しばらく進むとまた急な登りが発生し、そこがシャクナゲ坂と呼ばれる区間。
ここから緩く右に旋回をしつつ、急坂が延々と続きます。
ここは眺望もなくだらだらとした登りで結構バテました。
ようやく鈍い登りを詰めると、今度はいきなり岩壁区間に入ります。
マークに従ってよじ登り、しばらく進むと、シャクナゲ平に到着。
名前にシャクナゲとありますが、それらしい花が咲きそうなところもないし、
眺望も全くなく、急なのぼりのてっぺんにあるわずかの広場でしかありません。
時刻は10:25。
↓シャクナゲ坂
↓シャクナゲ平
10分ほど休憩してリスタート。
酷暑を避けて早立ちしたものの、やはり気温の上がり方が尋常じゃなく、
ペットボトル3本分はあった手持ちの水がそろそろ少なくなってきました(汗)
シャクナゲ平からはしばらくは道は穏やかさを取り戻し、
周囲の植生も豊かに緑の世界。
ルンルン気分で進んでいると、前方に鈍い階段が登場。
ここからジャッキーカルパスのような丸太で組まれた階段が延々と続き、
その区間は日差しが直撃して、かなりこたえました。
黙々と階段を上がっていき、
ついに大台ケ原最高峰、標高1695.1mの日出ヶ岳にとうちゃこ!
↓大台ケ原最高峰・日出ヶ岳
まずは一服と、山頂にある展望台のベンチに腰掛け。
少し整えてから展望台の上からもろもろ撮影。
この日もなかなかのお天気だが、さすがに遠方は霞んでしまい、
肉眼でどうにか熊野灘を確認できる程度。
残念ながら富士山までは見えませんでした。
しばらく撮影をしていると、
続々とハイカーさんが反対方向から上がってくるのですが、
駐車場から1時間程度ということで皆さん軽装で、
大自然から無事にカムバックしたんだなあと実感します。
↓紀伊山地の山々(北側の山並み)
時刻は11:30になろうとしているところ。
このまま30分も歩けば
今回のゴール地点である大台ケ原の駐車場にたどり着けるが、
バスの時間まではまだだいぶあるし、
東大台をぐるっと回って見どころを散策することにします。
そのまま木の階段をトントンと下り、向こう側の高みへ。
正木峠は、笹のグリーンと枯れ木のコントラストが独特の風景を作り出しています。
元々この一帯は太古の時代からの原生林が広がるところでしたが、
昭和34年の伊勢湾台風による被害で多くの木が倒壊し、
土壌が流出したことが契機となって、
山の生態系を支えていたコケ類が衰退、
取って代わるように笹が生い茂る山となりました。
格好の餌である笹を求めてニホンジカが増加し、
またドライブウェイの開通により観光客数が急増、
土壌の踏み荒らしなどによって、
森林衰退が収まらないという状況になっています。
環境保全の最前線がこの大台ケ原というわけです。
↓枯れ木と緑のコントラスト
パーク内は木道が整備されていてそこをトコトコと歩いていきます。
いくつか駐車場へと向かう分岐がありますがスルーして、
おそらく大台ケ原イチの絶景ポイントを目指します。
緑と青のコントラストが素晴らしいですが、
大台ケ原に来てこれほどまでに天気がいいのは初めて。
贅沢な注文ですが、
やはり鬱蒼と白い霧のなかにある森というイメージの方が
大台ケ原らしさを感じられます。
そのままずんずんと進んでいくと、
正木ヶ原の先に神武天皇像がぽつんとあります。
↓神武天皇像
さらにその先へと進み、標識に沿って奥へ奥へと進んでいくと、
大蛇厳(だいじゃぐら)に到着しました。(ぐらは山カンムリに品)
ここは落差800m以上もある断崖絶壁に突き出た部分で、
かなりのスリルを味わえます。
滑落防止にクサリがされているというものの、
滑って落ちればジ・エンドで、
ちょうど断崖に向かって大岩が絶妙にスリリングな斜面になっていて、
見ているだけでも吸い込まれそう。
みなさん及び腰で進みますが、先端まで行くには度胸がいるかもしれません。
自分も先端まで進んでみますが、
うまく姿勢を取らないと怖くて進めません@@
この日は西の空がきれいで、はるか向こうに大峰の山並みがきれいに整列。
すばらしい眺望でした。
ひとしきり絶景(絶叫?)ポイントを楽しんだら、
いよいよゴールに向けて最後の歩み。
分岐まで戻り、そこからシャクナゲ坂(さっきの坂とは違う)をずんずん下り、
シオカラ谷まで。
少しだけ水辺で涼を得て、吊橋を渡ると、今度は急な登り返し!
ヘロヘロの体にムチを打って、オーラススパート。
そうしてようやく大台ケ原駐車場に到着したのが13:35でした。
乙!
まずはとにもかくにも腹ごしらえ!
バス停前のレストハウスに飛び込んでカレーうどんをすする。
途中、京都のチームのローディー4人組が相次いでゴールして、
がっつり飯を食べておりました。
おそらく9月の大台ケ原ヒルクライムに向けての練習でしょう。
そろそろそっちも再開しないといけないけど、なかなかなあ〜。
筋力的にも心肺機能的にも当時より充実しているのだけど
少なくともレース的なのはもうないかなあ。(てか気づいたらツール終わってた汗)
何より生活の大半をそれに取られるのが今となってはもったいない。
でも旅のツールとして、ロングはぜひ復活させたい!
↓カレーうどんで腹ごしらえ
うどんを食べ終え、みやげもひとしきり見て、
ちょっとビジターセンターの展示を見たりしても、
まだ1時間ほど余ってしまいました。
レストハウスのお母さんのご厚意で中で休ませてもらうことにしました。
吹き抜ける風が心地よすぎてついウトウト。
気づけば出発の15分前で、運転手さんがぼちぼちと車にエンジンをかけ始めました。
車内はむせかえる熱気だったので、出発まで車の外で待機。
大台日帰りのハイカーも含めて結構満席に近い状態でした。
予定通り15:30にバスは出発。
バスはゆっくりとドライブウェイを下っていきます。
車窓からは雄大な紀伊山地がずっとお見送り。
ほんの4,5年前にここに自走で来て、深刻なハンガーノックに陥って
工事現場のオッチャンに飯をめぐんでもらったこととか思い出す。(笑)
それにしても、よくまあこんなとこまで自走してきたなあ。
バスは一度、日和山登山口まで寄り道をして、
それからは川上村を突っ切っていきます。
大迫ダム、大滝ダム、懐かしい。
18:10には終点の大和上市駅に到着。
すぐに特急券を手配して18:36大阪阿部野橋行に乗り込む。
暑さがたまらなかったけれど、心配していたお天気もずっとよく、
同じ関西とは思えない圧倒的な大自然と、
尋常じゃないくらいのアクセスの悪さを体感できた山行でした(笑)