記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

憧れの笠ヶ岳、地獄の笠新道

木曜日。
早めに仕事を切り上げ、荷物のピックアップに急いで帰宅。
わずかの間に家族の顔を拝んでから出動。
最近は高い駅弁ではなく、
えきマルシェ新大阪内にある
エスニック料理やさんのお弁当が気に入っていて、
それを購入して、お決まりの18:40のひかり480号に乗り込む。
19:33に名古屋着。
いつものごとく、特急しなのに乗り間違えそうになりながら、
シートが反対向きになった特急ひだに乗る。
高山に到着したのが22:15。


高山駅


いつもと様子が違うなあと思ったら、
新駅舎がいよいよ運用されていました。
気になって少し見てみましたが、
なんとこれだけ大きなターミナルなのに、
券売機は1つのみ!
朝晩の通勤・通学時間は定期券利用者ばかりだろうし、
それ以外の時間帯では、特急が1時間に1本発着する程度なので、
1つあれば用足りるのだろうけど、
反対側の松本駅に比べると、高山駅は寂しすぎるなあ。
しかもこれが帰路に実際に問題になるとは
この時は思ってもみませんでした。


↓新駅舎


アルプス最終戦だし、ひさびさの山行なので、
あまり無理なく行きたかったので
前ノリは駅前のビジホでゆっくり。
まあ、無理しようにも
高山にはネカフェも何もないのだけど。


↓ビジホ泊


金曜日。
6時に起床し、コンビニで水分と食料を買い込んで、
7時初発の新穂高行きの濃飛バスに乗り込む。
流石に平日なので、乗客はまばらでしたが、
何人かの登山客はいました。
天気がすこぶる良く、これは絶好の山日和。
2時間弱で、新穂高ロープウェイの所に到着。
そこから少しだけ下って、
新穂高登山センターで登山届を提出。
ちなみに岐阜県は提出義務があります。
9時を少し過ぎて、いよいよ山行スタートします。
見上げると、すでに今回のゴールである笠ヶ岳
くっきりはっきり見えています。
すぐ目と鼻の先に感じますが、
あそこまでは地獄の登りが待ち受けているのです。


新穂高


↓すでにゴールが見えてます!


工事車両用の林道をしばらく歩いていくと、
双六・笠方面の登山口に出ます。
そこから整備された砂利道をひたすら進みます。
途中、お助け穴という風洞があったりしますが、
基本的には単調な林道歩き。
40分ほどで、笠新道の取り付きに到着。
ここからいよいよ本気の登山がスタートします。
朝は肌寒かったので、着込んでいたものを脱いで、
ドリンクをで補給をしたらいざスタート。


↓登山口


↓笠新道の取り付き


林道から茂みに分け入っていくようにして、
笠新道を進みます。
鬱蒼とした緑の間を右へ左へと行ったり来たり、
大きくジグザグを切りながら
少しずつ高度を上げていきます。
この横方向の移動が長いので、
斜度はそれほどきつくは感じないのですが
その分距離が延びるし、
なかなか高度を稼ぐことができません。
道自体は、予想していたよりずっと整備されて歩きやすく、
難所というような難所もなく、淡々と進んでいきます。


↓単調な道が続く


300mほど上がって、1700m付近から、
木々の間からわずかに眺望があり、
対岸にそびえる穂高の山並みが覗きます。
そしてさらにもう一段上がったところからは、
槍ヶ岳の突先がくっきりはっきり。
そしてさらにワイドに見渡すことのできる穂高連峰
元気をもらいます。


↓1700m地点


↓ようやくの眺望


↓1800m地点


↓槍!


穂高連峰


ほぼ11時ジャストに杓子平との中間地点の1920mに到達。
笠新道の取り付きから1時間ですが、
すでに結構歩いたように見えて、
まだ500mほどしか高度があがっておらず、
しかも全長の1/3までしか達していないのですが、
結構ここまででもバテバテ。
この日は天候が穏やかで、空気も涼しいですが、
これがシーズン真っ只中の夏場だったら、
もっとバテバテになっているでしょう。


↓1920m地点。ようやく杓子平までの折り返し


↓左俣谷が見える


折り返しを過ぎると深い森を抜け、
眺望がさらに良くなります。
見上げると、切り立った岩場がすぐ目の前にあり、
あそこまでもう手が届きそうに感じますが、
ここからがえらく長く大変でした。
森を抜けたことで眺望はさらに効いて、
それがせめてもの救いでした。


↓少しずつ植生が変わってきた


↓アッパレ!


↓槍ズーム


ひたすら、右へずーっと進んでは折れ、
左へずーっと進んでは折れ、
何度斜面を往復したか、
もはや、わからなくなってきました。
2100m地点、2200m地点と過ぎていくと、
徐々に岩がゴロゴロとした地点へと差し掛かります。


↓杓子平はまだか!


↓2100m地点


↓2200m地点


ゴロゴロとした岩の沢をまたぎ、脇をよじ登っていきながら、
背丈の低い草原を伝っていくとようやく、空が間近に見え、
草のトンネルを分け入っていくと、
ようやく杓子平に出ました。
長かった〜。


↓傾斜が急になってきた


↓トレイルを振り返って。新穂高、すぐそこに見える…


しかし、ここで、驚きとショックのダブルパンチ。
ここから見えたのは、笠ヶ岳を起点として、
抜戸岳をぐるりと取り囲む雄大なカールと、
稜線まで続く、壁のようにそそりたつ山肌だったのです。
つまりここは稜線ではなく、
その手前に前衛として立ちはだかっていた
山のてっぺんに過ぎず、
あれだけしんどかった登りが、
まだほんの序の口でしかなかったことを
まざまざと思い知らされるのです。
一方で、一つ大きな壁を取っ払った状態で、
目の前に見る笠ヶ岳の大きさと美しさに
思わず見とれてしまうというのも正直なところ。
周囲の名だたる山々から外れたところにあり、
一見して地味な印象でしかなかった笠ヶ岳の、
隠れた本当の姿を発見したような嬉しさ。


↓杓子平から仰ぐ笠ヶ岳


↓抜戸岳への登り


杓子平にこしらえられた小さな木のベンチで初めてまとまった休憩。
実はこの日、胃腸の調子がすこぶる悪く、
朝ごはんも食べずにここまで登ってきて、
腹に力が入らず相当苦労していたのですが、
さすがにここまで来ると
ハンガーノックのような症状がではじめていました。
そこで何か食べようと思ったのですが、
やはり食欲がわかず、これではいかんと、
マーブルチョコレートを1本、
ががががが〜っと流し込んでコーラをグビグビ。
10分ほど休憩をして13時にリスタート。
いよいよ稜線を目指します。


↓急斜面を詰めます


まずは雄大なカールを右カーブでなぞるようにして歩き、
抜戸岳へとほぼ直登するような形で登りがスタートします。
草ボーボーの草原の間を、幾筋もの岩の沢が伝っており、
そこをジグザグと進んでいくのですが、
杓子平から眺めていた通り、
登り詰めるほどに斜度は厳しくなっていきます。
この辺りになると、
早朝に新穂高を断ったであろう登山客さんに追いつき、
お互いに励ましあいながらパスしていきます。


↓振り返っての絶景!


↓稜線はまだ先


登り詰めるほどに手を使う場面も増えて、息も上がります。
いったん窪みのようなところに出ると、
そこから道は穏やかに天へと続き、
導かれるように上がっていくと
ようやく稜線に出ることができました。
時刻は14時。


↓あと一息!


↓ようやく稜線にでました


ここで少し休憩したら、少しだけ寄り道。
荷物をデポして、向かう方向とは逆側へ少し進んで、
抜戸岳のピークへ。
稜線から見る槍・穂高は本当に贅沢すぎる絶景でした。
そして稜線まで出ると、
今まで見えていなかった北西の眺望までがお出迎え。
この稜線の先には、平べったい双六岳があり、
その奥に三俣蓮華岳
鷲羽岳はここからは恥ずかしそうにちょこんと先が見えるだけ。
さらにその奥には黒部源流の山々、つまり、
黒部五郎岳薬師岳水晶岳といった面々があり、
その真ん中に、穏やかそうな雲ノ平の大地が
どしんと横たわっているのが見えるのでした。


↓抜戸岳


↓秋空に映える槍・穂高


↓黒部源流方面の山並み


黒部五郎岳


↓双六小屋の奥に野口五郎岳


この日は本当に穏やかそのもので、
風も撫でるような優しさで、
日差しも心地よく、
空めく秋の雲が泳ぐ様と、
それに身を任せるかのように
優しい表情の槍・穂高の山並みが素晴らしすぎて、
いつまでも留まっていたい気分になり、
なかなかリスタートが切れませんでした。


↓何度見ても見惚れてしまう


↓ふたたび槍ズーム


いつまでも飽きることなくここにいられるけれど、
そうも言っていられないので、
ようやく腰を上げて笠ヶ岳を目指して歩き出します。
ここから見る笠ヶ岳と、なだらかに続く稜線は
まだまだ果てしない感じですが、
それでもここまでの激闘に比べればイージーに違いない。
何よりこれほど贅沢な景色を眺めながらの稜線歩き!
ワクワクしないはずがない。


↓いざ笠ヶ岳


周囲の絶景を愛でながら、稜線歩き。
左手には先ほど上がってきた杓子平のカール越しに
穂高連峰
そして眼下には、朝出発した新穂高が見えます。
途中、抜戸岩と呼ばれる岩の間を抜けます。
さすがに稜線まで来ると、
アップダウンも緩やかになり足取りも軽快に。


↓杓子平ごしの穂高連峰


↓すぐそこにみえる新穂高だが…


↓名物の抜戸岩


↓黒部源流の山々、最奥に立山


↓小屋までもうすぐ!


テン場まで来ると、あとは小屋までのひと登り。
ここからはゴローゴローとした岩の間を、
マーカーに従って詰めていきます。
ところどころにガンバレの文字があったりうれしいですね。
そうして15時を少し過ぎたところで、
本日の宿泊地、笠ヶ岳山荘に到着しました。
約6時間の山行でした。
おつかれ!


↓ゴロー場を詰める


↓応援がうれしい


笠ヶ岳山荘


早速、宿泊の受付。
小屋は比較的こじんまりしていて
50人入ればいっぱいという規模。
小屋閉め前日ということでまずまず宿泊客が多いようだったが、
どうにか1人一枚の布団を確保できました。
(ちなみに小屋閉め最終日は2人で1枚とのこと)
もっと早めに到着していれば、
部屋の窓から槍穂高の臨める部屋もありましたが
9時新穂高着のバス便で山行スタートするのは
オーラス組だったようで反対側のお部屋でした。


↓さっそく受付


↓本日の寝床


↓小屋前は絶好のパノラマビュー


すでに山上は肌寒く、すぐに汗だくの服を着替えし、
乾燥室に衣類を放り込む。
もろもろ後片付けをしたら、さっそく山頂へ向かいます。
小屋の脇から、すうっと天へ続く道を10分ほどたどって
標高2897m、百名山笠ヶ岳に無事登頂。


↓いざ山頂へ


↓すばらしいロケーション


さすがに山頂は風が強く肌寒い。
レインウェアを被って、絶景を堪能する。
今朝から出ずっぱりの槍・穂高連峰は全く見飽きることがなく、
本当に贅沢。
振り返ってみると、北側にぽっかりと弓なりに黒い塊があり、
よくよく見てみると、なんと富山湾
そしてそのはるか奥に並ぶ山並みは能登半島
まさか海まで見れるとは思ってもみなかったので、大感動。
しかし、不思議なことに、
ほかの人は誰も海が見えているということに
全く気づいておらず、
ひたすら目の前の槍・穂高の姿にかじりついているようでした。
自分の場合は栂海新道でひたすら海を目指したというのがあって
深い山の中でも常に海が見えないかと探してしまいます。


笠ヶ岳登頂♪


↓三俣蓮華方面


↓北穂


↓左・涸沢岳、右・奥穂、ジャンダルムはここからは尖がり


↓甲斐駒の奥にうっすら富士山


30分ほど山頂での景色を楽しんだのち小屋に帰着。
しばし寝床で暖を取ったら、夕食の時間までの間、
夕焼けショーを堪能。
白山に沈む夕日、オレンジに染まる穂高連峰
ぽっかりと浮かび上がる月。
もう言葉は必要ありませんね。


↓小屋前から


↓撮影タイム


↓夕暮れに焼ける穂高連峰


↓美しい


↓朱槍


↓絵画のよう


↓白山に沈む夕焼け


↓今日よさらば


17:45から待ちに待った夕食。
この日はマーブルチョコだけでしのいできたので
さすがに食欲復活。
おひつお代わりをして、
ほぼ1人で丸ごと白飯をいただきました。
一緒のテーブルになった人と食後も歓談。
途中抜けだして、夜景撮影。
この日は三脚を忘れたのと、
月が明るすぎて星空は今一つでしたが、
富山平野の街の灯りはばっちり。


↓夕食


↓眠る穂高


↓富山の灯


↓星空


ということで、笠新道はうわさにたがわぬ急登でしたが
その後のご褒美の贅沢さを十分に満喫した一日でした。
2日目に続く。