記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

北穂チャレンジ Feat. Mr.K  3日目

北穂での夜は、あんまり、

というか実際ほとんどぐっすり眠れなかった。

布団1枚を確保するどころか、

広々とK先生とスペースを使えて楽々だったはずなのだが

ちょうどそこは1回へ降りる階段の目の前の

踊り場のようなところで、

夜中でもトイレに立つ人が多く

(ほとんど10分か20分おきに1人位…)、

古い木の廊下や階段のギシギシ音が強烈に鳴り響いて、

全然寝付けなかった。

いやあ、どんだけみんな夜中にトイレ行くねん、

というくらいずっと鳴りっぱなし。

あの快眠で有名なK大先生すら、

その音でなかなか寝れなかったなあと。

もちろん、限られたスペースで

みんなが寄せ集まって一晩を過ごすわけなので

誰にも文句を言いたいわけじゃ決してないんだけど、

身体が疲労している割に寝れなかったのが、

翌日の下りに影響が出ないかだけが心配な夜だった。

 

明け方、ようやくうつらうつらしていた頃に、

1階から豪快なキャベツの千切りをしているのであろう

トントントンという音が響いてきて、寝るのを諦めた。

5時になり朝食をいただきます。 

 

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朝食を終えて、まずは様子を見に外に出てみると、

真っ白けっけで視界不良。なーんにも見えません。

ガスガスなうえに、若干シトシトと雨も降っている。

もちろん気温も低い。

昨日あれだけ苦労して登ってきたルートだが、

危険度でいえば上りよりも格段に下りの方が圧倒的に難しくなる。

特にあの核心部の鎖場は、岩の表面が濡れていれば、

細心の注意を払わないといけない。

コンディションが悪いとはいえ、もう登ってきてしまった以上は

下山せざるを得ないわけで、K先生もいることだし、

いつも以上に丁寧に歩くことを心掛けねばならない。

 

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あれこれ荷造りを済ませ、

レインコンディションのウェアを装着して、

5:50に小屋を出発。

寝不足のせいだろうか、あるいは軽い高山病気味なのか、

どうも全身がだるくてザックが重く感じる。

小屋からまず裏手の北穂高岳の山頂を踏む。

昨日あれだけの絶景が広がっていたのがウソのように、

ただ邪悪な煙に巻かれてなんにも見えない。

 

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山頂から下って、松壽岩の基部へ回りこむ辺りも、

岩が雨でぬれて滑りやすく、

長年履いてすっかりヘタっている靴底に全然グリップを感じない。

歩き始めということもあり、慎重に進む。

縦走路との分岐のところで、

後続の4人組の男性が追い付いてきたので先行してもらう。

そうしてテン場までやってくる。

やはりここでテントを張っても、

ツッカケで気軽に小屋と行き来はできないよなあ。

 

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テン場を過ぎると、どんどこどんどこと岩をひたすら下っていく。

右も左も前も後ろも、ガスが濃く立ち込めて、

本当に暗いし周囲の様子が全然わからない。

時折、強い横風が右から吹いたかと思うと、

今度は左から襲ってきたりして、

Kさんも思わずバランスを崩している。

と、今度は自分がおっとっと。

雰囲気はまるで決死の撤退戦の様相を帯びてきた。

 

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昨日肝を冷やしたトラバースのところも、

足元はウェットで、暗くて見えづらく慎重に抜ける。

その先、まず1つ目の鎖場。

ここは高度感もないし、手掛かりも多いし、

鎖もあるから問題ないのだけど、

やはり濡れているという事だけでも安定感を損なうので、

慎重になる。

それからもずんずんと岩場を下っていくが、

油断すると浮石だったり、何でもないところで

スリップしてバランスを崩したりで、

思うようにペースが上がらない。

 

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それでも小屋から1時間くらいで、

核心部まで下ってきました。

ガスガスの岩場から垂直に下りる梯子。

くれぐれも慎重に行かねば…

まずは先行して自分が降ります。

梯子は、セオリー通り、両脇の支柱ではなく、

踏ざんに手をかけて、3点確保で1歩ずつ。

特にこんなすべりやすい時には

基本に立ち返って油断なく。

 

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無事に下り切ると、

そこからまず傾斜の緩やかな鎖場をするすると下る。

マーカに沿ってできるだけ山側を通過し、

その先の長い最後の鎖場の手前に

少しだけ留まれる小さなスペースがあるので、

そこで一旦息を整えるとともに、Kさんの様子を見守る。

慎重に梯子をクリアして向かってきています。

 

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そして最後の難関へといざ。

向かって右側は切れ落ちているので、

できるだけ左手へラインを取りつつ、慎重に下ります。

ここでも鎖を補助的に使いながら、

岩のクラックに手と足をはさんで3点確保で。

一か所、足で次のステップを探すのだが、

なかなか見当たらず、

予想以上に距離があって、一瞬滑り、

慌てて鎖を握りしめてどうにかセーフ@@@

でも、思わず思いっきり足を延ばして股を広げたので、

ズボンがビリっと破けてしまった@@@

その1か所以外は慎重にクリアして、

安全地帯へと無事にたどり着きました。

ふぃ~。やっぱり一筋縄ではいかないなあ。

 

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続いて、K大先生。

下から、アドバイスを送りつつ、

少しずつ丁寧に下っていきますが

さっき自分が危うかったポイントで、

K先生もちょっとバランスを崩しかけたが、

どうにか2人とも無事にクリアできました。

 

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流石に緊張の格闘が続いたので、疲労もどっと出てたので、

いったん休憩を取ることにしました。

ガスガスで上部の具合が見通せないし、

こんなところで岩が降ってきてもいけないので、

少し離れた山側の方に移動して、上部に気を配りつつ休憩。

この時はKさんも、またまたarkibito君はナーバスだね、

岩に当たる時はどうせ当たるよと、軽口を言いながら、

補給をしていました。

自分としては、ちょうどこの数日前に

富士山で落石に当たって

登山客がお亡くなりになられたニュースを目撃したばかりだったし、

油断はできないのでと、できる対策を講じていた。

 

5,6分ほど経過し、そろそろ天気も下り坂だし

リスタートしましょうかとKさんに切り出していたその時、

上部から緊張感のある大声で「ラクラク!」と聞こえた。

その声がするのは当然ルート上、つまり核心部の上部からなので、

そちらに向き直って、とっさに身構える。

でもその人の場所から別の場所からの落石が見えたのかもしれないので

必ずしもそっちからとも限らず、

全方位の上部にも注意を張り巡らす。

なにせ、ガスガスで上部の様子が全く分からない。

たぶん、実際の時間にしたらほんの数秒だったのだろうけど、

不気味な緊張感に包まれた時間は本当に長く感じられた。

そのうち、鈍いうなり声のようなグワングワンという音が

その白く濁った煙幕の中から聞こえて、そのうち、

おそらく電子レンジぐらいの岩、それにもう一回り小さな岩が、

核心部の鎖場の上部の基部辺りから降ってきた。

幸い、岩は左手の崖に向かって逸れていったのだが、

途中で別の岩や山肌にぶつかって、砕けながら転がり落ちていき、

その砕けた岩のつぶてが四方に散ってこっちへ来ないか、

本当にヒヤヒヤした。

最終的に岩は、核心部の少し下、

この先にある岩のステージから上がってきて

核心部が見えるあたりの緑のブッシュの辺りまで

転がって止まったようだった。

 

小さな石を落とすようなことはまあよくあることだけど

これほど本気の落石に遭遇するのは初めてのことで、

あの嫌に鈍い岩が砕ける音に、本当に血の気が引いてしまった。

もしちょっとのタイミングの違いで、

自分が核心部の鎖場で格闘中だったら、

どうしようもなかっただろうし、

少し早く再出発をして、

最終的に岩が落ちて止まった地点に差し掛かっていたら…

ヘルメットをしているとはいえ、

あのサイズの岩がヒットしたら、

大怪我はおろか、死んだっておかしくない、

それくらいの衝撃だった。

 

幸いにして誰も巻き込まれることなく無事だったし、

万一を想定して注意をしていたところに、

ラク!」という声で呼びかけがあったから、

事前に身構えることができた。

もし、あの声がなかったら、

ガスから岩が飛び出してくる直前まで

落石には気付けなかったろうと思う。

落石はどこで起きるかわからないし、

事前に備えられることは微々たることかもしれないが、

その微々たるところの差で結果が左右されることがある。

 

ひとまずこれ以上の落石がないことを確認し、

上部に「大丈夫か!」声をかけると、

「大丈夫です!」「すみません!」と返事があった。

すみませんということは、自然発生的にではなく、

何らかの事情で岩を落としてしまったのだろう。

これについては、確かにこのルートでは特に浮石が多く、

また雨風の影響もあったから、

いつどこで誰が岩を落としてもおかしくない状況だったし、

場合によっては自分が岩を落としていたかもしれないから、

ここは誰も被害がなかったのでそれでよしということで。

 

で、ちょうど自分たちは出発しようとしていたところで、

こんなところでモタモタして、

またえらい目に遭いたくないので、少し気を落ち着かせて再出発。

 

岩のステージをドンドコ降りていると、

上から2人の若者が追い付いてきました。

と、「さっきはすみませんでした」と声をかけてきたので、

さっきの落石のとわかり、少しお話。

どうも核心部の最初の梯子を下りて少しスペースのあるところで、

2人距離を空けず接近して進んでいて、

足場を避けるために、

マークで ×と書かれてあるゾーンへ足を入れてしまい、

その時に岩を落としたそう。

故意ではないにせよ、油断せず、

またせっかくのマークを無視せずに丁寧にいけば

防げた事案だったというわけだ。

まあ無事だったし、かなり反省もしている様子だったので、

まあ丁寧に気を付けてね、とだけ告げた。

 

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ペースの早い2人組は礼をして先へと行ってしまうが、

我々は元々ペースが遅い上に、

少なからずさっきのショックを引きずって意気消沈気味。

まあ慌てることもないので、とにかく丁寧に下っていく。

南陵の上部に比べると、高度を下げた分、雲を抜けたのか、

徐々に下の涸沢の様子が見え始める。

見えてからがまた遠いのだが…

いくつか短めの鎖場をクリアしたら、

その先は比較的歩きやすいジグザグの道なので一安心。

 

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安全な道に切り替わったら、ちょっとトイレが近かったので、

Kさんに一言告げて先行する。

そうして8:50、北穂山頂から2.5時間で無事、涸沢に帰還しました。

いやああ、長く険しい下りでした。

もうここからは難しい箇所はないので、

安全地帯。ほっと胸をなでおろします。

そのうちK先生もようやくといった安堵の顔で到着。

お疲れ様でした~@@

 

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まだまだ上高地は先なので、ここでしっかりと休憩します。

K先生はまたもおでん。

自分は寒いのでホットコーヒーをいただくのだが、

涸沢はかなり風が強くてみるみる冷えていく@@@

垂れこめるガスも、どんどん上部の稜線からこぼれ落ちてきている。

予報では昼から本格的に雨が降り出すということだったが、

もう今にも降り出しそうだ。

30分ほど休憩をして、まずは横尾を目指し歩きだします。

 

 

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ここまでの格闘での疲労と、

休憩ですっかり冷えてしまったことあってか、

どうも休憩開けの足取りが重い…

Kさんももうどっぷりと疲れている様子で、

トレッキングポールを前へ差し出しながらトボトボと。

グリーンベルトを抜けて、崩落場の手前あたりから、

雨が降ってきました。

ここから何度も降ったりやんだりを繰り返し、

その度にレインウェアを着たり脱いだり。

 

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長い道のりをKさんにハッパをかけつつ

どうにかこうにか本谷橋までやってきたのが10:10。

登りと変わらないくらいの時間がかかってしまいました。

それくらいKさんもお疲れモードで、ここでしばし休憩。

ここはぐるっと山を回り込んだ谷筋に入るからか、

涸沢での強風がウソのようで、雨も止んでいました。

 

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ここから横尾までは、ほぼほぼ平坦な道なので、

少しペースを上げていきます。

が、途中からまた雨がしとしとと降り始め、

じきに本降りへと変わってしまいました。

残り2kmくらいのところで、

あとはもう大丈夫だから先に行っといてくれとKさんの声を受けて、

自分はペースを上げて先行し、

土砂降りの中をどうにか横尾までたどり着きました。

屋根の下で、ひとまず身体を拭き、荷物の整理等をしていると

Kさんが遅れて到着。

疲労と雨でコテンパンのようです。

 

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横尾で30分ほど休憩ののち、

上高地への長い長い、いつもの道へ歩き出します。

(ここから先はカメラを出す暇も体力もなく画像なしです)

雨はもう止む気配はなく、

むしろもうこれ以上雨脚が強くならないでくれと祈るだけしかできない。

Kさんも明らかに萎え萎えの顔で、

「もう帰りたい」「もう帰りたい」と何度もぼやくのですが、

こちらも「今まさに帰ってますよ」と返すくらいしか余裕がない。

徳澤につくころにはもうとっくにドブネズミのようにびしょ濡れ状態。

身体も冷え切っていて名物のソフトクリームなぞも頭にはなく、

休憩を入れたところで、疲労が長引くだけなので、

軽く一息入れただけで、兎にも角にも上高地を目指す。

無言となって黙々と歩くようになると、辛さが増すので、

Kさんといろいろとぼやきながら、ちょっとでも前へ進みます。

もう、こんだけ降られるのはなかなかないだろうというくらいの本降り。

そういえば、Kさんとの山行はほぼ間違いなくどこかで雨に降られる@@@

 

13:40に明神館に到着。

ここでも休憩は最小限にして、先へと進みます。

ここからは一般の観光客もいて、

ボロッボロになった自分達がなんだか本当にもう…

それでもKさんも最後の力を振り絞って、

ようやく河童橋にたどり着きました。

時刻は14:30。北穂から約9時間、横尾から約3時間でした。

それにしても今回ほど横尾~上高地が長いと感じたことなかったなあ。

しんどかった~@@@@

 

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バスの時間までの少しの間に、身支度をして、

お昼ご飯を食べていなかったので

買い食いでお腹を満たす。

上高地といえば山賊焼。

 

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あかんだな駐車場へ無事舞い戻り、

とりあえず速攻でひらゆの森へ。

すでに冷え切ってふやけ切った体を

温泉に浸かって復っっっっ活!!

 

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すっかり回復して帰路につきます。

16:30にひらゆの森を出て高山市街へ。

ここまで来ると雨はすっかり止んでいいお天気。

翌日なら天気よかったんだろうけどこればっかりは仕方がないね。

東海北陸道はガラ空き、名神高速も平日ということでスムーズに。

帰阪したのが21:30。

最寄りで降ろしていただいて、Kさんとお別れ。お疲れ様でした!

 

ということで、雨に降られ岩に降られ、大変な1日でしたが

無事、北穂チャレンジ成功!!

おわり。