仙丈ヶ岳登山 1日目
それは2週間前のこと。
Kさん、なにかひどく落胆をしている。
聞けば、高校時代の友人との焼岳遠征が雨で流れて、
結局週末は換気扇の掃除だったとな。
それは大変悔しゅうございますね〜と声をかけたところ、
じゃあリベンジでどこか一緒に行くか!と、話がトントン拍子に。
こちらとしても、車を出していただけるのはまさに渡りに船。
あまり無理のないところでということで、いくつか候補を絞り、
最終的に南アルプスの仙丈ヶ岳に落ち着いた。
当日、2:00には起床し、いそいそと支度。
このところ毎週末遠征で家族には申し訳ないが、
K大先生のせっかくのお申し出を断るなんてことはできません。
言ってくるよと寝ている嫁子に念じて出発。
3時を少し過ぎたところで、Kさんが最寄までピックアップしてくれました。
そこから都島通〜R163〜花博公園通りとつないで、第二京阪に乗る。
いつも側道のR1はチャリンコで走るが、本線を車で走るのは初めて。
やはり新しい道だけあって走りやすいですな。
さくさくっと久御山JCTで京滋バイパスに乗り、そこから名神高速。
まだ早朝とあって交通量はほとんどなく快調に進む。
養老SAで一服をして、そこから小牧JCTで中央道へ。
7時前には駒ヶ根SAに到着し、コンビニでドリンク等の補充を済ませておく。
伊那ICを降りて、そこからR361で高遠。
鳥坂センパイによれば、城跡と饅頭しかないらしいが、
意外としっかりとした城下町の佇まいだった。
そこからR152で南下を始め、美和ダムの湖畔をなぞって、
少々戸惑いつつ戸台口へ。
そこから標識に沿って左折し、7:40頃には無事に、
登山バスの発着場である仙流荘(営業所)に到着。
すでに無料駐車場はびっしり。
バスの始発は出ていて我々は2便目の8:05発。
大急ぎでチケットを購入し、諸々の支度を済ませる。
人数が多くて1台には乗りきらないので臨時でもう1便の方へ乗車。
この先の戸台大橋から、北沢峠を経由して山梨県の広河原、夜叉神峠までの区間は
一般車両通行禁止となっており、この南アルプス林道バスでのアクセスとなる。
しかしこの間の台風の影響で、夜叉神峠から広河原の間の道が崩落?かなにかで
通行止めとなっていて甲府から奈良田経由で3時間近くかかっているよう。
今年は北も南もアプローチに支障が出ている。
南アルプスは今年国立公園して50周年の記念年なのに残念だねえ。
↓南アルプス林道バス
さて、われわれの目的地・北沢峠までは約1時間の道のり。
えげつない山道をゆっくりとしたペースで上がっていくのだが、
運転手さんが、車窓から見える山や花の解説をしてくれる。
前日ほとんど寝ておらず、バスに揺られながらえっちらおっちら。
道の対岸に見えている鋸岳(200名山)の山容がエグすぎてビビる。
あんなところ直登して、稜線を歩く人がいるのか。
そんなこんなで9時を少し過ぎたところで北沢峠に到着。
北沢峠は、方々のお山への起点となるベース地で、
北に行けば甲斐駒、南には仙丈ヶ岳、
そしてバスを乗り継げば広河原へと行くことができる。
健脚者であれば、この峠に立つ長衛荘に宿泊して、
1日目千丈、2日目甲斐駒といっぺんに登る人もいる。
なぜか峠の一帯だけ林道は未舗装。
たくさんの人が思い思いの方面へと向かって賑わっている。
何かボランティアの方がアンケートをされていて、
これから登る人には携帯トイレを、下山者にはオールフリーを無料で配布していた。
自分も携帯トイレをいただく。
その他もろもろ支度をしたり、記念撮影をしたりして9:25にいよいよ登山開始。
Kさん、参りますよ〜。
↓ここは仙丈ヶ岳・甲斐駒・広河原と3方向へのアクセス基点なので大賑わい
2人とも寝不足が著しく、序盤はゆったりペースで進んでいきます。
南アルプスらしい深い緑に覆われた森の中をえっちらおっちらと進む。
木々の間からのぞく空模様はあいにく白くけぶっていてあまり期待できそうにない。
爽やかなマイナスイオンを浴びながら、程よい汗をかきつつ進む。
ほどなくして1合目に到達。
まだまだ始まったばかり。
↓緑深い南アルプス
一合目から少し上ったら緩やかに下り始めます。
おおう、もう下るのかよ。上り返しが怖いよ。
鞍部に出ると、早くも二合目の標識。
ここは北沢駒仙小屋方面へ下る分岐点でもあります。
そこから、少し上りが強くなり、
右へ左へと細かく蛇行しながら上がっていきます。
森は相当に深くて、右も左も緑。
出発が一番最後だったので、
前後にほとんど人もおらず静かな山を堪能しつつ進む。
Kさんも順調快調。
三合目を抜けると、ほどほどの急登がスタートする。
登山道はゴツゴツした岩がむき出した結構歩きにくい道で、
エンヤコラショとまたいだり乗り越えたり忙しい。
この辺りから、上から下山客が続々と下ってくるようになりました。
おそらくみなさん10時発のバスを目指しているのでしょう。
なかには40人ほどの団体さんが2組も行き違って、
狭い登山道はなかなか混雑しておりました。
正直、仙丈ヶ岳は一般的な認識としてはマイナーな山だと思うのだが、
そのおかげか、山に慣れ親しんだ登山客が多いようで、
道の譲り合いだったり声の掛け合いだったり、非常にマナーが良くて、
お話していても気持ちのいい人たちばかりでした。
そういうのもいい山の条件だと思います。
団体さんと行き違う時に話を聞いてみたら、
昨日はかなり小屋は缶詰め状態のようだった。
この日は日曜日で翌日は平日なので、
おそらくそんなエグいことはないだろうけど、ちょっと心配だなあ。
細かく蛇行した岩の道を何度も折り返し折り返しして、
ようやく稜線のようになっているテラスに到達。
そこが四合目。
四合目からは進路を少し変え、比較的直線的な上りが始まります。
白樺?の間をず〜っと続く岩の尾根を一歩ずつ進む。
この辺りまで来ると、少し木々の間に切れ間があって、
そこから対岸を見渡すと、山のすそ野がチラリ。あれは甲斐駒?
でも雲のスピードが速く、あっという間に白いカーテンが遮ってしまう。
何気にハードな岩の尾根をえっほえっほと登っていくと、
一か所で人がたまっているところがあり、そこへ到着するとそこが五合目。
時刻は11:00を少し過ぎたところ。
ここまでで1.5hですからなかなか快調なペースできたので、ちょっとばかし小休止。
ここは大滝頭と呼ばれる場所で、そのまま上部へと続く展望ルートのほかに、
山肌を横切って馬の背ルートへと向かうトラバースルートに分岐しています。
↓五合目・大滝頭(ここで馬の背方面へのトラバースルートと分岐)
一服し終わったら、リスタート。
先ほどよりもさらにゴツゴツと岩のサイズが大きくなり、
斜度も結構急になってきました。
ロープ場とか難易度の高いような場所はなかったが、結構体力を擁する区間。
やはり入門的な山と言えど、ナメてかかってはいけないのです。
徐々に周囲の木々の高さも短くなってきて、
ついに森林限界を突破するとそこが六合目。
より標高が高くて空気の薄いがためにしんどいところはあったけど
純粋に一番きつかった急登部分はこの五合目から六合目かな。
↓六合目。ここで森林限界、視界が開ける
ということで11:40に六合目に到達。
森を抜け、ここからは展望開ける爽快な稜線歩き!
と思いきや厚い雲のせいで白いカーテン…
雨は大丈夫そうだが、肝心の展望は望めそうにない。
本当なら対岸に甲斐駒がそびえ、南東方面には鳳凰三山、
お隣には北岳〜間ノ岳の日本一高い稜線。
うまくいけばその後ろに富士山まで見えて
トップ3そろい踏みなんてのも見えるはずなのになあ…
ここから上を見上げると、遥か上部の七合目は白い霧の中。
上へ行けばいくほど雲がいるドンピシャのゾーンに入っていくので、
少し早いが、まだ展望が効いて、雨が降っていないこの六合目で
昼食タイムを取ることにします。
Kさんは、最近山のお知り合いの間で好評のカップヌードルそうめんを持参。
やっぱりなかなかウマイらしい。今度実食してみねば・ザビ。
自分は蝶ヶ岳でうまくいったパスタセット。
まずは小さい方のコッヘルで水を沸騰させて、
そこにレトルトのソースを入れて温めておく。
その次に、大きいコッヘルに水を少なめに入れ、持参の塩を入れてペンネをゆでる。
あとで茹で汁があまって飲むのが嫌なので、水を少なめにしたのだが、
ちょっと少なすぎて(あとちょっと吹きこぼした)、
ペンネが吸う水分が十分じゃなくて少しゆで時間がかかる。
余った茹で汁をソースを温めているお湯に足して、そちらでオニオンスープを作る。
ペンネの上に温めたレトルトソースとチーズをかけて完成。
あと副食にツマミ用のチーズとサラミ。
今回はゆったり昼食に時間をかけることがわかっていたので
ちょっと豪勢にしてみました。
完璧とまではいかずともそこそこ周辺は展望が効き、
他の山も五、六合目付近までは見えて
のんびりとおしゃべりをしながら1時間弱のランチでした。
休養十分で12:30リスタート。
長めの休憩後はいつもちょっと、コンディションが崩れてしまうのだが、
この日もちょっとペースが鈍る。
いったん休むと疲労がジュワ〜ンと溜まってくるし、
そこそこ胃袋が満たされてしまって肺を圧迫して息が浅くなるためだ。
六合目からは展望は開けるのだが、なかなかの急登で、
じわりじわりと体力を奪っていきます。
途中、下ってきた妙に黒々としたおっちゃんがいて、気になって話しかけてみると、
どうも山行10日目らしく、西は伊吹山から白山、御嶽山など
6,7つの山を転戦してきたそうだ。
それはそれはご苦労様ですなあ。
聞けば午前中はまだ晴れていて、山上で北岳方面は見えていたらしい…
むう、天気ばかりは仕方がないとはいえ、やはり残念であるなあ。
おっちゃんと別れて、さらに厳しい上りを進んでいきます。
西の方には馬の背ルートが見え、
その左上部には馬の背ヒュッテがポツンと立っていました。
そのわずかな展望を楽しみつつ、さらに上部を目指しますが、
さすが女王様と言われるだけあって器が大きく、まだまだ先は長そうです。
↓六合から小仙丈ヶ岳を目指す
途中で、ちょっとお疲れの色が見えてきたKさんに
先へ行ってていいよとお許しを得たので
さすればと、少しペースを上げて急登を上り詰め
小仙丈ヶ岳と呼ばれる標高2855mの七合目に到達したのが13時。
ようやく山上へたどりついたという感じです。
Kさんが来るまで少し時間があるので少し写真タイム。
ここまでザックから出すのもぶら下げるのも面倒なのでしまっていた一眼レフを取り出して
あっちこっちパシャパシャ。
雲の流れが速く、特に西側は時折雲の切れ間から駒ヶ根市がちらほら。
ただ、北岳との間の谷筋だけはどんよりと雲が停滞していて全く眺望が効かず…
しばらくしてKさんが、ハフハフ息を切らせながら到着。
寝不足と朝の運転がここにきて影響しているようです。
なんといってもここでも標高は2800mを越えているので、無理せず参りませう!
↓小仙丈ヶ岳(七合目)
↓小仙丈ヶ岳から振り返って
↓あの白のカーテンの向こうには北岳がいるはずなのだが…
さて、七合目から先を見やると、
ジグザグと鈍いアップダウンが続いている様子。
そしてその先に、見事な千丈カールが7割ほど顔を出しております。
さすが女王様だけあって、なかなか麗しくどっしりとした山容。
東側には白根三山の稜線があるのだが、
見事に稜線部分から上が雲に隠れてしまっております。
突先だけは絶対に見せない、崖っぷちグラビアアイドルかよ!というくらい、
先っちょだけ見せてくれません…
ちょっとだけでいいから見せてえな。減るもんやなし。
さて、稜線伝いに山行は続きます。
基本的には緩やかな道で、それほど高度も上げずに進みますが、
所々岩礁のようなものをヨッコイ庄一と乗り越え、
その先で岩場を下るような部分もある。
少し風が出てきたので、慎重に上ったり、下りたりをくり返し、
13:40に八合目に到達。
でも七合目からどちらかというと登ったというより、
いったん標高を下げてるんでないの?
そうなると九合目までの上り返しがちょっと嫌な予感です。
↓七合目からアップダウンの応酬。こんな岩礁も越えていく
で、案の定八合目からは上り返し。
うっすらと白いカーテンの間から見え隠れする高いピーク。
あれが山頂ではなくて九合目なんだろうな…
Kさんもちょっと息が続かないようで、
細かく立ち止まって小休止を取りながらボチボチ進みます。
こんなとき、スカッと眺望が開けていたらどれだけ疲れがまぎれるか。
今はただ真っ白の中、険しい上りを淡々とこなしていくのみ。
はあ。山歩き自体が好きなのでこれはこれでいいんだけど、
やっぱりせっかくならみたいよねえ、絶景。
と嘆きつつ、岩ゴロゴロの急登を詰めて行きます。
そうしてようやく九合目に到達したのが14:10。
さあ、ここで運命の分かれ道。
さらにまっすぐ続いている急登を詰めて山頂へ行くのか、
それともこの右手に分岐している小屋直行のトラバースルートで小屋を目指すか。
小屋の方には15時には小屋に到着してくださいと釘を刺されているし、
このまま山頂経由で50分はなかなか微妙なライン。
さあ、Kさん決めてくださいね!
って、一瞬の迷いも見せずにトラバースルートへ進むKさん!待って〜!
しかし、さすが大先生でございます。迷いなき決断。恐れ入ります!
八合目から稼いだ高度をずんずん消費して、山肌を縫いながら下っていきます。
前方は真っ白な霧であとどのくらいか視認できないが、
近くで声がするのでもじきだと思ったら、
ぬわ〜っと霧の中から小屋が現れました。
ということで、本日の宿泊地・千丈小屋に到着。時刻は14:30。
ここで標高2890m、山頂から140mほど下になります。
あとで、山頂を踏んでわかったが、もしあの分岐で山頂を目指していたら、
おそらく16時くらいに到着になっていたかもなので、
あれはナイス判断でした。さすがK大先生です。
早速予約名を言って宿泊の受付。
中々年季の入ったオッチャン=個々の山番のオーナーさんが
チャキチャキと切り盛りしているなかなか気持ちのいい小屋です。
この日はほぼジャスト定員55名の予約+飛び込み客らしく、
飛び込み客は夕食後の食堂を開放するので、
寝床は布団1枚に1人確定らしい。
それは大変ありがたい。
いったん外に出て3階の寝床へと案内される。
ワンルームの大部屋でこれはイビキの大合唱が予想されるなあ…
あと、この小屋の素晴らしいのはトイレが全然臭くない!
一旦部屋から外に出て小屋を回り込まないといけないのだが、
全くノープロブレムの清潔なトイレでした。
全体的にすごくきれいに保ってあって、クオリティの高い小屋だと思います。
さて、とりあえず簡単に荷物を整理して、
自分はここから3,40分ほどの山頂へアタックの準備。
小屋のおやっさんは他の客に今からは雨が降るし、
明日もあるから登頂はやめた方がいいと説得していました。
どうせ翌日にも登る予定なのだが、天候が天候なんでまだ可能性の高いうちに
さくっと最低ノルマだけは達成しておきたい。
ここまで来て踏めないとなるとホントもう残念すぎるので。
K大先生は、だいぶ睡魔と疲労がたまっているようで、
荷物を寝床の前にざくっと置いた途端、ハタッとコト切れてしまいました。
南無〜。
ということで、より深くなってきた霧の中をスタートします。
雨という雨ではなく、霧のミストがまとわりつくような感じで、それほど問題なし。
問題は雨よりも風ですが、それも少し収まり気味なので大丈夫でしょう。
小屋の横の登山道をえっちらおっちら上り詰めて、10分足らずで地蔵尾根分岐まで到達。
ここからカール上部の稜線を伝って、最高地点を目指す。
道は結構岩が散乱するルートだが、大して難しくはない。
問題はここまで上がってくると、
カールの向こう側の谷筋から上がってくる強烈な風をモロに受けること。
右からの強い風を浴びながら、左手のカールに落ちないようにそちらに重心をかけて進む。
地蔵尾根分岐からは3段階ほどの上りの区切りがあり、
最初は緩やか、中断で少し斜度が上がり、ラスト少し上るといった具合。
途中、天然の石室のようなところを抜けると、ケルンがいくつも積んであるところに出る。
ということは、あともう一押し。
途中で、先行していた空荷のおばさま3人衆とすれ違い、15時に登頂。
小屋から約20分といったところです。
標高3033mの仙丈ヶ岳に無事登頂。日本で18番目に高いお山です。
3000m峰21座のうち、自分は5つ目の登頂です。
忌々しい台風の影響で当然周囲は何も見えず。ただ強烈な風と真っ白な世界。
ん〜。見えん!見えんぞ!私には何も見えん!(by赤い人)
それを慰めるかのようにひょっこりイワヒバリさんがでてきてくれました。ありがとね。
とりあえず三角点をパチリ。そしてお決まりのシェ〜ポーズで一枚。
風に煽られて体勢が維持できにゃ〜い!
↓標高3033mの仙丈ヶ岳
↓イワヒバリさん、こんにちは
何も見えないどころか、たたきつける風があまりにも無慈悲なのですぐに下山です。
来た道を慎重に下って15:20には小屋に戻ってきました。
K大先生はというと、出発した時と1mmも変わらない体勢のまま、
安らかな吐息を吐いておられたので、そのままそっとしておいて、
自分は濡れた衣類を着替えたり、明日の準備でザックを整理したり。
そのうち16:30頃にふとKさんが目を覚ましたので食堂の方へ早めに。
17時に夕食がスタート。
まずは団体さんから食事を取りに行くのだが、
なかなかおやっさんのハンドリングが独特で、余計に混乱をきたしているような…
そして自分たちの番となり、食事を受け取ります。
おかずが豊富で、なかなか充実の晩御飯。
張り紙に、「キーンと冷えた生ビールやってます!」とあったので、
1000円するが自分へのご褒美に注文。
プハァ〜♪うまいねえ。たまらん!
同じテーブルに同席したのは、名古屋からおこしの女の子二人連れファミリー。
ためしに、女の子に山歩き楽しい?と聞いてみると、
超真顔で首を横に振って「好きじゃない!」と断言し、思わず吹く。
どうもお母さんが長野出身でずっと登山をされているらしく、連れてこられたそうです。
聞けば、今年は雪が深くほんの数日前に開通したばかりの藪沢新道を
6時間で上がってこられたとのこと。
子連れでと考えると、なかなかのハイペースです。
お母さんが結構スパルタンなのかも?
色々とお話をしながら食事をしていると、窓の方が明るくなったので見てみると、
さっきまで分厚くのしかかっていた霧が少しずつ晴れてきているではないか?
これは本日唯一のチャンスなのではと、大急ぎで食事を済ませて小屋から外に出る。
強烈な風が吹き付けてとても寒い!
が、この風のおかげで雲が吹き飛ばされているようで、
振り返ると、さっき踏んだ山頂を中心にぐるりと扇型に張り巡らされた
藪沢カールの全体像が浮かび上がってきました。
おおう、こんな風になっていたのねん。
小屋はそのカールのちょうどど真ん中に立っているのでした。
そうこうしているうちに北沢峠を挟んで立つ甲斐駒が少しずつ姿を見せ始めました。
とても速いスピードで雲が飛び散っていくさまは、
まるで甲斐駒がモウモウと沸き立つような感じで、
その男気溢れる険しい山容のイメージと相まって、ものすごく幽玄な印象でした。
↓藪沢カール(右端ピークが仙丈ヶ岳頂上)
ひとしきり写真を撮って、ふとあることを思いつく。
ここでこれだけ雲が晴れたのなら、主ルートまで行けば、
ひょっとして白根三山の方も雲が晴れているのではないか?
そう思い立つと、一目散で寝床に取って返して、
風が強いので上下レインウェア装着、ヘッデン装備、登山靴に履き替え、
九合目までのトラバース道を登り始めました。
時間的にすでに17:40なので、日没の19時までわずかなチャンスに掛けます。
Kさんは、この時間から出て大丈夫かと心配しておりましたが、
すでに歩いたルートで距離感もつかめているので、無理しないという約束で出発。
15分ほど登り詰めて九合目分岐に到達。
登山道から少し外れたところに見晴らしの良いテラスがあったのでそちらへ少し上る。、
すると、激しく流れている雲の合間からいくつかの山々が姿を見せてくれました。
先ほどから顔をのぞかせている甲斐駒から右へと視線をずらしていくと、
でっかい山塊がどーんと鎮座しています。
あれが百名山の鳳凰三山。
ちょうど左手に、チョーンとアンテナのように鋭くとがったピーク、
あれが地蔵岳のオベリスク。
あちら側の谷筋は風通しがよいようで、雲がひっきりなしに通るのだが溜まることなく、
よく見える。
そして件の白根三山はというと、野呂川の谷筋には分厚い雲が陣取って、
むしろ仙丈ヶ岳の山頂方面からどんどん雲が零れ落ちてきては溜まっていくので、
全然全く何も見えない。
しかし、まだ時刻は18時。できるだけ粘ろうとここでしばらく待機し、
目まぐるしく変わる北側方面の空と山容を眺めながらチャンスをうかがう。
すると、一瞬だけ分厚い雲の端っこが風で流されて、ひょっこりと意外な人が顔を出した!
アレは…富士山だっ!
しかし、その姿もすぐに次の雲の塊の中に消えて、本当に一瞬の出来事だった。
↓鳳凰三山
そこからもう少しだけ同じ地点で粘ってみたのだが見込みがなさそうである。
仕方がないので撤収することにしたが、まだ時間的にも体力的にも余裕があったので
このままトラバースルートを帰るのではなく、
九合目から未踏の正規ルートを登り返して、山頂を踏んで帰ることにする。
この日の日没は19:05。
こちら側(東)はダメでも、ひょっとしたら西側は雲が流れて、
日没ショーが見れるチャンスがあるかも?と期待したのだ。
登山途中も、わずかではあったが駒ヶ根市の平野部を見ることができたし、
望みは薄いにしろトライする価値はあるだろう。
再び山頂を目指して歩き始める。
まずは目の前に見えているピークへ向かってガレガレの上りをヒーヒーこなす。
Kさんとここに到着した時はあれがピークだと思っていたのだが、
偽ピークだったので、やはり小屋行き選択は間違いじゃなかったと判明する。
そこから藪沢カール側に取り付けられた狭い狭いルートを伝っていく。
登るにつれて風が暴れ始めるので山肌側に重心をかけつつ進んでいく。
すると目の前にもう1つでっかい山塊があり、それを藪沢がに巻き道で巻く。
そこからまだもうすこしゴツゴツした岩場を上り詰めると、ピークに到達しました。
やあやあ、久しぶりだねえ。ってまだ3時間ちょっとぶりだけどね。
1回目よりも風はさらに凶暴さを増していて、その風に乗って雨のつぶてが顔をたたく。
残念ながら山頂では展望ゼロのため、写真だけ撮ってすぐに下山開始。
時刻はもうじき19時。すぐに日没なので大急ぎで一度通った小屋までの道を下る。
ついさっき登って道の具合や距離感がわかっているので心配はなかったが、
みるみる迫る暗闇で、ちょっと焦ります。
期待した西側の景色も、分厚い雲に覆われてまるで駄目。
無事に小屋にたどり着いたのが19時15分ごろ。素手に周囲は真っ暗。
結局山頂周りは無駄足に終わってしまったが、
しかし意地の富士山ゲットで面目躍如といったところか。
食堂で熱いお茶で一服し、テレビで明日の天気をチェック。
明日は余計具合が悪くなりそうだ…
19:30になって寝床へ戻ると、消灯時間は20時と言っていたのに、
すでに消灯されていてほとんどの人が早めに就寝していた。
暗闇の中でビショビショのウェアを着替えて、荷物を整理し、
20時には寝床へもぐりこむ。
ここから寝れない一夜が始まるのであった…
つづく。