記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

沈殿する水都

かつて八百八橋と称された水の都。
煌びやかなネオンに包まれた陸の喧騒や、
街を切り刻むようにして四方へと触手を伸ばす高架線がもたらした
絶望的な影の世界、
あるいは欲望をむき出しにしたブルドーザーによって
容赦なく埋め立てられ、拡張してゆく鉛の街の片隅で、
川とともにあった暮らしの記憶は、
鈍い光沢をたゆらせるヘドロと化して、
忘れられた運河の奥底へとゆっくりと沈殿していった。
季節外れの強い雨と風が夜を切り裂いて、
きゅうきゅうと物悲しい叫び声をあげる闇に紛れ、
伝道師が念仏のように、物語を漕ぎ出せば、
水の記憶が亡者の如く具体を帯びはじめ、
発光船の放つ灯に導かれるようにして、
今ゆっくりと水面へと浮上する。
そう、ここはかつて八百八橋と称された水の都…