翻訳家・柴田元幸の朗読会『スティーヴン・ミルハウザーのリアルな幻想』
昨夜は、京都丸太町の誠光社へ。
日本における現代アメリカ文学研究の第一人者で、
文芸雑誌『MONKEY』の責任編集を務め、
売れっ子の翻訳家でもある柴田元幸さんによる朗読会です。
<訳/柴田元幸>とクレジットにあるだけで、
これはきっと面白い本に違いないと手にしてしまうほど、
もう、とっても大好きな翻訳家さんです。
ポール・オースター、チャールズ・ ブコウスキー、
スチュアート・ダイベック、バリー・ユアグロー、
エドワード・ゴーリー、レベッカ・ブラウン、
リチャード・パワーズなど、
そうそうたる面々の著書を手掛けておられるが、
この日は、新刊の『十三の物語』(白水社)の刊行を記念して
スティーブン・ミルハウザーの世界がテーマ。
1996年の著書『マーティン・ドレスラーの夢』で
ピューリッツァー賞も受賞したミルハウザーの作品はとてもユニークで、
まるでヒステリックなほどに克明で詳細な情景描写や、
病的なまでにこれでもかと同じシークエンスが繰り返される反復技法、
あるいはまるで『トムとジェリー』や『タイニートゥーンズ』のような
古き良きアメリカンコミックアニメのような劇画チックな物語が展開され、
どことなく居心地の悪さや不気味さを漂わせながらも、
それが病みつきになって離れがたいという、
一種ジレンマのような感覚を覚えざるを得ない独特な印象を与えてくれる。
映画でいえば、デビッド・リンチやコーエン兄弟の作品のような感覚といえば
伝わりやすいだろうか。
リアルかつ克明な記述で埋め尽くされていながら、
一方で全く非現実的でキッチュで幻想的。
まさに空想の魔術師というフレーズがピッタリな作家である。
早速、柴田さんが登壇し、
短編の『大気圏外空間からの侵入者』からスタート。
身振り手振りを交えながら、鬼気迫るような語りは、
まるで強迫観念にかられたように
敷き詰められた具体的な描写や言葉の厚みにマッチして、
非常にスリリングかつ生々しく、
それはまるで1938年のラジオ放送で流れた
オーソン・ウェルズの『宇宙戦争』のパロディー的再現のようであった。
他にも、『ある夢想者の肖像』からの抜粋、
いつ出版されるかわからない没原稿に近い?作品『四面体』、
ミルハウザーとの比較として
イタリアの作家イタロ・カルビーノの作品なども披露され、
非常に濃密な文学の世界を味わうことができましたが、
ラストの短編『ホームラン』などは、
柴田さんの真骨頂で、実に痛快。
リアルと非リアルとの間にあるほんのちょっとズレ、
その違和感こそが、感覚を敏感にさせ、創造の余地を与えてくれる。
それはもう完全に中毒性を伴った享楽であった。
活字として読み進めるのとは違って、
声の質感や強弱、温度感が同時に伝わる朗読は、
ほどよく自分の想像力の間に生の感情を送り込んで、
黙読するだけではたどり着けなかった創造の境地を与えてくれる。
朗読とは言いつつも、柴田さんのそれは
むしろ現場からの実況中継のような臨場感、
あるいは立川流の押しの強い落語のような世界観、
時には、まるで環ROYのラップのような
ダイナミックで力強い熱の帯びようで、
とても興味深く、非常に楽しめました。
終了後はサイン会。
本当ならミルハウザーの新刊『十三の物語』にいただくべきなのだが
実はすでにサイン本を購入してしまったこともあり、
それならばと、自分にとって不動1位、最愛の一冊である
スチュアート・ダイベックの『シカゴ育ち』の方にサインをお願い。
柴田さん「ダイベックも味わい深くていいよね〜」と快く応じていただきました。
誠光社の堀部さんとも久しぶりにお話し。
先日の『ワンダーウォール』についてあれこれ。
創造の豊かさに触れる夜でした。