記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

柴田元幸朗読会「少年少女」at 喫茶月森

こちらも11月のおはなし。

本好きの自分が特に好んで読むのが、

ポール・オースターやスチュワート・ダイベック

スティーブン・ミルハウザーなどのアメリカ文学なのだけど、

それらを軒並み翻訳されているのが柴田元幸さん。

翻訳の素晴らしさ、心地よいリズムを刻む文章力はもちろんのこと、

作品や作家選びの目利きの妙はまるで超一級のソムリエのようで、

柴田さんの翻訳本はハズレなしです。 

 

以前、誠光社で行われた、

柴田さんが自ら翻訳された小説の朗読会に参加させていただいて、

こんな新しい文学へのアプローチがあるんだと、

すっかりハマってしまいました。

 

それまでは、朗読というと、アナウンサーの人が

静かに本を読み上げるようなイメージしかなかったのですが、

柴田さんのそれは、まさに言葉のリングファイトのようなもので、

まるで熱狂的な海外の手に汗握るサッカー中継のようだったり、

独創的な創作落語の様だったり、あるいは見事な演説の様で、

兎にも角にもROCKだったのです。

 

11月の寒い夜、阪急六甲駅から歩いてすぐの喫茶月森という、

小さな喫茶店に、かつての文学少年少女が集まり、

美味しいコーヒーとドーナッツをいただきながら、

肩を寄せ合って、柴田さんの朗読に耳を傾けました。

 

f:id:arkibito:20191109175841j:plainf:id:arkibito:20191109203830j:plain

f:id:arkibito:20191109180452j:plain

 

今回の朗読会のテーマは「少年少女」です。

 

まずは、エドワード・P・ジョーンズ『最初の日』というお話。

母子が小学校の入学の手続きのために学校を訪れる話で、

母親の色々な表情や心情を鋭く捉える、

子どもの目線に沿って描かれていて、

そこからは色々な問題を抱えているであろう家庭の様子がつぶさに垣間見える。

淡々とした柴田さんの声が、

そのいささか張りつめた様子を見事に描写していて、

ものすごく印象に残りました。

 

続いて、スチュワート・ダイベック『マイナームード』。

気管支炎を患った少年時代を振り返る話なのだけど、

のどを労わるために、寒い冬にたっぷりの鍋やヤカンで湯を沸かし、

その蒸気が部屋いっぱいに白く充満してゆく様子だったり、

色々な楽器や音楽的な話題がそこかしこに登場して、

イメージや音が頭の中に次々と浮かんでいくようでした。

 

続いては、ブライアン・エヴンソン『シスターズ』。

ハロウィンを迎えたお化けの2人の女の子の話なのだけど、

これは全く奇想天外なユーモア作品で、

色々と面白おかしいシチュエーションを頭の中で描いていくのだけど、

それはそれはおかしくて、みな大爆笑。

ラストはまさかまさかの衝撃的な幕切れで、びっくり。

その楽しそう、面白そうが全く漏れ出たように、

弾んだような声で話を続ける柴田さんの生き生きとした様に、

こちらも思わず心が躍りました。

 

それからサリンジャーの未稿分で、

『STORY』という雑誌において、

サリンジャーの才能を見出した恩人の編集者ウィット・バーネットに向けた

『ウィット・バーネットに敬礼』という文章。

実はこれは法律的に版権がまず得られないので、

まず本になることはないのだそうです。

 

最後は、ウォルター・デ・ラ・メアの『謎』。

あるお屋敷に暮らす寝たきりのお婆様と7人の子供たちの話。

屋根裏にある古い長持には近づいては行けないよ、

というお婆様のお告げにもかかわらず、

1人また1人子どもたちは吸い込まれて姿を消してしまう、

というなんともミステリアスなお話が、

実に耽美的な言葉によって描かれていて、

古いフィルム映画の白くモヤがかかったような

幻想的なイメージが瞼の裏に広がっていきました。

 

f:id:arkibito:20191109180502j:plain

 

休憩をほとんど挟まず2時間立て続けの朗読会でしたが、

バラエティに富むストーリーと、様々な表情を見せる語り口で

見事に物語の奥深くへと引き込まれて、あっという間でした。

 

そのあとは、質問タイム。

どんなふうに翻訳されているのかという質問に対しては、

翻訳は完璧を目指さず、

むしろ自然に読んでいる速さで訳したいとおっしゃておりました。

詩訳についてはなかなか難しく、

絵や原文を添えることで多角的に意味を捉えるようにしていますとのこと。

 

翻訳は全くの杓子定規なものではなく、ともすれば、

原作者のイメージや意図を間違った方向へ捻じ曲げてしまったり、

世界観を壊してしまう危険性をもつほど、

作品と密接にかかわる重要なパートですが、

柴田さんの場合はむしろ、イメージを増幅させたり、

世界をより立体的に浮かび上がらせたりしていて、

そのためにはまずは原作者との深い信頼関係が結ばれていたり、

その作品だけで完結するのではない、

様々な前後関係や歴史背景、幅広い分野に対する知識があってこその賜物。

そして何より、想像力を使って飛べるということが大切なのだろうと

改めて感じました。 

 

そして、朗読会の最中には、会場の後方で、

絵本作家のきたむらさとしさんが、朗読の内容を聞き取りながら、

そこから連想される様々なイメージや情景の描写を、

絵として描きだすということをされていて、

長い巻物に一連のストーリーが、

エジプトの壁画のように見事に並んでいて、

それも見事でした。

 

f:id:arkibito:20191109192252j:plain

f:id:arkibito:20191109192256j:plain

 

閉会後は、即席のサイン会。

ちょうど出版されたばかりの『MONKEY Vol.19』にサインいただきました。

その際に、お土産として、

似顔絵もお贈りさせていただきました

 

f:id:arkibito:20191109204108j:plain

f:id:arkibito:20191226164526j:plain

 

いやいや、ものすごく濃密な夜でした。

イマジネーションの栄養をたっぷりいただきました。

企画頂いた熊谷さんにも感謝です。

ナズドローヴィエ!!