記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

2018Gパトの夏 パトロール初日 大波乱の幕開け

さて、朝日小屋1日目の朝がやってきました。

山小屋の朝は早い。

まだ明るくなる前4時には起床し(小屋スタッフはさらに早い)、

身支度を済ませたら宿泊客の朝食の準備に追われる。

特に朝日小屋はどこへ行くにも遠いため、早立ちが大原則、

しかもお客様みんなそろっていただきますをするので、

5時の朝食スタートに向けて厨房は大わらわになる。

初日ということもあり段取りがわからず

足手まといにならぬようにわきまえつつ、

加勢できるところは加勢して、

翌日からの仕事を覚えていく。

お客様の食事の片付けの一方で自分たちの朝食も慌ただしく用意し、

これもスタッフ全員そろっていただきます。

 

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連泊のお客さん以外は、朝食を済ませると、

てきぱきと荷づくりを済ませ、方々へと出発される。

そのため、もう6時も過ぎれば、

小屋の関係者以外はすっからかんになります。

(出発が遅いとゆかりさんからハッパかかります笑)

 

朝食を済ませたら6:30にはみな外へ出て、一斉にラジオ体操。

これが日課です。

みんな小屋前の広っぱに方々散って、ラジオ体操第1、第2。

よく食べ、よく体を動かし、そうすることで頭もスッキリ!

 

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ラジオ体操が終わったら、ベンチに集合して、

思い思いのドリンクをいただいて、ミーティング。

この日はとてもよく晴れ渡って、

向こうに見える雪倉岳や白馬岳もきれいに。

これが日常の風景になっていくのです。

飽きるどころかずっと眺めていられる。

というよりも、いっそその一部に溶け込んでしまいたい。

 

この日は、朝日・白馬2班は

もう一つの拠点である白馬山荘での1週間駐在に向けて、

早くも出発しないといけません。

それに合わせて、我々の本日の任務は

山域のざっとした把握のための下見から始めますが、

1つお手伝いをすることになりました。

ちょうどこの日正式に通行が可能になる

水平道の案内板を立てるという任務です。

そうです、水平道と言ってもちっとも水平じゃない!と

登山客にご好評のあの水平道です。

また、この頃はまだ、雪渓が完全に溶けきっていないことで、

いくつか道迷いしやすい箇所があり、

また雪渓が日々溶けて様子が刻一刻と変化するややこしい時期なので

そういうポイントに道しるべを設置するのです。

 

ちなみにこういった道標や、道を指し示すピンクテープ、

虎ロープあるいは岩場の赤ペンキといった類のものは、

関係者以外の人間が勝手に設置したり書いたりすることは絶対NGです。

これらは山岳警備隊や小屋番などの山の所有者・管理者、

あるいはそれらの人から指示 or 許可を受けた人が

責任をもって設置することが決まっています。

時々、個人登山客やどこかの山岳会が勝手に目印を付けたりしていますが、

それは自分勝手な善意でしかなく、

無責任な情報によって

事故や遭難を引き起こす要因となる可能性があるうえに、

自然環境を壊す行為なので、絶対にしないでください。

(六甲なんかでも最近この手の荒らしが常態化してしまっています…)

 

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さて、カメちゃん&姫はそろそろ出発の時間となり、

我々も一緒に出ることにします。

自分とクマさんは木製の看板を3つ、

それからでっかいハンマを背負っていきます。

ちょうど水平道の木道を整備している

建設会社の親方(通称ガッパさん)も出るというので、

4人は後ろについていきます。

小屋が水を引いている沢にはまだ雪渓が残っていて、

ステップを切りつつ横断。

さらにその先には短いながらもそれなりの鎖場。

でっかい看板やらハンマーをやりくりしながらはちょっと難儀。

 

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それらを抜け、少し下ると木道がスタートします。

ガッパさんは毎日の通勤路をスイスイと進んでいくのですが、

自分たちはそのペースについていくのがやっとという感じ。

そうこうしているうちに、看板を設置するV字谷の上部に到着。

ガッパさんはそこからさらに先にある持ち場の方へ行かれ、

カメちゃんと姫もこの後の行程を考えて一緒に先行してもらいます。

また交代の時までさらばじゃ!!

健闘と無事を祈る!!

 

クマさんと2人残って、運んできた看板の設置作業をします。

このV字谷は、朝日岳の南斜面に位置し、

いったん大きく下ってから登り返しを要するポイントで、

この時期はそのくぼんだ地形に雪渓が遅くまで残り、

急斜面を形成していました。

その谷の上部に、できるだけ水平にトラバースする道を、

ガッパ隊が整備中だったのですが、まだ作業を始めたところで、

壁の様にそそり立つ雪渓を通過しないといけません。

しかし、そのとりつきがわかりにくい上に、

日々雪が解けて形を変え、マーキングを消していくので、

余計に難儀なことになっていました。

そこで、谷の入り口にそれぞれ看板を設置するのです。

登山客から見てわかりよい場所や、看板の向きを検討し、

狙いを定めてくい打ちし、周辺の石を積み上げて補強します。

谷の上部と、雪渓を下った谷の底に無事設置できました。

 

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設置を終え、とりあえずおつかいは終了。

ひとまずこの日は水平道の先、

雪倉岳の最低鞍部辺りまで偵察しつつ、

植生のチェックやグリーンロープの具合などを確認することにします。

さらに水平道を進んで、朝日岳への直登との分岐のところに、

ガッパ隊の皆さんがいらしてご挨拶。

みなさんは、年月が経って朽ちてしまっている古い木道を

いったん全部剥がして、

新しい木道に張り替える作業をされていました。

ガッパさんよりも先に現場に到着し、

作業している人のうち2人はネパールのシェルパです。

どんな大変環境でもしんどい作業でも、いつも笑顔を絶やさず、

とてもとても働き者の方々でした。

彼らとも1か月寝食を共にすることで大の仲良しになりました。

 

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さて、我々は分岐からさらに先へ進んでいきます。

しばらく進んでいくと小桜ヶ原と呼ばれる一帯に出ます。

この辺りも植生が豊かで、色々な高山植物がみられますが、

まだまだ勉強中の我々は、どれがどれやら@@@

咲いている草花を、配布された高山植物ガイドと照らし合わせながら

ああでもない、こうでもないと。

そして、この一帯の湿地帯には、

侵入を防ぐためのグリーンロープが設置されているのですが、

それらがほどけてしまっていたり、

たるんでしまっている箇所が多々あったので、

それらを補修していきます。

 

作業を続けながら、どんどん先へ進み、

大男山を巻いて、崩落地を抜けます。

しばらく進むと最低鞍部と呼ばれる場所に到着しました。

ここには水場があるはずなのですが、

この猛暑のせいで枯れてしまっていました。

また、ここらでは指定外でありながら闇テンをする人がいて、

そういった人のゴミなどが残っているのを片付けたりします。

こういった不法なことをする人に注意喚起するのも

我々の仕事の1つ。

 

そうこうしていると、

白馬方面から朝日小屋を目指してやってくる登山客がぼちぼちと。

そういう人たちに挨拶をし、

あとどのくらいですか?などという質問に答えたりしながら、

30分ほど滞在。

 

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小桜が原まで戻って、ここでお昼ごはん。

女子スタッフが作ってくれたスタミナ満点のお弁当をいただきます。

朝早くから働いて、よく歩いたのもあり、

お腹ペコペコなのと、

何と言っても贅沢過ぎる絶景の中で食べるごはんは最高です!!

 

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水場でお弁当を広げている間にも、

続々と朝日小屋に向けて登山客が通り過ぎていくので

ご挨拶していると、

とある方が、最低鞍部の少し先辺りで、

道迷いをしたような人がいるよ、との情報。

あまり詳しい事情はよく分からないのだが、

情報をくれた方が、

無理に下山せず朝日小屋へ向かったほうがいいと

随分説得してくれたようなのですが、

下山第一と雪倉方面へ向かおうとしているから、

様子を見てきた方がいいとのこと。

その方以外からも同じような情報が寄せられます。

 

救助活動は本来の職務ではないのだけど、

一般の登山客からすれば

ユニホームを着て山をパトロールしている人がいれば、

細かい役割など関係なく、

頼られる存在として見られるわけで、

我々としてもそういう困った人が近くにいれば、

放っておくわけにもいきません。

とはいえ、まだパトロール初日で、

段取り的なこともよくわからないので、

ひとまず衛星電話で管理署に連絡して指示を仰ぐと、

とりあえず様子を確認するようにとのことで、現場へ急ぎます。

 

道を戻りながら、向こうからやってくる登山客に

1人ずつ声をかけ確認しつつ、最低鞍部までいくと、

対象者の方がいらして、声をかける。

すると前日に朝日小屋を発って、

蓮華方面へ向かっているはずが、

途中で道をロストして、おかしな谷筋に入り、

引き返すことなく進んでしまったために戻れなくなって、

山中で一晩ビバーク

明けて、やみくもに進んだら、

雪倉の最低鞍部の辺りに偶然出れたとのこと。

随分コースを外れて、運よく復帰できたようですが、

完全な遭難のケースです。

ひとまず受け答えは正常で、ケガもなく、

元気よく歩けるようで一安心でしたが、

かなり疲弊・憔悴している状態でした。

ただ、あまり事態の重さを感じていないようで、

どうにか今日中に栂池へ下山したいの一点張り。

さすがにその体力と、今の時間帯では無理なので、

2人で説得を続け、どうにかこうにか納得して、

小屋へと戻っていただけることになりました。

ひとまず荷物を預かり、補助につきながら、

話もって水平道を進みます。

色々不安な夜を過ごしたようで、

我々と話をすることでどっど緊張が解けて、

安堵されている様子でした。

 

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鎖場を過ぎて、到着のめどがついたところで、

自分が走って行って先に小屋に連絡を入れることにしました。

小屋に着いてゆかりさんに事情を説明すると、

全然情報が入っていなかったようで、

なんでこっちへ連絡をよこさないの!!と怒られてしまいました。

何しろ初めての事だったので要領がわからず、

地上には連絡を入れていたのでそれで安堵していたのですが、

よくよく考えれば、救助の拠点基地はこの小屋なのだから、

あらゆる事態を想定して、まずはここに連絡を入れるべきでした。

初日にこの反省を実感できたことが

この後の活動の色々に生かされることになります。

 

30分ほど遅れて、クマさんと登山客の方が到着され、

ひとまずは安心。

後は小屋と県警の方にお任せし、我々はお役御免。

深刻なケースにはならず本当によかったですが、

まさかまさか本格的な任務初日から、

こんな大きな事案が発生するとは!!

2人ともなんだかんだと緊張もしていたし、

部屋にたどり着いてどっとお疲れモードでした。

 

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夕方からは小屋の仕事に参加して、厨房のお手伝い。

その後の夕食でのビールの旨いこと旨いこと!!

情報連絡の反省はありましたが、

結果的には遭難者を説得し無事に保護できたことで、

県警の方やゆかりさんからも労をねぎらわれて、うれしや。

 

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この日から生活拠点はセンターへと移り、

廊下でスタッフと引き続き酒盛り。

とりあえず大忙しの1日を乗り切って、

寝床へともぐりこみました。

つづく…

 

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