記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

音遊びの会『ないしょのみらい』

週末、神戸へ。

音遊びの会の『ないしょのみらい』に長女と行ってきました。

 

2005年からスタートしている音遊びの会は、

実験的な即興音楽の分野で活躍する音楽家や、

音楽の作用を研究する大学関係者、地元神戸のローカルな演奏家らが、

知的な障がいをもった人たちを巻きこみながら、

音楽という現象をを介して、

様々なコミュニケーションの場を創り出していくという

活動を続けている団体で、

敬愛する、大友良英さんや、旧グッゲンハイム邸の森本アリさん、

梅田哲也さんなど、

いつもお付き合いしていただいているアーティストのみなさんも

色々な形で携わっておられます。

いわゆる学校で教える音楽のように、

音楽の技法や理論的な基礎をしっかりと指導し 

それをマスターしていくのではなく、

こんな音を出したい、こんな楽器をやってみたいという生の気持ちや

音を出すことの楽しさ、音を合わせることの心地よさを第一に、

即興で繰り広げるスタイルで、

その場一度きり、予測不能で、プリミティブな音楽が生まれています。

 

2017年に神戸大学から兵庫の和田岬へと

拠点を移して再スタートし、

今回はいまだ現役で稼働している木材の加工所「小池木工所」さんが舞台。

 

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中へ入ると、そのまま小さな工場の作業場。

そこに怪しく仮装した人たち楽器をもってウロウロしています。

めいめいに音と声とを出しながら練り歩き。

まるでどこかの密教の集いか、夜神楽のごとき緊張感を帯びつつ、

徐々に繰り返されるリズムに高揚感が生まれていきます。

そうしてその熱量が徐々に会場を全体を巻き込んで、

なかば狂乱のごとき世界へと昇華してゆく。

 

と、その行列の中にトイピアノを抱えた

見覚えのある真っ黒な姿があり、近づいてきたかと思ったら、

隣にいた娘に気付いて、さっと手を取り、

行列の中へとさらって行ってしまいました!

演奏開始直後で、不気味な行列にちょっと面食らっていた彼女、

突然のことで軽くビビってたみたいですが、

それでも授けられたピアノをがちゃがちゃと鳴らしておりました。

その誘拐犯こそ、大友さんでございました(笑)。

ちゃんと覚えてくれておられます。

 

そんなこんな幕開けから、とにかく怒涛の音のるつぼ。

解き放たれた自由の音があちらこちらで上がり、

演者も観客も垣根を越えて、ひとつのお祭りの様です。

途中、巨大な段ボールの巨神兵が登場したり、

焼き肉or寿司バトルがあったり、

とにかく、音が、声が、生き生きと自由に闊歩して、

フィクションもノンフィクションも飛び越えた

大きなミュージカル劇の中に放り込まれたような感覚。

そうです、これはもう再現不可能な一度きりの”その場小説”なのでした。

 

人というのはお母さんのお腹の中で生命を宿した瞬間から、

あらゆる環境音をゆりかごとして、

母親のドクンドクンという鼓動の刻む一定のリズムに身を委ねる。

誰しもが無音では耐えられない。

心地よい音(≒”きれい”な音、”美しい”音)、

心地よいリズムに身を投じる時、人は自然と喜びを感じるし、

時として、自らそういった音を出したり、リズムを生み出したいという

プリミティブな欲求が芽生える。

それがいわゆる「音楽」という形式に整えられ、

型取らていく場合もあるが、

例えばでたらめに鼻歌を口ずさんだり、

知らず知らずのうちに足でリズムを取ったり、

思わずわああっと叫んだり、

そういうこともまた本当の意味での音楽なのだと思うし、

この音遊びの会の生み出す音楽というものは、

音への欲求が生のまますくい取られた素朴な音楽なのだと。

 

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終演後も、遊び足りない人たちが引き続き演奏を続けていて、

それを聴いていると

こちらもなんだかやっぱり音が出したい、音を合わせたいとなって、

近くにあった太鼓を叩いてみたり、リズムを取ったりしていると、

ドラムをやっていた少年がそこに合わせてリズムをやってくれる。

そして演奏終わりにやってきて、イェ~イとハイタッチを交わす。

たったそれだけのことなのだけど、

音楽を通じて何かが通ったとはっきりとわかる。

音楽はだからすごい。

 

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いよいよお片付けとなって、大友さんにご挨拶。

「色々お騒がせしてま~す」とはにかみながら(あのこと?)、

色々とお話しできました。

今年もどうぞよろしくお願いします!

 

ちょうど、同じ時間帯にNHKで放送されていた「いだてんコンサート」を

帰宅してから見る。

でっかいNHKホールの中央に陣取って、

N響の面々とガチンコで堂々たるバトルを繰り広げながら、

ギターをかき鳴らす大友さんの雄姿と、

さっきまで子ども達と一緒に輪になって、ほのぼのと音楽と戯れる

いつもの気さくな大友さん、

どっちもが本当にわけへだてのない純粋な音楽小僧で、

大友さんの器の大きさに改めて気づいた次第。

ジャンルにも縛られず、人の評価や視聴率などにも揺さぶられず、

ただ純粋に音楽を鳴らしたい、それによって人と人を繋げたい、

そして、この社会でいろいろな理由で生きにくくなってしまった人たちに

単にこしらえた音楽を届けるのではなく、

どうです?一緒に音楽をやりませんかと肩肘張らずにそっと手を差し伸べてくれる。

こんな素敵な音楽家はなかなかいないのです。