記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

2018Gパトの夏 白馬5日目 まさかの道迷い?

白馬山荘での任務もはや5日目。

あっという間です。

しかし下界では連日記録的な猛暑だそうですが、

こちら3000m付近では朝晩は相当に寒い。

この日は朝早いうちはガスガスでしたが、

じきに澄み渡って良いお天気。

朝ごはんをいただいて、

午前中のパトロールは清水岳方面へ。

 

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旭岳を巻いて、どんどん進んでいき、

大下りの先まで行くが、

あいにくすっぽりと大きな雲の中に入ってしまったのか、

しばらくずっとホワイトアウト状態。

出発が遅かったこともあり、無理せずに清水岳を断念し、

この付近から戻りつつ色々と作業をこなす。

着任した時にはびっくりするくらい大きく横たわっていた雪田も

日を追うごとにみるみると小さくなってきました。

そういえば、小屋でもちょっとずつ水不足が問題になってて、

全然まとまった雨が降らないものだから、

節水のお願いも張り出されるようになってきました。

 

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お昼前にいったん小屋へと戻り、お昼ご飯を頂きます。

それから周辺のお花畑で引き続き高山植物のお勉強。

花びらの形状や、葉の開く向きといった、

ほんのちょっとした違いで名称が違って、

しかもあまり規則正しい法則もなくて、

発見者の名前がそのままついていたりするので、

覚えるのも一苦労。

それでも入山前までは全く知らなかった高山植物

30~40種類くらいは言えるようになってきました。

 

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午後は、三国境から雪倉岳の手前くらいまでをパトロール

三国境は白馬岳までの最後の休憩スポットということで

人も多く、ゴミも多く、作業も多い。

15時となって切り上げて小屋へと戻る。

 

すると、上の岩場からお爺さんが下ってくる。

かなりご高齢の様子だが、ちょっと違和感を感じた。

この時間でも登山客は大勢いるので、

それ自体は不思議ではないのだが、

それはみな一様にして歩みが遅くて登りに時間を要して、

まだ白馬山荘へ向けて頑張っている人ばかりなのに、

このお爺さんはこんな時間から下りの方へ進んで、

一体どこへ行こうとしているのだろうか。

大池までだってまだ随分あるし、日没は迫っている。

進む方向に一抹の不安を覚えて

思わず声をかけてみると、道迷いだった。

 

三国境から白馬岳までは、ルートも明瞭で、

細い稜線を行くから道を間違えたり、

迷いようがないのだが、

話を聞いてみると、

どうも最後の岩場のところで疲れ切って、

しばらくウトウトと眠りこけてしまい、

目が覚めて、慌てて方向も確認せずに、

こちらへと進んできてしまったらしい。

若い人なら、登りか下りか、

自分の向かおうとしてる目的地がどっちかなんて

まず間違いようもないんだけど、

高齢で、しかもこんな高所で、疲労しきっていたら、

そういう判断力も低下してしまうのかもしれない。

 

幸い、自分たちがまだこの現場に残っていて、

お爺さんと出くわし、

違和感に気付いて声をかけたからいいものの、

このまま誰からもスルーされて、

ひたすらやみくもに前へ進んでしまってたらと考えると恐ろしい。

そのうち、夕暮れとなり、周囲が暗く不明瞭になって

それでもまだどこが目的地かもわからずに彷徨って、

本気の遭難や滑落なんてことになったら…

 

ひとまず1人にさせるのは心配なので、

付き添いをしながら白馬山荘を目指します。

色々話を聞いていると、お連れの人がいるらしく、

娘とお孫さんが先行しているはずという。

とりあえずはぐれて心配しているに違いないので、

ご本人はクマさんにお願いをして、

自分が急ぎ先行して知らせに行くことに。

 

ダッシュで岩場を通過して山頂へ向かうと、

まだたくさんの登山客。

「●●さんのお連れの方はいらっしゃいますか?」と声をかけると、

女性の方と小学生くらいの男の子が名乗りを上げてこちらへやってくる。

事情をお話しすると、とても申し訳なさそうにありがとうございますと。

30分くらい山頂で待っていたようだけど、

歩くのが遅いだけで心配ないだろう、

まさか道迷いしているなんて、とびっくりしていましたが、

30分来なかったら、もうちょっと心配してあげてほしかったなあ…

 

このご家族のパーティー

男の子の方は元気はつらつなので、

どんどん行こうという感じになって、

当然子供は一人にできないからお母さんはそちらに付かねばならない。

かといってペースの遅いお爺さんは無理できないが、

登山経験もあるし、ルートも明瞭、

残り僅かの道のりだし、1人でもきっと心配ないだろう、

自分のペースで後からゆっくり上がってきてと、

隊列を離れてしまった感じ。

本来であれば、そこはパーティーのリーダーとして

お母さんがバランスを見て、うまくすればよいのだけど…

なかなか実際は難しいよねえ…

この場合はご家族のパーティーだけど、

一般のパーティーでも足並みがそろわないのが元での

トラブルはよくある話です。

 

しばらく山頂で、クマさんとお爺さんが上がってくるのを待っていると、

ようやく向こうからゆっくりと姿を現しました。

それにしても本気の事故になる前に、

無事に保護することができて本当によかった。

 

本来はGパトの業務ではないけれど、

山に携わる者としては、やっぱり見過ごしていい案件ではないし、

結果何事もなかったので、よかったよかった。

あとで、事案だけ小屋と警備隊の宮嶋さんに報告すると、

とても感謝されました。

 

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晩ごはんを食べ終わると、

小屋のスタッフさんが賑やかにしているので、

何かあったのかと思ったら、

富山市の方で花火大会がある日のようで、

ちょうどそちらの夜景を見ていると、

ほんの小さくですが、打ち上げ花火が上がるのが見える。

岩井俊二ではないが、花火を上から見るのは初めてだ。

 

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ということで、色々なことが起こる山の生活は

まだまだ続きます…