記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

「垂直の記憶 岩と雪の7章」 山野井泰史

先週に体調を崩してから少しモチベーションが下がってきているので、
カンフル剤として、山野井さんの本を再読する。


山野井さんは、難攻不落の岩壁や8000m級のヒマラヤの山を、ソロで、
しかも昔ながらのアルパイン・スタイル、無酸素で登頂してきた世界屈指のクライマー。
真のクライマーであり、真のソロイストでもある。
そして山野井さんの影に隠れがちな奥さんの妙子さんがこれまたすごい。


自分自身のスキルに対するゆるぎない自信。
そして山に対する真っ直ぐな情熱。
それがこの本からにじみ出ている。
山についてあまりに没頭しすぎて、一見ナルシスティックで
周囲の人に対してワガママな意見や態度と感じるような内容を書いていたりするけど、
でもそれは人を邪険に扱うとか、偉そうにしているわけではない。
人からどう思われるとか、そんなことは全く関心がなくて
ただ単に、この人、本当に山しか見えていないんだろう。
逆に、自信過剰かと思いきや、山へ入るときの震えるくらいの怯えや
どうしようもなく弱い部分までも赤裸々に綴っている。
たぶんとっても素直な人なんだと思う。
ソロで挑むことの意味、山で死ぬことの意味についても語っているが、大いに納得。


しかし何回読んでもすごい。やっぱりすごい。
どの章もかじりついて読んでしまうが、やっぱり最終第7章。
ギャチュンカン(7952m)北壁登頂後、高度7000m付近で大雪崩にあい遭難。
奥さんの妙子さんは宙に吹き飛ばされ、山野井さんも衝撃で視力を失う。
そんな絶望的な状況において、絶対に2人そろって生還するため、
これまでの知識とスキルを全てつぎ込み、全神経を注いでの下山が始まる。
視力を失い、目の前の壁のクラックを探すため、
自分の指を目の代わりに犠牲にして、少しずつ降りてゆく。
自然の脅威に完全に打ちのめされ、
死と絶望を間近に感じると同時に生きることへの渇望を燃やし
山と対峙する2人の姿には、美しささえ感じてしまう。
これぞ山に生きる人間。
結局2人とも10本以上の手足の指を失うことになるのだが、
彼らの山への情熱、クライミングスキルの向上心は衰えるどころか
一層燃え上がっている。


高所恐怖症だし、ヒモやロープの扱いは下手だし、絶対真似したいとは思わないけど、
山への情熱は見習いたいと思う。
本を読み終えてテンション急上昇。
思わず昔の情熱大陸を引っ張り出してきて、それでも見足りずに、
グリーンランドの絶壁オルカ登頂に密着したNHKスペシャルを観る。
ちょっと元気でた。でも寝不足・・・


垂直の記憶―岩と雪の7章

垂直の記憶―岩と雪の7章


白夜の大岩壁に挑む~クライマー 山野井夫妻~ [DVD]

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