『少し変わった子あります』 by 森博嗣
突然失踪した友人から教えられた謎の料理屋。
名前も看板もない。それどころか、行くたびに店の場所がかわる風変わりな店。
そこで行われるサービスとは、その場1回限り出会った女性と、ただ淡々と食事をするだけ。
つまらない世間話をくりかえすこともあれば、
一切の会話もなく沈黙の中食事をするだけの場合もある。
食事代はもちろん2人分請求される。
そんな非現実的な状況にはまっていく主人公・・・。
互いに面識がないこと、つまり相手にとって誰でもない誰かという存在、
肩書き・経歴、あるいは名前といった基本的パーソナリティさえも、
一切の身に着けた鎧をはずされ、生身のヒトの状態で、
”食べる”という最も野性的な行為にふける、
この奇妙としか言いようのない状況に置かれた時に、
主人公はまるで悟りを開いていくかのように、
社会的存在の意義や数々の様式についての考察を深めていく。
一見してもっともらしい議論が論理的に展開され、さしずめ人生口論のようなのだが
無機質的な冷ややかさとシニカルさがどことなく不気味なのだ。
(わかりやすく言えば世にも奇妙な物語的な居心地の悪さ)
そこに食事の際の相手の女性の美しい所作に関する描写がインサートされることによって
ある種のエロティックな雰囲気をまとっていて、独特の世界観。
作中で食事の中身に意味がないのと同様、作品自体、筋書きなどに意味はなく、
ただコトバの形式とロジックを楽しむための作品。
理系な文体も相まって、他の本では味わえない読後感である。
うん、ああ、よかった。
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/06/10
- メディア: 文庫
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