寺山修司という男
12月10日。
80年前の今日、ある男が産声を上げた。
今でも時々熱にうなされるかのごとく、
その男が脳裏に浮かんで憑りつかれることがある。
寺山修司。
その名を聞くだけでゾクゾクと胸がざわつく。
寺山修司。
その名が響くだけで平々凡々とした日常がいとも簡単にツラの皮を剥がされ
裏側にべったりと張り付いた影を覗かせる。
想像力を生業とする人間は幾多おれど、
おおよそこの男ほど独創的で丸裸の存在はいまい。
あらゆるジャンルの垣根を飄々と飛び越え、
時代遅れのセオリーを事もなげに逸脱する寺山ワールドの根源は、
結局のところ言葉である。
想像とは言葉であり、言葉とは人間である。
彼が放つ言葉はまるでジャックナイフのように我々の喉元に突き刺さる。
寺山が紡ぎ出す言葉の最大の武器は、その根底にある寂しさ。虚である。
青年期に植え付けられた激しいトラウマと
母の存在・関係性によって構築されたコンプレックスによって
複雑怪奇に積み上げられた独創的な世界観、
青森という深い雪に閉ざされた風土によって磨き上げられた
稀有で危うい感性が解き放つ、
言葉、イメージ、映像、暴力、メタファー、悪夢。
それらが束となっては襲い掛かり、
没してすでに30年以上経った今なお心の奥底に木霊する。
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寺山ワールドに初めて出会ったのは、
かの有名な『書を捨てよ街へ出よ』ではなく、
今や発禁ものであるアングラ実験映画『トマトケチャップ皇帝』が最初という
なんとも稀な出会いであった。
♪やめてケレ〜♪やめてケレ〜♪やめてケ〜レ、ゲバゲバ〜♪
『老人と子供のポルカ』がけたたましく鳴り響く
破壊力抜群のオープニングからスタートする短編集。
前衛と言えば聞こえはいいが、まるでどうしてキッチュの極み。
アングラ街道を大手振って闊歩するそのすさまじさに、
一撃で打ちのめされたのであった。
アングラとは言ってもそれは決してメジャーに対するマイナーという意味ではなく
我々の記憶・思想の”根流”という意味合いで。
久々に『田園に死す』を観て改めて度胆抜いた。
「生年月日、昭和四十九年十二月十日。本籍地、東京都新宿区新宿字恐山!!」
ドカ〜ン!!!
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