記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

2018Gパトの夏 入山まで

いよいよGパト体験記をスタートさせます。

毎週毎週書くべきイベントめじろ押しなので、

きっと飛び飛びにはなりますが、

気長にお付き合いくださいませ。

 

話は2018年の4月にさかのぼる。

勤続10年単位で弊社ではリフレッシュ休暇10日間がもらえるのだが、

その通知が手元にやってきた。

会社員としてこれだけの自由な時間を与えらえるのは、

数少ないチャンスであることは間違いないし、有益な時間として使いたい。

例えばバックパックを担いで世界各国をめぐるのもいい、

憧れのツールドフランスを観戦しに行くもの面白そう、

あるいは登山は無理でもエベレスト街道を歩くというのもありか。

北アルプスを北から南まで一気に大縦走するのもいい。

ロードバイクで日本縦断には少し日数が足らないか…

やりたいこと、行きたいことをざっとリストアップしただけでも

膨大な数になってしまった。(もちろん夢想するもの至福の時間)

しかし仕事は休みでも家族の方のやりくりも生じるし、

資金面や準備面での限界も当然発生する。

単に遊んだり旅行したりということではなく、

一生の語り草になるような、

今後の人生の人生の糧になるような何かないものかとあれやこれやと思案しつつ、

方々にアンテナを張っていると、富山県の中部森林管理局が、

高山植物等保護パトロール員」というものを募集しているのに行き当たった。

 

通称Gパトと呼ばれている業務で、

立山黒部アルペンルート開通した際に、山の環境を保全する目的として発足した

40年近くの歴史のある活動。

その業務内容は、1か月配属された山域の山小屋を起点として、

高山植物雷鳥などの保護活動や、登山道や立ち入り禁止ロープの整備、

登山者への啓発活動や注意、山小屋作業のお手伝いなど行うというもの。

1か月下山せず山で暮らすというのは、なかなか経験できるものではないし、

何より愛する山への恩返しができる。

本格的な救助作業やエキスパートなスキルを要する山岳パトロールは無理でも

これなら自分でもできそうだ。

 

1か月という長期間も休むというのは会社的にも前代未聞だったのだが、

リフレッシュの10日間に夏休み5日間、それにGW出勤の代休、

それでも足らない数日は有給まで利用し、

上長やさらに上の人への根回しもぬかりなくやって、

どうにかOKを得た。

せっかくの休みなのに、また働くのかと驚かれましたが(笑)

あとは家族の方だが、

こちらも奥さんの大きな器に救われて、行っていいよと。

もう感謝しかありません。

 

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勢い勇んで応募したものの、

応募数がどれほどかわからないし、

10名ほどの枠に入れるかどうか、

通知日までやきもきしていたのだが

無事採用通知を受け取る。

これでもう後には引けない。おのずと気が引き締まる。

 

トロール班は薬師・雲ノ平班×2、黒部班×1、

そして朝日・白馬班×2に分かれているのだが

自分は北アルプスの最北エリアに当たる朝日・白馬班に決まった。

2015年に一度、標高2932mの白馬岳から、

登山者の憧れの栂海新道を経て、

海抜0m親不知の海岸へと抜けた思い出深い地に

再び足を踏み入れるのだ。

 

 

さて出発に向けて具体的な準備に取り掛かる。

いつもは週末の弾丸登山ばかり繰り返しているので、

必要最小限の荷物だけでよかったが、

1か月ともなると何がどれだけ必要なのかさっぱりわからない。

あまりあれもこれもは持ってはいけないし、

かといって何か足らないとなってもどうしようもない。

寒さ対策、暑さ対策、生活用品、

トロール中に必要な用具などはもちろん

例えば洗濯ができない時のためのファブリーズや、

普段履き用のスリッパ、サブザック、

空き時間の暇つぶし用のお絵描きセット、

あとは調味料のチューブなど

普段の山行ではまず持っていかないものも含まれるが、

可能な限り切り詰めた最小分を

今回のために新調した

45+αリットルのTATONKAのザックのなかに詰める。

このほかに、現地で支給されるものや食料や水がプラスされる。

 

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出発の日、家族とのしばしのお別れを惜しむ。

これだけ長い期間離れて暮らすのは初めてのこと。

長女はこの1か月、留守を預かる自分がしっかりしなければという

真剣な面持ちで見送り。

次女もいつもとは違う空気を察したのか、号泣。

こればっかりはさすがに辛いですなあ。

奥さんにはくれぐれも家の安全をお願いして、いざいざ。

 

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初日が朝10時に電鉄立山駅そばの研修所集合という事で、

前ノリしないと間に合わないため、

前日最終のサンダーバードに乗り込む。

金沢からはほぼ貸し切り状態の新幹線に乗り換え富山へ。

この日の泊まりは事前に見つけておいたゲストハウス。

駅から結構距離があり、黙々と歩いて、

日付をまたぐ前にどうにか、たどり着けた。

狭い狭い部屋の2段ベッドにもぐりこみ就寝するも、

暑さが堪えた。

 

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翌朝、宿泊地から富山駅まで歩き、

朝ごはんに駅にある立山そばをいただく。

立山までは富山地鉄で。

といっても関西人にとっては完全におけいはんである。

 

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1時間ほどのどかな田園地帯を走り、

山間に差し掛かり、常願寺川を遡上して立山駅に到着。

今日の移動はここまで。

このまま山へ向かわないのがなんだか変な感じだが、

多くの登山客を見送って、

ひとり駅を出て少し歩いたところにある研修所にたどり着いた。

 

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森林管理署のみなさんに促され研修ルームに入ると、

他の志願者のみんながすでに集まっていて、

後からもぼちぼちとやってきます。

時間となって結団式。地元のテレビ局も駆けつけておりました。

そして各班の担当割と自己紹介。

 

自分は朝日・白馬班の1班で、バディーとなるのは最年長の男性。

まさか山では出会うまいと思っていたらお名前がクマさん!

こののち1か月、朝から晩まで毎日行動を共にすることになります。

自分も2番目に年寄りなので、最年長グループとなります。

小屋では「できる中年組」と呼ばれるようになりましたが、

採用当初はこのおじさん連中、

本当に大丈夫だろうかと心配のタネだったそうです。(笑)

 

朝日・白馬班はもう1班あり、カメちゃんとT姫の男女カップル。

この別班とは、朝日小屋・白馬山荘を1週間ずつ交代でクロスしながら、

広い山域をカバーしていきますが、

基本テレコの動きなので、

入山下山の数日を除いては、

移動日のどこかですれ違うだけになります。

 

他の班も順次名前を呼ばれ自己紹介。

意外と女性の参加が多いのと、

数人は過去にGパトの経験がある人のリピートでした。

アウトドアブランドに勤務している人や、

地元参加者などがほとんどで、

30代が中心のラインナップ。

 

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さて、一通り紹介がすみ、次は装備の付与とチェック。

Gパトの証である赤色のキャップとシャツ、

それに緑の腕章を付与され、

いよいよ実感がわいてきました。

そのほか、ラジオや衛星電話、

火ばさみやハンマーといった業務に必要なもろもろの用具も一式渡される。

 

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そこからは、山での作業の研修。

無線電話などの装備品の使い方やロープワークといったもの、

高山植物の見分け方の勉強会、

そして山での暮らし方のルールや、

登山客への応対の心得(とにかく穏便に!)などの講義があり、

あっという間に1日が過ぎました。

 

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研修が終了し、森林管理署の職員の皆さんも交えて、

夕ご飯兼飲み会。

皆さん色々な動機や、

色々なバックヤードの方々ばかりですが、

会社勤めをしているのは自分くらいで、

あとは自営業の人や、

下界と山とを行ったり来たりしているような人が多かった。

せっかく同志が集まったのだけど、

翌朝にはもう方々の登山口へと散ってしまうのです。

みな、これから一か月の山暮らしへの期待と不安でいっぱいな感じですが、

事故なく怪我なく、安全第一で。

 

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翌日も早くから移動なので、早めに就寝するも、

自分たちのあてがわれた寝室だけ空調がぶっ壊れていて、

悶絶するほど暑さに耐えかねて、涼を求めて、

しまいには廊下で寝てしまいました。

 

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翌朝。朝食を済ませ、簡単な出発式を終えて、

管理署の送迎の車に乗り込みます。

登山口が異なる他の班の皆さんとはここでさようなら。

一か月後みんな笑顔で再会しようぞ!

 

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朝日・白馬班の4人は車に分乗して、

県東部の朝日町を目指すのですが、

その前にスーパーへ寄り、食材の買い出し。

この日は、ふもとの北又小屋に宿泊し、

翌朝に出発をして朝日小屋を目指すのだが、

北又小屋は一般の宿泊サービスを数年前に終了してしまったので、

この日の晩ごはんを購入しておかないといけないのだった。

それに加えて、翌日の山行の行動食や

1か月の山暮らしでのお菓子などを買い込む。

 

なにぶん初めてなので、というより普通はそう思って当然なのだが、

山小屋での食事や暮らしも間違いなく不自由するだろうと想定して、

色々準備したのだが、

実際にはあれもこれも至れり尽くせりの山小屋の食事事情でした。

それは日本一美味しい食事を提供すると絶賛されている朝日小屋と、

まるで高原リゾートのような巨大施設である

白馬小屋だったからこそではあるのだけど。

 

一度、富山市内の管理署に立ち寄り、

そこから北陸道に乗り朝日町へ。

小川を遡上して、いよいよ山に入っていきます。

一般の車が入れる小川温泉から先は、

管理された北又林道へと入っていきます。

(一般の人は北又小屋までタクシー利用)

 

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ゲートを開け、先へ進みますが、

この林道がまた険しいのなんの。

道幅は最低限でいくつもの尾根へと転戦しながら

峠を越えていくため、

厳しいつづら折れで、右へ左へと振られる。

とても難儀な道です。

おまけに途中で、雑草の刈り取り作業のトラックが

道を塞いでいるもんだから、一苦労。

どうにかこうにかで、無事に北又小屋に到着しました。

 

北又小屋では、ご主人の米沢さんのお出迎え。

ひとまず荷物をあてがわれた2階の部屋へ。

宿泊を停止してもう数シーズン立つので、

まずは部屋を大掃除。

大量の虫の死骸がボロボロと!!

キョエ~。

この日はもう移動も何もないため、

時間つぶしに周辺をぶらぶら。

まだ電気があるうちに晩御飯を済ませ、就寝。

しかし、ここも空調がなく、窓を放っても風がなく、

暑さにもだえ苦しむ夜でした…

 

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そして翌朝。

いよいよ入山。

米沢さんや管理署の方々に見送られて、

北又小屋を後にするのであった。

ということで、1か月に及ぶ山の暮らしが幕を開けます。

つづく…

 

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