記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

冬にわかれて ワンマンライブ at 京都・紫明会館

先月のこと。

まだ新型コロナウイルスの恐怖が、

”ぼんやりとした不安”といった具合で、 

学校やイベントの自粛が始まる前、

ライブハウスが悪者にされる前の話。

(すでに1か月経ってるからさすがにセーフだろう)

 

大好きな寺尾沙穂さんがリードを務める

3ピースバンド・冬にわかれてのライブが

京都の紫明会館でありました。

前年の同じ時期にもライブがあったのだけど、

別用のために行けず、随分悔しい思いを抱えて

次こそはと待ち望んでおりました。

もうこれだけは是が非でも生で目撃したいと、

予約開始早々に申し込みをしていたので 

自粛ムード直前の駆け込み開催で

無事に観ることができて感無量でした。

時世が時世なだけに、

しかもその当時は、自粛か決行か、

何の指針もなく、正解が全く提示されない中で、

それでも万全を尽くしながらも開催するという英断を下していただいた

メンバーのみなさんやナイトクルージングの方々には大大大感謝です。

  

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冬にわかれては、

ピアノ弾き語りのシンガーソングライターで

文筆家でもある寺尾沙穂さんと、

細野さんのバックバンドや、

星野源さん、高田漣さんのなどのサポートとしてもご活躍

のベーシストの”世界の”伊賀航さん、

その独特な存在感と愛おしさを放つ伊賀さんに輪をかけて謎多き、

ドラム&サクソフォンetcのあだち麗三郎さんの3人組。

結成は2017年だが、寺尾さんのソロ活動のサポートですでに

”あ・うん”の呼吸を繰り広げているトリオです。

兎にも角にも、

3人のキャラクターが織りなす空気感がとっても素晴らしくて、

音楽も余計をそぎ落として、実にクールでグルーヴィーで、

型崩れしない大人の世界観は思わず鳥肌が立つほど。

それでいて何もない週末の昼下がりの薄青の晴れの日を

思い起こさせるようなやわらぎに満ちた居心地のよさ。

今、自分の中で一番のヘビロテです。

 

 

さて、会場は鞍馬口駅から少し歩いたところにある紫明会館。

1932年に建てられた鉄筋コンクリート造のレトロビルで

冬枯れた京都の景色にぴったり。 

 コンサートホールは3階にあり、学校の講堂のような場所で、

ステージと客席は間近で、

こんな目の前で生の歌や演奏が聴けるなんて、本当に楽しみ。

(あらゆるものが自粛された今となっては本当にそれが、

どれだけありがたい事かを身に沁みながら書いています)

 

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時間となり、お三人がステージに。

ぼんやりとチューニングを始めて、

ぼちぼちとゆるーく演奏スタート。

窓の外かほのかに暮れてゆく様を流しつつ、

上質な音楽が 静かに奏でられる。

 

静かとは言っても、

沙穂さんの歌声には母なる力強さを秘めたエネルギーに満ちているし、

ご本人から発せられる儚さや柔らかさといった気配は、

ゆるぎない気骨に支えられていると感じられる。

そのどっしりとした安心感こそが、

包容力に満ちた音楽の源なのかもしれない。

 

そして、淡々と?朴訥と?粛々と?ベースをつま弾く伊賀さんは、

もうその佇まいがアートの域。

もちろん、グルーブ感に溢れた、

存在感の際立つ低音はいつだって心地よい。

時々、挟まれるMCのトーク(財布を拾った話とか)でも、

なんだか独特の間合いで、

言葉数は限りなく少ないのだけども、

思わずクスリと笑ってしまうような、

どうにも憎めない存在感で、

それがもうたまらなく好きなのだ。

 

一方で、ステージの右端で、

せわしなくせわしなく、手を変え品を変え、

まるで音楽に色とりどりの絵の具を塗りたくるようにして

リズムや音をけしかけるあだちさんは、

もう楽しくて楽しくてしょうがないと言った風で、

もはやご本人自身がパーカッションなのかもしれない。

ひょっとして演奏ごとに全部アドリブ即興なのかというくらい、

その時その瞬間の音楽に合わせて、

ウキウキワクワクを上書きしていく様は、

観ているこちらも心躍る。

 

そんな3人が繰り広げる音楽たちの実に心地よい事。

ここにも上げた『幼い二人』や『君の街』などは、

まるで日常を切り取った写真集をめくるかのように、

風景のイメージが頭の中で上映されるし、

大好きな『リアルラブにはまだ』とか『月夜の晩に』といった

アップテンポな曲では、思わずステップを踏みたくなってしまう。

沙穂さんの名曲中の名曲『楕円の夢』はもう、

これは言葉では到底言い表せないくらい美しい瞬間。

(全感覚祭で郁子ちゃん&市子ちゃんのカバーもよかった。

いつかそのトリオで再演してほしい!!)

間に小休止をはさんで、2時間程度の間に、

結構な数の歌を披露していただいて大満足のライブでした。

 

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ライブ終わりの物販でCDを買い、

沙穂さんにサインをしていただいたので、

お礼にという事で似顔絵のポスターをお贈りしました。

また、ソロでもトリオでも、

機会があれば追っかけます。

 

f:id:arkibito:20200124125303j:plain さて、3月頭にリリースされた寺尾さんの新盤『北へ向かう』が、

これまた素晴らしくよい。

アルバムのタイトルとなっている『北へ向かう』は、

沙穂さんのお父様の二郎さん

(元シュガー・ベイブのベーシストで仏映画字幕翻訳家)が

亡くなられたときに作られた曲だそうで、

焼場まではどうにか行けたのだけど、そのあとライブのために中座して

飛び乗った北へ向かう新幹線の中で、

その時の想いをしたためたのだそう。

本当に尊さに満ちた曲で、心が揺り動かされる。

僭越ながら、耳コピをさせていただきました。