映画『この世界のさらにいくつもの片隅に』片淵須直監督舞台挨拶&サイン会 at 出町座
ブログが溜まっているので、
これまた時間を随分と巻き戻し。
年末からずっと観ようと思っていた
『この世界のさらにいくつもの片隅に』。
ちょうど出町座さんのリリースで、
片淵監督が来館されて舞台挨拶されるということで、
せっかくならそれに合わせて鑑賞することにしました。
長女もこの作品が大好きなので一緒に。
悲しいシーンや辛い描写がありますが、
すずさんをはじめとして
日々の暮らしを生きる人たちの営みが描かれるシーン、
例えば、着物を作業着にしつらえるシーンだったり、
あれこれ工夫して食事をこさえるシーンだったり、
お絵描きをしているシーンといった
何げない場面が長女は特に好きなのだそうです。
センセーショナルな場面よりもむしろ、
本作においてはそういうシーンこそが大切なものだと思います。
出町座は事前予約ができないが、
これだけ人気の作品のイベントとなると、
始業の朝イチに並ばないと完売してしまう。
ほぼほぼ初発のおけいはんに乗って、
大阪から出町柳までGO!
7時前に到着すると、2番手でした。
そこから開館時間の9:15。寒空の中をじっと待って、
無事にチケットをゲット。
上映はお昼からなので、いったん大阪へ取って返し、
長女をピックアップ。
と、なかなかの大取り回しでしたが、
それだけのことをしてでも
これには参加する意味がある(実際大いにあった)ことでした。
作品については、あまり多くはここでは書きません。
なぜなら、たくさんの人に映画館に足を運んで、
先入観なしに、直接目撃してほしいからです。
前作を見た人もそうでない人にも、
この”ほんとう”の物語を
一度は観てほしい、感じてほしいと思います。
追加されたシーンについては、
リンさんというもう一人のキーパーソンを軸にした
部分が多くありましたが、それとともに、
やはり、当時の市井の人達の暮らしぶりが
より実感として伝わるようにという意図でもって
加えられたものが多いように思います。
個人の力が到底及ばない時代といううねりに翻弄され、
たくさんの悲しみや苦しみに見舞われながらも、
世界の片隅でしっかり根を張って
自分たちの暮らしを懸命に生きた人たちこそが、
常に世界における真の主人公であるということ、
それがよりはっきりと強く表明されていると感じました。
そのことによって、少なくとも自分はこの物語を、
自分が生まれるよりずっとずっと昔の出来事、
いわゆる歴史と呼ばれる範疇のものと、
遠くから眺め、想像の世界を見るような見方も、
あくまでフィクション作品だと捉えるような事もできない、
という思いに、前作以上に強く至りました。
つまりこれは今まさに我々の日常そのまんまじゃないかと。
感動して涙して、ああよかった、いい作品だったと、
娯楽として消費するだけでは到底済まない、
今まさに自分の暮らしと地続きの話なのだということを
はっきり気づかされました。
つまり、彼ら・彼女らが実践してきた
教訓あるいは過ちを、どれだけ人間の財産として
自分たちの生活に落とし込むことができるか、
というところまでを捉えて、
作品に向かわなければ、
本作を手掛けた制作者のみなさんの
本当の意図に届かないのだろうということです。
さて、もともと長大に撮影していて劇場版用にと
適切な時間にカットしていたものを
完全版として再度お披露目することはあっても、
一度完成形になった作品に、新撮を織り交ぜて、
途中を継ぎ足して新しい作品にするというのは
なかなか珍しいケースだと思います。
特に、声優の皆さんにとっては、
同じ質感・温度感で表現するというのは、
続編や新作で演じるという事よりも
はるかに難しかったんじゃないかと想像します。
でも、そんな不安は杞憂に終わり、
もうひとつの新しい物語として
素晴らしい作品に仕上がっていました。
ぜひ、一度観てほしいと思います。
さて、上映後、場所を3Fに移して
ご来館された片淵監督によるトークショー&サイン会。
追加されたシーンへの想いや狙い、
あるいは現状のアニメ業界についてのお話、
そしてまさに、作品の中の世界とリンクするような
日本で(世界で)起こってしまっている
緊迫した社会情勢との照らし合わせだったり、
たくさんの話題に渡って繰り広げられて、
とても意義深いトークショーでした。
終始、とても丁寧でわかりやすく、
真摯な口ぶりでお話しされていましたが、
その中身についてはとても鋭く的確で、
ゆるぎなさを感じられるものばかりでした。
その姿勢は、最後の質問コーナーで特にはっきりと表れていて、
作中に登場するシーンの
細かい部分への質問だったり、疑問に対して、
ただ単にどうしたというだけの回答ではなく、
当時の生活様式や、文献・資料の内容についてまで立ち戻って、
解説されていて、
そこには全くのよどみも隙もありませんでした。
どこの何を切り取って投げてみても、
きっとその背景や経緯文脈までもをきちんと説明できるのでしょう。
作品を作る、世界を形作るという大前提として、
まず徹底的な取材や調査によって、
歴史や文化と真正面から向き合うという姿勢、
それこそが”ほんもの”たりえる極意であり、
それこそが作り手としての矜持であるということを、
自らが証明されておりました。
改めて尊敬します。
トークショー終わりにサイン会です。
ほんの短い時間だけですが、お話しできました。
長女も、緊張しながらも、お手紙を渡していました。
(なんと後日ツイッターで紹介されてました)
自分も、ささやかなお土産として
似顔絵をお贈りさせていただきました。
(1フレーズはintegrity(真摯)とつけました)