『博物館の夜 寺尾沙穂×七尾旅人』 at 京都文化博物館
2020年、どの分野でも、とても苦しく厳しい1年でした。
ことに文化・音楽・劇場といった業界は、
ほとんどその存続すら危ぶまれるほどの危機に瀕しましたが、
そのような状況になればなるほど、
そういった心の豊かさに直結するものの尊さを
感じざるを得ませんでした。
そうして、そういったものの灯を
どうにか絶やさずに続けようと、
試行錯誤、苦心し、心血を注ぐ人たちの情熱を
近くから遠くからずっと見てきて、間違いなく言えるのは、
やっぱり音楽も演劇も、その他多くの文化的なものは
決して不要不急なんかじゃない!、ということです。
その2020年の締めくくりのコンサートが
「博物館の夜 七尾旅人と寺尾紗穂」at 京都文化博物館でした。
この敬愛するお2人のライブが今年のフィナーレというのは、
自分にとっては思いがけない贈り物であり、
音楽が音楽で報われた夜、
そう自然に思えるほどに、震えるほど感動的でした。
前半は寺尾さんのパート。
『たよりないもののために』『やくらい行き』『北へ向かう』etc、
寺尾さんの祈りのような歌、
そして会場に輝きをもって反響するピアノの一つ一つの音色が
あまりにも美しい。
しんしんと冷え込む冬の空気も相まって、
益々と研ぎ澄まされて透明になってゆく。
それからスタンダードナンバーの『聖者の行進』、
加川良さんのカバーで『こんばんはお月さん』
すぅと子守唄のよに入ってきて、涙。
こんなにも、こんなにも歌が心に響く。
今年、こんな状況下でも、3度も、
寺尾さんの生歌を聴けたことは、とても心の励みになった。
最初の緊急事態宣言が発せられる直前、
自粛前最後の冬にわかれての京都でのライブ、
そしてようやく自粛が明け、
劇場の公演が認められてからの初めてのライブも
神戸での冬にわかれて。
そして締めくくりの今回。
どれもが期せずして今年の節目節目にあたる時に、
ずっと寺尾さんの歌に癒され、励まされてきたのだ。
歌は心の栄養。今年ほどそれを痛感したことはない。
後半には、七尾旅人さんのパート。
去年の全感覚祭でのステージを見て以来の生歌です。
今日は後悔のないように歌いたい歌を歌い切りますと宣言して、
朴訥と歌がはじまる。
そして徐々に感情が昂り、
腹の底から放たれる魂の声。
腹の底まで響きました。
幼い頃、親戚のパン屋さんの倉庫で育ったというエピソードを歌にした、
『パン屋の倉庫で』という歌、
そして、この年になって、コロナ禍を心配して仕送りしてくる
お母さんとのエピソード、とっても良かったなぁ。
かと思えば、一転して、超現実な世界の惨状を歌った
『少年兵』。
会場に響き渡る引き裂かれるような叫び、銃弾と爆撃の嵐。
人間の表側も裏っ側も、包み隠さす全てが曝け出されたような
剥き出しワンマンショー。
脱帽するしかありません。
最後は2人の贅沢なデュオ。
1年の締めくくりにふさわしい素晴らしいステージでした。
ハケる一瞬に七尾さんに似顔絵お渡しできました。
(寺尾さんは以前にお渡し済み)