記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

京都西山ロストトレイル(上桂~松尾山~嵐山~烏ヶ岳~保津峡)

京都一周トレイルの東山コースを歩いた翌週、

午後から、今度は西山コースの探索に。

嵐山から高雄までの本コースは歩いたことがあり、

北山コースも学生時代に歩いたことがあるので、

残り未踏の部分である上桂から嵐山の部分を下見です。

 

途中でトレイルを外れて嵐山・鳥ヶ岳を経て、

お月見で有名な大悲閣へ下山するプランを立てたのだけど、

まさかまさか大きく道を誤ってしまったために、

本来であれば、トレイルが通じていない保津峡に向かってしまい、

気付いた時には道をロスト。

日没が迫る中、明確な自分の居場所がわからないまま、

山をさまよい、決死のリカバリーでどうにか保津峡橋へ脱出、

事なきを得ました。

あやうく遭難してしまうところで、大反省です。

 

今回はその反省を踏まえ、ロストの原因の検証もします。

結論としてはいくら里山・低山とはいえ、

(というよりむしろそういった山ほど)

油断は絶対禁物ということです。

 

参考記録:3時間20分>

14:15上桂駅⇒14:30西芳寺苔寺)⇒

14:53西山No.44⇒15:18松尾山15:20⇒

15:40嵐山⇒15:53鳥ヶ岳⇒17:00松尾ロータリー⇒

17:20保津峡橋⇒17:35JR保津峡駅

 

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この日は野暮用などがあって、時間ができたのが午後。

いつもの六甲に行こうか迷ったのだけど、

先日の京都トレイルがなかなかよかったし、

残り未踏の西山ルートも短い距離だし、

さくっと登ってさくっと下山しようと、京都へ。

上桂駅に到着が14:15。

2時間もあれば十分嵐山まで行けるだろう。

 

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上桂駅から西へ。

山田口の交差点の所のコンビニで補給して、さらに西へ。

地蔵院の所で右折して、竹林を左に見ながら、西芳寺へ。

 

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お寺をさらに進んでいくと、

小さな流れに沿って道が続いているので先へ。

途中でトレイルの案内板があり、

竹林の方だと思ってそこへ突っ込んでいきましたが、

本当は京都一周トレイルの入り口はもっと先でした。

つまり、この日は、最初の最初から間違いだらけだったのでした。

まあ、この案内板があって、横に竹林へ通じる道があれば、

行ってしまいますよね…

 

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何の迷いもなく竹林へと進んでいきます。

道は明瞭で、ずんずん歩きます。

しかも前方からハイカーさんが来てすれ違ったので、

まさかこの道が間違っているとも思わず。

ところが、道は徐々に荒れてきました。

 

京都一周トレイルはたくさんのハイカーが往来するし、

軽装のトレイルランナーも利用するはずで、

その割に、ちょっと道が悪すぎるなあとは思いましたが、

道は続いているし、行けるところまで行ってみます。

 

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竹林を過ぎると、小さな谷筋へ出て、

そこから急斜面が迎えています。

ただ、トレイルらしきトレイルがなく、

どこから上がればよいかはっきりはわからない。

よくよく見渡してみると、

ポイントポイントにピンクテープが見えるので、

それを手掛かりに登っていきます。

これはもうメインルートではなく、

バリエーションルートだなと理解しましたが、

戻るのもアレだし、むしろ面白そうなので、進みます。

 

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ピンクテープを目印に、道なき斜面をよじ登ります。

枯葉で滑るので、前方のテープを目視しながら、

登りやすい場所を選んでいきます。

そのうち、うっすらと道らしきものがあり、そこを登ると、

小さな広場のようなところに出ました。

ただ、この一帯は明らかに久しく人が足を踏み入れていない様子。

たぶん、ここはかつてのメインルートだったが、

別に、もっと歩きやすい新たなルート(京都一周トレイル)が

設けられて、人が来なくなったエリアなのかもしれない。

全く未開の地というわけでもないが、知らない山域だし、

正規ルートまでは油断できない。

 

狭い尾根上ならば、前へ進むか、後ろへ戻るか

選択肢は限られるのだが、

こういうただっ広く、どこへでも通じていそうと思える場所が

一番道迷いに陥りやすいところ。

慎重に見極めて、茂みの間にうっすらとあるトレイルを見つけて

そちらへ進みます。

 

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しばらく進んでいくと

no.44西山のトレイルの案内板の所に出ました。

これで無事に正規ルートに復帰です。

 

今思えば、この道間違いで、

今日は無理しないでおこうと思えばよかったのですが、

無事に復帰して、

逆にいいトレーニングになったと自信を深めてしまったのが

大間違いでした。

 

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トレイルに出ると道は明瞭、かつ歩きやすい道。

時々、右手が開けるところがあり、

京都の街並みを見下ろす。

先日とは真逆の方向からの景色。

 

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緩やかにアップダウンはあるが、

とても歩きやすい穏やかな道が続きます。

一度大きく下ってから、広々とした場所を抜け、

そこから登り直しをしたところが、

松尾山への分岐ポイント。

展望ルートと、尾根ルートがあった後者をチョイス。

 

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ほどなくして松尾山(276m)の山頂に到着。

広場の北側は開けていて、

嵯峨野の街並みが見えます。

 

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京都一周トレイルはそのまま嵐山へと下るだけで、

1時間ちょっとの山歩きでは物足りない。

それならば、ここから西へ伸びるトレイルを進んで

行ったことがない嵐山・鳥ヶ岳へ行ってみることにする。

 

ただこのトレイルは保津峡ヘはつながっておらず、

そちらへは抜けられないということだった。

ならば、このトレイルは嵐山の最奥にある

大悲閣に下りることになるのだろうと勝手に思ってしまった。

(実はトレイルは途中で行き止まりになっていて、

大悲閣へは途中で分岐しないといけなかったが知らなかった)

 

細い尾根の北側につけられた比較的整備された

トレイルを西へ西へと進みます。

眺望が効く場所もちらほらあり、

渡月橋嵐山モンキーパーク、嵯峨野の集落を眼下に、

心地よい山歩き。

 

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トレイルが尾根の右側、左側と移りながら続きますが、

極めて穏やかな道です。

メインルートから外れるためか、時間が遅いからか、

全然すれ違うハイカーはいません。

明瞭なトレイルのほかにも、

明らかに人が入っている脇道がついていて、

そちらの方が眺望がよさそうなので、そちらへ突っ込みます。

上がってみると、小さなピークが剥げていて、

そこから嵯峨野方面、

翻って、西山の街並みが遠くに見えます。

このピークがてっきり嵐山かとおもたっら、

名もなき小さなピークで、

そのまま進んでいくとじきに元のトレイルに戻ります。

 

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その先もトレイルは続いていて整備されて歩きやすいが、

こちらでも所々台風の被害にあった

倒木が道を横断していたりします。

 

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しばらく進んでいくと、再び本トレイルと枝分かれして、

小さな道がついている小ピークに差し掛かります。

そこには小さな小さな木の看板がつけられてあり、

どうもこの小さな枝道を上がれば嵐山のようです。

そこそこ急な登りを駆けあがると、なだらかな場所に出る。

そこを道なりにずいーっと進んでいくと、

広々とした場所に出ます。

おもむろに周辺を見渡すと、木の1つに「嵐山」の看板を発見。

ここはかの有名な嵐山(382m)です。

 

全国有数の観光地で、

全国的な知名度を誇る地名でもある「嵐山」ですが、

じゃあどんな山と聞かれても、

実際に登ったことのある人はほとんどいないかもしれません。

「嵐山」の山頂は、こんな風に、何の眺望もなく、

枯れた木々が打ち捨てられた物悲しい場所でした。

しかし、だからといって「嵐山」は、

つまらない山かというとそうではありません。

例えば、天龍寺などの下界から仰ぎ見た時に、

美しい風景を構成する借景として見事な存在感を発揮する

「見る」山なのです。

(しかもちゃんと見られるのを意識して、

木々を刈り取りするなど山は整備されている)

 

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さて嵐山のピークを踏んで、さらに先へ。

もう一つ、この山域では一番高い

烏ヶ岳というピークへ向かいます。

しばらく尾根の北側をなぞるようにして歩いて行くと、

激しい倒木の後があり、そこに看板がつけられている。

どうも左手の急な斜面を登って行けば山頂で、

右手の崩れかかっているトレイルは巻き道の様。

もちろん左に進みます。

 

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分岐直後は虎ロープがあり、

急で脆い斜面をどうにかよじ登ると、

土堀のような溝をスロープにして登っていきます。

しばらくしてなだらかな一帯に出て、

そこが烏ヶ岳(398m)でした。

ここも眺望はあまりよくありません。

 

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ピークを過ぎて、ピンクテープを頼りに、

先ほどの巻き道ルートとの合流地点を目指しますが、

トレイルは不明瞭で、しかも、それなりに開けているので、

どちらへも行けそうな感じ見えるので、

しっかり見極めて進む。

途中で直角に折れるようにして進む箇所があったので、

道を誤って直進してしまうと、

道迷いの危険があるように感じた。

とにかくピンクテープを見失わないように。

ところどころ、痛々しい倒木の荒場なども通過し、

無事に合流点に到達。

 

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合流点には案内板があり、

今まで来た道のざっくりとした相関図があり、

現在地を確認。

トレイルはさらに西へ進んでいるが、

そちらには「ロータリー」とある。

この山域は初めてで、よく知らず、

きっと大悲閣のある千光寺がふもと道の終点だから

その前に広場があって、それをそう呼んでいるのだろうと、

勝手に想像してしまった。

(実際にはこの日最初に歩いていた

西芳寺の道の林道の終着点の転回場のことを

松尾ロータリーというのだった)

 

なにせ、このトレイルは保津峡には通じていないはずで、

しかし実際、明瞭に先へ進んでいて、

ならばこの道の終点はどこかを想像すれば、

大悲閣へ降りるしか先に何もないはずだ、と決めつけて、

西へ続くトレイルへ迷うことなく進んでしまいました。

まさかトレイルが途中どこへも向かわず行き止まりとは…

 

実際は、この分岐で、巻き道の方へ少し戻ると、

大悲閣へと下りる道(そちらはそちらでほぼ道なき道らしい)の

分岐があるポイントだったのだが、それを知らなかったうえに、

この案内板にもその道について、

あるいは大悲閣/千光寺について一切の表記がなかったので、

中途半端な知識と、思い込みで、やみくもに進んでしまった。

 

またこの時点ですでに時刻は16時になろうとしていて、

1時間もすれば日が暮れて真っ暗になってしまう。

大悲閣はそんなに遠くはないから、あとせいぜい30分だろうし、

下りてしまえば安全だからという油断もあったが、

同時に、はじめての山域で、万一日没は避けたいという焦りもあり、

よくよく立ち止まって考えずに、

とにかく先へと急ぐことばかり考えて、

足早に分岐を先へ進んでしまったこともよくなかった。

 

ここからいよいよプチ遭難は始まってしまう。

 

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実は大きな選択ミスをしてしまったということに

全く気付かないまま、分岐を西へ取り、

整備されたトレイルをずんずんと進んでいきます。

 

手元の簡易地図では、烏ヶ岳から大悲閣までは、

それほど距離がないはずなのだが、

快適な道だったこともあり、サクサクッと先へ進んでしまう。

どうも、思ったより距離があるなあとは感じてはいたのですが、

実は、この日は最初から距離感がおかしく、

というよりも初めての山域で自分の中での尺が整ってなかったのか、

西芳寺から松尾山も、はたまた松尾山から嵐山も、

思ってたよりも距離があったなあと感じていたので、

今回も同じように、

ちょっと距離があるなあというくらいで正解なのだろうと、

違和感がありつつも自分の中でそれを正当化してしまっていました。

 

いずれにせよ、まだ所々で開けたところからは

嵐山や嵯峨野が見えているので、こんなもんかと深く考えず、

それよりも最初の見立てより距離があるってことは、

十分余裕だと思っていた日没までの時間が

あまりないのだということになり、

余計に急ぐことを優先してしまいました。

 

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おかしいな、もうそろそろ下ってもよいはずなのにと思いつつ、

明瞭なトレイルがずっと続き、

シカやイノシシ除けのネットなど、

明らかに人が手入れしているものがあるので、進んでいきます。

(これが不明瞭な道ならすぐ引き返したのだけど…)

そこそこアップダウンが始まって、

時間もないのでペースを上げてこなしていきます。

 

そろそろ黄金色の木漏れ日が木々の間に降り注ぐころになり、

また前方の合間からうっすらと愛宕山が正面に見え隠れ。

んん?大悲閣って、こんな奥まったところだったっけ?

さすがにちょっと来過ぎたんじゃないか?

でも、途中で分岐を見落としたり、別の道を来たこともないし、

どうなってる????

と、クエスチョンがどんどん膨らんできました。

迷ったら、引き返す。これが山での鉄則なのですが、

今から松尾山方面へ引き返すとなると、

ペースを上げてきたせいで随分進みすぎてしまったために、

完全に日没に間に合わなくなってしまいます。

それなら、これだけ明瞭な道ならどこかには出るだろうと

さらに突っ込んでしまいました。

典型的な道迷い、遭難の心理状況に陥っていました。

 

そのうちトレイルはなだらかな森の中の広場に躍り出ますが、

その先へ続く明瞭な道はありませんでした。

途方に暮れている場合ではないので、周辺を見渡すと、

右手に急速に下りていく、ピンクテープの連なりを発見。

右手に下りていくのだから方角的には正しいし、

やっぱり大悲閣はこんな奥まったところだったんだなあと、

この時点でもまだロストしている自覚がありませんでした。

 

道は不明瞭だけど、等間隔でピンクテープが下っている、

方角的にも正しい、ということで、

迷いなく急な斜面を下っていきます。

さっきまでのきちんと整備されたトレイルから様子が一変、

トレイルというにはなかなかの道なき道だし、

いくら裏手とはいえお寺に続く道にしては、

かなり野性味があり過ぎるなあと、

下っている途中で一気に不安が増してきました。

 

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それでもピンクテープは続いているし、

一体の木々を選定して伐採し、

整理されている様子もあるので、

そのままズンドコ進んでいくと、

いよいよ、周辺の木々が伸び放題荒れ放題のブッシュに入っていく。

これはもう明らかにおかしいが、まだテープが続いているので、

かき分けて進むと、おもむろに目の前が開けたかと思うと、

がさごそっと、風景そのものが動いたかのようにざわついた。

バサッと出ると、目の前に多分20頭くらい、

小さいのも含めたイノシシの群れ。

思わずぎょっと体が固まる。

一瞬の間があって、イノシシたちが一目散に逃げだして散っていった。

自分もひとまずそちらとは反対側に早足で退散した。

こちらに向かってくるのがいなかったから助かったけど、

多勢に無勢、本当に血の気が引きました。

あれだけのイノシシが群れて生業にしているということは、

ここはもうほとんど人間は日常的に活動している

範疇を脱しているということ。

 

気付けば、深い森の中の、

木々を伐採する末端の現場にはまり込んでしまった。

ピンクテープは登山者を誘導するものではなく、

地主か山を管理する人たちが作業場へと通じる目印だったのだ。

これで、この先へ通じる道がないのだとはっきり自覚しました。

切り出された木材がきちんと横倒しに並んでいるところから、

とりあえず周辺を確認して回って、

その先テープが続いていないかどうか、必死で確認しましたが、

この広場から先、下へ通じる手掛かりは

一切ありませんでした。

 

ここで一旦落ち着いて、まずは自分の現在地がどこなのかを

手持ちの簡易地図と、

歩いてきた道のりを頭で再び描きながら確かめます。

烏ヶ岳までは間違いなく正しい道だったが、

どこかしらで大悲閣への降り口を見失い、

おそらく随分西の方へ来てしまった。

保津峡には通じていないというのが間違いないとして、

さっき、そういえば夕暮れの陽が西から指して、

正面の木々の間に愛宕山が見えていた。

おまけにそれほど遠くない位置、それもで正面から、

バイクや車のエンジン音が聞こえているので、

きっとあれは六丁峠のある県道50号だろう。

もろもろを考慮すると、トロッコ保津峡駅の手前、

おそらく保津峡清滝川とぶつかるところの対岸、

峡谷が深く湾曲した一帯。

結論から言えば、その現在地の推測は全く正しかったのだが、

そうすると大変困ったことになった。

なぜなら、この推測が正しいとすれば、

この一帯でどこへ下っても、保津峡の一番険しい、

峡谷の部分に出ることになるからだ。

つまり、下手に降り口を間違えて、下ってしまうと、

切り立った断崖絶壁に躍り出るだけで、

行き場を失ってしまう。

そうなって暗くなれば、

もう身動きができないどころか、

滑落や事故の危険性が恐ろしく高くなる。

 

これから慎重に1つ1つの判断、決断をシビアにこなし、

この後の行動を見極めないといけないが、

無情にも日没がもうすぐそこまで迫っていた。

そうやって状況をすべて頭の中で整理しきったその途端に

全身に嫌な寒気がして、

ここで初めて、自分の置かれている状況が

いかに緊迫しているものかを自覚し、受け入れた。

 

ひとまずは冷静になって考える。

ここからは余計な希望的観測に基づいて行動はしてはいけない。

つまり、ここからは下れそうとか、ここは行けそうというので

安易に進んではいけない。

なので、まずはこの不明瞭な一帯からは即時撤退し、

少なくとも明瞭につけられたトレイルの末端までは戻る必要がある。

ひとまずはたどってきたテープを頼りに引き返します。

(道が怪しくなってからは、進みながらも、何度も振り返って

いざっ撤退となった場合に、道を間違えないように風景を目に入れていた)

 

ただそのためには、さっきイノシシの群れと鉢合わせした場所を

再び通過しないといけないが、

迂回してピンクテープを見失ってしまう方が今はリスクが高い。

あの一帯は少し窪んだ広場になっていたので、広場の中央を避けて、

ヘリを回り込むようにして、次のテープのある登り口まで進む。

 

その最中でも、森全体が何やら大きな獣のように

呼吸をしているように感じ、

こちらからは見えないが、近くから遠くからこちらをじっと見ている

そんな視線を感じるし、パキパキと枝葉を踏む自分の足音に交じって、

キーンとか、グフグフという鳴き声が森を行き交う。

彼らはそうやって、こちらの行動をちゃんと観察して、

伝え合って、警戒している。

それがひしひしと肌に伝わってくるが、

こちらはもうそれに対して、何の手段も持っておらず、

ただ彼らの場所をこれ以上荒らす前に、

できるだけ早く退散するしかない。

 

かなりの急こう配をどうにか上り詰めて、

トレイルの終点までどうにかこうにか戻ってきました。

一応、最悪の事態はこれで回避できました。

しかし、ここからトレイルをそのまま引き返すとなると、

嵐山or西芳寺まで戻るのに2時間はかかる。

日没まではもってあと30分。

どうしたものかと悩みながらトレイルを歩いていると、

右手のブッシュの少し下あたりに、林道のようなものが見える。

あれは?と思って、

ブッシュをかき分け、段差を飛び降りると、

車1台が通れるほどの明瞭なダートでした。

これはひょっとしてと思って、少し進んでいくと、

案内板に記されていた(松尾)ロータリーという、

林道の終着点でした。時刻は17:00。

実に1時間近くさまよっていたことになります。

 

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日没後、暗い中、たどってきたトレイルを戻るよりも

こちらの明瞭かつ幅広の林道を西芳寺へ下る方が断然安全だし、

道を見誤ることもない。これでひとまずは一安心しました。

ただこの道は沢に沿ってつけられているために、クネクネと、

西芳寺へは距離がかなりあり、時間がかかります。

 

どのみち真っ暗な中(ヘッデンは持ってきているし)、

林道を2時間歩いて戻るならば、

ここからほんの直下にあるトロッコ保津峡駅

降りることができないか、残りの30分に賭けて、

だめならだめで、このロータリーに引き返してから、

完全に明瞭なこの林道をバックアップルートとして、戻ればどうか。

もちろん、やみくもの斜面を降りるのではなく、

それなりのトレイルがあればの話だ。

 

念のため、ロータリーを一周してみると、小さな小屋の脇に、

下へ続くトレイルを発見。

万一、15分進んで、このトレイルが途切れたなら、

残り15分、日没までにここに戻ってくる、

そうしてこの林道を引き返す。

万一、それも難しくなってしまえば、

この小さな小屋でどうにか一晩はビバークできる。

15分だけ進む約束と、2つのバックアップの手段を得て、

そのトレイルに賭けてみることにしました。

 

ロータリーからのトレイルは、

左にあるフェンスとともに激下っている。

それなりに荒れてはいるが、全く人が入っていないわけでもなく、

ところどころには目印のテープもある。

かなりの急こう配をまっすぐに下っていくと、

徐々に道はジグザグと斜面を下る道となる。

かなりトレイルは狭く心細くなっていくが、

トレイルとわかる程度にはっきりしている。

一か所、急な所に虎ロープがあり、滑らないように慎重に下る。

これはもし目論見が外れた場合、

登り返すのは厳しいかもしれない…

と思い始めた時に、下の方で、エンジン音がする。

ロッコのではなさそうだが、バイクか車かの音が近い。

もう少しだけ進んでみようと、

急勾配のわずかに張り付いたトレイルを進むと、

木々の間に線路が見えた!!

 

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線路が見えてからも、まだまだそこからさらに

ずんずん下っていかないといけない。

はやる気を持ちを抑えて慎重に下ってようやく線路脇にでました。

ただ、駅がこの右にあるのか左にあるのかわからない。

ひとまずは続いているトレイルに沿って右へ進む。

すると、トンネルの前に出てきましたが、

トレイルはそこで線路の下をくぐる排水路となって、

向こう側の保津峡へと落ちている。

当然線路内には入れないし、

んんん、ここからどうすればよいのだ…

 

よくよく周囲を観察すると、トンネルと反対側、

歩いてきた反対方向500mくらい先に、駅のホームが見える。

あそこにさえたどり着けば、いよいよピンチを脱する!!

そのために一度線路をくぐろうと排水路を渡ろうとしましたが、

足元が滑りやすく、危うく川へ落ちそうになったので、

慌てて引き返す。

一度トレイルを引き返して、

ブッシュを通ってホームへ行けないか試すが、

あまりにブッシュがひどく先へ進めない。

あと、たった500mなのに…目の前に見えているのに…

今更、山に登り返すなんてできないし…

しかしここで途方に暮れている場合ではない。

 

もう一度排水路に戻り、くぐったすぐのところで

どうにか線路脇へとよじ登る。

線路には入らずに、線路脇の植え込みのところを伝って、

どうにかこうにか駅のホームにたどり着いた時には、

もうほとんど日が暮れかけていました。

一か八かの賭けは、タイムアップぎりぎりで成功しました。

時刻は17:20。

 

ホームにたどり着いて、

ここまでのあまりにシビアな緊張感が解け、

ヘナヘナと力が抜けて思わずへたり込みました。

自慢にはなりませんが、これまでも、

山で怖い思いをしたり、

シビアな状況に置かれたことはありますが、

久々に、本当にまずい状況に陥って、

やはりいつでも、どんな山でも難しく、

油断は禁物だと改めて思い知らされました。

幸いにして、遭難や事故など最悪の状況は自力で回避でき、

迷惑をかけることも避けられて、生還できましたが、

これはもう大大大反省です。

 

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ロッコは残念ながらもうこの時間は運行終了しているので、

これでは町へは戻れない。

なので、もう少し歩いた先にあるJRの駅まで向かうことにします。

少し休憩して、トロッコ駅から対岸にかかる

保津峡橋を渡る時分には、

もうすっかり日は暮れて、暗くなっていました。

本当に時間ギリギリでした。

県道50号に出て、左に折れ、歩きますが、

意外と往来があります。

余りに暗いので、こちらが歩いているのに気づかれないと困るので

短いながらもヘッデンをつけて歩きます。

 

短いトンネルを抜けた先、少し道が細くなっているところで、

後方から車が来たので、道を譲ろうと、

ガードレールの際まで寄ったとたん、すとんと体が落ちた。

とっさに上半身で踏ん手を突きました。

真っ暗で見えなかったのですが、ガードレールの内側まで、

道が軽く崩落?削れていたようで、

その穴に危うく落ちるところでした。

さすが崖下までまっしぐらという程のものではなかったにせよ、

道の少し下まで落ちてもおかしくありませんでした。

どうにか上半身で踏んばれたのと、

後ろから来た車の運転手の方が飛び出してきて、

引き揚げてくれたので、事なきを得ました。

せっかく死地から生還したところで、

まさか文字通り落とし穴にはまるとは…

とっさに手を突き、上半身に強い衝撃が走ったので、

五十肩と診断されたばかりの左肩がズキズキと痛みます。

今日は最初から終わりまで本当にチグハグでした… 

 

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思わぬハプニングがありましたが、

15分ほどで、ようやくJR保津峡駅到着しました。

ホームは峡谷の真上にあり、ホーム幅が狭いのだけど、

通過する列車の風圧のすごいことすごいこと。

 

そのホームからは、ちょうど正面に、

下ってきた山のシルエットが、

暗闇に浮かび上がっているのが見えます。

こう見ると、やはり山は峡谷に向かって急激に下っています。

もうあと少しでも遅く、今もまだあそこを下ってたとしたら、

ゾッとします。

 

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20分ほどで列車がやってきて乗り込み、

そのまま京都駅へ。

すっかりお腹が減ってしまったので、

構内の立ち食いそば屋さんへ。

温かいお出汁でほっと一息。

大阪までの新快速では、あまりに疲労したからか、

珍しく眠ってしまい、危うく乗り過ごすところでした。 

 

ということで、まさかの遭難一歩手前の山歩きとなりました。

ちょうど、この向かいにある愛宕山は遭難のメッカでもありますが

なぜこんな京都の市街地からすぐそばの、1000mに満たない山で、

これほどまでに遭難が相次ぐのかと、前々から思っていましたが、

それを身でもって実感することとなりました。

 

街や里から近いという、潜在的な安心感が油断につながり、

ある程度ルートが決まっている高い山とは異なり、

正規、非正規問わず、大小さまざまなトレイルが

あちらこちらに張り巡らされている低山ほど、

その選択肢の多さゆえに、迷子になってしまうのです。

今回はそれに加えて、自分自身の慢心と、

中途半端な下調べで得た情報だけを頼りにして、

自分の中身芽生えた不安やおかしいぞという感覚を、

根拠のない自身で打ち消して、

迷ったら戻るの大原則を疎かにしてしまったこと、

これが最大の誤りでした。

大反省です。