「四とそれ以上の国」 いしいしんじ
ゴミゴミした雑踏や通勤電車の中で、意識を集中させて、
本の世界に没頭する読み方が好き。
家の中や静かな図書館だったりすると逆に気が散ってしまう。
小さな物音が気になったり、他の誘惑があったり。
ただ残念なことに通勤はわずか1駅分しかない。
ということで読書の時間がなかなかない。
秋からずっと読んでる本、年内になんとか読み終わった。
大好きないしいしんじの最新作「四とそれ以上の国」。
こんなに感覚を必要とする本は今までになかった。
主人公(作者自身の?)の脳裏に広がるイメージの断片や色彩、匂いや触感、
それらが裸のままの言葉で次々と飛び込んでくる。
ある男の脳みそを覗き込んでいるんだなと思った次の瞬間、
別の女の目線に一気に飛んで行く。
どこからともなく立ち込める木々や食べ物の匂い。
影の群衆のヒソヒソ話に、湯気が立ち上るほど熱を帯びた浄瑠璃の語り。
地を這う無数の筋が突如走り出し、巨大な渦が海の水を飲み込んでいく。
どこまでも広がる青空がまばゆい光を放ったかと思えば、突如の暗転。
荒々しい感情の起伏に何度となくかき回される世界。
話の筋を追おうとすれば、たちまち道を踏み外してしまう。
大事なのは感覚を研ぎ澄ますこと。
途中何度もくじけて本を投げ出そうかと思うほど難解な部分もあったが、
最後の一文を読み終えて得たのは、
それこそまさしく題材になっているお遍路さんを踏破したような達成感だった。
- 作者: いしいしんじ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/11
- メディア: 単行本
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