記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

破砕帯ツアー

9/27(土)。
この日は夏場に申し込みをして見事に当選を果たした
関電トロリーバス開通50周年記念の破砕帯ツアーに出かけます。
ツアー自体は、すべての便が終了してからのスタートで、17:15黒部ダム駅に集合。
なので、いつもと違って前ノリはなしです。
朝イチで娘を土曜保育に送って、すぐに支度しタクシーを飛ばして新大阪駅へ。
名古屋の乗り換えがシビアなので大急ぎで弁当を購入して11:00の新幹線に飛び乗る。
もうこれだけ毎週だと手慣れたものです。
11:52に名古屋駅に到着し、12:00にはワイドビューしなのは出発。
13時ごろには木曽福島に到達していましたが、
その時はまさか御嶽山が噴火しているなどということは全く知らず、
車窓を見ても灰が降っているとか噴煙が見えたりということはなく、
電車も特に何事もなくふもとを通過していきました。
あんな大惨事が直線距離にして20kmそこいらのところで発生しているとは…
本当にまさか。まさかとしか言いようがないです。
14:06に松本駅に到着。
松本駅で好きなことが一つあってそれは到着の際のアナウンス。
「ま〜つもと〜、ま〜つもと〜」と旅情を誘うあの口調がなんともいいのです。


穴子弁当


6分後に信濃大町行きがでるのですぐに大糸線に乗り換え。
ちょうど学生の帰宅ラッシュの時間帯だったようで、
かなり混雑していて穂高駅辺りまではスタンディングでした。
穂高で多くの人が降りて、座れるようになると
翌日のスケジュールを何度も検討する。
せっかく遠征しているので、用事をいっぺんにすませるため、
翌日は近くの山を登ることに決めていましたが、
まだどこにするかを決めかねていたのです。
弾丸1dayでどのくらい行けるのか、
いくつかの案を手元のスケジュールとにらめっこしながら何度も考えます。
抱いたプランを練る時は、地図のコースタイム通りで組んでいきます。
自分がそれより明らかに早いペースで歩けると知っていても、
山では何が起こるかわからないし、毎度毎度そのペースが維持できるのかということもある。
要はまだ自分のペースに自信がないのです。
扇沢発ということで、無難にいけば柏原新道から鹿島槍を狙うのが一般的だが、
双耳峰なので北峰までとなると、ピストンしてもぎりぎりのタイミング。
それから反対側、針ノ木大雪渓を上がって、船窪小屋を経由して七倉とか?
あるいはせっかくの紅葉ど真ん中なのでアルペンルートを抜けて立山縦走も考えうる。
でも一番やりたかったのは、柏原新道上がって、
鳴沢岳〜赤沢岳〜スバリ岳〜針ノ木岳と、
扇沢の上部をぐるっと周遊するルート。
黒部湖を真上から眺めれば、黒部づくしの週末を楽しめそうだ。
ただ、こちらは難易度が少し高いうえに、
コースタイム通りに組むと到底最終に間に合いそうにない。
自分のペースを信じて突っ込むかどうか…まだ決心がついていなかった。
15:03に信濃大町に到着。
念のため駅の時刻表を確認し写メを取っておく。


15:15に扇沢駅行きのバスが出発。
さすがにこの時間に向かう人は少なくガラガラです。
翌日のプランを考えていて、最悪、
最終バスに観ない合わなかった場合にタクシーを呼べばいいのかと気付き、
奥さんにメールをしてちょいと調べてもらうようにお願いする。
15:55に黒部立山アルペンルートの東の玄関口、扇沢駅に降り立つと、
ひんやりとした空気が迎えてくれます。
あまり乗り換えの時間の余裕なく、大慌てでチケットを手配し、
16:00のトロリーバスに乗り込みます。


トロリーバスはもう何回目だろう?
一見してバスの格好なのだが、れっきとした軌道=鉄道の分類になります。
パンダグラフから電気を供給して進むので、排ガスを出さないため、
黒部立山の自然を守るための有効な交通機関として、
全国で唯一稼働しているトロリーバスです。
鳴沢岳と赤沢岳の間くらいに貫通された全長4.5kmの関電トンネルを抜けていきます。
今回の最大の目的である破砕帯はこのトンネルを掘削する際の最大の難所で、
ブルーのライトにされた区間をいったんトロイ―バスで通過します。
16:16に黒部ダム駅に到着。
集合時間まではたっぷり1時間も時間があるので、
珍しくゆったりとダムを見学することにします。


まずは名物の200階段をえっほえっほと上がり、ダム展望台へ。
16:30までは観光放水がされているので大急ぎで写真をバシバシ。
北側を見れば、つい前の週に歩いた下の廊下が奥深く続いている。
もうそろそろ、扇沢方面も室堂方面も最終が近いので、
他の観光客は慌ただしく行き交っている。
売店でいくつかみやげを物色して、17時ごろまでまったりダムを楽しんだ。


黒部ダム


↓下の廊下


15分前に黒部ダム駅に戻ると、
たくさんの人が関電のヘルメットをかぶって駅長室前で集まっている。
自分も大急ぎで受付を済ますと、ヘルメットを支給してもらい装着。
トンネル内で危険な個所は全くないのだが、
一応線路内に立ち入りという扱いになるので規律上義務づけられているのだ。
時間となり、まずは担当者さんからご挨拶。そののち、
駅の裏手を抜けて、軌道内を少し進みます。
怪しいドアを抜けると、掘削したまま岩がむき出しの
ちょっとしたスペースが広がっていて、
そこにスクリーンとプロジェクターが備え付けられていました。
破砕帯へ向かう前に、まずはこの特設シアターで、
記録映画を鑑賞します。
何度か見たことのあるものだったが、何度見ても感動するねえ。


↓黒部トロリーバス


↓裏道を使って軌道内へ


↓特設のトンネルシアター


↓掘削の跡が残る


↓記録映画を鑑賞


鑑賞会ののち、2台のトロリーバスに分乗して、
いよいよ破砕帯へ向かいます。
運よく最前列の座席に座れたので、車内からもバシバシ写真を撮ります。
トンネル内にはきちんと、トンネルが貫通した地点や、
富山/長野県境などの案内表示があります。
そうしていよいよ破砕帯に到着です。
釜山はゼッタイに途中下車できない区間
それも世紀の大工事と称された黒部ダム建設の核心部分に降り立ち、
感無量!冠二郎


↓貫通点を通過


↓富山・長野県境


↓破砕帯に到着


バスを降りると一気にひんやりした空気に包まれます。
今でもかなりの量の湧水が絶えず流れているようで、
その水温は6℃とかなり冷たい!
これらの水が穴の四方八方から容赦なく吹き出す中、
まさにドブネズミ同然の様相で工事が続けられたのです。
黒三では高熱隧道の灼熱地獄、
黒四では破砕帯から溢れる多量の雪解け水地獄。
想像を絶するすさまじい現場が繰り広げられてきたのです。
やはり自然というのは一筋縄ではいかないものだ。
でも、その圧倒的な自然に対して、
知恵とたゆまぬ努力と少なくない犠牲によって、
絶えず自然に挑んできた我々人間もまたすごい存在なのだと思います。
そう考えると、あの御嶽の噴火による大惨事も、
その他頻発する数々の自然災害に対しても、
きっといつかは克服できるのではと願います。


↓ひんやりとした空気が漂う


↓破砕帯の湧水


↓6℃の冷水


↓解説板


↓世紀の大工事の現場にて感無量


滞在時間はわずかに15分程度でしたが、普段は立ち入りできない地点で、
破砕帯を十分体感することができました。
今後継続的にイベント開催も検討していくということで、
興味のある方はチャンスがあるかもしれません。
再びバスに乗り込み、一路扇沢駅へ。
車中、グッズの抽選会などもあり盛り上がって到着。
おみやげに、破砕帯のお水と、ダムカードならぬバスカード(非売品)をいただきました。


時刻はすでに18:30。
信濃大町へ向かう路線バスもすでに最終便が出てしまった後です。
イカーではない参加者は乗合でタクシーを手配していました。
辺りはもう暗闇に包まれています。
自分は翌日の山歩きを考えると、わざわざ信濃雄町まで下山する必要がないので、
この扇沢駅にて野宿することにしました。
ここで先日導入した寝袋を実戦投入します。


扇沢駅にて野宿


まずは簡単に晩飯を。
山行の時はもう決まって早ゆでペンネと茹で汁スープと決まっております。
ちゃちゃっと作って、ちゃちゃっと食べたらあとはもうすることなし。
寝袋を用意して、駅下のベンチで時間を過ごします。
さすがに標高1400mあるので、結構冷えはじめて、
とりあえず持ってきているウェアを全部着込みます。
それでもさすがに露天は寒かった〜@@


↓晩飯


寝袋に潜りながら、翌日の山行をどうしようか引き続き検討会議。
色々考えたが、やはりせっかく朝イチで扇沢出発できるというのは
めったにないシチュエーションなので、このチャンスを生かすべきだと判断。
かなり強行にはなるが、夜が明けきらない3時から出発して、
扇沢周遊プランを練り始めるが1dayで抜けるには相当タフな山行になりそうで、
頑張ってプッシュしてもタイム的にはギリギリの感じ。
あれこれ悩んでいると、奥さんからメールが入る。
夕方にお願いをしていたタクシーの情報かなとみてみると、
なんか御嶽とかいう山が噴火したみたいで、かなり深刻こくそうやけど大丈夫?とあった。
え?どういうこと?何があったん?
すぐに奥さんに電話を掛けると、どうもニュースでやっているのをたまたま見ただけやけど、
いきなり噴火があって、死者や行方不明者が出ているらしいとのことだった。
まさかこんな秋晴れの週末に噴火なんて…
これはきっと甚大な被害が出ているに違いないとかなりショックを受けました。
どうかひどいことになっていませんようにと願うしかありません。


こちらはとりあえず中央アルプスからは遠く離れているので、
影響はないし無事だと伝えると、できるだけ早く帰ってきてほしいと言われます。
毎度毎度心配をかけてすまない。
確かに、噴火の規模や周辺の状態がよくわからないが、
状況によっては麓の木曽福島を通過する中央本線が運休する可能性も捨てきれない。
できるだけ影響が出る前に現場を離脱して帰阪した方がよいだろう。
もし万が一運休という事態になれば、幸いにしてここは扇沢駅
アルペンルートを横断して立山に抜けて、
影響の及ばない北陸本線で帰ることも考えうる。
いずれにせよ、今この時間この場所では、移動手段もすべて終了しているし、
どのみちここで一夜を明かさざるを得ない。
翌朝、駅で最新の情報を得てのち、どうするか判断するしかなかったが、
当初プランの縮小は避けられないだろう。
なんだかしっくりしない不安な気持ちを抱えたまま、寒空の下で一夜を過ごした。