記憶の残滓 by arkibito

「マジメにアソブ、マジメをアソブ」をモットーに、野山を駆け、コトバを紡ぎ、歌う。

北アの最奥縦走 2日目(太郎平小屋~黒部五郎岳~三俣蓮華岳~双六岳~双六小屋)

2日目。

早立ちするお客さんが3時ごろからガサゴソと初め、

5時前には電気がつく。

あまりぐっすりは眠れなかった。

自分は朝食を弁当に変えてもらっているので、

支度だけ済ませれば、すぐにスタートできる。

 

朝食の段取りで慌ただしい中、

カメちゃんとシステマ君に別れの挨拶。

彼らはあと数日ここに滞在して、

それから黒部五郎~三俣~高天原~薬師と巡回をしながら

1か月の任務をこなしていきます。

くれぐれも事故・ケガのないようにね。

そして一旦、空模様を見ようと小屋を出ると、

ちょうど同じように空を確認する富山県警のKさんがいらして、

昨晩話せなかった分、少しだけお話し。

20年以上前、初めての赴任がこの太郎平だったとか、色々。

朝日小屋もまた秋に来るね?と聞かれたので、

もちろんとお答え。

またその時に再会できればいいなあ。

 

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さてさて気になるお天気。

この日は台風の影響を脱して晴れるとふんでいたのだけど、

見事な曇り空…。

薬師岳も雲ノ平も黒部五郎も

全部白いモヤモヤに遮られ見えません@@

それでも、折立まで下りておしまいというわけにはいかないし、

そうなると立山へ降りるか、新穂高へ降りるかの2択しかない。

立山に抜けるにも、初日太郎平止まりでは長丁場になるので、

これはまたの機会にして、新穂高方面に定める。

この天気ならせっかくの雲ノ平もガスガスで絶景は望めないから、

それなら1つくらいピークを踏んで、

アップダウンを楽しめる黒部五郎を目指すのがよろしいかと。

 

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小屋脇を抜ける時に、厨房からGパトの二人が

元気よく手を振って見送ってくれて、

5:35に山行を開始。

しばらく進むと、薬師沢・雲ノ平方面への分岐。

直進して北ノ俣岳黒部五郎岳方面へ向かう。

 

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まずは軽い登りをこなし、ほどなくして太郎山。

ルートを少し外れてピークを踏んでおきます。

そこから先はなだらかで広大な緑の丘に付けられた木道を進みます。

まだこの時点では降っていなかったが、

足元は濡れて木道が滑るので注意して。

レスキューで一番多いのは、

何でもない木道でのスリップによる骨折。

これは去年1か月の山暮らしでも多数見てきたこと。

少し前に出発したパーティーに道を譲っていただきながら

順調快調に進みます。

もし晴れていれば相当に気持ちの良い山並みと、

黒部秘境の絶景を楽しみながら歩けるはずなのだが、

どこもかしこも真っ白!!

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そのうち穏やかな道は姿を変え、急な上りに入ります。

雨水の通り道になっているえぐれた地面に

取り付けられた木の階段などをこなしつつ、黙々と進む。

ちょっとばかりきつめの斜面を登り切ると、また道は穏やかに。

少し進んでいくと飛騨方面からの神岡新道との分岐。

さらにもう少し進んで、広大な山肌を上がっていけば

標高2662mの北ノ俣岳のピーク。

ガスガスで何も見えない!!

 

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ピークからいったんジグザグと下り、

大きな雪渓を左に見やりながら進んでいく。

この辺りはハイマツの群生。

と、右手から強い風に押されて、

どんどん雲が押し寄せてきたかと思うと、

ザーザー振りの雨が降ってきました。

慌ててレインウェアを装着する。

横殴りの雨に抗いながら進んでいくと、

にわかにゴツゴツとした岩肌に取り付く。

そんなに危険な箇所もなく、

マークに沿って丁寧に進んでクリアすると

その先に赤木岳の標識。

(実際のピークは少しコースから逸れたところ)

 

 

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赤木岳を越えるとズンズンドコと下っていくが、

道が完全に水没して、小さな川のように流れている。

ぬかるみの深いところ避けつつ進む。

中俣乗越の一帯もこの雨で完全に水没。

ビショビショべちゃべちゃの世界を黙々と歩く。

じきに登りに入るが、

上から水が流れてくるところを器用によけつつ進んでいく。

そこから池塘というところまで右から回り込むようにして

急登があり、てっぺんまで行くと、少し広い場所があって、

休憩する登山客がちらほら。

 

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そこからしばらくは穏やかな道を進んでいく。

するとその先から道は明らかに目の前に立ちはだかるように。

いよいよ黒部五郎の本丸への上りだ。

これがまた実に急で、ジグザグと少しずつ高度を上げていく。

さすがに何度か立ち止まって休憩をはさみつつ、

どうにかこうにか肩までやってきました。

 

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荷物はデポせずそのまま、山頂を目指します。

岩場をずんずんと詰めていく。

てっきり肩から見えているピークがそうだと思ったら偽ピークで、

その先小さな雪渓をはさんで向こう側まで、

思ったよりも距離がありました。

そうして太郎平小屋を出発してちょうど4時間で、

標高2840m、日本百名山黒部五郎岳に登頂です。

間違ってるかもだが、

おそらく”黒部”という言葉を冠した山はここだけ。

ここは本来なら360度の大パノラマで、

黒部の秘境をずらーっと見渡せるはずなのだが、

ガスが分厚過ぎて本当に何も見えない。

大絶景はまた次の機会の宿題にして、

とりあえず記念撮影だけしてすぐにリスタート。

 

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肩まで戻ってくると、

分厚かった雲が薄らいで晴れ間もちらほら。

ひょっとして回復するかもしれないので、

ここらで補給をしつつ15分ほど休憩。

この日歩いてきた道のりちらちらと見え隠れするが、

西銀座ダイヤモンドコースと称されるこのコース、

晴れていれば本当に素晴らしい山歩きだったろうなあ。

待てるだけの時間は待ったが、

残念ながらこれ以上の眺望は出ませんでした。

翻って、背後を見れば、

黒部五郎岳を頂点に広がる見事なカールが全景を現す。

でもその先の三俣蓮華岳双六岳

槍ヶ岳鷲羽岳といったお山は完全に雲を被って見えず。

 

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しばらく雲が行き過ぎて眺望が回復するのを待ってみたが、

これ以上はさすがに望めなそうなので、

リスタートの準備をしていると、

ゴオオオオ~と聞きなれない音。

時折旅客機が通過するときの音よりも

さらに大きくて近いので何事かと思ったら

恐らく訓練中か何かの飛行機が何度も旋回を繰り返しておりました。

 

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10:15に肩をリスタート。

少しだけ稜線をなぞり、

その先からじわじわと黒部五郎カールへと下ります。

カールの斜面は緑の絨毯となっていて、

そこから一面のコバイケイソウの花畑が満開。

黒部五郎の山頂直下の荒々しい岩の表情と対をなすかのように、

メルヘンな世界が広がっていました。

 

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疲れも忘れて、花畑の斜面を下り、カールの底へ。

見上げる黒部五郎もなかなか壮観。

そしてこのカールに降った雨が

寄せ集まって幾つもの沢を作り出し、そこかしこに流れていて、

それを何度も渡りながら、下っていきます。

雨の影響で水量が多いのか、

沢からあふれた水が登山道を濡らしています。

前方には綺麗に象られた雲ノ平の台地の横っ腹が見えています。

広大なカールで、思わず沢伝いに歩きそうになるが、

実はルートは徐々に右手側の稜線の方へと寄っていくので、

ガスが厚くて視界が悪いときは道迷いにならないよう注意が必要。

まあ、そこかしこにマークがあるので、

それを見落とさなければOK。

 

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巨大なカールを抜けると、

今度は、さらにその一段下の平地に向けて、

うっそうとした森の中のごつごつ岩だらけの細い道を進みます。

山頂から1時間15分ほどで、黒部五郎小舎が見えてきました。

なんともきれいで可愛らしい小屋です。

時刻は11:30。

ひとまずベンチをお借りして補給。

 

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さて、一応この日の第1の目的地には到着しましたが、

まだ午前中です。

頑張ればもう1つ先の三俣山荘か双六小屋まで行けなくはない。

もしこのまま天気が回復傾向であれば、

この黒部五郎小舎で泊まって、翌日早立ちをして、

三俣蓮華岳もしくは双六岳で朝日を仰ぎたいが、

翌日はマストで帰宅せねばならないので、

下山口の新穂高まで、そこそこの距離を残すことになる。

ただ、翌日もスッキリ晴れる保証はなく、

むしろ今この時点は少し晴れてきているので、

絶景を見るなら今日の夕方なのか。

であれば、逆にちょっと頑張って先へ向かうべきか。

色々悩んだ結果、まだ体力もあるし、

時間的にも常識の範囲内で小屋にたどり着けそうなので、

リスタートすることにしました。

 

まずは目の前に大きくそびえる三俣蓮華岳へ向かいます。

小屋の裏手に回り込むと早速、上り口からえらいハードな道。

あの悪名高い笠新道、とまではいかずとも、

なかなか斜度も急だし、道は狭いし、

おまけに雨でぬかるんでべちゃべちゃ。

ここが踏ん張りどころと、じりじりと高度を上げていくが、

なかなかどうして骨が折れる。

そしてドドッと汗が噴き出す。

三俣蓮華岳は何度か登っているが、

そんなしんどい山の感覚がなかった。

でもそれは、大抵三俣山荘や双六方面から登っているからで、

あちら側と真反対に位置する黒部五郎小舎が

結構低い位置にあるので、予想以上に長く険しい道のり。

黒部五郎岳を上るのをもう一回おかわりするくらいです。

後で調べて気づいたのだが、

黒部五郎岳(2840m)より三俣蓮華岳(2841m)の方が高いのねん@@

直登に近いハードな道を少しずつ詰め、

小舎と反対側の飛騨側へチェンジする頃には、

斜度は落ち着きます。

稜線に出ると視界はクリアとなります。

そこを上り詰め、小ピーク(標識のあるところ)で

道は90度折れて、さらにその先の小さなピークと、

その先の雲の中へと弓なりに稜線が伸びて、

恐らくその先が三俣蓮華岳のピーク。

これだけ登ってきてもまだまだ半分くらい。

しばしここで休憩を入れます。

目の前には大きな緑の台地・雲ノ平が堂々と横たわり、

よく目を凝らすと真正面に雲ノ平山荘が見えます。

爺岳は頭の部分を雲が行き交う。

 

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リスタートして、その先の小さなピークまでは藪かき。

 その先の稜線は左側がガレて崩れやすい斜面になっている。

道はそのガレとハイマツの際をなぞって伸びており、

そちらをえっちらおっちら。

左手の方はガスが抜けて、徐々に眺望が出てきた。

雲ノ平、その奥の水晶方面、

ワリモ岳と鷲羽岳は山頂がもう少しで見えそうか。

 

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絶景を味わいつつ進むが、

 一か所だけ砂っぽくて滑りやすい岩場を乗越す箇所があり

そこだけ慎重に。

そうして13時前に、三俣山荘方面への巻道の分岐にたどり着き、

そこで一息。

黒部五郎小舎を発ってちょうど1.5h。

なかなかどうしてしんどい登りでした。

しかもピークまではまだある@@

 

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少しの休憩と補給を済ませてリスタート。

分岐をピーク方面へ進んですぐに、

急な上りに取り付く。

短いながらもどっと足に疲労

斜度が少し落ち着くポイントで一息つく。

ふと振り返ると歩いてきた道のりが見渡せました。

結構来たな~。

 

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そこからもう少し、きつい登りがあり、

ようやく緩んできたなと感じる頃には、

向こう側にたくさんの人影。

そうして13:30に標高2841m、日本300名山の三俣蓮華岳に登頂です。

お久しぶり~!!

ここは”三俣”の名の如く、3つの県境に位置していて、

今歩いてきた稜線が富山県岐阜県の境で、

ここから長野県へと入っていきます。

それにしても自分が最も好きな山である鷲羽岳が、

まさにこのタイミングの時だけ、

その麗しの姿を見せてくれて、感動です。

鷲の羽のように両翼を伸ばし、

白砂と緑のコントラストが美しいそのシルエットは

何度見ても惚れ惚れとしてしまいます。

それと対を成す槍ヶ岳の荒々しく神々しいトンガリは、

ちょうど雲にすっぽりと覆われてしまって

まるで存在しないかのように全く姿が見えず、

共演叶わず残念。

それでも黒部の最奥の絶景であることには違いなく、

ああ、山に帰ってきたなあ、やっぱり山はいいなあ、としみじみ。

 

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さて、まだ本日の山行は終了しておりません。

せっかくここまでこの時間で来れたので、

ここは三俣山荘ではなく双六小屋まで一気に行くべし。

双六小屋までは巻き道、中道、稜線ルートの3つあるが、

やっぱり少しでも雲が晴れる可能性があるのなら、

それに賭けて、双六岳も登っておきます。

まずはその間にある丸山への上りへ。

そろそろ長丁場の疲れも見え始めてなかなかしんどい。

 

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丸山をクリアして、その先少し下って、

中道との分岐を直進して山頂へ。

直下の岩場もガシガシこなして、三俣蓮華から約1時間、

14:35に標高2860mの双六岳に登頂。

期待した眺望は、残念ながらガスガス… 

写真だけ撮ってすぐに小屋へ向かいます。

 

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たおやかな稜線を歩いていきますが、

本当ならこの真正面に、

ドーンと槍ヶ岳が丸見えのはずなんだけど…

2つ下の裏銀座縦走したときの写真と見比べると、

雲隠れの凄さがよくわかります。

 

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頂上の台地が終わり、そこから急な岩場を詰めて、

中道との合流地点。

その先、直下にようやく本日のゴールである

双六小屋が見えてきました。

そうして15:23に無事小屋に到着。

9.5時間19km、3つのピークを越えて、よく頑張りました!!

 

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まずは宿泊の受付。

オコジョの部屋です。

本日は混雑日なので、2枚を3人ですと告げられましたが、

結局追加は来ずに、1人一枚でした。ホッ。

荷物の整理をあれこれしていたのだが、

寝巻き用のシャツも濡れてしまって使い物にならないので

小屋オリジナルのロンTを購入。

双六小屋のTシャツは種類も豊富でいい感じ。

夕食は2回戦目の18時からということで、3時間も待てないので、

カレーライスをいただきます。

寝床は窮屈なので、談話室で壁にもたれてウトウト。

 

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18時になって夕食。

この日は天ぷら定食でした。

ミニそうめんとスイカゼリーがありがたい。

同席した他のハイカーさんとあれこれお話ししつつ、

美味しくいただきました。

 

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夕飯後、外に出てみる。

小屋の立地的にここは日没も日の出も望めないのだけど、

風もない穏やかな時間の中、雄大な山々が夜を待っていました。

もう、ずーっと見ていられる。

 

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小屋へ戻り、談話室でできるだけ粘って起きていたのだが、

20時過ぎに眠気に負けて寝床へ。

両隣が相当のお年寄りの方で、相当なイビキのアンサンブル。

トイレが近いようで何度も上をまたいで

部屋を出たり入ったりだったので、なかなか熟睡できず。

まあ仕方がない。

翌日は下山!!

 

つづく・・・