水平歩道をゆく 詳細編
話は9/22(月祝)に遡ります。
前日まで週末を利用して家族で金沢旅行を満喫し、
夕刻に嫁子を金沢駅でお見送りしてのち、単身魚津まで移動して
そこでネカフェで一泊。
富山には一晩を過ごせる場所が一切なく、
宇奈月始発に乗ろうと思うと魚津が唯一のセーフポイントなのです。
なかなか熟睡には程遠いが、まあそこそこ休息。
5:30にずんぐりと重い体を起こして、店を出て、
すぐのところのローソンで朝飯と、補給品を補充しておく。
そこから5分ほど歩いて魚津駅に到着する。
ここから富山地方鉄道(でも車両はおけいはんのお下がり)に乗って黒部を目指します。
6:25の始発に乗り込み、どんぶらこと揺られて黒部峡谷の玄関口、
宇奈月温泉に到着。
特にすることもなくトロッコの駅舎でしばし待機。
始発のトロッコはすでに予約済み。
普通車両は窓がないふきっさらしのため、
朝イチの冷え込みで絶対寒いはずなので
520円ほどでグレードアップしてリラックス席にしました。
7:32にいよいよ出発です。
始発ということで、人はまばら。
富山出身の室井滋さんの軽快なナレーションに身を任せつつ、
車窓を撮影し、これから始まるドッキドキのアドベンチャーに向けて、
とにかくリラックスを心がける。
このトロッコだけでもよくぞまあこんな山深いところまで延ばしたなあと感心する。
しかし今日行く所はさらにすさまじいところなのです。
↓トロッコの車窓より。仏石
時速15km程度でゆっくりと切り立った渓谷のヘリを進んで、
8:47に終点の欅平駅に到着です。
いよいよここまで来てしまいました。
何度もトイレに行ったり、荷物をもう一度整理したりして準備。
本当は安全ベルトとカラビナを組み合わせたものも用意してきたのだが、
これは最後まで使用することはなかった。
カメラをザックに仕舞うか、ぶら下げて歩くか最後まで悩む。
カメラが当たるのを気にしてふらついても嫌だが、
狭い登山道でイチイチ出したり仕舞ったりする方がリスクが大きいかと判断して
少し胸がつかえるが、いつもよりも少し紐を締め気味にしてぶら下げていくことにする。
天候は申し分なし。
あとはもう十分注意して前進あるのみ!
↓欅平駅
9:00になり、ヘルメットを装着して、いよいよ山行を開始する。
欅平の公衆トイレとインフォメーションセンターとの間に阿曽原と示された標識があり、
すぐ裏手の山肌へ階段が続いている。
ここから阿曽原までは約12kkm続く断崖絶壁のアドベンチャールート。
いよいよ死地に参る!
↓欅平スタート
スタート直後は、緑深い斜面の急登。
なかなかの勾配で結構大変です。
ジグザグと細かく蛇行をくり返しながらどんどん高度を上げていきます。
途中から森を抜けて、上部の様子が確認できるようになります。
はるか上に鉄塔があり、ひとまずはそこを目指していきます。
道は結構周囲のブッシュに浸食されて十分な道幅がなく、
上から下りてくる団体さんとの行き違いに結構難儀しました。
結構な数の団体さんが下ってきたので少し話を聞いてみると、
前日は3団体が来ていたので小屋50人キャパのところを
少しオーバーしたよとのことだった。
この日はさすがに大丈夫だと思うが…
路面も不安定なところが多く、滑落とかの心配はないけど歩きづらい。
上部で木の2連梯子をつたって、先ほど見えていた鉄塔に到達します。
ここでは工事の方が忙しく登山道の整備をされていました。
来年、関電の黒部ルートのうち、最初の部分、
欅平駅から立坑エレベーターの部分までを一般開放しようという動きがあり、
立坑エレベーターの少し手前の展望台から
周遊できる遊歩道を整備中なのだと思います。
整備中の周遊道を横目に、きれいに掛けられた金属製の階段を上がっていきます。
そこから斜面を横切るように進み、さらにしばらく登りが続きます。
そうして、一旦、山の一番北側のヘリ、
鉄塔が立っているちょっとした広場に出ました。
ここは欅平上部で以前の周遊道との分岐点です。
時刻は9:40なので、約40分の登りでした。
ここからまず東の面を望むと、
まず正面に威圧的にそびえている奥鐘山の巨大な山塊。
その左手の割れ目は祖母谷・祖父谷で、そこをすうっと上っていくと唐松岳と、
不帰の劍と呼ばれる北アルプスの難所の1つがあります。
翻って、北や西の方面を見ると、小黒部谷〜折尾谷が広がり、
多数の工事車両が煙を上げております。その上の山は猫又山でしょうか。
↓欅平上部に到達
ここで稜線に出たのでここまでの急勾配とは打って変わって、
穏やかな登山道となります。
木々の間につけられた道は多少のアップダウンがありながら、
徐々に黒部川の流れの方へと近づいていきます。
ここはまだ断崖絶壁の道ではないので特に問題はなし。
穏やかな登山道を15分ほど進むと再び鉄塔のある場所に出て、
そこを少し上ると、「水平歩道始点・終点」の看板が出てきました。
いよいよ、いよいよ、やってきてしまいました。
水平歩道!
この道の歴史は古く、開通は1920年。
当時、黒部の電力開発の際に資材運搬用の作業道として築かれました。
道と言っても切り立った黒部峡谷の断崖をコの字型にくりぬいただけで、
道幅はほとんどのところで70〜80cmしかありません。
対向者との行き違いなどもなかなかスリリング。
また、ほぼ全区間に渡って黒部川に面した側は
200m以上の落差のある断崖絶壁であるため、
落ちたらほぼ間違いなく命を落としてしまうようなところです。
山側には手すり代わりの太い針金やワイヤーが丁寧に張られているが、
谷側には転落防止の柵やガードレールなどは存在しません。
それは谷側に重心を置いて、万一策の強度が弱かった場合に、
大事故になるためで、あえてつけられていないのです。
水平歩道と名付けられているように、アップダウンはほぼなく、
ひたすら標高1000mを維持しながら黒部川の流れに沿って進んでいきます。
一度進み始めれば、エスケープルートは一切ないので、
来た道を引き返すか、頑張って完走するかしか選択肢はありません。
高所恐怖症の人にとってはこれ以上スリリングな道はないといっていいでしょう。
しかし、もうここまで来てしまいました。
意を決して、いざ突撃!
歩きはじめから、山側には手すり用のワイヤーが張り巡らされています。
道幅はほんとうに人がひとり歩くだけで精一杯の最小幅ですが、
足の踏み場に困るというほどではなく、想像していたよりは余裕がある。
左側はもうすでに断崖なのだが、
この辺りでは木々が邪魔をして真下を覗きこめないのでそれほど恐怖感はない。
所々、道が痩せている個所には木の丸太橋が設けられていて、
そこをトントンと進んでいきます。
雨だったり、グリップのないような靴だと簡単にスリップしてしまいそう。
アップダウンがないので、結構スイスイと進んでいきます。
ひたすら水平の登山道を進んでいくと、
前方に小さなトンネルがぽっかりと空いています。
ここまでで時刻は10:30。
トンネル自体はそれほど長いものではないので、
ここではヘッデンがなくても平気。
最低限の高さで掘られているので少し前かがみになって通過しますが、
何度か頭をボコボコ打ち付けてしまいました。
トンネルを抜けると、いきなり前方に巨大な岩が道をふさいでいます。
さすがに落石注意って言ったって、
このクラスの岩がぶつかったら一巻の終わりですね…
この辺りは日本有数の豪雪地帯で、冬の間に頻発する雪崩の影響で、
岩肌がひどくえぐれたり、崩壊したりしている個所も多いのです。
最初は断崖につけられた狭小な道にビクビクしていましたが、
慣れというものは恐ろしいもので、この辺りになるともう同じように続く道に
なんの恐怖感もなくなってきました。
そのことが油断につながって恐ろしいことになってしまうとよくないので、
気をつけろ気をつけろと声を出して自分に言い聞かせたりしていました。
そうして再び2つ目のトンネル。ここも大した長さではなくあっさりと抜けます。
すると…
いやあ、絵にかいたような断崖絶壁が突然広がります。
はるか眼下に、白い黒部の流れが見えています。まさに真っ逆さま〜@@@
そうしてその深い谷の対岸には、奥鐘山の西側の斜面が黒々と照かっております。
当時、工事作業員用の4階建ての鉄筋コンクリート宿舎が、
恐ろしいホウ雪崩に見舞われて、
中で寝ていた人たちもろともあの辺りの壁面に叩き付けられ、
絶命したのだということです。
まさに自然の持つ厳しい側面、想像を絶する恐ろしい顔が平然とそこにありました。
ここから登山道は、黒部の本流を外れて、
志合谷の方へと直角気味に右へと折れていきます。
実は、欅平から阿曽原までは直線距離にすればほんの5km程度のものなのだが、
この水平歩道は、複雑に入り組んだ支流の谷を丁寧にトレースしているので、
谷が発生するたびに迂回を繰り返すために、全長13kmまで延びているのです。
なので、対岸には常に奥鐘山の西壁を望みながら、
ほぼ同じような景色の中を行ったり来たりしているような感覚になります。
大きな岩を割った真ん中を抜けていくと、
志合谷の本筋に出て、向かい側の眺望が開けます。
とにかく、そのスケール感と言ったらすごい。
すさまじい岩壁の中腹に、本当に頼りなく一本の筋が通っていて、
そこが今まさに向かおうとしているところである。
よくもまあこんなところに道があるなあというのが正直な感想だが
実際、向こう側から見たら、
今自分が立っているこの場所も同じようなところであって
もうその非現実的な現実に感覚がマヒしてきてしまいます。
と、いきなり谷にけたたましいサイレンが!
え?え?何事?地震?逃げれないよ?と、一瞬かなりパニックになるが、
続いてアナウンスが流れ、黒四ダムでこれから放水が開始されるので
水辺にいる人たちは注意してくださいということだった。
ふぃ〜、焦らせないでよ〜。
眼前に大きな隔たりをつくっている志合谷を越えるため、
丁寧に山肌をトレースしながら黒部本流からどんどん右へ右へと展開していきます。
すると、その正面に大きく崩壊した雪渓が見えてきました。
見るからに雪深いエリアなのだと実感するくらい、すさまじい光景です。
水平歩道は当然この区間も越えていかねばならないのですが、
ここから確認しても、この雪渓の中を道が続いているようには見えません。
果たしてどうクリアしていくのか?
なんとこの崩落の激しい雪渓の上ではなく、下を越えていくのです。
この150mあまりの区間は、山にトンネルが掘られてあって、
そこを抜けていくのです。
まさか新たなアドベンチャーが待ち受けているとは!
11:18、ぽっかりと口を開けた志合谷トンネルの入り口に到達しました。
ここからぐる〜と弧を描きながら反対側の出口までトンネルが続きます。
当然、照明などは取り付けられているはずもなく、
ヘッデンを点灯していざ突入です。
トンネルを入るとすぐに、空気が一気に冷えます。
さすがに雪渓の真下ですから、冷蔵庫のようです。
150mと長く、しかも弧を描いているので、
入ってすぐから出入口の明かりは届かず、漆黒の闇になります。
天井を照らすと、木枠で補強されています。
そこからポタポタと雪解け水がしみ出していて、
地面はびしょびしょでぬかるんでいます。
途中まではその湧水を逃がすための水路が、
登山道と区別されているのだが(といっても登山道の脇を浅く掘っただけ)、
それも中心に近くなるにつれて区別が無くなり、
ところどころ水没ぎみになります。
飛び石をうまく伝って、できるだけ濡れないように努力するのだが、
足元にばかり注意していると、天井の高さが一定ではないので
思いがけずヘルメットを強打してしまったり。
とにかく寒くて濡れて、真っ暗で、なかなかの肝試し。
高さはへっちゃらな人でも、暗いのが怖い人はここできっとDNFです。
色々難儀しながらようやく反対側の出口に出てきました。
なかなか一筋縄ではいかん道ですなあ。面白いけど。
対岸を見ると、先ほど侵入を開始したトンネルの入り口が見えます。
ここは雪崩の巣なので、山肌に道をつけても毎冬にダメになってしまうので
それならば地中に道をつけた方がよいということなのでしょう。
しかし、これを帰りも当然抜けていかなくてはいけないのねん@@
この辺りは細か谷筋が展開していて、道の向こう側がはっきり確認できるのだが
改めて自分が歩いてきた道を眺めてみると、
とてつもない道だなあと実感できます。
↓どえらいところに来てしもたなあ(中腹に平行ラインがついているところが登山道)
トンネルを抜け志合谷の向こう側に出ましたが、
まだまだ半分程度しか来ていません。
もうずいぶん慣れっこになった断崖の道が、
ひたすら山に沿って続いていきます。
黙々と進んで11:38に、
大太鼓と呼ばれる一番スリリングな眺望が楽しめるスポットに到達。
ここは岩盤をコの字にくりぬいてあり、少し前かがみ気味で進んでいきます。
すぐ左手には奥鐘山のえぐい岸壁が最も迫ってきていて、
その間に絶望的なほどに切れ落ちた谷、
そしてその底に黒部の清流が涼やかに流れているのでした。
大太鼓を抜けると、志合谷から今度は折尾谷へと分け入っていきます。
しばらく進んでいくと、勢いよく水が流れている折尾谷の中心部へと到達します。(12:20)
ここは堰堤が設けられていて、その上を結構な水量の水が流れています。
この沢を越えていかなければならないのですが、
ここはなんとこの堰堤の中を通過していかねばなりません。
恐る恐る中へ入ると、さすがに沢のど真ん中にある堰堤ですから、
足元はびちゃびちゃでかなりのぬかるみ。
距離は大したことがないとはいえ薄暗くジメジメと不快極まりない。
どうにか向こう側に出るが、靴はドロッドロです。
もうずいぶんと歩いてきましたが、まだまだ先は長い。
このルートの難儀なところは、
休憩できそうなまとまった広場などが一切ないというところ。
ゆっくりと腰を下ろせるようなところもないので、
ひたすらストイックに前進していくしかない。
そろそろ足も疲労気味で、小腹も空いてきた。
んん〜休憩入れたいなあと思ったら、前方に大きな滝が現れました。
これが折尾大滝です。なかなかの落差で迫力があります。
この滝壺?が唯一腰を下ろせそうなところだったので、
ここで少しだけブレイク。
折尾大滝を過ぎると、道は少し幅広となり、緑も豊富となって
随分歩きやすくなります。そうして徐々に黒部川から外れていき、
山をちょいと乗り越えるための梯子場に到達します。
結構距離を歩いて疲労気味の体に、久々の登りが結構堪えますなあ。
反対側へ下り、再び黒部川の谷にカムバックしたなあと思ったら、
木々の向こう側に人工物が!
見える、見えるぞ、私には阿曽原温泉小屋が見える!
しかし、目と鼻の距離に見えて、ここからもう一押しが結構長かった。
ここから道は山肌に沿って大回りをして、
長い長い梯子場も通過しなければいけない。
そうして、登り返した分だけ、結構厳しい下りが待ち受けていて、
この下りがまた朝からずっと酷使してきた脚にくる。
そうして、手前の沢を手製の木橋で渡って、テント場を抜けて
13:40に阿曽原温泉小屋にとうちゃこ!
いやああ、ついに来ました。
欅平から5時間弱の道のりでしたが、
実際はもっと長くかかったなあという印象でした。
まずは玄関にある受付で宿泊の手配です。
お母さんが元気よく迎えてくれました。
登山靴を脱いで靴箱において中に入り、お話をしながら受付終了。
食堂を抜けて、奥の寝床へと進みます。
この小屋は、冬季には取り壊してしまうので簡素なプレハブ小屋です。
なぜわざわざ取り壊すのかというと、ここは日本有数の豪雪地帯なので
どれだけ頑丈な小屋を建てたとしても必ず流されたり、甚大な被害を受けるので、
冬の間は取り壊した資材を、ダム建設時に掘られた横穴に保管しておいて
登山シーズンの到来とともに再建するということを繰り返しているのです。
こういう形態の小屋は全国的にも珍しいですが、
それだけこの黒部の奥地が過酷な環境だということでもあります。
言葉ですれば簡単ですが、実際毎年再建と取り壊しを繰り返すというのは
並々ならない大変さがあると思いますが、
そこは山の男、佐々木さんの情熱と
それに賛同するスタッフさんの努力のたまものなのだと思います。
ただただ感謝ですね。
今宵の寝床は2号室。一部屋に10人ほどが寝れるスペースで、
まだ人数には余裕があります。
結局この日は1人1枚の布団で快適そのものでした。
この時間はまだ人が少なく、先着されていたSさんと少しお話。
この方は静岡から来られた方で、
この日は室堂から真砂沢を経てこちらに到着されたそうです。
この小屋に来たら名物は何と言っても秘境の中の温泉!
ということで疲れた体を早速癒したいところですが、
ここは共同風呂で、1時間ごとに男女入れ替え制。
あいにく今は女性の時間帯なので、
それならばもうちょっとだけ頑張って、仙人谷ダムを見学しに行きます。
ご主人にちょっと仙人谷まで行ってきますと告げると、
「おう、遊んでおいで!」と威勢よく送り出していただきました。
一旦部屋へ戻り、荷物を整理して、天蓋をウエストポーチに変身させて
身軽な状態で14:00リスタートします。
まずは小屋の脇から、真裏の山をひと登りします。
欅平からの最初の登りほどまではいきませんが、
15分ほどきつい上りを上り詰めると上部からは再び水平歩道になります。
小屋の方が丁寧に札を出されていて、
ここから仙人谷までは35分の”はず”と書かれてありました。(笑)
さっき小屋のお母さんと話をしたときに道の状況を聞いたのですが、
その時に、水平歩道の端は一気に下らないといけないところを、
間違って送電線の作業道を登っていく人がいて、と言われていたので
そこで道を誤る人がいるのでしょう。自分も注意せねば。
すでに慣れた水平歩道(しかもこの辺りは高度感はなくて歩きやすい)を進んでいくと、
いきなり前方で道が崩れています。
完全に崩壊していてどうしたものかと近づいていくと、
崩落した岩の上にきちんと巻き道が設けられていました。
岩を撤去して元の道を復元するのではなくて、崩落地の上を通すのは、
これもきっとキリがないからでしょうね。
なかなか足場に自信がないので、少しビビリながら崩落地を抜けると、
小さなトンネルがあり、そこを抜けると権現峠という標識がありました。
時刻は14:24。
そこを抜けて、木漏れ日の中をさらに進んでいくと、
巨木にたくさんのワイヤーが張り巡らされたところに出ます。
ここがさっき小屋のお母さんが言っていた分岐点らしく、
確かに上部に続いていく道と激下りの道がありました。
上部への道には幾重にもロープで封鎖され、ペンキで×と書かれていました。
それほどよく迷い道が発生していたのでしょう。
ここは教えられたとおり、下りの道を選択します。
この下りがまた、結構な激坂で、ドスンドスンと一気に高度を下げていきます。
これは帰りの登り返しが思いやられるなあ…
下部の方には二連梯子がかかっていてそれを過ぎると
ようやく平坦な森の中の道になります。
そこをしばらく進むとちょっとした平らな場所に出て、
脇には立派な建物(作業員用の宿舎かなにか?)が立っています。
その先に見覚えのある、鉄管のような橋が谷間に掛けられているのが見えます。
いよいよ仙人谷に到達です。
徐々に近づくにつれてなんだか硫黄の匂いがしてくるようになってきました。
登山道はその先で、いったん地下へと入り込みます。
いきなり内側から対向者が扉を開けたのでびっくりしました!
中に入ると隧道が奥まで続いていて、
そこから蒸し暑い風がぶわ〜っと吹いてきてなんだか異様な感じがします。
おそらくこの奥は高熱隧道に続いているのでしょう。
登山者はそちらへは入れないので谷筋に沿って続く隧道を行きます。
まるでスチームサウナに飛び込んだかのような、
湿度の高い蒸し暑さで、一気に汗が吹き出します。
写真を撮ろうと思っても、レンズが一気に真っ白になってシャッターが切れないほど。
そうしてしばらく歩いて、関電黒部ルートと交わります。
右を見ると、いまだ高い地熱を発し続ける高熱隧道、
右を見ると仙人谷の真上に設けられた駅があり、
その数百メートル先には黒四発電所があるはずです。
そして橋の反対側には威圧感バリバリの仙人谷ダムの姿。
2年前の関電ツアー以来、久しぶりにこの地へと戻ってまいりました。
高熱隧道を横断して道はさらに続きます。
ちなみにここから道の名前は水平歩道から日電歩道へと変わります。
ここまでの水平歩道は主に黒三開発の時代のもので、
日電歩道は黒四開発期のものとなります。
蒸し暑い隧道をズイズイ進み、
関係者用の通路と登山用の通路とが入り組んだ箇所を案内に従って進み、
ダムの脇から外に出ます。
日電歩道はダムの天辺を通過しているので、ダムに登ります。
このダムを築くために支払われた先人たちの壮絶な歴史を思えば、
このダムの上に立てることが本当に感無量であります。
↓仙人谷ダムの天辺より(14:45)
天辺でしばらく感慨に浸り、しばし休憩ののち、
あともう少しだけ先へ進んでみたいと思います。
ダムから対岸に渡ると、林道のようにきちっと整備されたなだらかな道が続きます。
ダムはエメラルドグリーンの水を悠々とたたえていて美しいの一言。
しばらく進むと、大きなスノーシェードがあり、そこを抜けていきます。
途中、脇の茂みからシャシャシャ〜っと青大将が飛び出てきてちょっとびっくり。
スノーシェードを抜けきると、少し開けた場所に出ます。
どうも工事車両の駐車場や資材置き場となっているようです。
そこで対向から2人組の男性がやってきたので少しお話。
朝、黒四を出発して下の廊下をここまでやってきたそうで、
なかなかの疲労困憊ぶりでした。
小屋まではあと一回激坂登る以外は平坦で、1時間くらいでしょうとお伝えすると
えええ、マジかああ〜、もう脚がダメだよ〜と嘆いておられました。
あともうちょい気合です!
その広場からは、吊り橋とその先の山の中腹にぽっかりと口を開けた
黒四発電所の送電線口が見えてきました。
黒部ダムで蓄えられた水がこの黒四発電所のモーターを回し、
そこで発生した電気が、この先に見えている送電線口から放たれて、
長い長い長い電線をひたすら伝って、高槻まで運ばれるのです。
とてつもないことですね。
↓黒四発電所の送電線口
さてさて、せっかくなので吊り橋へ向かいます。
少し登り返しがあって、吊り橋に到達。
なかなかスリリングでしたが渡っておきました。
ここで時刻は15:15。
これ以上先へ進んでは夕食の時間に間に合わなくなってしまうので、
今回はここまでで引き返します。
また次の機会には黒四〜欅平の下の廊下全区間を制覇したいと思います。
吊り橋を戻る途中に、横の茂みに沢へ降りるような跡があったので、
そちらへ飛び込んでいくと、黒部川の川面に降りることができました。
川の水に触れてみると、ひんやりと冷たく、疲れを癒してくれます。
↓黒部川に触れてみる
そこから来た道をバックします。
先ほどの2人組はダムの天辺で休憩されていて再び少しお話。
お二人はもう少し休憩されるということで、お先にリスタートします。
高熱隧道でさらに何枚か写真を撮り、名残惜しく後にします。
そうして先ほどの激坂を登り返し。
ここで雲切新道から合流された方々をパスします。
自分は荷物をほとんどデポして軽量化しているので、
長旅で来られた方よりも機動力が違うのですが、
それでもこの上りは結構堪えました。
ようやく登りきり、トンネルと崩落地を過ぎて、16:30小屋に戻ってきました。
部屋に戻ると、結構な人が到着されていて、自分の部屋はもう定員ジャスト。
すでにほとんどの人が布団を敷かれていたので、
自分も部屋の真ん中の比較的幅広いスペースを使わせてもらって布団を敷きました。
夕食は18時からで、ちょうど17時から1時間が男性の風呂タイムに当てられていたので
身支度をしていよいよ温泉に参ります。
といっても、小屋から温泉は思ったより離れていて、
小屋を出て、テン場の脇から、谷底へ10分ほど下ったところにあります。
登山靴じゃあれ何で、小屋の突っ掛けを借りて行ったのですが、
結構急で歩きづらかったです…
いよいよ、あこがれの阿曽原温泉に浸かります。
待ちわびた男性客がこぞって入浴に来たので、結構混雑していたのですが、
先に湯船に入った人がみな、慌てふためきながら「熱い!熱い!」と叫び、
中には暑すぎてこれは入れない!と言う人まで。
自分もあまり熱い湯は得意ではないので、どうしたものかと思いつつ、
入らないわけにはいかないし、
水のホースのある付近なら比較的マシだろうと恐る恐る入る。
熱い!めちゃ熱い!
一瞬肩まで入ったが、あまりに熱くてすぐに飛び出て足湯状態。
みなそんなカンジでした。
でも少しずつ入っていくと体が慣れてくるのか、
徐々に入れるようになってきました。
慣れというよりも、源泉の温度が必ずしも一定していないようで、
めちゃくちゃ水温が高いときと、そうでない時があるようです。
みな徐々に風呂になじみ、それぞれこれまでの参考について話したり
フレンドリーな感じでまったり。
この週末は最高のお天気で、
剱岳に登った人はそこから能登半島がくっきり見えたそうです。
黒四から日電歩道を来た人によると、
熊と間違えるほどのボス猿が狭い道を塞いでいてかなりビビったとか。
あの狭い登山道で出くわしたらいったいどう対処したらいいんでしょう?
引き返すわけにもいかないし…
そんなこんなでほぼ1時間フルを使ってみな温泉を満喫しました。
まさに裸の付き合い。(怪しい意味じゃないよ〜)
夕食の10分前に風呂を出て、大急ぎで小屋へと引き返します。
食事は先ほど部屋でお話をしていたSさんと一緒に楽しくお話をしながら頂きました。
ここの夕食もすごい!
アジフライにさつまいもの天ぷら、そしてこだわりの味噌を使った味噌汁、小鉢まで、
栄養満点、ボリューム満点。
今まで食べた小屋の晩飯で一番のお気に入り!
前日は人数が多すぎて夕食はカレーだったらしく(お替り自由だそうでそれも捨てがたいが)、
今日はラッキーデーでした。
ここは山深い地点ですが、標高にしてみれば1000mそこいらで、
高山病の心配はないので遠慮なくビールを頂いちゃいます。
Sさんは結構な酒豪らしく、バンバン日本酒を呑まれておりました。
食事の間もご主人の佐々木さんが、小屋についてや食事についてなどをお話ししてくれて
全く飽きることがありません。
どの小屋もそれぞれに特徴があり、良さがあるのですが、
このこぢんまりしたアットホームな阿曽原温泉小屋はたくさんの魅力が詰まっていて、
本当に大好きな小屋になりました。
食事は2回制で、われわれ1回制は一度はけます。
といっても2回目はわずかの人数だったので、Sさんと食堂の端を陣取って、
しばしまったりの呑みます。
2回目の食事の後は、小屋にまつわるDVD鑑賞会があるとのことで食事が終わるのを待ち、
19時過ぎからぞろぞろとほとんどのお客が集まってスタートしました。
NHKの番組で、この小屋と、それから仙人池ヒュッテを扱ったドキュメンタリーでした。
小屋を続ける並々ならぬ努力や、登山道を新たに切り開いたり、
頭の下がる思いです。
1時間ほどで鑑賞会も終了し、あたりはすでに真っ暗闇。
この日はもう追加の宿泊客はなしということで、無事に1人1枚の布団を確保。
そうして20:30に就寝。
ゆったりとしたスペースで、イビキも全く響かず
とってもぐっすりと眠ることができました。
翌朝、5:30に起床。すっきり快眠♪
Sさんはすでに一番電車のトロッコに乗るために出立されておりました。
自分は6時から朝食。
道中補給ポイントがないのでしっかりと食べます。
山では出されたものはすべて食べるようにしていますが、
さすがに納豆は無理だったのでお母さんにごめんなさいしました。
そうして、6:30に出発。
小屋を発つとき、佐々木さんにお礼を言うと、
「おう、気を付けてな!」と送り出されました。
来年もまたぜひ来ます!
名残惜しく、小屋を後にし、沢の木橋を渡ります。
スタート直後から、登りが厳しい!
先発されていた人たちをここで一気にパスしていきます。
この辺りで徐々に空が明るくなってきます。
いつもの山行なら、お待ちかねのご来光の時間なのだが、
立山連邦と後立山連邦に挟まれた谷底ではさすがにそれは期待できませんね。
いくつかの難儀な梯子場をやり過ごし、ようやく水平歩道に出ます。
対岸に阿曽原小屋の姿を最後に認めて、先へ進みます。
歩きはじめは道幅も広く、トントンと進んでいきながら、
先発隊の方々をパスしていきます。
一度通っているのでできるだけ巻いていきます。
ブログも巻いていきます!
そうして1つ目のダンジョン折尾谷を抜けていきます。
あ〜あ、またのっけから靴がドロッドロです…
この泥でスリップしないように脱出後は細かく砂場で泥を落とします。
小屋の人によると、ここで濡れるのを嫌がって、
トンネルを通らずに手前の沢を渡ろうとして
スリップして滑落された方がかつておられたようです。
そこを抜けると、道は徐々に狭まり、8:18に大太鼓に到達。
朝っぱらからこの高度感は中々ですね。
この辺りはちょっと慎重に抜けていきます。
大太鼓を過ぎたあたりで、往路には気付かなかった、
志合谷へ下る送電線の点検道がありました。
高熱隧道を掘削中にあったという4Fの鉄筋コンクリート造りの宿舎について
ちょっと疑問に思っていたことがあります。
というのはこの水平歩道から見る限り、この険しすぎる志合谷の谷筋に、
それだけの強大な建造物を建てられるほどの土地が見当たらないという疑問でした。
きっとこの枝道をズズズっと谷底を下って行ったところに、
ちょっとしたスペースがあるのでしょう。
実際に自分の目で確認してみたいなと思ったが、
この道はかなり荒れていてかなり激しい激坂。
個人的な興味でむやみに立ち入って
万が一何かあっても誰も気づかないようなところだし、自主規制しました。
そこからしばらく進んでいくと、
北の方へと延びる黒部の流れが一望できる箇所に出ます。
よくよく目を凝らしてみると、欅平駅が見えているではありませんか!?
直線距離にしたらめちゃくちゃ近いのに、
あそこまでたどり着くにはまだまだ険しい道が待ち受けています。
↓遠くに欅平が見えます。あそこまで遥かなる道のり
そこからもずんずん進んで、
いよいよハイライトである志合谷の本筋に近づいてきました。
この辺りが水平歩道の具合をもっともよく確認できる場所です。
先発されている登山客が豆粒のように壁面にへばりつきながら進んでいるのが見えます。
ああやって、比較対象となる存在があると、
改めて今ここにある景色のスケール感が実感できますね。
そうして8:30志合谷トンネルに到着。
入り口で、お母さん3人組に追いつきます。
ヘッデンを装着して、お先にと突撃。
あまり長居したいところではないので結構早足で歩いたら、
ガンガン何度も頭ぶつけてしまいました@@
トンネルを出たところでカップルをパスして
後はひたすら水平歩道を詰めていきます。
天気も最高でよかったですが、
ここで雨風に耐えながらだと難易度がググッと上がるでしょうな。
そうして9:30、水平歩道終点である欅平上部に到達。
ここからはもう深刻な滑落の危険性はなくなり一安心。
しかし、ここから険しい下りを詰めて総仕上げせねばなりません。
ペースを上げて歩いてきた疲労が一気にここで脚にダメージとして現れます。
慎重に梯子場をやり過ごし、急な部分は慎重に、
そうして10:00ジャストに欅平へと戻ってまいりました!
イェイ!チャレンジ成功!
帰りは結構早足で来たので3時間半までコースタイムを縮めることができました。
やり遂げた高揚感に浸りながら、まずは自販機でコーラを買って簡単な祝杯♪
ちょうど同じタイミングで下山された他の登山客と無事を祝います。
それからまずは帰りのトロッコの手配です。
次の10:45便を手配します。もう日も高いし、寒くないだろうと思って、
一般車両にしましたが、やはりふきっさらしの車両はかなり寒かったです@@@
↓帰りの当然トロッコで帰ります
12:02に宇奈月駅に到着。すぐに200m先の地鉄の駅へ向かいますが、
その途中で無情にも電車が出発していきました。
いやあ、ここは結構駅舎が離れているので
もうちょっと時間的なゆとりないと接続できないよ〜@@@
で、駅舎にたどり着いて次の電車を確認すると12:50…40分待ちです。
しかも特急車両なので、特急料金がかかてしまいます…といっても200円ほどだけど。
仕方なくトロッコ駅へ戻り、おみやげを物色して時間つぶし。
時間となり、特急に乗り込みます。ここではまだアルコホウルは自粛。
なぜならシビアな乗り継ぎがまだ控えているからです。
それにしても素晴らしいお天気で、
車窓からはアルプスの最北の山並みが一望できます。
13:21新魚津駅に到着すると猛ダッシュで地下道をくぐってJR魚津駅へ。
すぐさまみどりの窓口に飛び込んで、あと3分で来る「はくたか」のチケットを手配。
駅員さんに「なかなか急がれましたねえ〜」とニヤリとされます。
この後の接続を考えると次の富山発のサンダーバードに乗るなら、「はくたか」ではなく、
さらに20分後の普通でも間に合いますよとアドバイスされます。
それについては知っていますが、富山駅で弁当とみやげをゆっくり買いたいので
「はくたか」でとお願いされると、納得されていました。
だって、魚津駅の周りには何にもないので。
で、チケットを手配しすぐにホームへと駆けこむと、
ジャストタイミングで「はくたか」到着。なかなか帰りもスリリングな乗り換えです。
無事に乗り込んで13:42富山駅に到着。
サンダーバードは14:19発で、30分ほど時間の余裕があるが、
新幹線関連の工事もあって、南口へのアプローチは恐ろしく長い。
ので、そちらは断念して、売店でみやげを少し購入。
さっきのトロッコで体は冷えたのもあり、暖かいものを食べたかったので、
ホームにある立ち食いそばでお昼ご飯にしました。
↓立山の立ち食いで昼飯
定刻通り特急が富山駅を離れて出発。
そこでようやく祝杯をあげます。
いつもはビールと駅弁ですが、飯はもう食べたので、
今回は富山名物のホタルイカと地酒立山のカップ酒。
チビチビとやりつつ、小松あたりまでは車窓を眺めていたのだが、
そこからは記憶なし。
気付いたらすでに京都駅を過ぎておりました。
大阪駅には17:35に到着。
帰宅は18時を少し過ぎたところでした。
↓サンダーバードにて祝杯
ということで、ずっとあこがれだった水平歩道をようやく歩くことができました。
ピーク版図とはまた一味もふた味も違う山行で、
あの黒部の深い谷でしか味わうことのできない貴重な体験でした。
実際に歩いてみるまでは、あんなえぐいスケール感のところで、
ずっと断崖絶壁を歩くなんて無理と思っていましたが、
意外と恐怖感を感じることもなく、歩くことができました。
ここはぜひ通いたいなあと、また来年に向けて構想を浮かべるのでした。